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メンタライゼーション


メンタライゼーションは、精神分析医ピーター・フォギナーが境界性パーソナリティ障害の病理をメンタライジング能力の欠損と関連づけて説明した概念です。メンタライジング能力というのは、行動を理解し、推測する際に、自分自身と他者の精神状態を考慮に入れる能力とされています。

 

複合的トラウマを基盤としたパーソナリティ障害の人は、メンタライジング機能が低下していて、自分の心で思っていることがそのまま現実世界でも起きているように体験されています。 そのように体験してしまう理由としては、被虐体験またはいじめなどのトラウマ被害により、人は過覚醒症状(興奮しているとき)になると、前頭葉が十分に機能しなくなります。そして、恐怖や被害感情が強くなることで心の余裕が無くなると、周囲の世界が見えなくなって、他者の行動から、他者の内面を想像することが難しくなり、自分自身を外側から問い直すことが出来なくなります。 また、両極端な考え方に陥りがちで、物事の捉え方も一つに固定化されていきます。さらに、身体や心で安全感を感じられなくなると、妄想的で自他の区別がついていない状態で過ごすことになります。そして、自分は無力な被害者であって、目の前の人が全く関係のない人であっても加害者のように見えてしまうことがあります。

 

この固定化された見方はネガティブな体験だけでなく、ポジティブな体験を含みます。ポジティブな体験では、境界性パーソナリティ障害の代表的な症状の極端な理想化をする人とか、相手の気持ちを無視して自分に好意を持っているように感じるストーカー気質の人までいます。このような人は自分と他者が別個の存在であって自分の延長でないことを十分に理解できていないところがあります。

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その対応としては


①本人の思っていることがそのまま現実世界で起きているように感じている根拠を問う。

②そのような見方が正しい可能性もあることを認めたうえで、それとは別の見方がないかどうか考えてもらう。

③一つの見方に固定化され、他の見方が出来ないようなら、この場面に対して、たくさんの見方ができるように思いますが、その固定化された見方しかできないのはどうしてですか?と尋ねてみる。

④セラピストの見方が正しいわけではないという前提を伝えたうえで、別の見方を提示してみる。

 

支配された自分の物語から抜け出せるように支援していきます。そして、固定化された考えが崩れたときに、メンタライゼーション機能が改善し、考えるきっかけになります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平