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愛着システムと過覚醒システム


愛着システムに作動された日常の大部分を過ごす人格部分とは、本来の生きていたはずの自分です。一方、過覚醒システムの駆動された力やスリルを求め支配的な人格部分は、トラウマを負った後に作られた自分です。愛着システムの部分と過覚醒システムの部分との間の関係は複雑で、お互いがせめぎ合い、たまにどちらが本当の自分か分からなくなり、想像を絶する関係に発展することがあります。例えば、バリントの提唱したオクノフィリア(空間は危険を孕んでおり、対象と片時とも離れたくない心性)/フィロバティズム(対象は危険な存在であり、対象なき空間で己のスキルを高める心性)の概念や、メンタライゼーションのよそ者自己(自己の部分でありながら、自己に属しているとは感じられない思考や感情からなり、自己の一貫性の感覚を内側から崩壊させる存在)が参考になります。

 

愛着システムの部分は、良い子で優しく、争いごとが苦手で、泣き虫で、世話をする大人に依存的です。過覚醒システムの部分は、防衛的な態度をとり、性格は強気で、キレやすく、扱いにくく、運動好きで、周りを言い負かそうとするので、トラブルメーカーになって、人間関係を壊していきます。愛着システムと過覚醒システムの部分は、同時にあったり、入り混じったり、変動していって、一日のうちに気分の浮き沈みが激しいです。例えば、食事の場面では、愛着システムが作動していると、ニコニコして話かけてきますが、過覚醒システムの部分は、顔を見るなとか、話かけるなといった態度を取ります。見分け方は、目つきの鋭さや口元、表情、言葉使い、話す内容、態度、動きなどで分かります。過覚醒の時は、吊り上がった目をしています。

愛着システムに作動された日常の大部分を過ごす人格部分


様々な見方ができると思いますが、愛着システムに作動された日常を過ごす人格部分は、力は弱いけど、眼を与えてもらったことでこの現実世界と繋がりを持っています。根底には寂しさや孤独感、劣等感、人間不信を抱えていますが、心は子どものままで、時間が止まったように感じていて、過去からあまり成長できずにいます。皆と仲良く過ごしたいというスキーマが形成されており、人を笑わせたり、仲間を探したり、愛する仲間がいて、特別な人には優しいのが特徴です。また、正義感が強く、自然界や動物に優しかったりします。ただし、周囲の気配に過敏に反応して、自分の身体の中に何者かの気配を感じていたりします。それは子どもの頃に同調した過覚醒に駆動された力やスリルを求める人格部分を自分の内側に閉じ込めているからであり、自分が自分であるという一貫性を内側から崩壊させる危険な存在と共存していくしかありません。そのため、自分が自分でなくなる不安があったり、感情のコントロールが難しい状態にあります。

 

この過覚醒に駆動された人格部分は、愛着システムの部分とは正反対で、怒りが原動力になり、戦う気は満々です。敵とみなした相手に向かっていき、汚い言葉で罵り、危険な問題行動を増やすばかりなので、この悪い存在のために、親や先生、友人から嫌われることがあります。そして、周りからは、二重人格とか、頭がおかしいとか、扱いにくい愚かな人とか、機嫌が悪いときは近づいて来るなとか、怖いと恐れられたりします。それ故、愛着システムに作動された人格部分は、周りに迷惑をかけている自分を責めて、良い子でいようとしたり、おかしい人間と認識されたくないので、周囲に合わせようとして、過剰に同調するとか、相手の行動を真似したりしていこうとします。また、日常生活をこなそうとすることに努力しており、世の中の不条理と戦う救世主であり、世話好きであり、周りから慕われることがあります。

 

その結果、外から見える姿は、頼りになるとか、元気で活発だとか、気分屋で自分勝手な子どものように映ることもありますが、本人の内側に抱えている苦悩や辛さとの間に大きな隔たりがあるので、心の中は傷ついています。そして、誰も自分のことを理解してくれず、助けてもらえないと思って、本当の感情や本音を見せれなくなります。例えば、虐待やいじめの被害者であれば、自分が真実を語れば、いずれ誰かを傷つけてしまうことを恐れて、何も語らず、何も答えず、頑なに自分の中の何かを守るようになります。しかし、自分の本当の感情や本音を見せないという習慣が心の大きな負担になり、人生を厳しいものにしていきます。

 

一般的に、フラッシュバックや悪夢、感覚過敏から生活全般の疲労感が強く、抑うつ症状、失感情症、離人症、身体症状に苦しんでいます。また、一人でいるときは、不安、恐怖、寂しさ、苛立ち、興奮、麻痺の状態にありますが、過覚醒システムに乗っ取られることや急速な麻痺や凍りつきを避けるために、過食、アルコール、セックス、ペット、会話、人に依存することで、自分のバランスを保ちます。そして、日常生活を困難にすることに対して、意識を変容させ、あいまいにしたり忘れやすくしたりすることで自分を楽にしていますが、生活全般の困難さが増大すると、イライラや凍りつき、睡眠障害、身体症状が出てくるので、解離症状が頻発します。

過覚醒システムに駆動された力やスリルを求め支配的な人格部分


過覚醒システムに駆動された力やスリルを求め支配的な人格部分とは、脅かされるような体験を繰り返した人が、相手に向けるはずだった攻撃性を自分の中に閉じ込めることにより、それが自分の中で大きくなって、過覚醒の自分に乗っ取られていくようになります。過覚醒システムに駆動された力やスリルを求め支配的な人格部分は、愛着対象は危険な存在であり、強くあること、そして、他者に近づくなというスキーマが形成されており、殺伐とした世界に住んでいます。神経は高ぶり、視野は狭く、脅威から自分を守ることが最優先され、周りと繋がれないのが特徴です。

 

過覚醒システムに駆動された力やスリルを求め支配的な人格部分は、愛着システムに作動された日常の大部分を過ごす人格部分の身体の中に閉じ込められており、ここから出せと暴れています。一般に、自分に危害を加える奴を全力でやっつけにいこうとしており、普段から、悪い奴は倒そうと己を磨いています。また、自分が死ぬことを恐れていたりするので、自殺しないように、自分の身体を守ろうとします。その一方で、身体を乗っ取ろうと目論み、幻聴や夢のなかに現れ、無慈悲な自己批判や虐待をすることがあります。さらに、愛着システムに作動された日常の大部分を過ごす人格部分が何も感じないようにしたり、もう何も知ろうとしない態度に対して、腹を立て、心と身体に痛みを与えます。そして、最悪の事態としては、最も大切にしている存在を傷つけることに興奮を覚え、自殺すら生ぬるい刑であり、少しの失敗も許さず、大量なる罪人して、無慈悲な罰を与えることがあります。最終的には、愛着システムに作動された日常の大部分を過ごす人格部分がこうした内的懲罰者(トラウマを思い出すトリガーに遭遇すると表の世界に出ることもある)からの解放を望み、自殺こそ救いだと思うようになります。

 

ヴァン・デア・コルクの著書『身体はトラウマを記憶する』から、「脳幹と大脳辺縁系の基本的な自己システムは、人が生命を脅かされると著しく活性化し、強烈な生理的覚醒を伴う、圧倒的な恐れや身がすくむような思いを引き起こす。トラウマを追体験している人には、何一つ理解できない。彼らは生きるか死ぬかという状況にはまり込んでいる。それは、身動きをとれなくするような恐れや、見境のない憤激の状態だ。心も体も、まるで危機が差し迫っているかのように、しきりに覚醒させられる。ほんのかすかな音が聞こえてもはっと驚き、些細なことで苛立つ。絶えず眠りを妨げられ、食べ物は官能的な快楽をもたらさなくなることが多い。すると今度は、凍りついたり解離したりして不快な感情を抑えようとする必死の試みが引き起こされかねない。 」と述べています。虐待が行われていた家庭で育った子どもは、戦場で戦う兵士ととても似た脳の構造を持つようになると言われます。そして、生きるか死ぬかという状況にはまりこんでいる人格部分は、交感神経が活発に働き、恐怖や激しい怒りのような情動で溢れています。この人格部分は、あらゆる障害(ハードル)を身体ひとつで魅せる曲芸師のようであり、身振り手振りが大胆で、芝居がかかった仕草を行い、型破りな行動を取りながら、力やスリルを求めて危険を顧みません。

逃走の人格部分


闘争ではなく、逃走の人格部分です。逃走の人格部分は、フラッシュバックで過去の時間に戻っているとき、過去の光景を目の前にして、恐ろしい対象(加害者)から、ただ一目散に逃げることだけに全力を注いでいます。逃走の人格部分は、今の時間を生きておらず、心ない人形のように自動的に逃走モードに入り、過去のトラウマを再演させます。生活全般が困難になると学校や家から飛び出して、交通のある道路や線路の周辺を走り続けます。病院などで逃走モードのスイッチが入ると、病棟から飛び降りるなど危険な行動を取ることもあります。逃走モードに入っているときは、体が勝手に動き、その間の記憶は抜け落ちています。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

 

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