ユング派ドナルド・カルシェッドの著書「trauma and the soul」を参考にしながら、内容を改変しています。トラウマを治そうとしている方は、セラピストと地獄のもとへ下りていって、その痛みに耐えたり、天国と地獄の間をゆっくり行き来することで、ちょっとずつ健康の層が上がり、真に変容することが可能になります。また、地獄に対する経験が変わっていけば、不快なことへの態度や思考を変えることができます。地獄の痛みを感じられるようになり、そこで踏ん張る力が育てば、自己愛性パーソナリティ障害や境界性パーソナリティ障害の脱却に役立つし、暴言暴力への問題行動が減ります。
地獄の世界(インフェルノ)は、辛さと苦痛が永遠に続きます。プルガトリオは、その痛みが時間とともにやってきます。パラダイスは、痛みというものが消えます。最下層に行けば行くほど、痛みや暴力が増えていきます。地獄の最下層には冥界の神ルシファーがいて、氷にまみれた姿でいます。
地獄とは、悪魔に体をひきちぎられて、人間の血だらけの体がバラバラに落ちていて、身の毛もよだつような場所です。悪魔や堕天使は、人間同士が関わり傷つけ合い、裏切り合い、憎しみ合って、さらなる生き地獄を望んでいます。そして、悪魔たちは、人間をこの世に産み落とされた制裁されるべきものだとして、許されない大量の罪を背負わせ、こうして罰を受けることが己の生き方であると責めます。そして、悪魔はじっくりじわじわと、残酷に残虐に苦痛を最後まで味わい続けることを望んでいます。罪人は、どんな拷問で苦しもうとも、自ら死ぬことは決して許されず、「もう殺してくれ」と泣いて懇願するほど生き地獄を味わうことになります。そして、「死にたい、死なせて、殺して」と悲鳴をあげて、泣き叫び、苦痛とともに生き続けさせられます。
ここからは、ダンテの『神曲』の地獄篇を紹介します。ダンテは、私淑する詩人ウェルギリウスに案内され、地獄の門をくぐって地獄の底にまで降り、罪人たちの間を描いています。
地獄の門
「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」と記されています。
第一圏 辺獄(リンボ)
洗礼を受けなかった者が、呵責こそないが希望もないまま永遠に時を過ごす。
第二圏 愛欲者の地獄
荒れ狂う暴風を受ける。
第三圏 貪食者の地獄
ケルベロスに体を引き裂かれ、八つ裂きに。
第四圏 貪欲者の地獄
重い金貨をひきずり歩く。
第五圏 憤怒者の地獄
地獄のぐつぐつと燃えたぎってるスティージュの川につかされる。
悪魔の街
冥界の神ルシファーのいる入り口に辿り着きますが、ここは永劫の炎に赤熱した環状の要塞で、ゲートは堕天使によってガードされています。この天使たちは、ルシファーに仕えていた堕天使たちです。ゲートを開けるには、メドゥーサを筆頭に堕天使、悪魔をやっつけると最終的に開きます。
第六圏 異端者の地獄
お墓が燃え盛っていて、なだらかな丘に辿り着き、血で煮えたぎっている凶暴な罪人と出会います。
第七圏 暴力者の地獄
いろんな種類の拷問を受けます。地獄に落ちた罪人は、火の雨や凍りつくような雨に打たれ、怪物に囲まれます。罪人たちは暗闇の中で終わりがないような拷問を受けます。
第八圏 悪意者の地獄
悪魔に打ちのめされて、糞尿まみれの池に突き落とされます。怪物に頭や腕とかをひぎちぎられて、食べられます。体をひきちぎられて、辺りはバラバラの体だらけで、血の匂いがして、ぐちゃぐちゃになった頭が転がり、生温かい血のかたまりが降ってきます。
第九圏 裏切者の地獄 - 「コキュートス」
大きな洞穴の中に下りて行って、大きな池があって、そこは喪に付す池と呼ばれています。すべての重みが一点に集まる中心へと向かった先は、失われた心の世界で、静けさに覆われていて、凍りついた永遠の極寒の闇の中です。恐怖とともに、全ての魂たちが全身氷漬けにされて、ガラスに閉じ込められた藁のようです。寒さのために全ての皮膚感覚が失われ、体が震えます。
魔王ルシファー
地獄の中心ジュデッカのさらに中心、地球の重力がすべて向かうところには、神に反逆した堕天使のなれの果てである魔王ルシファー(サタン)が氷の中に永遠に幽閉されています。魔王は、かつて光輝はなはだしく最も美しい天使でありましたが、今は醜悪な三面の顔を持った姿となり、半身をコキュートスの氷の中に埋めています。
ダンテには、ものすごく巨大な影が見えて、突然、その背後で巨大な影が縮んでいるように見えました。恐怖と寒さで、体が極限に冷たくなり、気を失いそうになっても、そうならないように呼吸を止めないようにしていました。そして、光の息子が自分の前に現れて、問いかけてきました。
地獄から天国に
このまま地獄の中心に居ては、絶望・無力な状態に堕ちて、絶滅するか、永遠に凍漬けにされてしまうので、大いなる悪から遠く離れた場所に逃げる必要があります。まずは、魔王の毛深い体をよじ登り、はじめはうっそうとした場所を通って、そこから一番遠いところに逃げましょう。そして、遠く離れた場所に着いたら、次は地球の真ん中まで行きましょう。地球の真ん中まで行くと、そこから上の方に道が続き、岩でごつごつした洞窟みたいなのがあります。その洞窟を抜けると、川が見えてくるので、その川を下ります。川を下ると海に出て、プルガトリオの島が目の前に広がります。そこは、希望の島と呼ばれており、島の真ん中には煉獄山があります。その山を上に上にひたすら登って、天上世界(パラダイス)の到着します。パラダイスから星空を眺めながら、自分の肉体が生まれ変わるのを見ていきます。
Donald Kalsched.(2013):『Trauma and the Soul:A psycho-spiritual approach to human development and its interruption』
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平