精神疾患の原因

ある人が、精神疾患を抱えるようになったり、症状がでるようになったりする過程を明らかにすることは、
その人の病理を治すうえで重要であるだけではなく、なぜその人がそのような病を抱えることになったのか、
その原因を、その人個人の身体的特性や履歴に還元することなく、社会的な背景にまで広げて追及することで、
なぜ日本社会においてそのような病理を抱える人々が生み出されているのか、という点まで明らかにすることができる。
 
 どのような社会的圧力や権力がその人の心身に病をもたらしたのか。例えば、日常の人間関係(家庭環境、夫婦の関係、子供や親との
関係または職場など)においてどのような圧力、緊張、ストレスがその人にかかってそのような症状が心身に生じるようになったのかなど
を知る必要がある。また、その人が置かれている社会的な環境や位置づけ、属性などが、いかにその人の病理の発症につながっているのかを
明らかにすることが重要である。
 
 例えば、現代日本社会においてニートで引きこもりの30代の男性が、精神疾患や身体的な病理を抱えていたとする。
彼はなぜ社会に出て働くことができなくなり、なぜ人と接することが恐怖になったのか、病を発症するに至った理由や経緯を理解したいのであれば、
現代日本において彼が置かれている社会的状況を理解し、それらのどんな圧力や暴力性が彼の病理を導いたのか、その過程やプロセスを知る必要がある。
 
 彼が育った家庭での親子関係、学校生活や大学での人間関係、職場の人間関係を知ることから始まり、彼のこれまでの社会的背景
(どんな大学をでてどんな職業に就いてきたのかなど)を知り、また現代日本においてニートと呼ばれる人々が置かれている社会的な位置づけも
知る必要がある。そして、そのようなこれまでに彼を取り巻いてきた社会環境や人間関係のどのような要素が、彼にとって圧力やストレスとして
のしかかってきたのかを明らかにすることが大切である。そのことは、その人個人が抱える病理の経緯を明らかにして治療につなげることを
可能とするのみではなく、現代日本においてなぜニートと呼ばれる人々が生み出されているのか、その原因と社会的背景を明らかにし、
それゆえに現代日本社会が抱える病理を明らかにすることにつながる。
ニートになってしまった男性が抱える心身の病理や生きづらさを、その人個人が抱える病として閉ざして捉えてしまっては根本的な治療には至らない。
日本社会に孕んでいるどのような社会的圧力や権力性が、今日、ニートと呼ばれる人たちを生み出しているのか、その過程を明らかにすることが重要である。