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愛着理論・アタッチメント


このページでは、北川恵先生のアタッチメント研究や愛着理論の講義をまとめたものを載せています。

 

ボウルビーによって創始されたアタッチメント理論は人のパーソナリティの生涯発達理論です。アタッチメントとは何か?というと、人と人、特に親とその幼い子どもとの間の緊密な絆のことです。ここで日本で紹介されている一般的な愛着理論(アタッチメント)についてまとめています。

ボウルビーの愛着理論


ボウルビーは、生物個体が他の個体にくっつこうとすることであり、個体がある危機的状況に接し、あるいは危機を予知して、恐れや不安の情動が深く喚起された時、特定の他個体への近接を通して、主観的な安全の感覚を回復・維持しようとする傾向のことです。一者の情動状態の崩れを二者の関係性によって制御するシステムであり、個体の状態や環境条件の変化等に応じて、体温や血圧などを適正な一定範囲に保持・調整する生理的システムと同じで、特定対象との近接関係をホメオスタティックにコントロールします。

注意点


注意点としては、行動制御システムはネガティブな情動の逓減に結びついたもので、ふれあうことにより社会的報酬となり、心理的愉悦というポジティブな情動の増進に通じる関係の特質は異種です。親子、特に母子関係に限定されたものではないですが、母子の関係性の文脈で問題にすることが圧倒的に多いです。基本的にアタッチメントは、その主要対象を変えつつ、生涯、存続し、機能し続けます。弱者の強者に対する依存的な関係のみならず、自律性を獲得した後の対等な関係においても成り立ちます。加齢に伴い、人は徐々に他者に対して物理的に接近しなくなります。アタッチメントは表象レベルに近接、すなわち危急の際に保護してもらえるということに対する信頼感へと形を変え、生涯重要な意味を担います。

アタッチメントの至近的距離


危機によって生じたネガティブな情動状態を低減させ、自らが安全であるという主観的意識をもたらします。外界への探索活動や学習活動を安定して行います。円滑な対人関係を構築します。別な言い方をすると、危機に際しての確実な避難所であり、外界に積極的に出ていくための安全基地です。神経生理学的機能では、危機やストレッサーとの遭遇による身体の緊急反応、崩れたホメオスタシスを定常的状態に引き戻します。神経生理学的メカニズムにあって緩衝帯の役割を果たし、身体の健全な機能性を高度に保障します。心理社会的、神経生理学的働きの積み重ねによって、生涯発達過程全般にわたる生存可能性、繁殖可能性を高め、生物学的適応性を向上させます。

内的作業モデル


特定の他者が自らに対して温かい思いやりの気持ちを持って助力してくれることを確信することによってアタッチメント欲求は潜在的に充足され、安全の感覚を得ます。ボウルビーは、自己や他者および関係性一般に対して個人が抱く主観的確信やイメージを内的作業モデルとしています。ボウルビーの発想の起源がフロイト依頼の精神分析の中に見出すことができます。フェアバーンやウイニコットらの対象関係論では、内在化された養育者像いわゆる内的対象とそれにまつわる種々の記憶や情動が個人の社会情緒発達や対人関係先般に影響すると言ってます。

アタッチメントとトラウマ


内的作業モデルはいわゆる幼児性トラウマとの関連で問題にされます。発達心理学やアタッチメント理論から見るとトラウマは古典的精神分析理論と幾分異なります。地震や火事は直後に子どもに大きな情緒的混乱をもたらしますが、長期に及ぶのは少数です。一回性の出来事が子どもにとってトラウマになるかどうかは養育者との間でいかに安定したアタッチメントを享受できるかどうかに依存します。惨事による一時的情緒的混乱より周囲の大人の持続的な関わり方の失敗や情緒的利用可能性の低さの方が外傷的な意味を持ち得ます。最も必要な時にアタッチメント欲求は充足されないままになる方が子どもにとってはるかに破壊的です。子どもは反復的に不適切な扱いがなされることはより深刻で、繰り返されるトラウマは耐性を持つことはきわめて少ないです。親同士のコンフリクトに頻繁にさらされる子どもは慣れるどころか、過敏性と反応性を増し、情動制御に大きな問題を抱え込みます。ケアされないことが二重のトラウマになります。度重なる恐れや不安を制御されないままになる発達早期の経験は心理システムのみに負の影響を及ぼすわけではありません。生理学的ストレス・センサーやホメオスタシスの維持・調整メカニズムに永続的阻害効果があり、自律神経、免疫、神経内分泌に活動に関与します。

アタッチメントと行動のパターン


A回避型 養育者との分離に混乱を示すが、養育者との間に距離を置く。

B安定型 分離に際して混乱を示すが、再会により容易に静穏化

Cアンビヴァレント型 分離に際し苦痛を示し、再会後もネガティブな情動状態

D無秩序・無方向型

 

1990年代に入って、ABCに収まりきれないD無秩序・無方向型の存在が見出されます。近接と回避の行動をし、不自然でぎこちない動きや場違いな行動や表情をします。突然すくんだり、うつろな表情で固まって動かなかっりします。Dタイプの子どもの養育者は、虐待などの危険な兆候があり、ネグレクトが疑われる発育不全においてDタイプが多いです。Dタイプ的な個人はその後の人生で何らかの不遇な状況にさらされた時、脆弱であり、解離性障害となって表れやすいです。

 

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