境界例の子どもの心理療法

▶複合的なトラウマを負った子どもは、

 

複合的なトラウマを負った子どもは、些細な問題に直面しても、脳や身体が本当の危険として察知するため、ストレスホルモンが絶えず高い状態にあります。常に感覚過負荷の状態にあり、警戒心から、注意や集中に問題が出て、普通の子のようにほど良く落ち着いて元気に過ごすことが難しくなります。そのため、虐待的な家庭環境や学校社会の複雑さのなかでは、すぐに心的エネルギーが切れてしまい、カッとなって自分をコントロールできなくなるとか、麻痺して表情が暗くなることで人間関係をことごとく失敗していきます。そして、精神的な症状、自己調整機能の障害、覚醒度のコントロール異常、ホルモンの症状、免疫システムの故障、自律神経系の乱れ、身体発達の偏り、知的発達の遅れなどが生じます。また、さまざまな症状を引き起こし、憂鬱感、自己否定、フラッシュバック、悪夢、パニック、感情のコントロールの難しさ、虚偽記憶、気分の変動、置き換えられた攻撃、身体の不調、シャットダウン、極端な行動が見られます。恥の感情などは瞬間的に忘却され、しんどいことは解離性健忘やトランス状態において、切り離されるので、悪党、暴君、従順、罪悪な子どもが一つの身体のなかに同時に存在したりします。

 

最悪の場合は、ストレスホルモンが絶えず高い状態にあると、些細な問題に直面しただけで闘争スイッチやフラッシュバックのトリガーになります。子どもが自分を虐待する張本人とともに日常生活を過ごし、絶えずストレスの高い環境に置かれると、扁桃体と交感神経の成すがままになり、過覚醒や部分的なフラッシュバックを頻発させ、半ば自動的に訳もなく悲しみ、理由もなく無気力になり、意味もなく怒りが沸いて、手を出すとか、暴言を吐くとか、物に当たるようになります。この理性では制御することができない原始的な防衛システムにはまり込むと、自分でもなぜそうしているのかわからないが、してしまうというコントロール不能な力に身体機能が支配されます。そして、問題行動が増えていくことで、周りの人に嫌われてしまい、正常に理性が働いているときは、嫌われないようにビクビクしたり、人の真似をしたり、猫をかぶるようになります。その一方で、自分の思い通りにいかない場面では、すぐにイライラしてしまって、自動的に暴言や暴力として反応します。そこで爆発して癇癪を起こせば、相手に嫌われたり、やり返されるので、頭も体も限界に達します。この自分の意志に反した自動的な反応は繰り返されるので、根源的な苦悩になります。外から見る分には、衝動性の高い問題児ですが、心の内側は、名づけようのない悲しみを抱えています。

 

親子間や学校社会のこじれから、自動化された暴言と暴力と、言語を司る左脳の鈍さゆえに本人の自覚は難しくなり、すぐ人のせいにするため、誰からも愛されない悪く汚らしい子どもとして扱われ、振りほどけないほどの縛りになります。また、トラウマを反復するかのように、現在の人間関係で破壊的行動をとるので、その時々に処罰されてしまって、不条理なトラウマのせいで抑圧される環境で過ごします。そして、不条理な虐待や大人に力づくで押さえつけられた体験が、フラッシュバック、悪夢、パニック、不動状態により再現されて、日常生活が疲弊すると、背側迷走神経が主導権を握り、生き生きとして世界が枯渇して動けなくなります。弱音も吐いても弾き返され、満たされなさやつまらなさで神経が尖り、ストレスが更なるストレスを生み出し、恐怖症にはまり込み、こころの成長が止まってしまいます。そして、すべての色を消え去り、白か黒か、敵か味方かの不安と恐怖が入り混じった世界にすっかり染まります。また、身体は衰弱していき、自己のまとまりもなくなり、同時に別の自分が精緻化、自律化、解放化されて、極端な二重の自己を持つようなこともあります。

 

▶境界例の子どもの心理療法

 

当カウンセリングルームでは、まず、セラピストは、トラウマを負った子どもの心の中と身体の状態を見ていきます。境界例水準の子どもとセラピストの間を行ったり来たりする移行空間は、非常に困難な構造をしていて、救いようのない世界があります。子どもは、セラピストを救いようのない内的世界に巻き込んでいきます。子どもは、この救いようのない世界のことを、ある程度知っていて、たくさんのマイルールを持ち出し、不正に操作して、自分だけはそこから抜け出します。セラピストは抜け出すことができず、立ち往生して、子どもの内的世界に縛り付けられます。子どもは、疲れ切って、うずくまるセラピストを見て興奮します。また、子どもはセラピストを便器(メルツァーのトイレットブレスト)のように扱い始めます。子どもは、自分の中の悪く汚らしい排泄物をセラピストに向けて排出していきます。セラピストは汚れた悪い対象になり、傷つけられていきます。ここでセラピストは自分の痛みや傷つきを子どもにも分かるように伝えます。と同時に、悪い対象であるセラピストが愛情と不屈の思いやりを示せば、子どもは自分の鬱屈した感情ですっかり汚染された体から解放されます。子どもは、セラピストの心身が痛んでいく様子を見ながら、優しく受け止めてもらえて、変わらないで笑顔でいてくれるセラピストに対して、抑うつ感や罪悪感、安心感を思い出し、愛すべき対象に変化します。今や子どもの中は、良い自己(自分)と愛すべき対象(セラピスト)がいて、二人の間で良いこと(安心して落ち着いていられる)が起きます。その後も、償いや攻撃、取り入れ、排出のドラマは、繰り返されますが、セラピストの愛や思いやりに同一化して、本当の良い自己像を持てるように関わっていきます。セラピストは、子どもの根っこの部分をいつでも信頼しているというメッセージを伝えていくことが大事です。無事に治療が終結したあとの子どもの表情は、なんとも言えない目の輝きを放ち、大人に成長していきます。

 

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