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こころと身体のセルフケア

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自分自身でトラウマをケアする

▶自分自身でトラウマをケアする

 

子どもの頃から、トラウマがある人は、強いストレスを感じており、現実の絶え間ない変化に備えて、常に警戒し、不安や焦りを感じて、身体は緊張状態が続き、リラックスの仕方がよく分かりません。過緊張や凍りつきの状態の人は、特に顔と首、肩が緊張していて、胸や背中、お腹、ふくらはぎの方も力が入っていて、身体がガチガチに硬く、気の流れや血液の循環が滞り、麻痺している状態かもしれませんが、身体の内側には痛みがあります。脱力状態の人は、筋肉が緩みすぎて、手足には力が入らず、上半身は凄く力が入っているか、抜けているかのどちらかで、地に足がついている感覚がなく、身体が鉛のように重くなります。さらに、虚脱状態の人は、交感神経のエネルギーが尽きたような状態で、心臓が弱り、心拍数が低く、血液の循環が悪くて、頭の方に血がいきません。筋肉は崩壊して、極度に弛緩した状態にあり、身体は怠く重くて、体力がなく、機能が低下して、心を失います。

 

トラウマを抱えている人は、現実の絶え間ない変化のなかでも、自分の身体感覚を失わないように、痛みや疲労、違和感もありがたいものとして受け入れながら、体が感じていることをただ感じていきましょう。そして、筋肉の伸び縮みを感じながら、身体(大きな筋肉)を自分の思うように動かしていき、血液の流れを良くして、身体と仲良くなっていくことから始めましょう。強い警戒状態を取っている自分の状態に気づいて、筋肉や呼吸を自己調整していくスキルを磨き、良い生理状態を作っていけば、神経の働きが正常に戻り、トラウマの影響を最小限に留めることができるようになります。

 

トラウマ症状を少しずつ改善させるには、自分の居場所を見つけて、静かな場所で休息し、身体が弛緩されるような安心・安全な環境作りが欠かせません。そして、自分の身体に刻まれたトラウマを理解し、慈愛や寛容な心を持って、自分自身を癒していく必要があります。ただし、トラウマにとらわれすぎて、対処しようと頑張りすぎたり、やらなければならないと自分を追い詰めたり、すべき思考に陥ってしまうと逆効果になります。癒す方法としては、自分のペースで日常生活で行うか、カウンセリングルームの中で、瞑想やヨガ、マインドフルネス、呼吸法、自律訓練法、運動、筋トレ、ダンス、音楽、演劇、ストレッチなどのエクササイズが有効になります。また、親しい人に、自分のトラウマ体験を話して、共感して、受け止めてくれると、情緒面が安定してきます。そのため、親や夫婦、友人に対して、たくさん話して、落ち着いて過ごせるようにしましょう。また、愛する人がそばにいてくれるだけで、トラウマの反応を鎮めることができます。

 

複雑なトラウマを抱える人や発達障害の人は、現実世界の絶え間ない変化に対して、脳の防衛的な部分が働くために、過剰警戒し、身体が凍りつく(筋肉が縮まって固まる)か、虚脱(筋肉が伸び切って力が入らない)の方に向かっています。そのため、自分の身体の状態を把握して、固まっているかどうか、力が入らないかどうかに気づいて、力を抜くか、緩めていくか、負荷をかけて力を入れていくかに意識を向けていきます。しかし、最初のうちは身体が麻痺しているために、自分の身体の状態に気づくことが難しいかもしれません。その麻痺を解いていくには、ジャンプやトランポリン、バランスボール、身体を揺らす、身体に振動を与える、身体に音を響かせる、ヴーと声を出してお腹から息を吐くなどが有効です。身体の麻痺が解けると、痛みや凝りが表面化するので、その部分にマインドフルネスやヨガ、マッサージ、軽い運動などをして、肯定的に変化する過程を見ていきましょう。

 

次に、日常生活のなかで自分の身体の伸びている部分と、縮んでいる部分を観察します。ヨガのポーズやストレッチをして、身体の伸び縮みを見るのが有効な方法です。そして、自分の身体がどういうときに固まるか、力が入らなくなるかを理解していきます。人により様々ですが、例えば、人の話を聞いているとき、何かをさせられるとき、何かに集中しているときに身体が固まるかもしれません。自分の身体が固まることを理解し、その反応に恐怖や不快感を感じなければ、トラウマ症状は消えていきます。また、固まってもその場その場で身体を緩ませるエクササイズを行うことで良くなっていきます。

 

身体を緩ませるには、身体の内側に意識を向けていく習慣をつけて、過緊張や凍りついた部分をケアしていくことがポイントになります。注意点としては、複雑なトラウマを抱えている人ほど、身体が麻痺し、凍りついているので、その身体に意識を向けると、交感神経が過剰な状態のため、落ち着かなくなり、様々な生理的反応(防衛反応)が生じます。そのため、トラウマのある人は、今を感じようとすると怖くなってしまうかもしれません。また、身体が緩んでリラックスできたとしても、すぐに緊張し始めて、不快感が出てくる場合は、うまく自分をコントロールできないことに無力感が増すかもしれません。さらに、性暴力被害者が自分の身体に意識を向けると、身体の中に閉じ込められたトラウマが蘇って、フラッシュバックやパニック、体調不良が起きて状態が悪化するかもしれません。まずは、トラウマの専門家の助言のもとで、身体の反応を見ていかないと、うまくいかなくなることがほとんどなので、自分がどういう状態にあるかを、専門家と一緒に見ていくことをお勧めします。

 

▶日常的なトラウマケア

 

日常生活では、スポーツをする、楽しく身体を動かす、外を散歩する、瞑想やヨガをする、読書や音楽を楽しむ、家族や友達と過ごす、憧れの人になりきる、バランスボールに乗って身体を揺らす、トランポリンで飛ぶ、マッサージを受ける、ぬいぐるみを抱く、綺麗な景色を眺める、お菓子を食べる、アロマの匂いを嗅ぐなどをして、トラウマの過剰警戒や凍りつきを溶かしていくのが良いでしょう。また、クリエイティブな趣味など、楽しいことに取り組む習慣が、人生を前向きにして、身体の筋肉は広がり、トラウマ解消に役立ちます。もし、日常場面で、恐怖や不快なことがあり、イライラや落ち込んだ時には、トラウマのせいでギュッと固くなっていることに気づきましょう。そして、自分の身の回りのものに目を向け、良いイメージを作り続けるか、心地良い気持ちに切り替えるか、気分良くなるようなことをして、身体の中のリズムを変えて、違う流れを作り、気持ちを発散することを心掛けましょう。できるかぎり自分がしんどくなることや緊張が強まる場面を減らして、身体が元気になる、安心できることを増やしていくことが必要です。

 

家の中で行うエクササイズは、呼吸法からが良いでしょう。複雑なトラウマを持つ人ほど、肩から首、頭部(脳、表情、目、鼻、耳、口、喉)、胸辺り(気管支、心臓、肺)が硬くて、凍りついているかもしれません。喉に腫れや痛みがある場合は、慢性疲労などの重たい状態かもしれません。まずは、たくさん息を吸い込んで、酸素を体内に取り入れていきます。そして、息を吐くときに少し間を置いて、船の汽笛のような音「ヴー」という声を出して、息を長く吐いていきます。この呼吸を繰り返しながら、脳から顔、喉、胸、腹を振動させて、そこに意識を向け続けると、身体の方から少しずつリラックスしていきます。特にトラウマ症状により、過覚醒や低覚醒の間を行き来していて、心拍数や呼吸数が正常から外れている人の場合は、この呼吸法を行うことにより、顔や首、胸辺りの圧迫感を緩めて、血液の流れを良くする効果が期待でき、社会の中で人間が人間らしく生きる力を育てます。

 

次に、リクライニングチェアの背もたれに頭を預けて、首や肩、胸、背中にかけて力を抜き、くつろげるようにしてください。また、ベッドでは、身を委ねて寝るような楽なポーズで、ブランケットやクッション、抱き枕を掴んで、心地良いことを頭に思い浮かべて過ごしてください。さらに、なるべく頭の中で考え続けるのは辞めて、自分の身体の感覚に意識を向けて、良いイメージをするように心掛けてください。例えば、片方の手で頭を触り、もう片方の手で身体のどこかを触り、思考に注意が向きそうになったら、これは駄目だと気づいて、身体の方に注意を向ける練習をしてください。また、トラウマがある人は、椅子やベッドにリラックスした態勢でゆっくり過ごすことが難しく、すぐに力んでしまうため、ゆっくり深呼吸したり、体の力を抜いたりしていきましょう。人間は、良いイメージをして、身体の良い部分や安心感にフォーカスしていくと気持ちは楽になり、身体の悪い部分や痛みの部分にフォーカスすると、気持ちはしんどくなっていきます。

 

次に、五感を使いながら身体を見ていく方法です。例えば、アロマの匂いを鼻で嗅ぐと、鼻から近い脳に心地よい感覚が伝わり、脳にエネルギーが満たされ、それが全身に波及します。また、お菓子や美味しい料理を口のなかでしっかり味わいながら食べて、同時に全身を見ていくと、身体中に血液が巡って元気になります。さらに、目を使って綺麗な景色を眺めるとか、耳触りの良い音楽をを聴いていると、交感神経と腹側迷走神経のバランスが整って、良い生理状態が作れます。

 

ただし、トラウマの性質によっては、リラックスしようとしても、すぐに頭の警報が鳴り、その場でじっとしていることが難しい人もいます。また、身体を楽に出来たとしても、それは一時的で、すぐにトラウマが疼いたり、不安や焦りを余計強くさせる結果になり、落ち着かなくなることもあります。さらに、凍りついた身体を緩めていくと、全身に血液が巡って、熱くなっていきますが、それにより痒みが出てくる人もいます。トラウマという莫大なエネルギーを身体の中に閉じ込めている人は、そのトラウマを放出する必要があるので、ソマティックエクスペリエンスなどボディセラピーを並行して行う必要があります。

 

脱力型のトラウマがある人は、筋肉が極度に弛緩しているために、身体の筋肉に負荷をかけるトレーニングを行い、筋肉を硬直させ、疲労させてから、自然に回復させることを繰り返します。日常では、手で何かをするときに、手や指を使って何かを掴むなど実感を伴わせながら作業すると良いでしょう。また、緊張が強い肩を動かしたいように動かして、腕を使えるようにしましょう。さらに、外を歩く時は、足裏が道を蹴る感じとか、ふとももやふくらはぎの筋肉とか、足の動きに注目しながら動くと良いでしょう。自分の身体が自分のもので無くなっている場合には、山登りやポルダリング、ダンス、音楽などで一瞬一瞬に自分の身体に気を配り集中して、時間をかけて、筋肉や皮膚、内臓の感覚を取り戻しましょう。その他にも、トラウマがある人は、緊張を緩めてセロトニンを増やしリラックスできるような薬物療法が効果を発揮するかもしれません。トラウマがありながらも、生活していくなかで、重要なポイントは、休息やリラクセーション、適度な運動、好奇心の探求、不快な感覚の追体験、自分の身体を労わる、自分を責めない、望ましい自己イメージなどになります。身体の変化に恐れなくなり、日常生活を安心して過ごせるようになれば、フラッシュバック、悪夢、パニック、チック症状、吐き気、胃腸の痛みなど軽減されます。

 

解離症状がある人は、痛みの身体に注意を向けると、ぼーっとするか、すごい眠気が出て、頭の中の世界に逃げ込むようになります。解離しそうな時は、そのまま眠ったり、集中力を低下させるのではなく、暗い穴の中に閉じ込めるようなイメージをして、実際にその姿勢を取りましょう。しばらくじっとした後に、動きたくなったら、顔を上げ、目を左右上下に動かしながら、目につくものをずっと追いかけていきます。そして、身体の声を聞いて、その声の通りに身体を動かして、その動きに注意を向けながら運動します。普段から、全身を使った運動が重要になり、身体の感覚や動きを感じて、実感を伴わせていきましょう。また、不快な状況下で、身体が凍りついていく時に、身体を動かしてもいいですが、慈愛の心を持ちながら、人形を優しく抱っこするとか、自分の好きな香水の匂いを嗅ぎながら、自分の身体の反応に注意を向けても良いでしょう。さらに、呼吸に意識を集中させて、テンポよく身体にリズムを刻んでいくのも良いです。その時は、吐く息を長くすることで、副交感神経が働いて、心身をリラックスさせる効果があります。その他、お気に入りの音楽を心の中で流すイメージや懐かしいイメージを思い出すことなど試してみても良いでしょう。

 

過覚醒症状がある人は、交感神経が優位になり、心拍数や呼吸数が高く、非常に活動的に行動します。しかし、自分の身体の状態に気づけないで過ごしていると、休む間もなく活動することになり、エネルギーが消耗して動けなくなります。過覚醒の時は、身体が休まらずに、オーバーヒート状態になるかもしれないので、まずは、心拍数を計るアプリをダウンロードして、心拍数を計りましょう。そして、心拍数が高い場合は、楽しく身体を動かす、ヴーと息を吐く呼吸をする、シンギングボウルなどお気に入りの音楽を聴いて瞑想をする、口の開け閉めをして筋肉のストレッチをする、トランポリンのジャンプ、ヨガ、足上げポーズをするなどをして、自分の身体を落ち着かせてください。次に、過覚醒症状の人は、細かいことが気になり、落ち着きがなくなって、じっとしていられなくなりますが、そのときは、身体の中のトラウマのエネルギーが動いているので、手足の動きに注意を向けて、全力で身体を動かしたり、手足をブラブラさせたりしましょう。また、不快な状況にいて、闘争・逃走モードに入っているのに、問題解決ができないでいると、イライラして、凍りついていきます。そのときは、自分の身体の中のイライラや凍りつきがどのように変化していくのか見ていきましょう。イライラしたときに、イライラが小さくなるまで身体を感じて、全身を気持ちよく動かすか、伸ばしていくことが重要になります。

 

自分自身でトラウマをケアする有効な方法としては、セルフコンパッションがお勧めです。まずは、自分がストレスを感じていることに気づいて、身体が過緊張で不快な状態にあることを知ります。次に、自分はとても困難な状況にあるけども、それと同じくらい苦しんでいる人達のことを想像します。そして、困難な状況にある人に対して、幸せに暮らせますようにとか、嫌なことから自由になりますようにと願います。さらに、困難な状況にいる自分に対しても、労わりの言葉をかけて、慈しみの感情やイメージを思い起こします。

 

▶トラウマを解放するには

 

これらの方法は、トラウマを解放するのに役立ちますが、誰かのサポートがないと一人でやるのは大変です。複雑なトラウマを持つ人は、恐怖や不快感に向き合うと、神経の痛みや身体の生体機能のリズムに異常が出て、それらに圧倒されてしまう可能性が高いので、トラウマ専門のセラピストと一緒に行うようにしてください。

 

日常生活でトラウマを解放して、健康な状態に変えていくには、不快な感覚があるときに、すぐに動いたり、ぼーっと時間を過ごすのではなく、身体を静止させながら、不快な感覚を追体験することが重要になります。トラウマがある人は、身体の中に莫大なトラウマのエネルギー(闘争・逃走反応の失敗)を閉じ込めています。日常生活を過ごすなかで、何かの拍子でトラウマのトリガーが引かれると、ストレスがかかり、身体が疼き、何とかしたいと思っても、うまく対処できない場合は、集中力が途切れます。その時は、身体からソワソワ、モヤモヤ、ムズムズ、ウズウズ、痒みなどの不快感が出てきて、凄い眠気に襲われたり、落ち着かなくなって思いがけない行動を取ったりすることがあります。

 

まずは、そのことに意識を向けて、リズムや音に合わせて楽しく身体を動かすか、もしくはヴーと息を吐く呼吸法に合わせて身体を動かしても良いでしょう。とにかく同じ姿勢のまま身体を動かさないのではなく、人の目を気にせずに、自分の思ったように全身を動かしてください。さらに、心の余裕があれば、不快な感覚をすぐ切り離すのではなく、耐え忍びながら、動かさずに身体をじっとさせて、凍りつくのを待っても良いでしょう。その時に、立った姿勢で、顎を下げ、口の開け閉めをして、身体の硬直や凍りつき、怠さ、異変、痺れを感じていきますが、自分の身体をとことんまでネガティブに追い込んで、身体内部を意識的に探索すると、震えや揺れ、熱が出て、身体が段々と温かくなっていきます。さらに続けることで、身体をストレッチしたように顔の筋肉を中心にじわーとほぐれていきます。震えや揺れ、熱が生じない人には、遠くへ逃げるイメージや叫んで戦うイメージをして、実際に身体を動かしたりすると、凍りついた部分がほぐれていくかもしれません。ただし、一人で自分の身体をネガティブに追い込むのは、根気とモチベーションが必要になり、やり切るのは難しいので、最初はセラピストと行ってください。また、崩れ落ちるトラウマがある人は、凍りついた状態から、回復しきれないと、身体が沈んでいって、手足に力が入らず、起き上がれなくなって、体調が悪くなります。

 

自発的にやる方法は、二つありますが、一つ目はヨガで難しいポーズを取る方法、二つ目は最悪なイメージで身体を凍りつかせていく方法があります。ヨガの場合は、自分で限界だと思うポーズをとって、身体をガクガクブルブル震わして、緊張をほぐしていきます。例えば、空気椅子のポーズ。背中に壁を当てて、空気椅子の姿勢を取り、足を疲れさせます。その後、股関節を開くポーズに切り替えます。仰向けに寝転がって、股を開いて両足の裏を合わせます。そして、お尻と腰を浮かして、できるかぎりその姿勢を維持します。身体がガクガクブルブル震えてくると思います。次に、四つん這いで右手を上げて左足を上げるポーズを取り、しばらくその姿勢を耐え忍びます。しばらくすると身体がガクガクブルブルと震えると思います。その後、前屈か開脚のポーズを取りながら、震えが自然に止まるまで、身体の生理的反応を見ていってください。その結果、筋肉の収縮が緩むことで、身体の中に滞っていたエネルギーが流れ始めて、状態が変化していきます。このようなヨガのエクササイズを日常に取り入れることがトラウマには有効です。トラウマの改善には、リラックスしてセロトニンを引き出すことと、筋肉を鍛えてアドレナリンを引き出しましょう。そして、男性的な筋肉と女性的なしなやかさを身につけることが重要です。

 

次に、最悪なイメージを思い起こして、身体を凍りつかせていく方法は、難易度が高く、セラピストが一緒にいないと難しいかもしれません。まずは、あえて怖いことを思い出して、自分の心臓の動悸や呼吸、筋肉、不快感など身体感覚をしっかり見ていって、呼吸を正常な状態に保てるかを見てください。身体を凍りつかせる瞑想では、絶望の姿勢(全身を縮ませて)を取って、怖いことを思い出しながら、心と身体を切り離さないようにして、不動状態に入ります。身体が不動状態にあると、寒気がして、呼吸が止まりそうになり、痛みで気を失いそうになるかもしれません。それでも、集中力を切らさず(解離せず)、身体を体験していくと、震え、痙攣、熱が出てきます。そして、全身の緊張がほどけるまで、ゆっくり自分の体の感覚を体験しつくします。また、それ以外の方法としては、その恐怖対象から、遠く離れた場所に逃げるイメージをして、そのまま様々な場所を走るイメージをしながら、最終的に天国に辿り着いて、ゆっくり身体を見ていくような方法が有効です。さらに、恐怖対象を、自分のイメージと全身を使って、しっかり打ち倒して、身体を覚醒させるのも良いでしょう。トラウマ症状の不動状態や闘争・逃走状態に慣れていって、そういった身体の反応への恐怖が減少すれば、トラウマや恐怖症の克服が可能です。

 

▶生活上のポイント

 

①起床時

朝起きた時は、睡眠中の不動状態のせいで、身体が硬直や凍りつき、虚脱化しており、原始的神経が優位という異常な状態の身体になっているかもしれません。この状態で目を覚まそうとしても、心拍数や血圧、体温が低くて、身体の方は目覚めていないために、ベッドから起き上がるのが大変かもしれません。また、寝ているときの姿勢により、手足が麻痺するとか、力が入らないことがあります。さらに、胃腸の活動だけが活発で、腹痛、吐き気、下痢などの症状が出ることもあります。まずは、心拍を計れるアプリで自分の心拍数を調べましょう。心拍数が低い場合は、血液の循環が悪くなっているかもしれません。

 

ベッドの上で、子どものポーズを取り、両足を正座にして、上体を覆いかぶさるようにして、両腕を前に伸ばしていきましょう。次に、子どものポーズから猫の伸びのポーズにしていきます。上体を前にスライドし、お尻を天井へ着き出します。おでこを床につけます。余裕があれば顎を床つけましょう。このポーズを取り、身体を伸ばしていくことで、神経や筋肉を目覚めさせる効果があり、血液の循環をよくします。また、下向き犬のヨガのポーズで全身に血液を送っても良いかもしれません。

 

ヨガポーズ以外にも、頭の中でライオンを想像して、食べられそうになるところから走って逃げ切るイメージをしていって、手足を必死に動かしましょう。手足の動きに着目して、朝から活発に身体を動かした方が調子が良くなります。また、自分の身体を観察して、おかしいと思う部分に対して、ヒーリング音楽を流しならマインドフルネスをしましょう。なるべく頭で考えるのは辞めて、良いイメージをしながら、身体の感覚の変化を見ていってください。次に、朝起きた時に、温かいドリンクを飲んで、食事をしっかり取るなど、凍りつく(不動状態)の身体を目覚めさせるためのルーティン化したプロセスを見出す必要があります。食事を取ることが最も手っ取り早い方法ですが、それ以外にも、歯磨きや洗顔、洗髪で、汚れを全部落とすとか、ラジオ体操やヨガ、ウォーキング、ストレッチなどをして気持ちを切り換えて、関節や筋肉を使った運動や体を伸ばしていきましょう。体操はやらされているような感覚だとあまり意味がありません。自分の意志で手足を動かして、指で物を掴むなどのレベルで実感を伴わせてください。

 

②外出時

外では、複雑なトラウマがある人ほど、恐怖や警戒心が強く、自分の思うようにいかないと、すぐに凍りついて、身体の中に莫大なエネルギーが滞り、炎症や痛みになるかもしれません。その一方で、自分に自信がつくと、好奇心が人一倍旺盛になります。身体の神経が張りつめているので、刺激に対して過敏だったり、慣れない場所が怖かったり、集団場面が苦手だったりしますが、自分の特性を理解し、体調を気にかけながら、自分の好きなことに取り組み、生きがいを見つけることが良いと思われます。生きるうえでの様々な圧力に対して、我慢したり、抗ったりするのではなく、見たい景色のあるところに行き、心や体が望むままに動いてください。そして、ワクワクするような自分の好きなことをして、自分に自信をつけて、望ましい自己イメージを持ち、自分の過去や将来を肯定できるようにしていきましょう。一般的にトラウマの影響を受けにくい場所は、青空や生きた木々、澄み渡る空気、自然の中、神社仏閣などになります。あとは、外でウォーキングやサイクリングをするなど運動をしたほうがいいでしょう。例えば、自転車の場合は、ハンドルを握る手と、ペダルをこぐ足の動作に注意を向けていくことで、手足の筋肉が戻り、交感神経が活性化し、手足の末端まで血液が巡り、気の流れが良くなります。

 

③家の中

家の中では、リクライニングチェアに座り、全身をチェアに預けて、首と肩の力を抜き、リラックスした状態を作ります。トラウマのある人は、常日頃、首と肩が緊張しているので、リクライニングチェアにより、首と肩が楽になると同時に、顔、背中、胸、お腹もリラックスできるようになります。また、ヨガマットの上で、ボルスター(大型のクッション)に身を委ねて寝るようなポーズを取るのも良いでしょう。身体のどこにも負担がかからないようにして、ゆっくり瞑想やヨガをすることで、体の内側から活力が出て、元気になります。離人感がある人の場合は、足の指先や足裏が弱い場合があるので、足のマッサージ器が役立つかもしれません。

 

慢性的なトラウマの影響で、自分の身体が分からなくなってる人は、入浴時のシャワーする際は、湯水を浴びる身体の皮膚感覚に注意を向けながら、いまここの感覚を取り戻すのが良いでしょう。また、自分の身体を掴んでいって、身体の内側から筋肉を感じられるようにしていきましょう。その一方で、一人で家にいると、身体のトラウマが疼きだして、じっとしていられなくなるかもしれません。その時は、動いてもらってもいいですが、上に書いているようなトラウマ解放のために、身体を静止させて、しばらく耐え忍び、そのあと身体を動かして解放するエクササイズをしてもいいと思います。

 

④食事

栄養価が全くないのに、お腹がいっぱいになり、カロリーだけが高いようなファーストフードや麺類などを食べ過ぎると、炭水化物や糖類などを過剰摂取しすぎることになり、体を育てる、治す、癒すために必要な栄養が足りない状態となります。健康な体を維持するために必要な栄養素は、肉類、魚類、卵などのたんぱく質、緑黄色野菜、豆類、キノコ類、海藻類、炭水化物などが代表的な物であり、それらをバランスよく食することが重要です。心や頭は体の一部であるため、それらを良い状態に保つためには、体が健康な状態を維持することが大切になり、そのためにはバランスよく栄養価を取る必要があります。当然のことながら、体が不安定で健康ではない状態に傾いていくと、心の状態も悪くなっていくことになります。

 

食事中は、スマホやテレビを見ながらとか早食いするのは避けて、ゆっくり噛んで、しっかり舌で味わって、鼻で香りを楽しみながら食べましょう。特に、顎を使いながら、果物や肉、魚などを引きちぎって、すぐに飲み込まずに、飲み込みたくなる衝動や欲求をじっくり味わうことが人間本来の本能を取り戻すのに役立ちます。また、食べ物を口に運び、口の中で食べ物を飲み込みやすい形にしてから、口から喉、食道を通って、胃で消化される過程を見ていくのも重要です。

 

⑤就寝時

就寝前は、お風呂で体を温めて、お湯の中で自分の体をマッサージして、皮膚の感覚や筋肉をみていきましょう。入浴後は、ストレッチをして、体を伸ばしてください。また、心拍数を計り、心拍数が高くなっている場合は、活動しようとするスイッチが入っているので、ヴーと息を吐く呼吸法をして、いつでも寝れる状態にしましょう。寝る前に体を緩めてあげることで、睡眠中の悪夢や再トラウマによる凍りつきを防ぐことができます。堅い床の上で布団を引いて寝ている人は、分厚いマットを置いたほうが良いでしょう。また、皮膚感覚が心地よいパジャマで寝てください。ベッドの上では、人形や抱き枕を抱いたり、ブランケットを掴みながら、体の緊張を分散させるのも良いでしょう。あとは、枕元にはアロマの香りを置き、リスタルボウルのヒーリングをyoutubeで聞きながら、睡眠浴をすると、体の状態に変化が出て、睡眠の質を良くなるかもしれません。トラウマがある人は、睡眠中に自分の力で体を動かせないので、ガチコチに固まり、自動的に不動状態に入って、再トラウマ化する可能性があります。そのため、寝ている時は、固まり凍りついて、悪夢を見たり、突然怯えたように叫び声や悲鳴を上げたり、目を見開いたり、起き上がったり、パニックを起こしたり、金縛りで動けなくなるかもしれません。就寝時にどう体の力を緩ませて眠れるかにより、睡眠の質が大きく変わるので、朝目覚めたときの状態も全然変わってきます。寝ながらの瞑想にも取り組み、安心して眠れるようにすることが大きな目標になります。

 

⑥その他

トラウマのある人は、心拍変動が激しいので、たびたび生活の中で、心拍数を計るアプリを見て、自分の身体の状態を把握したほうが良いでしょう。安静時の正常範囲内は、心拍数60-90になります。闘争・逃走の過覚醒は、心拍数が90-120前後になります。背側迷走神経が過剰な低覚醒(虚脱)の時は、心拍数が50台くらいです。心拍数が50以下くらいになると酷い虚脱状態ということになります。心拍数が100を超えている場合は、壁への足上げしながら楽なポーズを取るのが有効です。ヨガでいうヴィパリタ・カラニのポーズになります。一時期しのぎの面はありますが、足上げのポーズを5-10分ほど行うと、心拍数は下がります。また、心拍数が低い場合は、暗い穴の中に閉じこもるイメージをして、身体を丸めてうずくまりましょう。しばらく休んだ後は、顔を上げて、目を使って、周りを見渡しながら、身体の声を聞いて、少しずつ活動を始めるのが有効です。

 

▶まとめ 

 

以上をまとめると、心の病(身体の中のトラウマ)を回復させるためには、カウンセリングなどを受けて悩みに向き合ったり、精神科に通って薬を摂取したりするのみではなく、自分の普段の生活の中で、食事やエクササイズ、睡眠等の全体に意識的に注意して、自分自身の健康を高めることで心の病が少しずつ回復していると言えます。できるだけ自分の時間をゆっくり過ごして、体に良いものを食べて、温かいお風呂に入り、睡眠をしっかりとり、自分の体をマッサージして、気持ちを落ち着かせましょう。トラウマがある人は、イライラが募って落ち着かないときに、ただそこにじっと座っていると、身体は固まっていきます。また、嫌なことがあると身体が硬直します。そのため、自分の体の状態を感じてあげて、軽く運動することを心掛けましょう。その場で姿勢を変える、歩く、手足の指を動かす、足首を動かす、関節を動かす、肩を回す、首を伸ばす、視線を動かす、口を開ける、マッサージするなど単純な動きだけで十分な効果があります。日常生活の中では、自分の足はどうなっているか、肩がどうなっているかなど意識を向けて、気が張っていないか、力が入っていないかを見ます。防衛的な脳の働きにより、今までは見えない鎧を纏っていましたが、力を抜いて、無防備な状態でいられたら、安心に変わります。生活の中で、身体に安心感を得ていけば、脳の働きが変わり、血液の循環が良くなり、穏やかな気分で過ごせるようになります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平