背側迷走神経と不動状態


複雑なトラウマを経験している人は、嫌悪刺激に曝されると、その不快な状況を回避しようとして、闘争・逃走モードのスイッチが入ります。人によって嫌悪刺激は違いますが、人の視線や気配、話す内容、足音、物音、生活音、匂い、振動、光、気圧、温度などです。

 

不快な状況が続くと、交感神経が興奮させられ、過覚醒になります。過覚醒のときは、筋肉は硬直し、呼吸は荒く、汗をかき、皮膚がブワッとなって、鳥肌が立ち、イライラや焦燥感に駆られます。脅威を感じているのに、闘ったり逃げたりできず、生命の危機を感じる場合は、背側迷走神経が過活動になります。背側迷走神経が過剰になると、全身の代謝が落ちて、心拍数が下がります。酷い場合は、交感神経がシャットダウンし、背側迷走神経が過活動になる虚脱時は心拍数が40台から50台くらいになります。

 

背側迷走神経が過活動になると、冷や汗をかいて、肌表面が冷たくて、血の気が引き、唇が冷たくなり、顔や唇が真っ青になります。頭が痛くて、心拍数が低下して、お腹がギュッと捻じれていくような痛みを発する場合もあり、下痢になるか、気分が悪くなり、嘔吐を繰り返す人もいます。血圧が一気に下がるため、頭の中が真っ白で、全身も真っ白になり、身体が鉛のように重たくなり、動けなくなります。

 

背側迷走神経が過活動のときは、人は生命の危機を感じており、横隔膜より上の部位は、機能停止していき、最小限のエネルギーで活動しようとします。省エネモードになっており、表情が硬く、不動状態になります。横隔膜より下の部位の胃と腸は活動しており、特に胃の消化活動が活発になり、吐き気や下痢になります。

 

また、呼吸器系に支障が出てくるため、肺呼吸が難しくなり、心臓の鼓動が強く響かなくなって、風船がぽわーんと膨らんだままのような感じ 体がゆらゆら揺れて、視界ははっきり見えず、曇りガラス越しに見ているような景色が広がります。

 

背側迷走神経が過活動になっている人は、子供の頃から、親同士や仲悪いとか、親に精神病理があるとか、劣悪な環境のなかで育っていることが多いです。家庭・学校生活のなかで脅かされることが続くと、警戒心が過剰になり、交感神経が過活動になります。しかし、どうしても自分の力で勝てず、怖くて反撃できない場合は、生き延びるために、自分の気配を殺すしかなく、凍りつきや死んだふりで対応します。体を自由に動かせず、神経発達が阻害されると、背側迷走神経が過活動になり、ぐったりと疲れて、忘れっぽさや集中力の低下、無気力になり、ぼーっとして空想に耽る生活になります。酷い場合は、意識が遠のいて、失神して倒れます。 

 

自分を脅かしてくる人物がいて、闘ったり逃げたりできない場合は、常に過緊張状態になり、筋肉が硬直して、首、顔、肩、胸、背中辺りは固まって、機能しづらい状態になります。声が出にくい、話を聴き取りにくい、息がしづらい、涙が出ない、唾液が出ない、手足が痺れるなど症状が出ます。肺は凍りついて息がしづらく、胃は気持ち悪く、便秘になるか、下痢で排便回数が増えます。

 

酷い環境にいる人の場合は、頭、首、背骨が固くて、感覚が無くなります。目が虚ろで、血液の流れが悪くなり、手足の力が抜けていくと、虚脱状態に落ちます。身体が怠くて、無気力になり、その場に立ち尽くしたり、ぼーっとしたり、意識が朦朧とします。心身に限界がくると、全身がしんどくて、椅子に座ることも動くことも辛くて、ベッドから起き上がることができず、休みの日はずっと寝ています。

 

身体が思うように動かず、絶望や無力感のなかで落ち込んで、焦燥感に駆られ、苛立ちます。身動きが取れず、立ち止まっていることで、皆に置いていかれているようになります。どうしようもできないから焦りますが、動けなくて、投げやりな態度になり、変われないことにうんざりします。酷くなると、日常の活動は落ちて、内臓だけが活動し、数日動けなくなり、お風呂に入れず、寝たきりの状態で過ごす人もいます。

  

生命の危機を感じて、背側迷走神経が過活動になっている人は、目がかすみ、耳が聞こえづらく、呼吸するのも大変で、背中が丸まっていくかもしれません。 脳に血液がいかず、酸欠状態で、肺で呼吸がしづらく、もがいて生きていくようになります。虚脱や死んだふりで生活している人は、息を潜めるか、息を止めるような生き方をしているため、酸素をあまり必要としません。

 

背側迷走神経が過活動になっている人は、人間社会のなかで失敗の繰り返しになります。家庭、学校、職場などの人間関係で負のスパイラルに陥ります。なによりも怖いのが全面にあるので、常に脅かされながら生きています。自分が人から悪意を向けられることが怖くて、自分の負の部分を人に知られてしまうことを恐れています。

 

背側迷走神経が過活動で、不動状態になっている人は、絶望や無力感で落ち込んで、自分が動けないことで、イライラし、現実を変えていきたいとか、力任せに動きたいと思っています。しかし、自分が動けなくて、普通のことができないことがもどかしくて、情けなくて、自暴自棄になります。希望が持てず、何をしても失敗して、何年も真っ暗な中を生きていくしかないから、気力を振り絞って、無理やり動かそうとします。しかし、身体が重くて、怠くて、力が入らなくて、動かないから、何かをしなければならないと焦燥感に駆られて、思考が頭の中を回ります。生きることに疲れ果て、気力が切れると、体が崩れ落ちて、誰にも関わらないように、何も感じないようにして、心を閉ざします。

 

慢性的な不動状態にある人は、背側迷走神経と交感神経が拮抗しあっており、身体の中で生理的混乱が生じています。彼らは、全身がしんどく、怠く、重く、身体の生理的混乱や解放時の震え、電気が走るのが怖くて、心と身体が繋がっていません。身体内部に注意を向けずに生活しているため、身体は冷たく固まり、手足は脱力し、それが不動状態をより強化します。

 

慢性化した不動状態を解除するには、身体に意識を向けていきます。頭の中で怖いと思うと、身体が固まり、不動状態に戻るので、頭の中で神様や自然、動物、植物、宇宙に守られているイメージをして、体を震わして、重い体を軽くして、動けるようにしていきます。不動状態にある人は、カウンセリングルームに通うことが難しいので、スカイプやZOOMなどのビデオ通話のカウンセリングから始めてみるのが良いでしょう。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平

 

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