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インナーチャイルドを抱きしめる


インナーチャイルドとは、心と身体の内側にいる子どものことです。個人の中心にある本当の「私」であり、冒すことのできない無垢さ、穏やかさを表しています。その一方で、トラウマによって、傷つき怒っていて、自分の意志に反した行動を取るか、恐怖にすすり泣いて、痛みを負っているインナーチャイルドもいます。褒められてきた良い子どもには、保護的な守護者がつき、罰を受けてきた悪い子どもには、迫害的な批判者がつき、内的にシステム化されます。

 

褒められてきた良い子ども(インナーチャイルド)は、みんなが守ろうと大事にしてきた存在です。胸やお腹の中心にいて、外界の刺激を心と身体でもの凄く感じてしまうので、人間社会のストレスがかかると、すぐに固まって、心臓が痛むか、眠気に襲われて解離します。もともとは、真っ暗で輪郭しか見えない場所や海の底のような場所に閉じ込められてきたために、明るい現実世界に戻ると嬉しくてはしゃぎます。性格は無垢で、ワクワクウキウキして、目を輝かしています。

 

解離症状が重たい人のなかには、もの凄く心の深いところにインナーチャイルドがいて、手で膝を抱えて、そこに顔を埋めて、ガチコチに凍りつき、動けなくなっていることがあります。そのインナーチャイルドは、ずっと無表情、無感情で、何一つ喋らず、じっとしていて、現実世界のことは何も心に響かないかもしれません。そして、あの日以来、心を開くことがなくて、眠っているかもしれません。また、現実世界がとてもつらくて、面倒くさいと思っているので、眠りから覚めたくなくて、このまま死んでいたいと思っているかもしれません。真夜中になると、自分にトラウマを負わせた加害者の足音に怯え、助けてと叫び、その声が届くことはなく、すぐに心が凍りついて、氷漬けの地獄にいるかもしれません。

 

インナーチャイルドがどのようにして生まれるのかというと、幼少期にトラウマがあり、危機的な状況に追い込まれている子どもは、その環境に適応するために、特別に早く成長する必要があります。また、恐怖や痛みを感じていたら、目的を達成できないので、何も感じないような自分が作られていきます。その一方で、弱弱しく甘えるだけの自己部分は、生活全般の困難により、人目に曝されると、息が止まり、胸が痛んで、怖いものが段々と増えていきます。そして、周りが怖くて、どこかに隠れるようになります。隠れる場所は、何も聞こえない、何も見えないような真っ黒な部屋で自分を休ませたり、怖くて自分の身体から抜け出て宙に浮いていたりしてきました。さらに、自分はどうしたらいいのかと考えて、いろんな考え事をして、頭の中で生活するようになります。こうして、成熟して大人になっていく子どもの部分と退行したままの未熟な子どもの部分が別々に成長いくことがあります。

 

精神分析家のシャーンドル・フェレンツィは、内なる子どもを、「無意識内の純粋に心的に苦悩している存在。覚醒時の自我がそれについてまったくなにも知らないもともとの子供である。この断片には、極端に疲労し消耗した状態、つまり神経症的(ヒステリー的)爆発のあとにおとずれる深い眠りかあるいは深いトランス状態においてしか触れることができない。分析家は、努力を重ねきわめて特殊な行動規範にのっとることによってはじめて、この部分、すなわち抑圧されたありのままの感情と接触することができる。それは気を失った子供のように振る舞い、自分自身についての認識をまったく欠いており、うめき声をあげるくらいしかできないので、精神的に、ときには身体的にも揺り起こしてやらねばならない。起こった出来事の現実性を徹底的に信じていなければ、「揺り起こし」も説得力や効果をもたない。しかし、分析家にその出来事があったという確信があり、苦悩する存在への共感的な感情がともなっているならば、周到な問いによってその存在の思考力と志向性を導いて、かつてのショック状況について少しでも語り思い出すところまで導くことができるだろう。」と述べています。

インナーチャイルドを呼び戻すには


子どもの頃にトラウマがある人は、恐怖により身体の感覚が麻痺していくと、何も感じることができなくなります。そして、自分が自分でいられることが難しくなります。トラウマを解放させるためには、インナーチャイルド(内なる子ども)に出会う必要があります。方法としては、セラピストの指示のもと、身体のみぞおちあたりのソワソワや、お腹のあたりのムカムカ、胸のあたりのザワザワ、肩や喉、顎の緊張しているところに意識を集中させていくことにより、当時の状況や感覚、感情を思い出すことができます。子どもの頃の苦しかった感覚に戻ることで、身体の固まっていく部分に意識を向けられるようになります。このときに、体が固まるため、気管支が圧迫されて、息が止まりそうになり、恐怖や痛みから、体の中にインナーチャイルドがいる人は、交代する現象が起きます。インナーチャイルドは、痛みが強いときに現れて、痛みの身体を癒す力があります。セッションのなかで、セラピストがインナーチャイルドに何度も関わることで、セラピーを受けに来たあなたにも、心の中にいるインナーチャイルドを抱きしめられるチャンスがあるでしょう。

 

また、人格交代しない人は、体が固まった場面で、目をつぶり、自分の身体内部の感覚に触れていくと、温かくピリピリした波に変えることができます。冷たく凍りついた身体に、自然治癒に向かう熱が入ってきて、全身が緩んで、最高の状態のひと時を過ごせるようになります。このようなセッションを繰り返すことで、本来の私の感覚が戻ってきます。

 

ただし、解離症状の重い人がインナーチャイルドを解放してしまうと、現在の私の生活に混乱を与えてしまうかもしれません。インナーチャイルドの持っている記憶や身体の痛みが蘇ってきて、それに耐えられないと、体調が悪くなり、身体がおかしくなることがあります。そして、インナーチャイルドが解放された分、自分が自分で無くなってしまって、子どもに戻ってしまうことがあります。特に、夜に部屋で一人でいるとき、思考力の低下から、子どもに戻ることがあります。今まで甘えられなかった子どもの部分が出てくるようになると、本来の私の意志に反して、普段だったらできないような恥ずかしいことをするとか、親しげに話すとか、過去の傷つきを話すとか、後先考えず勝手な行動を取ってしまうかもしれません。そのため、大人の私は、しばしば嫌な思いをすることになるかもしれません。

 

参考文献

シャーンドル・フェレンツィ:『臨床日記』(訳 森茂起)みすず書房

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平