トラウマ治療では、クライエントとセラピストが協力しながら心と身体に向き合い、二人三脚で進めていくことが大切です。特に、クライエントがセラピストに対して安心感や信頼感を抱いていると、治療効果はより高まります。セラピストとの信頼関係は、心を開きやすくし、トラウマに向き合うための心理的な安全基地となります。
一方で、セラピストに対して否定的な感情が芽生えることもありますが、これも治療過程では重要な要素です。こうした感情は、クライエントが過去に抱いてきた感情の再現である場合も多く、その感情をうまく扱うことが、トラウマ治療における大きな一歩となります。
この否定的な感情を乗り越えるためには、セラピスト側の技量が問われます。クライエントの否定的な感情を受け入れ、それを治療の一環として活用することで、クライエントが抱える内面的な葛藤に気づき、新たな自己理解へとつなげていくことが可能です。セラピストが感情の揺れを受け止めることで、クライエントはさらに深い治療を進め、心身の回復を目指せます。
トラウマのボディセラピーでは、まず体に蓄積された固まりや詰まり、痛みに気づき、それを心と体で一致させることから始まります。セラピーの重要なポイントは、体を動かしながら過去のトラウマを想起し、不快な身体感覚に巻き込まれずに、「今ここ」にいるという安心感・安全感を感じられるかどうかです。体験した外傷時の体の反応を再演し、その動作を最後まで完了させることで、体は自然に回復に向かい、未処理のトラウマエネルギーが解放されます。
その結果、体は再び息を吹き返し、正常な循環を取り戻します。体の固まりや捻じれ、バラバラに感じていた部分が解消され、生理的にも温かさや軽さが戻り、心の状態まで変化させることが可能です。従来のセラピーが言葉や心に焦点を当てていたのに対し、トラウマのボディセラピーでは、体の感覚や生理状態に重点を置いています。
このプロセスを通じて、日常生活で自分の生理状態を調整するスキルを身につけることができます。特に、体の感覚を認識しながら、すぐに緊張・警戒する反応や、過覚醒や低覚醒、ネガティブな思考に陥る循環を変えていくことが目標です。体を通じたアプローチが心の回復にもつながり、トラウマからの解放と自己調整力を取り戻すための道筋を提供します。
トラウマの影響による離人感や解離症状、体の感覚が麻痺しているかどうかを最初に確認することが重要です。特に、感覚が鈍くなっている人には、体に振動を伝える器具(例:スムービーリング)を用いて、心と体の繋がりを回復させ、感覚の麻痺を解消します。これにより、体に溜まった悪い気を振り払い、内側の感覚が目覚めるプロセスを促します。
次のステップでは、安心できるイメージを頭に描きながら、リラックスできるポーズを取り、体内の緊張を解きほぐしていきます。トラウマの克服には、辛い状況を乗り越えることが必要不可欠です。そのため、体に外傷体験を再現させるアプローチや、最悪のイメージや感覚に浸りながら耐え忍ぶ方法が有効です。これにより、体は極限まで収縮し、限界を迎えると震えや揺れ、吐き気、鳥肌、不随意運動、熱などの生理反応が生じ、溜まっていたエネルギーが放出されます。
このプロセスを通じて、トラウマによる緊張やエネルギーの滞りが解放され、体は再び自然なリズムを取り戻します。
トラウマ治療の本質は、身体の感覚や動きに焦点を当て、凍りついた体を解放することです。治療の中では、立った姿勢で口の開け閉めをしたり、うずくまるポーズを取ったりして、外傷を受けた瞬間に体が感じた内部の感覚を再現します。これによって、体の奥から揺れや震え、熱を引き起こし、極度の緊張や凍りつきをほぐしていきます。特に、トラウマが深い場合、体内に溜まっていたアドレナリンなどの闘争・逃走エネルギーが解放され、体は軽く、新しい感覚を得ることができます。
一部の人は、1セッションで1時間ほど震えることもありますが、その後は体が解放され、今まで経験したことのない安心感や自由さを感じることができます。しかし、日常生活に戻ると、脳と神経が再び危険を察知し、体は緊張や凍りつきを繰り返すため、1回のセッションですべてが解決するわけではありません。
ボディセラピーの目標は、恐怖に向き合い、体を凍りつかせ、その不動状態に慣れることです。その後、イメージの中で安全な場所へ逃げる体験を通じて、体を震わせ、安心感を取り戻していきます。体の震えを通じて、凍りついていたエネルギーを放出し、少しずつ心身のバランスを取り戻していくプロセスです。
トラウマ改善のためのボディセラピーは、心と体のバランスを取り戻し、トラウマから解放されることを目指すアプローチです。以下の10のステップを通じて、徐々に体と心をつなぎ直し、回復へと導きます。
体の麻痺を解く
トラウマによって体が麻痺し、感覚が鈍くなることがあります。まずは、手足や体に優しい振動を与え、脳で体の感覚を再認識することで、麻痺状態を解いていきます。これにより、徐々に体の感覚が戻り、緊張が緩和されます。
追体験によるリリース
体の感覚が戻った後は、緊張している部分を再び感じ、その緊張を追体験しながら解きほぐします。これにより、体が持っているトラウマのエネルギーをリリースし、心身が軽くなります。
マインドフルネススキルの習得
自分が緊張や警戒していることに気づくことは、トラウマ治療において重要です。呼吸法や瞑想を取り入れ、心と体をリラックスさせ、緊張を解きほぐすマインドフルネスのスキルを磨いていきます。
光のエネルギーによるヒーリング
心と体の傷ついた部分を光のエネルギーで癒すイメージワークを行います。この光が身体全体に広がることで、自己治癒力が高まり、トラウマによる深い傷が癒されていきます。
恐怖に向き合い、不動状態を解放する
トラウマは恐怖を伴う体験です。体を不動状態にして恐怖に立ち向かうことで、滞っていたエネルギーが解放され、トラウマの浄化が進みます。恐怖に打ち勝つことで、心と体が再び自由になります。
軽い運動でエネルギーの流れを整える
顔の筋肉や肩、腕、足を軽く動かすことで、体内の気の流れを改善し、トラウマによって滞っていたエネルギーを解放します。この動きによって体が緩み、心身のリズムが整います。
ヨガと筋トレを活用する
ヨガの難しいポーズや筋トレを行い、筋肉を収縮させた後にトラウマを解放します。体を動かすことで、体に溜まったストレスやエネルギーを自然にリリースし、心身をリフレッシュさせます。
目覚めのポーズでエネルギーを高める
うずくまった姿勢から、ゆっくりと体を目覚めさせていくことで、エネルギーを高めます。このプロセスは、心と体のエネルギーを再び活性化し、新たな力を引き出します。
インナーチャイルドの癒し
体の痛みを通じて、子どもの頃の自分、つまりインナーチャイルドと向き合います。空想の中でその子を優しく癒すことで、心の深い部分にあるトラウマが解放され、自己理解が深まります。
無意識の探求
鏡の世界に入り込み、無意識の深い領域を探求します。心の奥底に潜むトラウマに向き合い、その真実を見つけ出すことで、心と体の統合を促進します。
これらのアプローチを通じて、トラウマによって滞っていたエネルギーが解放され、心と体が再び一体となる感覚を取り戻すことができます。ボディセラピーは、心身のバランスを整え、より健全で自由な日常生活を送るための強力なサポートとなるでしょう。
トラウマによる凍りつきや不動状態に追い込まれると、体は時に自然に震えたり、適切な闘争・逃走反応を示すことで回復の道を歩み始めます。しかし、体が過度にストレスに圧倒されてしまうと、解離や離人感、さらには崩れ落ちるような反応が引き起こされ、自己の状態を把握できず、回復が困難になる場合もあります。
このように、すぐに解離や離人感が起こる人や、崩れ落ちてしまう人に対しては、まず安心できるポーズを取ることから始めます。体の感覚や反応を注意深く観察し、そこから少しずつ全身の筋肉を鍛えていくことで、体の麻痺を解き、固まった痛みや疲労を徐々にほぐしていきます。このプロセスは時間がかかりますが、体が本来持つ自然な回復力を引き出すためには非常に重要です。
一歩ずつ身体との繋がりを取り戻すことで、心と体が再び調和し、健全な状態へと回復していくのです。
治療の初期段階では、恐怖に支配され、生きる意欲が失われ、希死念慮が強かった人も、時間をかけて治療に取り組むことで恐怖を克服し、自信と強さを取り戻していきます。無力だった状態から、怒りを表現するプロセスを経て、最終的にはリラックスした状態を手に入れることができます。このような変化には1年以上の治療が必要となることも多いですが、長期的な取り組みが大きな成果をもたらします。
一方で、発達障害の傾向がある人や体が弱い人は、体に意識を向けることが難しく、治療が進みにくいことがあります。さらに、酷い虐待や過酷なトラウマ体験により体が正常に反応しなくなっている場合、治療はさらに難航することがあります。
本来の自分を取り戻すためには、体の中に閉じ込められたトラウマに向き合うことが不可欠です。しかし、これは非常に困難で大変な作業です。トラウマ治療は、恐怖や無力感に真正面から向き合い、少しずつ体と心の回復を進めていく長い道のりです。それでも、体が正常に反応し、自己肯定感が戻ってくる瞬間は、真の回復への大きな一歩となるでしょう。
トラウマ治療では、体の一部や全身を硬直させ、こわばらせることから始めます。これは、恐怖や脅威に直面した際、体が凍りついて動けなくなるというトラウマ反応を再現し、ボディセラピーを通じて、その状態を緩めていくためです。体が震えたり鳥肌が立つことで、凍りついた反応が少しずつ解放され、同じ状況を思い起こしても、体が以前ほど固まらなくなります。
ただし、日常生活では予測できない嫌なことや想定外の出来事が発生し、再び体が硬直することがあります。それでも、この硬直した反応と上手に付き合い、体に愛情を注ぐ習慣を身につけることで、以前ほどガチガチに固まることは減っていきます。嫌なことを思い出しても、それに引きずられることなく、体の反応をコントロールできるようになります。
体の硬直が少なくなると、トラウマによって引き起こされる迷走神経反射も起こらなくなり、様々な症状が徐々に消えていきます。結果として、眠気や疲労、体の怠さ、重さなどの体調不良が改善され、体は正常な状態に戻っていきます。
セッションを重ねることで、トラウマが小さくなり、体の反応も変化していきます。これにより、かつては我慢していた状況でも、自分の意見をしっかりと伝えることができるようになり、心身ともに自由で健全な状態を取り戻すことが可能になります。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平