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神経質で繊細な人


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 第1節.

神経質とはどんなものか?


1919年に森田正馬が創めた神経質を治療する森田式療法において、神経質は次のように定義されています。当時、神経質は複雑な生活から、あるいは、心身過労から起こる神経衰弱という病気と考えられていましたが、森田は、この病気は精神的な気のせいで起こるもので、決して神経の衰弱によって起こるものではなく、ある特殊な気質の人に起こり、神経質は病気ではなく、病気としての治療では治らないと考えました。

 

神経質によって、頭痛、癇癪、不眠、めまい、心悸亢進、脈拍結滞、呼吸困難、脱力感、注意散漫から、対人恐怖、不潔恐怖、疾病恐怖、尖鋭恐怖、広場恐怖など様々な症状が引き起こされます。これらは、誰しもが起こる不快な感覚を気にしだしたことから始まり、そのことばかりを執着することによって不快感がますます増幅され、症状として現れます。このように神経質による様々な症状が自分の心の中から引き起こされるという理論に基づき考え出された森田式療法は、現在も恐怖心や不安感、強迫観念による心身症や不安神経症、うつ病、パニック障害などの疾患に対して適用されています。

 第2節.

トラウマティックストレスと過緊張


神経質で繊細な性格は、複雑なトラウマを抱えている人や胎児期ストレスや誕生時の外傷など発達早期のトラウマを抱えている人、発達障害の傾向にある人に多くて、脅威を特定しようとか、脅威を避けようとして、次の脅威に備える人生になり、毎日が過緊張状態にあります。彼らは、子どもの頃から、いつ怒られるか分からない環境で育ったために、情緒的に不安定になり、刺激や変化に対して神経が繊細になっていきます。筋肉や内臓は危機を感じて、脳は危険な信号を受け取り、外の刺激に敏感になります。視覚や聴覚、嗅覚などの五感からネガティブな要因を発見して、不快な状況になると、筋肉は硬直して、心臓がバクバク動き、戦ったり逃げたりする反応が出ます。その状況をうまく対処できない場合は、凍りつきや虚脱反応が出て、頭痛や腹痛、息苦しさ、首肩の張り、吐き気、耳鳴り、手足の痺れ、思考フリーズ、声が出ない、動けない、無力感、体から切り離された感覚など、心身に恐ろしいことが起きるため、そのことに対しての恐怖が悪化します。また、身体が恐怖や怯え、怒りを強く感じているにも関わらず、その場に耐え続けなければならない場合は、身体が苦しくなって、気が狂いそうになり、じっとしていられなくなります。

 

日常生活においては、不安-緊張ベースで活動しており、あらゆる場面で脅威がないかどうかを探り、想定外のことが起きないように、気を張り詰めて、神経がすり減って、心に余裕が持てません。例えば、失敗して怒られたり、不意を突かれてビックリするようなことがあると、驚愕反応が起きて、過覚醒から凍りつき、パニックなどのトラウマ症状が出ます。そのため、いつ想定外のことが起きても大丈夫なように、神経を研ぎ澄ましています。脳と身体の神経は、自分にとって脅威となりうるものを素早く察知して、頭の中で思考を巡らせ、細かいことまで考えようとします。そして、脅威となる対象には、排除しようと試みるか、逃げ道を探るか、耐えるしかありません。長年に渡って、脅威に備えた緊張とストレス状態が続くと、他人の顔色ばかり気になり、自分の身を守るための姿勢を取り続けて、肩の力を抜いて楽しめなくなり、心身のバランスがよくありません。疲労や痛みが蓄積されて、心臓や皮膚が損傷し、血液の循環が悪くなり、手足は冷たく、胃腸の調子が悪く、脳の容積が縮小するかもしれません。

 第3節.

神経質な人をチェックする11項目

①安心感がなく、思考で対処する


神経質な人は、道徳的にこうすべきであるとか、こうしなければならないと考えており、自分の思い込みで自分を縛り付けています。彼らは、生活していくうえでの不安が強く、安心感が欠如しているため、正しい答え、正しい選択肢を選ぼうとしており、思考で何とかしようとしていますが、なかなか答えが見つからないので、ノイローゼになります。

②ちょっとしたことを否定的に受け取る


神経質な人は、日常生活のなかで脅威がないかどうかを探り、相手の表情、振る舞い、言葉を敏感に察知し、警戒心を強めます。ちょっとしたことでも真剣に受け取り、他者の顔色や評価に怯えます。自己防衛の視点になり、何でも否定的に受け取る傾向があります。対人場面で、いつも誰かの評価を気にしており、相手にされていないと感じたり、人から大切にされていないと受け取ると、胸がざわつき、不快な気持ちになり、イライラして、関係を壊したくなります。彼らは、不快な場面や嫌悪刺激に対して、自律神経系が乱れるため、神経が繊細で、ノイズ耐性に弱く、自分をコントロールしづらいことに悩みます。

③あるがままを受け入れられない


不条理なトラウマや環境のせいで、普通の人のように人生を歩めず、劣等感が強くて、自意識過剰で、自分が満足できていません。失敗の経験から、後悔や悔しさ、過去に執着しているところがあり、あるがままの自分を受け入れられず、ネガティブなことに注意が向くため、前に進むことができません。内なる葛藤から、身動きが取れない状態であり、自分の思った通りのスタンスを貫くことができません。

④身体に記憶された過覚醒とシャットダウン


脳や身体は、危機や崩壊への不安が未だに残っているかのように反応して、次の変化に備えて緊張が強まり、頭の中は過去の出来事や記憶が勝手に浮かんできます。そのため、トラウマがある人の場合は、安全であるはずの日常生活においても、次また同じことが起こるだろうと、危機的な状況が続きます。たとえ危険が去った後でも、身体の神経は、不快な状況や想定外の出来事に対して、身体は硬直して、戦うか逃げるの過覚醒反応が出ます。過覚醒の時には、手足の筋肉は隆々として、心臓の鼓動が高まり、息は浅く早く、すぐに身体が反応します。しかし、うまく問題を解決することができなくて、感情に圧倒されたり、身体反応に耐えれないと、脳がシャットダウンを引き起こして、心臓の鼓動が弱まり、心拍数や血圧は下がって、頭に血がいかないので、死を予感させます。このような恐ろしいことが二度と起きないようするため、神経質な性格になります。

⑤身体の神経と自分の気持ちの分裂


トラウマがある人が危険を感じると、背中を丸めて、全身を縮める姿勢を取り、自分の喉や心臓を保護します。このときは、身体が硬直から凍りつくときで、筋肉が収縮していくために、神経は圧迫されて、頭や心臓などに痛みが出ます。早い段階にトラウマを負っていて、その症状が複雑化するほど、身体の反応と、自分の気持ちとの間で分裂しています。身体は、交感神経(過覚醒)と背側迷走神経(低覚醒)の間を行き来して、心臓や胃、顔のパーツ、四肢の筋肉など様々な生理現象が変化し、感情の起伏が激しく、身体が敵になります。身体への不安が大きいと、外の気配や物音に対して神経質になります。

⑥親子関係のストレスと過敏性


人一倍敏感で傷つきやすい人は、子どもの頃から、親や兄弟などに責められて、理不尽な目に遭い、自分の思うように出来なくて、居場所がありませんでした。特に、母子関係のストレスやトラウマを負っていることが多く、外では外面を取り繕っている親が家の中でヒステリックになり、暴言を吐きます。子どもは、親の気配や足音、声、表情などあらゆるものに敏感になり、身体を縮めて、無意識のうちにサバイバルモードに変化します。親が今どこで何をしているかを探るため、ずっと目をこらして、聞き耳を立てて生活しています。このように全身で危険を感じていて、不快な状態が続くと、脳のフィルターが機能しなくなり、他者のネガティブな態度や言葉が心に突き刺さります。また、無防備でいる時は、ちょっとした刺激にもビクッとするような驚愕反応を起こします。

⑦周りの人との関係


トラウマがある人は、自律神経系がうまく働かなくて、パニックやフラッシュバック、過呼吸、節々の痛み、体調不良など様々な症状が現れます。そのため、身体がしんどくて、その負担を出来る限り減らそうとして、人混みを避ける傾向があります。職場や学校などどうしても避けられない対人場面では、人の目を気にしながら、自分の目で周りを観察し、耳を澄まして、人に気を遣いすぎて疲れやすく、人と同じように楽しむことが難しいところがあります。

⑧神経を研ぎ澄まさせた生活


神経を研ぎ澄ませているのは、いつ怒られるか分からないので怖かったり、恥をかくことを恐れたりしていて、最悪なことを避けるために、人の気配や足音、話す内容、生活音、振動、匂いなど全てのことに意識が向きます。他人の顔色や評価に怯え、心身に余裕や遊びが見い出せず、必死に生きています。PTSDの人は、聴覚過敏になりやすく、飛び交う言葉や不快な音なども心に突き刺さるので、音のない生活を望みます。

⑨身体の中に滞っているトラウマ


長年に渡って、酷い目に遭わせられながらも、戦うことも逃げることも出来なくて、相手に合わせるしかなかった人は、身体の中に膨れ上がるようなエネルギーを滞らせています。トラウマをたくさん閉じ込めている人は、嫌な刺激により、その傷が疼くと、不安、苛立ち、焦り、不快感で、物事が手につかなくなります。不快な状況がしばらく続くと、もう嫌になって、うずくまり、発狂しそうになります。気持ちの方は、苦しみ、辛さ、怒り、寂しさ、孤独などで自分の感情に圧倒されます。身体の方は、頭や首、肩、背中が痛くなったり、胃や腸の調子が悪くなったり、吐き気や体調が悪くなります。

⑩対処できずに絶望するとき


身体の中にトラウマがある人は、心の中は問題ないと思っていても、外の場面により、身体が危険や脅威を察知して、モヤモヤ、イライラ、ムズムズして、じっとしていられなくなります。イライラしている時は、自分との戦いになり、問題解決の方法を考えて動きますが、敵が明確でなかったり、太刀打ちできなかったりした場合は、何度も無力感を味わい、絶望的な状態に陥ります。不安や恐怖に苛まれるような毎日が四六時中続くと、生きることに絶望し、この世界の事象に何も期待しなくなります。

⑪穏やかな毎日を望むこと


複雑なトラウマを抱えている人は、身体の中で闘争・逃走反応を閉じ込めているため、家族や社会に居場所が無く、自分の思うように問題を解決できないとかなりしんどい状態に置かれます。トラウマを抱えている彼らの願い事は、穏やかに毎日を過ごすことです。トラウマ治療では、不快な場面に曝されて、身体が凍りついても、パニックや回避行動にならないように、自分の身体の感覚や反応を見ていって、呼吸を整えるか、安心できるイメージを思い浮かべるか、運動するかして自己調整していくスキルを磨いていきます。また、好きなことに対しては、想像できないくらいの力を発揮することもあるので、長所を伸ばしていける支援が良いでしょう。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

更新:2021-05-29 

論考 井上陽平