▶自律神経システム
自律神経システムをスティーブン・ポージェス博士のポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)からまとめています。心臓を制御している自律神経は交感神経と副交感神経の両方で心臓の拍動数と収縮力を制御しています。交感神経は心臓の活動を促進させ、反対に副交感神経は活動を抑制させます。自律神経のバランスが崩れると、体調が悪くなります。ストレスがたまり、睡眠不足が続くと、めまいや頭痛、吐き気がします。悪い状態が続くと、間接の節々が痛く、肩や首は凝ってます。
自律神経システムが作られるのは、乳幼児の頃になり、赤ん坊の養育環境が非常に重要になります。お母さんと赤ん坊の関わり合いが重要で、赤ん坊が、おっぱいを飲むときにお母さんの母乳を飲むということが健康のためによいだけではなく、お母さんの肌に直接触れて、温かい体温を体感し、安心感を得るという経験が後の幼児期の神経発達に大きく影響していきます。この点において、3歳児までに母親と子がどのように関係を結ぶかが、幼児の発育に重要な点になってきます。
◎交感神経系
アドレナリンのような化学物質を使って身体と脳に行動を起こすように促します。四肢を使って、全身を動か◎ために、大量の酸素を必要とする覚醒状態です。心臓の動きが活発で、心拍数や血圧が上昇し、気管支は広がり、四肢に力が入って、身体が軽く、活発に動けるようになります。テンションが高い時は、動けて、いいアイデアが浮かんで、何でもできるような気がします。脅かされるような不快な状況では、過緊張で好戦的になります。あとは、焦燥感や多動、不眠、感覚過敏、喉が渇く、胃腸の張り、消化活動が止まります。
トラウマのある子どもが学校生活のなかで、交感神経が過剰で、過覚醒になると、クラスメイトと衝突を繰り返しやすく、うまく周りを支配し、コントロールできない場合には、気を使って自分の気持ちを出せなくなります。彼らは、本来危険でない情報にまで、交感神経(闘争ー逃走モード)のスイッチが入りやすく、その自分自身の身体の戦うか逃げる反応を抑え込むために戦います。また、交感神経の働きが過剰後のシャットダウンや解離麻痺を避けるために、場を和ませようと、ピエロになって、馬鹿なふりや明るいふりする人もいます。
◎腹側迷走神経複合体
哺乳類が獲得した新しい自律神経システム、呼吸や心臓、表情、発声、聞き取りアセルチルコリンを使って消化や傷の治癒、睡眠と夢の周期のような基本的な身体機能の調節を助けます。休息や回復を担います。身体を落ち着かせる働きをしてくれて、のんびりゆっくりとできます。人間らしい神経で、横隔膜の上の部位に大きな影響を与えます。
腹側迷走神経が活性化すると、表情が豊かになり、安心・安全を感じられるようになります。生活全般のストレスと緊張を緩和するのに役立ちます。
◎背側迷走神経複合体
絶体絶命の場面では、背側迷走神経が強く働いて、凍りつき、不動状態、解離、虚脱に至ります。背側迷走神経が過剰になると、身体が凍りつき、こわばって、縮まっていき、呼吸がしづらくなります。人間らしさを司る部分がシャットダウンすると、息が止まり、血の気が引き、めまいや頭痛、息苦しさ、背中が痛みます。さらに、筋肉が極度に脱力して、怠い、重い、無気力、動けない、手足が冷えます。
背側迷走神経が過剰な人は、手足に力が入らずに、身体を動かすのが大変で、酸素をほとんど必要としない低覚醒状態です。身体の痛みや不安が強くなると、本来持っていた感覚が消えて、物事に集中できなくなり、離人症や現実感喪失症になります。人が虚脱状態になると、最小限のエネルギーで活動するようになり、胃腸の消化活動だけは旺盛で胃が広がっていて、気持ち悪く、嘔吐や下痢に至ることもあります。
▶慢性化したトラウマの悪影響
人は、脅かされつづける状況にいると、交感神経が過剰に働き、心臓がバクバクし、全身に血液を送って、機動力を高めます。しかし、怒りよりも、恐怖に圧倒されている場合は、背側迷走神経(凍りつき、死んだふりモード)が過剰に働きます。複雑なトラウマがある人は、本来危険でない情報にさえ、背側迷走神経が過剰に働き、凍りついて震えるため、その身体の反応を引き起こす外側の世界が恐怖に染まります。そして、自分自身の自然な身体反応に怖がるほど、より強固な凍りつき状態にロックされていきます。
常に凍りついた状態では、自己嫌悪、自責感、被害妄想 苛立ち、疑念、人間不信など、頭が常に何かを考えていて、強迫観念にとらわれ、強迫行為に悩みます。心身とも疲労して、疲れ果てると、慢性的な不動状態になり、元気がなく、動けなくなり、モチベーションが消えます。
交感神経系がシャットダウンする虚脱状態では、心なく、気持ちもなく、自分のしたいことがなくて、自分が自分で無くなります。感情鈍麻、うつ、生きながらにしんだような感覚、疲労感、意欲の低下、身体の怠さ、重さ、関節の痛みなどで、何もできなくなっていきます。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平