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DID基本人格の初期の苦悩


解離性同一性障害の基本人格(オリジナル人格)は、この世に生まれ落ちた最初だと思われる自己の部分です。しかし、幼少期の頃から、脅かされる環境にいて、生きるか死ぬかの原始的な防衛のなかで、体が固まり凍りついて、現実と接することができなくなり、宙に浮いていたり、体の中に閉じ込められるようになった存在です。彼らは、つらい現実を生きることが大変で、次と次と起こる絶え間ない変化が怖く、過緊張状態が続き、周りの皆の生きているペースに合わせていくことが出来なくなり、何も聞こえない世界のなかで、一人きりの真っ暗な場所にいるようになります。日常生活の代わりを担った部分が、大人に成長していっても、彼らは、長い間、体の中に閉じ込めらていたり、背後からこの世界を眺めたり、自分と外の世界が一体化した原初的な空間で生きています。

 

基本人格(オリジナル人格)は、良いことも悪いことも感じすぎるところがあり、もともとは親を喜ばそうとか、心配をかけないように生きてきました。子どもは、虐待やいじめなど、たくさん傷つけられながらも、周りに分かってほしいとか、話を聞いてほしいとか、助けてほしいと願ってきましたが、自分のことを分かってもらえませんでした。いつも怒鳴られるのが当たり前で、理不尽に怒られても、怒られる理由も分かりませんでした。子どもがありのままの怒りを見せれば、その怒りに相手が反応して、さらに悲惨な目に遭うので、何も考えなくなりました。親達に怒られるのは、自分が悪いからと自分を責めて、何も言えなくなりました。子供の頃から、よく分からないまま重い人生を歩み、とても辛いとか、とても苦しいと言えず、心も体も痛みだらけで、限界に達しました。

 

訳の分からない世界の中で怯え、恐怖し、段々と弱弱しくなり、大人しくなって、誰の目にもつかないように、その場にいないふりをします。人目につくと、良いことも悪いことも感じすぎて、胸が痛み、息苦しく、その苦痛が過ぎ去るのを待つしかありませんでした。子どもは我慢している感覚も無くなり、体が凍りついて、感情や感覚が無くなっていきました。とても辛い毎日に、すっかり絶望してしまって、もうどうしようもない気持ちになり、動けなくなりました。心を捨てたあと、全ての事柄が宙ぶらりんになり、小さい自分は凍りついたままになって、それが永遠に続くようになります。心は死んでも、体は生き延びているので、過去の自分とは全く違う何かが出てきて、その部分が日常生活を過ごすようになります。

 

このように物心ついた頃から、危機的な状況に追い込まれて、苦しく、冷たく厳しい道を歩んできました。子どもは、自分の思うように生きたいと思っており、これ以上傷つけられないようにするため、自分を繭の中に包んで、外の攻撃から自分を守ります。しかし、それでも、自分を侵害してくる存在に掴まれて、身体は固まり、手足には力が入らず、冷たく凍りつきます。トラウマにまみれた体はおかしくなり、心の中がぐちゃぐちゃ、過去に行ったり未来に行ったりと混乱した人生のなかで、一歩を踏み出そうとしても、失敗ばかりして、体の動きも、頭の働きも鈍くなり、泥濘の道で足を滑らせ抜け出せなくなります。やがて、子どもはいろんなことがトラウマになってしまい、誰にも見つからなようにと、自分の心の奥底で休む場所を見つけて、そこから出て来なくなります。心の奥底の暗闇の中を一人で体育座りをしてポツンといて、凄い孤独で真っ暗な中を死に向かっていきますが、たまにちらちらと光が見えます。このような空間は、村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」の間宮中尉が井戸の中で過ごした数日間と似ていて、 暗黒の井戸の中に一日にほんの数分間地上からの光が届いたときの感動や、少しずつ近づいてくる死の影が漂います。

 

基本人格は、井戸の底のような暗闇の場所で隠れてしまい、何も心に響かなく、心で感じることが出来なくなります。自分の身体を使って現実世界で活動する人格は、自分に取って耐え難いことが多くある状況で活動することを任せられます。そこで前向きに頑張ろうとしますが、嫌なことをたくさん押し付けられる結果になり、親や兄弟、同級生の友人などと悩ましい状況を作っていきます。より限界に達していくと、闘争モードの交感神経系に乗っ取られて、周囲の人々を平気でトラブルに巻き込んだり、その状況を嘲笑って見ていたり、人に嫌な思いをさせることになります。このように、悩ましい状況や、複雑な関係性を形成することがあります。

 

一方、現実と繋がって生きられなくなった基本人格は、心の奥底(井戸の底のような暗闇)に引っ込んでいて、そこは自分が人を傷つけてしまうことも、人から傷つけられることもない世界です。自分の頭の中で作り上げた空想世界で、自分にとって理想や都合のよいところを集めて、自分だけの閉じられた妄想世界に浸っています。頭の中は、知っている人が現れて消えての繰り返しで、あんなことがあったな、こんなことがあったなと考えています。こうした現象を解離と言って、発達早期にトラウマを負った人は、生きている感覚すら分からず、ずっと夢の中にいるように感じて、白昼夢に没頭します。また、辛い現実から離れて、頭の中の空想世界へ逃げ込んで生きていくことになります。頭の中の世界は、広大なフィールドがある人もいて、そこは自分しかいなくて、切なくて、寂しいですが、一人で遊べる気楽な場所とも言えます。このように解離とは、逃避することである一方で、その人の人格全体でみてみると、戦略的に自己を隠して現実世界の攻撃や困難な状況から身を守っている側面もあります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平

 

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