第1節.
人間関係、とりわけ親しい人々との関係は、私たちの最も深い感情やトラウマを引き出す場となることがあります。こうした関係の背景には、私たちが成長する過程で形成された発達の特性や神経発達の影響、さらには過去の経験が深く関わっています。これらの要素は、人間関係においてどのように行動し、反応するかを決定づける大きな要因となります。
多くの人々は、子供の頃の家庭環境や親の態度、さらには社会的な状況に応じて特定の行動や反応を身につけます。たとえば、親の機嫌や顔色を常に気にして成長した子供たちは、他者の期待に応えようとする強いプレッシャーを感じがちです。その結果、自分の感情や願望を抑え込むことが日常化し、思春期に入るとその抑圧や我慢が爆発することがあります。この爆発は、自己同一性の不確実さや人間関係の複雑さ、感情の制御の難しさといった問題として現れます。これらの課題は、多くの青年が直面する普遍的な問題といえます。
さらに、子供時代に経験したトラウマや困難な環境は、脳の発達にも大きな影響を与えます。逆境の中で育った人々は、他者との信頼関係を築く能力よりも、危険から自分を守るための反応が優先される傾向があります。これは生存本能に基づく反応であり、愛情や安全を感じられる環境での育成が欠けると、この防衛反応はさらに強化されます。
こうした背景を持つ人々は、他者との深い関係を築くことが難しく、自らを守るための壁を持っていることが多いです。彼らは、相手の良い部分だけでなく、悪い部分にも敏感に反応します。そのため、微妙な対人関係の摩擦や、相手の言葉や行動に過度に反応することがあります。感情の爆発や過度な反応は、深い愛情や関係を築くことを難しくする要因となり得ます。
人はその成長過程でさまざまな経験を積み、その中でも親との関係は人格形成や人間関係のあり方に大きな影響を与えます。子供が「良い子」として育つ背景には、親の期待や要求、そして子供自身の内面的な葛藤やトラウマが深く絡み合っています。親の身勝手な態度や過度な期待が原因で、子供が常に親の目を気にして行動するようになると、心に不安や緊張が生まれます。また、子供が何らかのトラウマを抱えていたり、身体的にも精神的にも脆弱である場合、周囲を過度に警戒する傾向が強まります。
このような背景から「良い子」として育った人々は、他者との関係で「良い」ことだけを追い求め、自分や他者の欠点に対して極度に過敏になることがあります。長い間、親に受け入れられるために「良い子」でいることが条件とされ、その価値観が強く内面化されてしまうため、他者との関係でも同様に「良い」関係しか受け入れがたくなります。
大人になった時、一見して人間関係が円滑に見えるかもしれませんが、その内側には「本当の自分」を隠して生きる苦しみが潜んでいます。自分の意見や感情を正直に表現できないことで、疲れやストレスが蓄積し、次第に人と深く関わることが怖くなってしまいます。他者の欠点や違いに過敏に反応してしまい、その結果、些細なことで感情が高ぶり、過度な反応をしてしまうことが起こり得ます。
このような状態の人々に必要なのは、自分自身の価値観や過去の経験を再評価し、真の自己受容を持つことです。他者との関係の中で、自分も他者も完璧ではないことを受け入れ、寛容な心で接することが求められます。これにより、より健康的で安定した人間関係を築くことが可能になります。自己理解を深め、自分自身を受け入れることで、他者との関係においても自然体でいられるようになり、相手との絆がより深まるでしょう。
第2節.
子供のころの経験やトラウマは、私たちの心と身体に深く刻まれ、その影響は一生涯にわたって続くことがあります。特に、親子関係が複雑であったり、深刻なトラウマを抱えている場合、その影響は個人の人格形成や生き方に大きな影響を与えます。こうしたトラウマは、日常生活においても様々な形で影響を及ぼし、時に人を追い詰めることさえあります。
トラウマを経験した子供は、その瞬間から「警戒モード」に入ることが多くなります。このモードは、心理的なショックや恐怖、痛みが身体に記憶され、一度傷ついたことから身を守るための防御機構が働き始めることで発生します。結果として、交感神経が常に優位な状態となり、外界の脅威を絶えず探し続ける生き方が身につきます。こうした子供たちは、再び同じような出来事に遭遇しないよう、無意識のうちにさまざまな防御策や逃避策を学びます。
この「警戒モード」は、子供たちが日常的な安心感や信頼感を得ることを困難にし、彼らを常に警戒心の中に閉じ込めます。彼らは世界や他人を疑い、自分を守るために過剰な反応を示すことが多く、これが彼らの独特の感性や価値観を形成する一因となります。
親や育った環境から絶えず否定や脅迫を受けて育った人は、自分自身の価値感や存在そのものを疑問視するようになります。このような人々は、他者との関係を築く際に過去のトラウマが影を落とすことが多く、新しい人間関係でも過去の痛みや経験がフィルターとなり、無意識のうちに同じような状況や人を引き寄せてしまいます。その結果、彼らは新しい関係でも安心感を得ることが難しく、同じパターンを繰り返すことがあります。
トラウマを抱える人々の身体は、常に潜在的な脅威に対して過剰に反応するようプログラムされています。これには交感神経の活動が強く関与しており、身体は脅威を察知すると即座にその対応のための準備を始めます。こうした反応は、日常生活において些細な出来事に対しても過剰な反応を引き起こしがちです。たとえば、相手との些細な意見の違いに対しても、身体は攻撃や逃走の準備を始め、心臓が高鳴り、手が冷たくなったり、体が震えたりすることがあります。
一度、対人関係に亀裂が生じると、その修復が困難になることが多いです。トラウマを持つ人々は、他者への信頼感が低く、関係を断絶してしまう選択を取ることが多くなります。これは、過去の経験やトラウマが影響しており、個人の意志だけでは解決が難しいことが多いです。このような状況では、トラウマを理解し、それに対処することが重要です。適切なサポートや治療を受けることで、過去のトラウマが現在の行動や感情にどのように影響しているかを理解し、より健康的な対人関係を築くための第一歩を踏み出すことができます。
トラウマを持つ人々が、日常生活の中で安全とは考えられないような出来事に対しても身体が反応してしまうことが多いのは、彼らの意志や選択によるものではなく、過去の経験やトラウマが原因となっていることが多いです。このような理解が進むことで、彼らが抱える深い苦しみに対する対処法を見つけ、より良い未来を築くためのサポートが可能になるでしょう。
第3節.
幼少期は、私たちが社会的な基盤を築くための極めて重要な時期です。この期間中、家庭環境が安定していない、あるいは機能不全の家庭で育つと、その後の人生においてさまざまな課題が生じることが知られています。親は子供にとって、心の安全基地であり、信頼と安心を感じられる存在です。しかし、その安全基地が揺らぎ、信頼関係が築けない環境で育つと、子供は深いトラウマを心に刻みます。このトラウマは、子供の心と体に長期的な影響を与え、成長してからの人間関係や自己認識にまで影響を及ぼすことが多いです。
子供は本能的に親の愛や承認を求めるものです。しかし、その期待とは裏腹に、親からのネガティブな反応や無関心が続くと、子供は次第に自分の価値を疑い始めます。このような状況では、子供は自己の本来の感情や願望を押し殺し、親の期待に応えようとするプレッシャーにさらされます。親の感情の変動に敏感になり、常に警戒心を抱きながら過ごすことを余儀なくされます。こうした環境下で、心は自己を守るために防衛機制を発動させ、自己を守るための壁を築き始めます。
幼少期に発動された防衛機制が固定化されると、大人になってからもその影響が続きます。大人になったとき、新しい人間関係においても、親から受けた傷みや不安が再現される可能性が高まります。この過去の影響が現在の人間関係に悪影響を及ぼし、自らが引き起こすトラブルや葛藤を解決するのが難しくなることがあります。これは、過去のトラウマが無意識のうちに新たな関係に投影されるためであり、その結果、現在の関係にも緊張が生まれやすくなるのです。
こうした背景を持つ人々は、しばしば自らの感情や思いを抑え込み、真の自分を隠して生きることが多くなります。この結果として、心の中には不満や怒り、後悔、自責、孤独といったネガティブな感情が蓄積され、それが無意識のうちに投げやりな態度として現れることがあります。これらの感情は、さらに自己否定を強化し、自己認識を混乱させる要因となります。
幼少期から親の期待に応えるために、本来の自分を抑え、他者のための自分を作り上げて生きていくことは、一見他者への奉仕や献身として見えるかもしれません。しかし、実際には自己の内面との乖離を生じさせ、真の自己を見失ってしまうことが多いです。長期間にわたって真実の自分とは異なる姿で生き続けることで、人は次第に疲弊し、自分が何者であるのか、どのような価値を持つのかがわからなくなってしまいます。このような状態では、感情のコントロールが難しくなり、自己を守るための怒りの感情が表面化することがあります。
大人になってからも、他者との関係性において自分を理解し、承認してくれる存在を強く求めることが多く、その期待が裏切られると、関係性が壊れてしまうことがあります。こうした期待は、幼少期に十分な愛情や承認を得られなかった経験が影を落としており、結果として新たな関係にも過度な依存や期待を抱いてしまうのです。しかし、そのような期待はしばしば現実の人間関係では満たされず、その現実とのギャップがさらなる失望や怒りを生むことがあります。
このように、幼少期の経験や親子関係が、その後の人生に深く影響を与え、自己理解や人間関係の築き方に大きな影響を及ぼすことが多いのです。
第4節.
人が大切な人を傷つける行動に走る背後には、しばしば深い心の傷や過去の経験が隠されています。子どもの頃に経験した出来事は、大人になった今でも心の深層に影響を与え続けているのです。特に、幼少期に十分な愛情を受け取ることができなかった人や、自分の存在価値や居場所を見つけることが難しかった人は、無意識のうちに「私は愛されない」「私は価値がない」といった信念を形成してしまうことがあります。
こうした信念は、彼らの行動や人間関係に深い影響を与えます。愛されることを渇望する一方で、その願いが叶わないのではないかという恐れから、自らを守るために他者を傷つける行動に走ってしまうことがあるのです。このような行動は、彼らが過去に受けた傷や経験からくるものであり、自分を守るための無意識の防衛反応とも言えます。
その結果、彼らは愛されたいという願いと、自分にはその価値がないという信念の間で葛藤し、苦しむことになります。これが、人間関係におけるトラブルや誤解を生む一因となり、彼らの心にさらなる傷を刻むことになるのです。
このような背景を持って成長した人々は、本質的には他者との深い繋がりを強く求めています。しかし、過去の辛い経験が彼らの心に防護壁を築かせ、その壁が心の奥底で彼らを守り続けています。その壁の裏側では、彼らは人を信じ、愛し合いたいという強い願望を抱いていますが、同時に、再び過去の傷が開かれることへの恐れが根深く存在しています。
このジレンマは、愛着関係が深まるごとにさらに複雑になり、疑念や不信感を増幅させる要因となりがちです。人を愛したい、信じたいと思いながらも、心の防護壁がそれを阻むことで、彼らは愛情を求める一方で、その愛情を受け入れることに不安を感じてしまうのです。結果として、関係が深まるほどに、相手を信じられなくなることがあり、これが人間関係において深い葛藤や苦しみを生み出す原因となります。
彼らが深い関係性を築く中で感じる不安は、単なるその瞬間の出来事に対する反応ではなく、長年にわたる経験と心の蓄積が原因となっています。たとえば、恋人との些細な言い争いが、彼らにとっては「また裏切られるかもしれない」「また傷つけられるのではないか」という深い恐れを呼び起こすことがあります。その結果、彼らは自分を守るため、あるいは自分の価値を確認するために、無意識のうちに相手を傷つけるような行動をとることがあるのです。
たとえば、相手が軽く口にした冗談やブラックユーモアでさえ、繊細な心を持つ人にとっては深い否定や拒絶として受け取られることがあります。その背後には、自己価値を疑問視する不安や、過去に経験した傷つきやすい出来事が影響しています。そのため、一見些細な言葉や行動であっても、彼らの心には大きな衝撃として響くのです。
相手の振る舞いに少しでも不誠実さを感じると、それは彼らの信頼感を根底から揺るがす深刻な問題となります。過去に裏切られた経験や、「自分は愛されないのではないか」という不安が、新しい恋愛関係にも影を落とし、その関係を不安定にすることがあります。このような不信感が積み重なると、些細なきっかけから言い争いや闘争的な行動に発展しやすくなります。
さらに、最も深刻なのは、相手との関係が「敵対的」なものに変わってしまうことです。一度、相手を敵として見なすようになると、その関係の修復は非常に困難になります。関係が敵対的に変わると、信頼の回復がほぼ不可能になり、両者の間には深い溝が生じてしまいます。こうして築かれた関係が崩れる過程で、さらに強い孤独感や不安が増し、さらなる感情的な苦しみが続くことになります。
愛する人や大切な人との関係性が深まるにつれ、彼らの中には相手の期待に応えたいという強い思いが芽生えます。この強い感情は、相手との絆を深める原動力となりますが、同時に不安や恐れも増大させてしまいます。彼らは相手からの反応や評価に非常に敏感になり、時には自分を犠牲にしてでも相手を喜ばせようと努めるのです。
その姿勢は、外見へのこだわりにも表れます。美しさや魅力を追求するためにお化粧やダイエットに取り組むのも、自分の存在価値を相手に認めてもらうための一つの手段です。しかし、この努力は外見だけに留まらず、日常の態度や振る舞いにも現れます。常に明るく、誰からも愛される「良い子」でありたいという強い願望が、彼らの行動の背後にあるのです。
しかし、人は完璧ではなく、彼らもまた弱さや疲れを抱えています。日常のストレスや疲労が蓄積すると、元気がなくなり、気分が落ち込むことがあります。そんな時には、いつものように自分を隠して演じることが難しくなります。そして、素の自分を大切な人に見せた時、もしその状態を理解されなかったり共感を得られなかったりすると、その関係にひびが入る可能性もあります。
人と人との関係は、時に複雑で繊細なものです。特に、大切な人との関係は、互いの心の深い部分に触れることで、さまざまな感情が渦巻くことが少なくありません。この深い絆は、愛や安心、信頼を求める強い力として存在しますが、同時に、そうした期待が裏切られたと感じたときには、痛みや怒りが一層強く感じられることがあります。
私たち一人ひとりが心の中で抱える不安や欲求は、「愛されたい」「理解されたい」「安心したい」という深い願望から生まれるものです。しかし、相手との間に微妙なすれ違いや認識のズレが生じると、期待と現実のギャップが心に大きな衝撃を与えます。この衝撃は、愛情の深さや期待の大きさに比例して強くなり、深く愛すれば愛するほど、その痛みもまた一層大きくなるのです。
問題や対立が生じ、その解決策が見えないとき、人は自分の存在価値や大切な人との絆を疑い始めることがあります。このような状況では、心は混乱し、怒りや絶望の感情が自然と湧き上がってくるものです。感情が高まると、心は自分を守ろうとする防御機制として、攻撃的になったり、過去の怒りや恨みを思い出したりすることがあります。
しかし、こうした感情の爆発は、最も大切にしたい人を逆に傷つけてしまう危険性をはらんでいます。人は、自分の心の痛みや苦しみを和らげるために、無意識のうちに他者を攻撃してしまうことがあるのです。その結果、関係がさらに悪化し、感情のコントロールが一層難しくなるという悪循環に陥ることも少なくありません。
これらの行動や感情の背後には、彼らが抱える深いトラウマや不安が根底に存在しています。彼らの心の中には、再び傷つけられることへの強い恐れや、過去に経験した痛みが再び繰り返されることへの不安が常に宿っているのです。この恐れや不安が、彼らの日常生活における人間関係や、他者への反応に大きな影響を与えています。
劣等感が強く根付いている人は、他者と自分を比較することで、絶えず自己評価を低くしてしまう傾向があります。彼らの心の中には、「自分は他者より劣っているのではないか」という不安や疑念が常に浮かび上がり、その影響で自己肯定感が揺らぎ続けます。この不安や疑念は、特に自分にとって大切な人との関係において、より強く感じられることが多いのです。
大切な人ほど、その人に自分の過去や弱点、秘密を知られることへの恐れが強まり、これらをさらけ出すことで、自分の本性や弱さが露わになってしまうのではないかという強い恐怖感が湧き上がってきます。また、自分の弱さや秘密が明るみに出ることで、その大切な人から避けられたり、拒絶されたりするのではないかという深い不安に襲われることがあります。
このような感覚は、過去に経験したトラウマや痛み、隠している秘密がある場合、さらに強まる傾向にあります。彼らは、自分の過去の傷や秘密が明るみに出ることで、大切な人との関係が壊れてしまうのではないかという不安から、人との距離を取ろうとします。関係が深まることで、こうしたリスクが高まると感じるため、自己防衛の手段として関係を切断しようとすることがあるのです。
依存傾向が強い人は、他者との関係を通じて自分自身の存在価値を見いだすことが多くあります。彼らにとって、大切な人の存在は、自分が大切で価値のある存在だと感じる唯一の手段となることがあります。このような人たちにとって、愛する人がそばにいることは、自分自身のアイデンティティを支える基盤であり、生きる力の源とも言えるでしょう。
しかし、こうした関係の形成は、しばしば相手への過度な期待や要求を伴うことがあります。彼らが相手に預けている期待や依存は、時に非常に重くなり、相手を圧迫してしまうことがあるのです。愛情や期待が深くなるほど、その重さも増し、結果として相手に過剰な負担をかけてしまうことがあります。彼らは、自分が感じている内なる虚しさや不安を、相手がすべて埋めてくれることを無意識のうちに期待してしまうのです。
このような心理状態は、無意識のうちに破壊的な行動を引き起こす原因となることが少なくありません。大切な人への強い依存感情は、関係を深める一方で、その重荷が関係を壊してしまうこともあります。また、自分が本当に受け入れられているのか、愛されているのかという不安から、相手を試すような行動や、束縛、さらには攻撃的な言動を取ることがあるのです。
心の深部には、自己否定や自己の分裂感、そして自らを苦しめる内なる「悪魔」のような部分が潜んでいます。この内なる悪魔は、自分を幸せにすることを妨げるかのように、時に人を傷つける行動や言葉を引き出すことがあります。彼らは、その悪魔に操られることへの恐怖から、自分自身を制御できないのではないかという不安に苛まれます。そして、その恐怖ゆえに、人間関係を避け、孤独を選ぶことがあるのです。
この内なる悪魔が引き起こす自己否定感や破壊的な衝動は、彼らが他者との関係を築くことを難しくさせ、自ら孤立を選ぶ原因となります。人と深く関わることで、この悪魔が表に出てしまうのではないかという不安が、彼らをさらに孤立させてしまうのです。
トラウマを抱える人々の内面は、過去の痛みや恐怖によって深く影響を受けています。彼らは、これまでの経験から脅威を感じることに非常に敏感になり、持続的な安全感を心の中で感じることが難しいことが多いのです。この安全感の欠如は、日常の人間関係において他者に強く依存し、安心感を求める一因となります。
しかし、他人の反応や対応は必ずしも自分の期待通りに進むわけではありません。そのため、彼らは日常の中で様々な出来事に対して不安定な反応を示し、感情の起伏が激しくなりがちです。モヤモヤやイライラといった不快な感情が湧き上がると、その感情をどう処理し、どのように解消すれば良いのかが分からず、戸惑うことが少なくありません。こうした感情の波は、人間関係に摩擦やトラブルを生じさせ、さらなるストレスや苦しみをもたらす原因となります。
こうした状況に陥ると、彼らはしばしば「リセット」を望むようになります。すなわち、現在の人間関係や環境から一時的に距離を置き、心を落ち着ける時間を必要とするのです。しかし、一度他者との関係で安心感を得ると、その安心感を保ちたいという欲求から、相手に対して過度な期待や要求を抱いてしまうことがあります。さらに、相手に完全に心を開くと、一度の誤解や意見の違いが引き金となり、感情が激しく揺れ動き、怒りやフラストレーションを感じやすくなるのです。
私たちの心の奥深くには、幼少期の経験や感情が根付いており、それらは大人になった今も、私たちの行動や感情に大きな影響を与え続けています。特に、愛情を求める心は人間の基本的な欲求の一つであり、この欲求が幼少期に満たされなかった経験は、大人になってからの人間関係に深い影を落とすことがあります。
大切な人に対して「全てを受け入れてもらいたい」「その人の愛情を確かめたい」という思いは、深い愛情や依存心から生まれるものです。しかし、この強い欲求が行動に現れると、試し行動や過度な要求となってしまい、結果的に相手を圧迫することがあります。「愛されたい」「理解されたい」という気持ちは誰しもが抱く普遍的な感情ですが、それが行き過ぎると、かえって関係を複雑にし、距離を生む原因になってしまうのです。
こうした行動の背後には、幼少期に十分な愛情を受け取ることができなかった経験が影響しています。そのような経験を持つ人は、大人になってからもその満たされなかった愛情を求め続け、パートナーや親しい人にその欠落を埋めてもらいたいと願うことが少なくありません。しかし、相手もまた人間であり、無限の愛情や理解を持っているわけではありません。全てを受け入れてもらうことは現実的には難しく、その限界に直面すると、過去の傷や欠落感が再び蘇り、その苦しみは非常に深いものとなります。
過去のトラウマや経験が現在の人間関係に影響を与えていると自覚することは、まず第一歩です。この自覚がなければ、無意識のうちに同じパターンを繰り返し、大切な人との関係を傷つけてしまうことが多いでしょう。過去を乗り越えるためには、自己理解と自己受容が不可欠です。自分自身の感情や思考のパターンに気づき、それがどのように現在の行動に影響しているのかを理解することで、未来に向けた新しい選択肢を見出すことができるのです。
自己理解とは、自分がなぜそのような感情を抱き、なぜそのような行動を取ってしまうのかを深く理解することです。そして、自己受容とは、その自分を否定せずに受け入れることを意味します。自分の弱さや過去の傷も含めて自分の一部として認め、それを否定せずに受け入れることが、癒しの第一歩です。自己理解と自己受容が進むと、他者との関係においても、より健康的で安定した関わり方ができるようになります。
過去の影響から自由になることができれば、より健全な人間関係を築くことが可能になります。相手に対して過度な期待や要求を押し付けるのではなく、お互いに尊重し合い、理解し合う関係を目指すことができるようになるでしょう。これには、まず自分自身の内面と向き合い、過去のトラウマや傷を癒すための努力が求められます。カウンセリングやセラピー、自己啓発書の活用など、さまざまな方法を試してみることも一つの手段です。
過去の経験やトラウマを理解し、それに向き合うことで、新たな視点から人間関係を見つめ直すことができます。例えば、相手の言動に対して過剰に反応するのではなく、その背景にある相手の意図や感情を理解しようとする姿勢を持つことが大切です。また、自分自身の感情や思考を客観的に見つめ、必要以上に相手に期待しないようにすることも重要です。こうした心がけが、より健全でバランスの取れた人間関係を築く土台となります。
過去の影響を乗り越えることは簡単なことではありませんが、その過程で得られる自己成長は計り知れません。自己理解と自己受容を深めることで、自分自身に対する信頼感が高まり、他者との関係においてもより成熟した対応ができるようになるでしょう。そして、過去を乗り越えた先には、新たな可能性と未来への希望が広がっています。自分自身を理解し、受け入れることができれば、今後の人生においてもより充実した日々を送ることができるでしょう。
人間関係は、過去の影響を受けながらも、私たちが成長し、成熟していく過程で築かれていくものです。過去のトラウマや経験が現在の行動に影響を与えていると気づいたとき、そのことを否定するのではなく、むしろそれを自分自身の成長のための糧とすることが大切です。過去を理解し、現在に生かすことで、より良い未来を築いていくことができるのです。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平
境界性パーソナリティ障害の人の特徴をまとめています。彼らは、小さい時から複雑なトラウマがあり、良い子として育ちますが、心身が限界に達し、職場や夫婦、親子、恋愛などの人間関係でトラブルを起こします。
回避性人格障害の人は、興奮しすぎて、感情のコントロールができなくなり、フラッシュバックや感情の爆発、パニックが起こることを恐れており、その場を紛らわすか、そのような場面を避けるようになります。
病的な自己愛を調べる50項目チェックリストです。彼らは、ある種の欠乏状態を暗示しており、自己中心的で、わがままで、自分が可愛くて、人の都合より自分を優先して、相手の立場を全く考えられない人です。
ヒステリーは、子供時代の性的な事象が関係していると言われてきましたが、最近は、母親との愛着関係に失敗した後、父親を求めにいって、そこで性愛的な情緒が刺激されるとヒステリーになると言われたりします。
トラウマの内なる世界では、トラウマ後の心の世界をときほぐしていきます。ここでは、内なる世界に現れる「内的対象」について、精神分析やユング派の様々な臨床家の理論を載せています。
当相談室のトラウマケアの特徴について載せています。治療はトラウマのボディセラピーになり、動く瞑想やヒーリング音楽を聴きながら、良い状態と悪い状態の体の変化を持て、不快な感覚や感情と仲良くなります。