低覚醒(活動力低下)システムの子ども
低覚醒システムで日常生活を過ごす子ども

 

先ほどは、恐怖に反応して、交感神経系の神経インパルスを発し、自身に闘うか逃げるかを差し迫る過覚醒システムです。次に説明するのは、恐怖に反応して、闘うことも逃げることも動くこともできず、凍りつき、身体の機能を停止させる現象であり、ここでは低覚醒システムと呼びます。脳神経学で言えば、背側迷走神経が主導権を握っている状態であり、凍りつきや機能停止(身体から精神機能が消えそうな状態)が起こります。一般的に活動性が低下しており、学校でも問題行動を起こさないので、誰にも迷惑をかけない存在として放置されている場合が多いです。トラウマによる過覚醒の問題は、前々から言われてきましたが、低覚醒(陰性の解離症状)は、ごく最近、医療現場で少しずつ認知されるようになってきてます。

 

低覚醒システムで日常生活を過ごす子どもは、身体感覚の麻痺や感情の鈍麻、思考の働きが鈍くなる一方で、過敏さも高まり、本人はこの状態を非常に苦痛に感じています。彼らは、過去に養育者の死別により大きな精神的ショックを受けていたり、虐待やいじめの被害者であったり、不幸な生い立ちのために施設で育った子どもたちに多く、自分がそこで生活しているという現実感が失われています。例えば、暴力的な親から子どものうちは逃げれないので、布団の中で丸まって隠れるしかありません。しかし、隠れても、追いかけられ、追い詰められてしまった子どもは、その場で機能停止させてやり過ごそうとします。また、いじめにあって不登校の子どもを無理に学校に連れて行くと、その子どもは、何も感じないように、何も考えないようにしてその場をやり過ごすようなことが起こります。こうした過酷な環境で育った子どもは、対人場面で強い情動を感じると無意識のうちに機能停止や凍りつく防衛パターン(頭を空っぽにする)にはまり込んでしまうことがあります。そして、小さい頃の記憶や、小・中学校の時のことを何も覚えていないといったことが起こり、思い出そうとしても嫌なことしか思い出されずぐったり疲れてしまいます。また、子どもの頃のトラウマの断片である認知的フラッシュバックによる被害妄想に取り憑かれたり、動悸が激しくなり手が震えたり、汗をかいたり、過呼吸、パニック、身体の麻痺、凍りつき、思考の遮断、忘れやすさ、憂鬱、抑うつ症状に苦しんでいたりします。

 

低覚醒システムとは、過酷な日常生活を営むための方略でもあり、怒りや悲しみ、痛み、やり切れなさ、不快感、恐怖を切り離し、忘れるとか眠るとか自分の意識状態を変性させることで生活全般の困難をやり過ごします。ゆえに、解離されたトラウマや情動というのは、とてもしんどい思い出であり、思い出されると日常生活を営むことが難しくなる場合があります。人が低覚醒モードのときは、自己意識があいまいで、変性意識状態から、ぼーっとしていたり、朦朧としていたり、するべき事になかなか取り組めなかったり、後からやった事を思い出せなかったり、夢と現実の境目にいて、あちら側の世界にいることまでありますが、と同時に裏では複雑な感情を抱えています。低覚醒が酷いときには、うつ状態で椅子から立ち上がることも困難になることがあります 。解離性昏迷(不動状態)では、突然、頭が真っ白になったり、脱力状態になって、外からは気絶しているように見えることがあります。この状態では、動こうとしても身体を動かすことが出来なく、話そうとしても言葉が出せずに、相手に話が伝わらないので、場面緘黙のように見えるかもしれません。さらに、外側の世界からの心ない言葉で精神状態が不安定になると、幻聴や幻視といった幻覚がしばしば起こり、あいまいな自己が多重化することで交代人格たちの巣になる場合があります。