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虐待サバイバーの心の深い闇:虚無と孤独に囚われた日々


複雑性PTSD(虐待などの慢性的なトラウマのサバイバー)の中には、自分自身とのつながりを失い、現実感や身体感覚、さらには自己の喪失感に苦しむ人がいます。彼らは、トラウマを経験した時から常に脅威に備える生き方を余儀なくされ、防御的な姿勢を取り続け、長い年月にわたって身体を凍りつかせてきました。日常的に口元から全身にかけて力が入り、胸がドキドキし、手足は痺れ、身体の中には解放されない莫大なエネルギーが閉じ込められているのです。その結果、神経は痛み、疲労は限界に達しています。

 

危機的な状況に身を置きながらも、自分の居場所がないと感じ、孤独で痛ましい生活を送っている彼らは、心のどこかでその自分の状態に気づきたくないと願っています。もし自分の身体に意識を向ければ、そこには失われた身体感覚があり、内面を覗き込むと、まるで崖と崖のあいだにぽっかりと開いた境界のような、深い暗黒の空間が広がっているのです。

 

その内面には、まるでブラックホールのような大きな穴が空いており、空虚な感覚や寒々しいイメージが広がります。その空間は底知れぬ恐怖に満ち、どこまでも続いていくような感覚に囚われ、抜け出すことができない不安が彼らを取り巻いています。

 

1. 虚無に囚われた心と身体:孤独と空虚

 

虐待サバイバーは、日々息苦しさや身体の重さに苦しみ、真っ暗な世界に一人取り残されたような深い寂しさと孤独感に苛まれています。心の闇が深まるにつれ、虚脱状態に陥り、体に力が入らなくなり、ふらふらして動けなくなることもあります。生きている実感すら失われ、生と死の境界が曖昧になり、自分自身の中心が空っぽで、何もかもが虚無に包まれていく感覚に囚われてしまいます。

 

その身体の中には、ぽっかりと大きな穴が空いており、そこに引きずり込まれそうな不気味な感覚に襲われます。その穴を覗くと、まるで自分を掴んで逃れられなくする強力な力が待ち受けているかのようです。胸の奥では、おぞましい記憶や解消できない複雑な感情が渦巻き、逃れることができない重苦しさが広がります。

 

さらに、この真っ黒な穴は、日常生活の中でも突如として現れます。人と話しているときや読書をしているときでさえ、その穴が不意に現れ、自分を飲み込み、現実から引き離して境界の向こう側へ連れて行く感覚に襲われるのです。こうした虚無感と孤独に押しつぶされながら、サバイバーは心身ともに疲れ果てていくのです。

 

2. 闇に囚われた心:恐怖と崩壊の瞬間

 

虐待サバイバーは、心の奥に潜む闇に向き合うことが恐ろしく、耐えられないほどの感情が渦巻いています。まるで自分がブラックホールに飲み込まれてしまうかのような感覚に襲われることもしばしばです。嫌な感覚に支配されると、全身から力が抜け、手足は麻痺したように動かなくなり、息苦しさが増して、死んでしまうのではないかという恐怖に包まれます。また、自分の感情に圧倒され、自分自身が壊れてしまうのではないかという不安も常に心に潜んでいます。

 

絶望と混乱の中で、心の中で叫びたくなる衝動を必死に抑え込みながらも、感情の荒波に巻き込まれてしまい、パニック発作が起きることもあります。この時、自分ではどうすることもできず、自分の存在そのものが消えてしまうような恐ろしさに苛まれるのです。

 

その後、日常生活に戻った自分は、意識が薄れ、まるで動けなくなったり、別の人格に支配されたかのように感じることもあります。記憶が途切れ、どのようにその時間を過ごしたのか全く覚えていないこともあり、その度に自分がどこか遠くへ消え去ってしまったような感覚が残ります。

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闇への好奇心と狂気の境界線:ブラックホールを超えた先に見える世界


一方で、闇への強い好奇心に駆られ、その深淵を覗き込む人々もいます。彼らが見つめるのは、果てしなく続く真っ黒な穴。その先には、狂気が待ち受けており、黒い何かが一瞬自分に取り憑いて流されていく感覚に襲われます。境界を越え、未知の領域に連れて行かれると、もう二度と戻ってこれないのではないかという恐怖が胸をよぎります。

 

ブラックホールの中に飲み込まれると、まるで出口が見えないかのように、すべての希望が消えたかのように思えるかもしれません。しかし、ホーキング博士が述べているように、ブラックホールに飲み込まれた人も、その先の世界へと到達できる可能性があるのです。これは、私たちが現実を超えた別の次元や、新たな物語の扉を開ける可能性を示唆しています。

 

境界の向こう側に目をこらすと、そこには豊かで多様な物語が広がり、自分自身を動かしている存在や、心の深層にいる身代わりとなった存在がぼんやりと見えてくるかもしれません。もしも、狂気に対して恐れることなく、その中に身を委ねることができれば、人間が本来持つ自然治癒力が引き出され、今の苦しみから抜け出す道が見えてくるのです。

痛みと絶望から逃げ込む真っ暗な世界


虐待サバイバーは、幼い頃から家庭内で虐待を受け、痛みと暴力が日常となった世界で育ちました。彼らは心身を守るため、すべての感覚を麻痺させ、生きることに絶望しています。自分の存在そのものを消し去りたいという強い願望を抱き、他者を傷つけることも、逆に傷つけられることもない、静かな世界へ逃れたいと切望しています。

 

現実世界から自分を切り離すために、彼らは自分の身体から離脱し、心の中で苦痛を遮断します。その結果、頭の中では無数の思考が浮かび上がり、終わりのないループに陥っていきます。彼らが辿り着くのは、死にかけた身体を引きずりながら逃げ込んだ、真っ暗で冷たい世界。そこでは、外の声は聞こえず、自分の声も外の世界に届かない、完全に孤立した場所です。

 

この状況にいるサバイバーは、これ以上心が傷つく余裕を持ち合わせておらず、誰にも見つからない、安全な場所に隠れていたいと強く願っています。それは、外の世界から閉じこもることでしか得られない、かすかな安心感にすがりつく、生き延びるための最後の手段です。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

公開:2019-11-01 

論考 井上陽平

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