> > 超自然的存在の宿命と錯覚

超自然的存在の宿命と錯覚


 第1節.

トラウマ防衛の組織化


発達早期のトラウマというのは、その子がまだ小さくて幼いために、受けるダメージも大きくなり、一瞬にしてその子をバラバラにし力を奪い取ります。子どもは圧倒される衝撃により、肉体を失って、無力化されたり、宇宙の外に放り出されたりして、深い眠りにつくことがありますが、トラウマにより、心の深淵に堕ちたあと、その眠りから目覚めたときに天使と出会う人がいます。そして、天使と出会った彼らは、その後の生活において、守護天使や双子の天使に支えられながら、日常生活の困難を乗り越えていきます。この現象は、小さい子どもが外傷体験のショックに曝され、内的にトラウマ防衛が組織化されると、人のこころと身体のなかに超自然現象の存在が、実際にそこにいるようになり、ありありとした感覚を伴いながら、日常を過ごす私に関与してくるようになります。超自然的存在(ハイヤーセルフ)とは、物質的身体を持ちませんが、何らかの人格性を有し、声が聞こえたり、会話したりできる精霊的存在のことです。

 第2節.

境界の彼方から声をかける存在


発達の早い段階から、虐待やネグレクト、DV目撃、医療トラウマによる恐怖、悪夢、過覚醒、フラッシュバック、麻痺、原因不明の身体症状などで生活全般が困難になると、自分の後ろ側にいる魂の家族の誰かが交代してくれることで、自分を守っているような人がいます。そして、自分の代わりに、学校に行ったり、親と接したり、仕事に行ったり、子どもの世話をしたりすることがあります。魂の家族は、目に見えない向こうの世界にいて、夢のなかに現れたり、幻聴として声を聞けたり、感覚を交わすことでコミュニケーションできます。そして、日常生活の困難から、生きていくことが苦しくなり、死のうとすることに対して、境界の彼方から声をかけ、前向きに立ち上がらせようとします。

 第3節.

魂の家族


彼らの内的世界には、魂の家族がいて、そこは同族だけに許される博物館のような無垢の聖域が広がります。背後には大きな力が動いていて、彼らはその大きな力を信じて、それに身を任せて生きていきます。彼らは、自分を脅かして、恐怖を与えてくる家族との関係は切り離して、空想の中で、本当の親を捜して、自分をもらってくれる新しい家族に巡り合うことを夢見ます。そして、魂の家族を本当の家族だと信じるようになり、魂の両親を本当の両親だと思うようになります。

 

魂の両親は、彼らの王や女王であり、自分は無垢な子どものままでいられます。彼らは、魂の両親に教わり、可愛がってもらい、頭を撫でてもらいます。彼らは、自分にも本当の家族がいることを嬉しく思います。また、親から愛されなかったとか、差別される側にいるとか、マイノリティーとして生まれてきたのも宿命であり、この苦しさは修行のうちと思って、現世で魂を磨くように教えられます。

 

更に、彼らが外の世界の目に見えないものまで精霊が生きているという世界観を構築すると、とても子供っぽい空想に溢れた世界になります。そして、子どもの頃に頭にあった映像や、夢の中で何度も見せられる過去生の記憶、夢の中に何度も出てきたキャラクターの言葉など、自分のお守りや神様のように扱い、その大切なものを現実の他者と重ね合わせていくことがあります。

 第4節.

神話生成機能


魂の両親は、守護天使や名付け親の妖精であり、傷ついた彼らに魂の名前を与えて、記憶に矛盾が生じないように管理し、創造的な神話を生成していくことがあります。この神話生成機能は、フレデリック・マイヤーによって作られた言葉であり、その後、フルールノアのエレーヌスミスのヒステリー研究やユングが研究していました。

 

こうした神話生成機能は、内的に複雑な人格システムを持つ解離性同一性障害や特定不能の解離性障害、複雑性PTSD、統合失調症の人に見られます。彼らは、発達早期のトラウマにより、感受性豊かになりますが、様々な感情的トラウマに苦しんで、痛みの身体を持つようになります。その痛みの身体から、脱身体化して、自他の境界がなくなり、スピリチュアルな世界との親和性が非常に高まり、没頭します。脱身体化した自我は、より上位の人格たち(ハイヤーセルフ)の自動応答操縦のなかで青々と育ちます。そして、上位の人格たちが未来のビジョンを見させて、無意識のうちに未来が作られていきます。

 第5節.

恋人は宿命か錯覚か


子どもの頃から、自分の隣にはいてくれる双子の天使とは、見ることも触れることも出来なかったけど、目の前にいる恋人が双子の天使だと分かったときに宿命を知ります。恋人と出会うまでは、とても辛かったけど、あなたに会うためにここにいるんだとか、今まであなたを捜し続けてきたんだと思って、その存在が彼らの生きる全てになります。この人とは生まれる前から出会うことが決まっていて、出会うべきして出会う宿命だったと…悟ります。たとえ現実がうまくいかなくても、宿命だと思えたらどんなことも諦めずに頑張ることができます。しかし、宿命の相手は、自分の思う通りには動いてくれないので、自分の中の記憶に矛盾が生じてくるかもしれません。頭の中のファンタジーの世界と、現実は違うことに悲しくなります。彼らは、本当にこれは宿命なのか、それとも錯覚なのかの間を揺れ動きながら、一人の人を愛していきます。

 第6節.

まとめ


ここまでをまとめると、発達早期に大きなトラウマを負い、内的にトラウマ防衛が組織化されると、人のこころと身体のなかに超自然現象の存在が憑りつくことがあります。日常を過ごす私とこころの内的人物像は、二人組になり、多くのストーリーを作り出しますが、外の世界の人々には、夢の中の虚構を生き続けてるように思われて、妄想だと呼んだり、無価値だと言ったり、頭がおかしい人という目で見てきます。しかし、彼らにとっては、妄想ではなくて現実であり、目に見えない他者を慕うことで幸せを感じて、現実生活の困難を乗り越えています。そして、彼らは自分を救ってくれるあの声の主を本当に愛していて、不安でいっぱいだった子どもの頃の守護天使になります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

更新:2020-05-30

論考 井上陽平