狂気と解離という強靭な力

▶狂気と解離という強靭な力

 

障害となる解離症状は、人間の最も洗練された神経系のシステムが遮断されて、痛ましい出来事に対する原始的な防衛システムが作動するときに生じます。原始的な防衛システムが作動しているときは、人は外界の脅威に対して、過敏に反応して、こころや身体内部は、恐怖で凍りついたり、暴力で満たされていたり、脳のシャットダウンが起きたりします。そして、変性意識状態の憑依現象により、己が血と快楽に飢えた化け物に変貌させることもあれば、身体から抜け出て、外から眺めている自分になったり、夢の中に懐かしい風景が現れたり、意識が消えたりします。人が解離するときは、頭が痛くなったり、後から引っ張られたり、眠くなったり、感覚が鈍くなったり、現実と夢の境目がわからなくなったりと様々あるようです。

 

子どもの頃から、複数の交代人格がいて、人格たちの言葉や感覚が錯綜するなかで、現実の世界とあちら側の世界を行き来してきた人は、苦しみを簡単に自分から切り離したりすることができます。そして、狂気の側に連れ去られまいとあがくこともなく、眠りに誘うかのような時のなかで、なめらかなものに包まれながら、夢の国(あちら側の世界)に続いていくような体験をしています。例えば、夢の国への扉は、雲の中のお母さんのお腹の中を旅行しているように感じたり、なめらかな空気が包み込んで熔けていくような熱い酔いのように感じたり、キラキラとした泡の中に包まれて、あちら側の世界に運ばれているように感じたりします。彼らにとって、あちら側の世界は、恐怖ではなく、子どもの頃から一人で安心して閉じこもることができる場所と存在します。

 

一方で、子どもの頃から通常の世界にいた人は、凍りついたり、すっぽりと吸い込まれた世界にいたり、固まり閉じこめられてしまう現象を恐れます。解離とは、自分をひどい感覚に引きずり込むような力や、つかんで閉じ込めてしまおうとする生き物のような力のことであり、この力に相対する人は、自分が狂ったのではないかという狂気を感じます。彼らは、解離という強靭な力の作用を、無力化させられるとか、バラバラにさせられるとか、消されてしまうという凶悪な死の追っ手が迫っているように感じています。また、この強靭な力の作用は、その人の力を挫き、現実感や身体感覚を麻痺させ、過呼吸やパニック、あらゆる恐怖症を引き起こします。また、外の世界の人々との繋がりを断ち切ったり、夢の中にも凶悪な人物として現れたりしますが、その人の体の中では、原始的な背側迷走神経が主導権を握ろうとしています。

 

人は原始的な防衛システムに閉じ込められると、個の自治権は剥奪されて、自分が自分で無くなる恐怖から自分を守ろうとしますが、井戸の底のような真っ黒な闇に吸い込まれそうな、または、断崖を背に立たされているような状況に追い込まれていきます。そして、狂気の側は、ほんの一瞬、うつろなときに取り憑き、境界の彼方へ連れていこうとします。通常の人は、境界の向こう側の世界を知らないので、もう二度と戻れなくなるとか、人で無くなってしまうのかもしれないとか、もしかするともう二度と戻ってこられなくなるかもしれないという恐怖を感じます。身動きが取れない状況に立たされ、狂気が取り憑き、閉じ込められたり、吸い込まれたりした先にある世界は、何もない無の世界か、または熔けるような暖かい感じや、やさしい風が吹いてる場所です。そこでは、波動や風を感じながら形なく漂って、身を任せてしまうといった得も言われない至福の安らぎがあったりします。人はあちら側の世界の畏怖と魅惑を知ると、狂気も魔力への恍惚に変容していきます。狂気の世界は、通常の世界で生きている人からすれば了解困難な現象のため、統合失調症のように思われるかもしれませんが、背側迷走神経の働きとトラウマによる解離現象である程度説明できるのではないかと考えています。

 

▶トラウマの治療には

 

トラウマを負っている人は、恐怖症状が中心にあり、また外傷体験の圧倒的な恐怖は、凍りつきや身体の麻痺等の症状をもたらします。恐怖は、汎化という現象によって、さまざまな刺激が過去の外傷体験時のひどい感覚に引きずり込まれる恐怖、身体感覚、生理的反応、光景、臭い等と無意識に結びつけられていき、想像上の脅威まで脳や身体が危険だと認識していきます。そして、怒り、戦慄、無力感を引き起こす恐怖が更なる恐怖をもたらし、より重いトラウマ症状となり、生活全般が困難になります。

 

トラウマ治療には、恐怖や無力感といった難しい情動体験を耐えてやり過ごすことができるように、マインドフルネス、呼吸法、身体志向アプローチを用いて、不快な身体感覚とそれに伴う思考、情動、信念を分離させていきます。また、身体感覚の麻痺や凍りついた状態に自らが能動的に入っていって馴染んでいく方法もあります。現実感を失わせる狂気とあちら側の世界の間を行ったり来たりしながら、身体の中心の何も無い世界(小さな死)や、熔けるような暖かい感じ、ふるさとに帰ってきたような感じに浸り、未完了な身体エネルギーを振るい落してもらって、トラウマによる恐怖症を克服していきます。