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プロ野球選手のイップスとは、身体感覚の喪失とトラウマ学視点からの克服

イップスは、野球選手だけでなく、

プロゴルファー、どんなスポーツでも起きるので、たくさんの種類があるようです。

 

今回は、送球するたびに暴投しそうになってしまう

送球イップスについて述べています。

 

イップスに陥ると、身体感覚が鈍る(自分の腕や肘における感覚能力が凍りつく)ことで

思う存分投げることができなくなります。

 

イップスに陥る要因としては、

大舞台のなかで集中が強いられる場面において、絶え間ないプレッシャーがあることで起きると言われています。

 

プロ野球選手なら、自分の投じた一球で

味方の選手たちやその家族の生活が変わりますし、

たくさんの熱狂的なファンの気持ちを変えてしまいます。

 

そのため、高度なプレイを成し遂げ続けなければならず

さらに、他人の人から自分がどう見られているのかを気にして

絶え間ない赤面、震え、硬直、恥、恐怖、怒りを身体は感じることになります。

 

精神的にも、身体的にも疲労困憊となりますが

しかし、身体の震えや硬直を最大限に抑え込んで

世界最高のパフォーマンスを成し遂げなければなりません。

 

また、イップスに陥る原因としては、

過去に与えた死球や暴投がトラウマとなる場合が多いとされています。

 

トラウマになる前は、

投球時、伸びる筋肉と縮む筋肉が相互に働いていますが、

 

死球などのトラウマをきっかけとして

打者の内角高めいっぱいぎりぎりをつき、渾身のストレートを投げようとする本来の力と

デッドボールを当ててはいけないという恐怖や正確に的に入れようとする抑制の力が働いて

腕の感覚が無くなって、自分の身体の内部で起こっていることに認識できにくくなります。

 

つまり、彼らの身体は、投球するという興奮の動作と

当てていけないという恐怖や正確に的に入れようとする自己抑制の二つの相反する力が働いています。

 

この興奮と恐怖と抑制という相反する力と力がぶつかり合うことで

それぞれの強い運動表現は葛藤を生み出し

身体の一番酷使していた部分を凍りつかせてしまいます。

 

さらに、コントロールを乱す要因となる身体の震えは

内部の危険信号となって浴びせかけられ

それを抑制しようとするうちに

投げる時の腕の感じを無視し、内部で起こっていることの自覚が麻痺していきます。

 

 

具体的な治療法としては、

①カウンセリングを通して、苦痛なトラウマ体験を客観的にモニタリングできるようにしていきます。

②NASAの宇宙飛行士が訓練している身体志向のアプローチ(ソマティックエクスペリエンス)を行います。まずは、身体の部位を一つ一つ見ていくと、緊張している部分があり、そこに注意を集中させると、どのように自分を守ろうとしているのかが分かり、過去のトラウマが露わになります。そして、身体の内部で起こっていることに注意を集中させて、その部位の身体感覚、皮膚感覚、筋肉の張りをじっくり味わながら、身体を動きたいように動かして、過去のトラウマを解きほぐしていきます。

 

また、トラウマによる恐怖と麻痺のメカニズムを学んで、自分の身体の状態を正しく認識していきます。身体が麻痺(無感覚)していることで、以前のように投げれないことが恐怖になり、さらに、その恐怖がより重い麻痺(無感覚)を作り上げていることを理解します。ですから、トラウマによる麻痺した状態(身体のある部位の感覚がない)に自発的に入って、楽しめる余裕が大事で、麻痺と恐怖を分離していくという作業を行う必要があります。あとは、物事の見方をグラデーションのように広げていき、頭の中をポジティブ思考に変えていきます。そして、投げることがこころの芯から楽しいと思える体験してもらって、本来の自分をとり戻していきます。

 

トップダウンで自分のことを見つめる心理カウンセリングと、ボトムアップで体験する身体志向アプローチを同時並行で行うことが重要になります。