現代人は、複雑な社会のなかで様々な変化に対応するため、自分の身体の違和感に意識が向かずに、周りに意識が向いて、自分の本能や感情、感覚を含めた身体性を制限しています。そして、社会の中でご活躍されている人ほど、自分で振る舞いを正しくコントロールしようとして、身体感覚とか感情を身体内部に抑圧しています。その結果、生き生きとした感覚を失っている方がたくさんおられます。
身体志向アプローチでは、既成の価値観に飼いならされてしまうのではなく、それらを外の世界から問い直して、より身体に根ざした思考を取り戻そうとする試みです。主に、身体内部の宇宙で何が起こっているか、注意を向けていくことで、生理的反応の変化に気づくことができます。そして、自分が苦手にしている場面において、身体感覚や感情、行動、視覚イメージ、思考の状態を知り、自分の内なる感覚と仲良くなれるようにします。このページでは、ストレスマネージメントとリラクゼーション効果のある呼吸法やマインドフルネスについて、少し触れています。また、身体志向アプローチで有名な、▶ソマティックエクスペリエンスのページもあるので、見て下さい。
①動かずにじっと座り、リラックスした姿勢をとる。
②2~4秒かけて鼻から大きく息を吸い込み、お腹を膨らませる。(口は軽く閉じておき、舌は上あごに)
③ほんの少し間を置いてから5~10秒かけてお腹にある空気をゆっくり吐いていく。息を吐くことに注意を向ける。
④最後まで吐ききったら、ほんの少しの間を置いてから再び息を吸い込む。
腹の横(肋骨が膨らんだり縮んだり)に力を入れて、息を吸ったり吐いたりする。②から④を毎日5分~10分行う。自分のペースで呼吸法をやっていきます。寝る前や寝起き、ネガティブな感情に支配されたり、考えすぎのときに行う。呼吸法を終えたあとは、身体のあるがままの感覚を確かめたり、頭の中のイメージを大切にしたりして、物思いに耽ってみてください。また、思考するのをやめて、何もない時間を過ごしてみてください。
①呼吸は、唯一、自分で内臓を動かすことができる。呼吸が深くなり、身体の機能が向上する。
②こころのはたらきを活発化させ、こころの落ち着きをもたらすことができる。
③吐く息に意識を置いて呼吸法をすると副交感神経の働きを高めることができる。
④交感神経が優位のときは、ストレスを感じてしまうが、副交感神経が優位になるとリラックスできる。
⑤落ち着いて意識を集中した状態になることができるようになる。
マインドフルネスは仏教の瞑想から認知行動療法に取り入れられた概念です。マインドフルネスと呼吸法を併用することで、精神・身体疾患に対して効果があると知られています。また、トラウマティックなストレスを受けた人のこころ、脳、身体の機能の回復に役立ちます。トラウマが慢性化している人は、身体の感覚をシャットアウトさせていることが多いので、それを改善させるには、今の身体に着目し、注意を集中する必要があります。また、マインドフルネススキルを磨くことで、環境の変化に動じないメンタルを養うことになります。トラウマ治療では、今起こった自分の内側に注意を向けていきますが、その1番効果的な方法は、マインドフルネスやヨガと言われています。
ちなみにマインドフルネスとは、「今この瞬間の体験に意図的に意識を向け、価値判断をすることなく、ありのままに自分を観る。」ことです。マインドフルネスが自然にできるようになると、今ここをありのままに感じることができるようになります。そして、自分の心身の状態とか抱えている悩みにとらわれることなく、周りの環境をありのまますんなりと受け入れられる状態を作ります。トラウマ治療では、マインドフルネスを用いて、自分の内外の環境における絶え間ない変化を自己調整できるようにしていきます。
例えば、歩いている時、まずは、呼吸に意識を向けて、次に手や足の動き、足裏の感覚、身体全体の動きに意識を向けます。そして、足を上げたり、下ろしたり、つま先やかかとの使い方など、自分の身体の動きの感覚に意図的に気づき、身体の変化に気づくことです。また、椅子に座っている時、私はここにいると感じながら、呼吸、手や足裏、足のつま先などに意識を向けます。そして、身体感覚へ注意を向けることで心理的、身体的変化が起こるので、それを観察していくことです。あとは、食べる時に、リンゴやナッツなどの歯ごたえのあるもの食べて、口の中でゆっくり噛んで、すぐに飲み込まずに、舌で味を感じ、唾が出てくる感じやの飲み込みたくなる衝動を感じます。食べ物を飲み込んだ後は、食べ物が喉から食道を通って、胃にすとんと落ちる感じまで見ていきます。
このように自己認識したことへ意識を向けていき、次に何が起こったかを見ていくことを繰り返します。ただし、マインドフルネスは、身体感覚への相当な集中力が必要になるので、瞑想訓練の取り組み方の理解が不十分な場合は効果が発揮されません。まずは、ずっと座った状態で呼吸に意識を向けるのは大変なので、身体の動きが伴っていたり、自分の手で身体をマッサージしながら、マインドフルネスをするのが良いかもしれません。
マインドフルネスの注意点としては、トラウマを負った人が、今ここを感じようとすると、彼らの身体は交感神経が活性化されているため、落ち着かなくなり、得体の知れないものに脅かされ、恐怖を感じたりします。一人で取り組むと恐怖が出てきて、自分の体を感じることが怖くなるので、最初のうちは専門家と一緒に行うのが良いと思われます。
①リラックスした姿勢をとり、注意を呼吸に集中する。
②注意がそれて、何か別の事を考えていることに気づいたら、再び注意を自分の呼吸に戻す。
③5分したら注意集中から身体の中を見渡して、呼吸とともに、今起きているあるがままの感覚に注意を払う。
さらに、この後、順番に体の部位を観察していくと良いと思います。手足に力が入っているか、入っていないか、適度な感じか、また、力を入れようと思えば、いつでも十分な力を入れれるか。次に、心臓から流れる血液はどうか、手足の末端まで血液の流れを感じるか、全身の筋肉は伸びているか縮んでいるか、内臓感覚や皮膚感覚はどうかを見ていきます。ついで、お腹やこつばんを見たり、胸や心臓を見たり、喉から気管支、肺にかけての呼吸の通りがどうかを確認します。また、首や肩、背中の張り具合を見て、肩を動かしたいように動かし、時間をかけて観察していくのが良いでしょう。さらに、顎を下げ、口の開け閉めをしながら、脳を中心とした顔のパーツ(目、鼻、耳、口)や表情筋を緩めていきます。また、顔周辺の感覚に注意を向けていって、頭の天辺、首、こめかみ、眉間辺りをセルフマッサージしながら、マインドフルネスしていくと効果が期待できます。
また、自然の中を散歩しながら、自分の体の状態をマインドフルネスしていくのも良いでしょう。春の季節だったら、草木が青々と茂って、水分をたっぷり含んだ若葉の香りを胸いっぱいに吸う、自然の美しさを肌で感じるようにしましょう。そして、自分の体がいつどこで最も安心しているかに注意を向けていくことを繰り返します。今この瞬間の身体感覚を感じて、今ここにいることができれば、思い悩むことが減っていきます。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平