人は、手術ミスなどであまりに痛いのにどうしようもできない場合には、、絶望状態に陥り、頭の中が真っ白になったり、体から離れてしまったりして、気を失います。
人は、どうしようもできないときに、もの凄いストレスがかかり、身動きが取れなくなって、背側迷走神経が働きます。
ピーター・ラヴィーンの『身体に閉じ込められたトラウマ』によると
最近の医学研究で、骨折のため整形外科治療を受けた患者の52%以上が重度のPTSDを発症し、大部分は回復せず時間の経過とともに悪化していることがわかっている。・・・整形外科治療の多くは、恐ろしい事故の後、拘束されたままストレスを伴う救急車での移動に耐え、非人間的な救急救命室へ運ばれた後に行われる。さらにこうした患者の多くは、しばしば興奮状態の中で、救急手術を受ける。この一連の出来事は不動化へと発展することが多く、痛みを伴うリハビリ治療が続く。
病院が以前よりずっと人道的になったとはいえ、痛みを伴う処置や全身麻酔を受けなければならない患者に恐怖感を与えないようにする配慮は十分ではない。実際、これらの不運な人たちの中には麻酔中に部分的に「覚醒」する場合があり、その多くは最も恐ろしく複雑なPTSD症状を発症する。
生物学的に言って、整形外科患者や入院中の子どもは、脅かされそして拘束された後に、命をかけて戦っている野生動物のように反応している。「亢進した激しい怒り」を伴って攻撃しようとする衝動や半狂乱に自暴自棄状態で逃走しようとする衝動は、生物学的に理にかなっているだけでなく、実際のところ、当然の生物学的結果である。拘束され脅かされた動物が不動状態から出てくるときに助かるかどうかは、まだその場に存在している捕食者に対する暴力的な攻撃性の程度によるからである。しかしながらヒトの場合そのような暴力は、個人と社会に悲劇的な結末をもたらす。
私はデッド・カジンスキー(科学技術の非人間性に対して報復した「ユナボマー」)の母親と、ジェフリー・ダーマ-(被害者を切断した連続殺人犯)の父親と話しをする機会があった。彼らは二人とも、幼少時も病院で体験したぞっとするような出来事の後、子どもがいかに「壊れてしまったか」について恐ろしい話をしてくれた。どちらの親も、恐ろしい入院体験の後、子どもがいかにして自分の世界に引きこもってしまったかということを語っていた。このような誤った暴力を引き起こすほどの激しい怒りの経験というのは(幸いにも)めったにあるものではないが、医療処置によって引き起こされる強烈な恐怖と怒りは(残念ながら)珍しいことではない。
閉鎖病棟などでの身体拘束も大きなトラウマになることが多いです。何かしら急性の外傷体験を負っている人が、精神を錯乱させて、統合失調症の状態とされて、閉鎖病棟に入れられることがあります。そして、閉鎖病棟での自由のない完全に管理された生活や身体拘束により、過剰な覚醒からの不動状態にされてしまって再外傷化します。以後、原始的な神経の働きにより、身体は仮死状態のようになり、背中がジンジンと痺れて、排便回数が増えるかもしれません。頭の方は管理社会のなかで、何々しなければならないという世界に閉じ込められます。そして、ストレス過多により、免疫系やホルモンのバランスが崩れて、身体の弱い部分から症状化していきます。
退院すると、自由な生活になり、多弁で歯止めが利かなくなって、過剰な覚醒状態になりやすく、今まで抑圧してきた本能衝動してきたが抑えられなくなります。目をギラギラさせ、買い物やギャンブル、暴飲暴食にはまり込みます。その一方、身体の方は不動や凍りつきというトラウマがあり、落ち着かずソワソワしたり、夢の中で生きているようになります。そして、衝動的な行動から、家族が対応しきれないと、再入院になり、入院生活が長引くほど、極端な性格や行動傾向になって、社会生活を送れなくなります。理想と現実の差が大きくなり、誇大妄想、関係妄想、視線恐怖、劣等感を持った難しさ正常なトラウマによる精神錯乱が、精神病とされてしまって、医療の間違った処置を延々と受け続けることがあります。
患者が暴れて無茶苦茶だから、その安全性を保つというポジティブな側面はありますが、一方で、病院側の秩序やクリーンなもの保ちたいがために、障害がある精神錯乱者を排除したいという動機も隠れています。