発達早期のトラウマによる破局と分裂

発達早期のトラウマによる破局と分裂

 

発達早期(乳児期から児童期)に切迫した環境で切迫した選択支に迫られ、持続的・反復的にストレスに曝され続けている子どもは、この冷たく厳しい現実から生き残れなくなります。

 

①絶体絶命の境地からの生か死か、あるいは、加害者と戦うか逃げるかという状況のなかで戦慄と恐怖と無力感から身動きがとれない。

 

②愛着対象との関係で、しんどくて離れたい/くっつきたいという力と力がぶつかり合うなかで、なおも愛着対象からの見捨てるという脅しに恐怖し、無力になり選択肢がなくなる。

 

③いじめにあって、恥をかかされた憤怒/戦っても勝ち目がない無力な自分という力と力がぶつかり合うのなかで、周囲の視線に拘束され、自分で自分であることを最大限に抑制する。

 

①~③のような状況にあり、身動きが取れず、正常な反応が妨げられ、孤立無援状態に陥り、そのうえで他者の力に圧倒されたり、無視されると破綻を迎えます。言い換えれば、戦うか逃げるかの状況の中で、瞳孔が開き、アドレナリンに溢れて交感神経系の昂りに混乱し、他者に拘束されるか、あるいは、自分で最大限に抑制しようとして、うずくまることで、身体の麻痺と解離によるシャットダウンが起こり、頭が真っ白になって、自分が自分でなくなる破綻を迎えます。

 

その後、茫然自失から回復しても、自己の内部システムは崩壊しており、自己を構成する各部分がスペクトルの両極に分かれてしまうことがあります。一方は、恐怖や激しい怒りのような情動であふれている「過覚醒」で、もう一方は、大人しく従順で、抑制的に振る舞い、危険な人物に対しても愛着を示し、忘れっぽくて、あいまいな自己感覚や身体感覚を抱えている「低覚醒」です。人によって両極(過覚醒-低覚醒)の振れ幅は違いますが、これらの間を行ったり来たりして二重の自己状態に陥ることがあります。そして、その人の精神性の中核部分は、機能停止状態にあって、幼い頃の子どもの部分がどこかに閉じこもっていたり、石に変えられているかもしれません。この子どもの部分は、ときどき夢の中に現れて、子どもの頃に過ごした家の近くの公園にいたり、深い森のお花畑で眠っていたり、ガラスの泡の中に閉じ込められていたりします。

 

発達早期のトラウマとは

 

発達早期(乳児期から児童期)のトラウマというのは、子どもが虐待的な環境に置かれていた場合だけに限りません。例えば、ぞっとするような事件、事故、自然災害、手術中の医療ミス、出生外傷、化学物資への暴露、猛烈ないじめ、熾烈な受験競争、養育者の死別や離婚、養育者に精神疾患や発達障害がある世代間伝達トラウマ、養育者に未解決のトラウマがあって、この世界に酷く怯えているため、子どもを条件付きでしか愛せないことでも起こります。また、生まれ持った資質の弱さや発達のアンバランスさがある子どもは、家庭、学校、子どもを取り巻く生活空間の全体がストレス過多になるとトラウマ化しやすいです。発達早期にトラウマを負った子どもの反応で覚醒度の振れ幅が大きい場合は、ADHD(注意欠如・多動性障害)の症状と類似しています。また、大人になる過程において、低覚醒に支配されている場合は、うつ病、解離性障害、離人/現実感喪失症、失感情症であり、一方で、低覚醒と過覚醒の振れ幅が大きく調整が困難な場合は、気分障害、双極性障害、複雑性PTSD、境界性パーソナリティ障害、解離性同一性障害、さらに、生物学的な脆弱要因が強く、了解困難な現象であれば、統合失調症の診断が付くかもしれません。

子ども時代の慢性的トラウマの影響

発達早期の慢性的トラウマの影響と問題行動

 

子どもが自分の行動や感情のコントロールが難しくなり、些細なことで苛立ち、癇癪を起こすことで大人によって押さえつけられたり、放置されたりすることで、外傷体験を重ねていきます。外傷体験を負っている子どもは、交感神経が活発に働き、軽いストレス刺激(光景、音、声、視線、情動)にさえ、動物的で反射的に危険を感じて過剰に警戒するため、ストレスホルモンが慢性的に増大し、臨戦態勢(闘争・逃走)のスイッチが入りやすい状態です。そして、些細な問題に直面しただけで強烈に苛立ち、興奮することで闘争・逃走などの過覚醒状態に入ることがあり、自分の意思でその活動を止めたくても自分の意思が全く効かなくなる場合があります。

 

両親や教師、同級生とのトラブルの際に、神経システムの負荷がかかりすぎると…

①解離性健忘(闘争・逃走状態のときのことを覚えていない)

②記憶は連続しているが、性格が変化して(逆上していて)コントロールが効かない

③離人(暴れている自分を、背後からうっすら見ている)

④パニックや過呼吸

⑤PTSDの再体験、侵入、フラッシュバック

などが生じて、周囲とのトラブルを繰り返し、長期反復的にトラウマを負います。

 

そして、日常場面において、自己中心的で攻撃的で乱暴なので学校で問題行動をとり、教師や仲間とトラブルを起こします。また、スポーツをする、ゲームをする、セックスをするなどの気分が高揚するときに、通常の人の覚醒水準とは異なる興奮(過覚醒)となり、弱肉強食の世界で生き残るための力とかスリルを求め支配/破壊的な活動をする場合があります。

 

▶愛着システムと過覚醒(闘争)システムの分断

 

養育者が虐待的で、発達早期にトラウマを負ってきた子どものなかには、あたかも正常にみえる状態(愛着を求めるシステム)と過覚醒な状態(力やスリルを求める過覚醒システム)の間で分断されており、あたかも正常にみえる状態の背後に、過覚醒システムに駆動された力やスリルを求め支配的な人格部分を抱えることがあります。愛着システムに作動された日常の大部分を過ごす人格部分は、悪夢で目覚めたり、フラッシュバックで全身に汗をかいたりと日常生活で疲弊している場合があります。一般的に、しきりに安心感を求めるので、強くて優しい大人を愛着対象にしてくっつこうとしますが、それが失敗すると、今度は、愛着対象から注意を引こうとして操作的な動き(他者を巻き込む)を見せたりします。しかし、虐待または見捨てられ体験が想起される場合や、問題に直面する場面、興奮が高まる場面では、自分を調整することが出来ずに、解離的な反応を示し、顔つきや性格が変わるとともに問題行動を起こしやすくなります。一般的に愛着システムは、対象を求めることに条件づけられており、対象と一体感を得て、幻想的な関係を結ぶことにより一時的な至福を得ています。その一方で、虐待的な環境にいる場合は、対象を求める気持ちが溢れても、それは叶わず、また傷つき、恐怖し、麻痺することを繰り返していくので、何も感じないように、何も考えないように条件付けられがちです。

 

過覚醒システムに駆動された力やスリルを求め支配的な人格部分は、ストレスホルモンが絶えず高い状態にあり、些細なことで苛立つので、同級生からはよそよそしくされたり、煙たく思われたり、仲間外れにされやすいです。また、学校からは要注意人物とされたり、親との相性は最悪なので、さらなる虐待を呼び込みがちです。そして、大人と衝突しては処罰を受けるので、好奇の目に晒され、この世の不条理さから悪魔的思考や狂気に駆られることがあります。その結果として、かなり異なった自己状態・感情状態を自分のなかで抱え、まるでジェットコースターのように気分が短時間で変動するような境界性パーソナリティ障害や、異なった自己状態を抱えらない特定不能の解離性障害や解離性同一性障害を発症する場合があります。 

 

▶愛着システムと過覚醒システムの分断

▶低覚醒システムの子ども