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自傷行為のメカニズム


自傷行為とは、自分の身体を傷つけたり、毒物を摂取することであり、死にたいという気持ちがある自殺とは異なります。自傷行為の要因としては、虐待、トラウマ体験、孤独、解離、凍りつき、麻痺、自己嫌悪と過剰な自意識などがあると考えられます。背景となる精神障害には、境界性パーソナリティ障害、双極性障害、複雑性トラウマ、PTSD、解離性障害、うつ病、統合失調症、知的障害などがあります。

 

自傷行為は、自分を傷つけたいと思って行いますが、自殺リスクとも関連性があり、自傷行為を行う人は一年以内に自殺死亡リスクが50-100倍であるという報告もあります。

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自傷行為に至るまでの流れ


自傷行為に至るまでの流れは、様々あると思います。自分の友達がリストカットをしていて、そのやり方を教えてもらってから始めるようになる人や、大切な人にかまってもらいたくて自傷する人、自分を落ち着かせるために行う人、自分の生きている感覚を取り戻すために行う人もいます。ここでは、支配ー服従の人間関係により、トラウマの生物学的メカニズム(原始的神経の働きとその身体反応)から自傷行為に至る流れを書いています。

 

トラウマというのは、虐待する親や不条理な先生、いじめっ子、大人数でおさえつけられるなど、圧倒的な力の差によって、トラウマになります。また、母子関係のこじれで、子どもが母親に言いたいことが言えないとか、母親に考えごとをおしつけられるなどでも、トラウマになることがあります。絶対的な強者の暴力性によって、圧倒的に支配されてしまった体は、首や肩が固まっていき、頭や喉、胸に圧迫を感じ、手足に力が入らないとか、気持ち悪くなります。そして、長年に渡って、支配ー服従関係のなかで、暴言・暴力で押さえつけられると、体のほうがおかしくなり、過覚醒反応や慢性的な不動状態に陥ることがあります。自傷行為は、何か前兆があり、落ち着かなくて、何かが差し迫ってくるような感覚のなかで、どうしていいか分からなくなります。居ても立っても居られない苛立ちで、気が狂いそうになり、息が出来ない、過呼吸、痛み、吐き気、痙攣、硬直、凍りつき、麻痺、脱力、朦朧、虚脱、震え、叫び声など、自分の身体の反応についていけず、混乱します。この強烈な発作のとき、自分の体に痛めつける刺激を与えることで、脳から鎮静物質が出て、陶酔感に浸って、その苦痛を紛らわします。

 

絶対的な強者は肉食動物のようであり、支配される側は草食動物のようになり、諦めるしかありません。絶対的な強者に攻撃されると、抵抗もできず、言いなりになるしかありません。恐ろしい雰囲気を漂わす相手には、逆らっては駄目で、反撃することができません。心の中では、絶対的な強者に対して、境界を張って自分を守ろうとします。しかし、それでも強者が境界性を割って侵入してくる場合には、自分の境界を下げて対応するしかなくなります。そして、殴られたり、暴言をぶつけられたり、理不尽な目に遭わされたりすると、体に痛みが走るため、体は反撃に出ようとします。しかし、心の中は、絶対に勝てない相手だと刷り込まれており、臆病な性格にもなっていて、攻撃してはいけないと思います。とにかく相手に反撃したりできないので、自分の攻撃性の矛先は、どこにも向かう場所がなく、パニックになりながら、爪で地面でぎりぎりひっかいたり、壁をバンバン叩くことで自分を抑えます。

 

トラウマを負っている体は、痛みを加えられると反撃に出たいとか、殴りかかりたいと思います。一方、心の中は、決して逆らってはいけない相手だと思っています。そのため、反撃したい体と臆病な心とが別々に反応するようになり、攻撃を受けている間は、自分でどうしていいか分からなくなります。心の中は、家族関係や社会的な役割の中で生きており、自分がどのように振る舞うことがいいのかを考えています。体は強者が近づくたびに、警戒し、緊張し、自然に反射的に防御しようとします。心は社会的な役割に忠実で、良い子のように見えますが、体はトラウマの防衛に動因されていて、心と体の分離が深刻化します。

 

自傷行為を行うほとんどの人は、痛みや暴力を受けてきており、自分のことが大嫌いで、心と体のバランスが取れなく、心身の分離が見られます。自傷行為は、不快な状況が続き、ただ耐えるしかないから無意識のうちに行うか、意識をぼーっとさせたほうが楽なので行われます。また、身体の中のトラウマが疼き始めて、焦燥感からパニックや痙攣、凍りつき、脱力、解離、意識が朦朧としたときなど、体の異常な反応を止めるために行われ、自分が自分であり続けるための行為であり、自分を落ち着かせるための手段になります。さらに、自分の攻撃性を抑えるためとか、臆病な自分を罰するために行うこともあります。自傷行為に及ぶときは、現実を感じることが辛すぎて、どうしようもない叫びのような想いを一人抱えています。 身体の内部は、燃えさかるような激しい怒りや凍りつくような怯えがあり、それらの混乱から、自傷行為に及ぶこともあります。

 

解離性障害の人は、記憶や意識が朦朧としたり、気を失いそうなときに自傷が起きます。また、自分の身体的な感覚が麻痺しているから、自分の身体を傷つける行動へと駆り立てられ、生きている実感を得ます。つまり、自分の身体の感覚が感じられなくなり、自分という感覚が弱いとか、生きている実感が無いために、過度に外部の刺激を求めて、自分の体への痛みが快感になり、自傷行為を行います。

自傷行為の動機


①周囲の目や気を引こうとして

②儀式として行う

③自分という存在を認識するための手段

④痛みによって救いや快感を求める

⑤攻撃衝動を自分に向ける

⑥現実逃避の手段

⑦自分で自分を切り離すために

⑧身体反応を止める

⑨言葉にできない感情を表現できる

⑩過緊張や痛みから解放される

⑪感情のコントロール

自傷行為の治療


自傷行為する人は、人生が嫌になったり、自分のとらわれている感情や心の痛みをどっかに追いやろうとして行います。治療では、マインドフルネスや瞑想、ヨガなど身体に焦点を当てるアプローチを行います。自分の身体の伸び縮みに注意を向けていき、一瞬の身体感覚だけにフォーカスします。自分の身体に注意を向けられるようにして、自傷行為(リスカット)をする代わりに、呼吸ができるようにしていきます。また、自分の身体を落ち着かせるということを学んでいきます。自傷行為の克服には、自分が自分の身体を所有して、コントロールできるという感覚を持つことが重要です。自傷行為から抜け出すには、ストレスを与えている環境から離れるとか、安全な場所に行く、自分のことを認めてあげる、そんなに頑張らなくていいことを理解するなどが必要です。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平

 

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