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愛着システムと過覚醒システム


愛着システムが作動しているときに表れる人格部分は、本来の自分であり、生きるべき姿の一部です。一方で、過覚醒システムが駆動され、力やスリルを求める支配的な人格部分は、トラウマを経験した後に形成されたもう一つの自分です。この二つの人格部分は、互いに複雑に絡み合い、しばしば対立します。時には、どちらが本当の自分なのか分からなくなることもあり、その関係は想像を超えるほどに複雑で困難なものとなります。

 

この内的な対立を理解する上で、バリントが提唱したオクノフィリアとフィロバティズムの概念は非常に有用です。オクノフィリアとは、空間を危険と感じ、対象から離れたくない心の状態を指し、一方のフィロバティズムは、対象を危険とみなし、対象なき空間で己のスキルを高める心の状態を表します。また、メンタライゼーションのよそ者自己の概念も参考になります。よそ者自己とは、自己の一部でありながらも、自分自身に属しているとは感じられない思考や感情で構成されており、自己の一貫性を内側から崩壊させる存在です。

愛着システムと過覚醒システム:揺れる自分の中の二つの顔


愛着システムが働いているときの人格部分は、優しくて従順で、争いごとを避ける傾向があります。このとき、自分は泣き虫で、大人に依存し、良い子でありたいと願い、他人の期待に応えようとします。しかし、これとは対照的に、過覚醒システムが作動すると、態度は一変します。過覚醒システムは覚醒度が高く、興奮した状態を引き起こし、防衛的になり、強気で、怒りやすくなります。この状態では、扱いにくく、周囲に対して攻撃的な性格が表に出てきます。運動好きでありながら、他人を言い負かそうとするため、しばしばトラブルを引き起こし、人間関係が壊れていくことも少なくありません。

 

これらのシステムは、一日の中で交互に現れたり、同時に入り混じったりして、感情が激しく変動します。例えば、食事の場面で、愛着システムが働いているときは、笑顔で話しかけてくることもありますが、過覚醒システムが作動すると、突然「顔を見ないで」とか「話しかけないで」といった冷たい態度に変わることがあります。

 

この二つの状態を見分けるためには、いくつかの手がかりがあります。過覚醒システムが働いているときは、目が吊り上がり、口元や表情が鋭くなり、言葉遣いや態度が攻撃的になります。対照的に、愛着システムが作動しているときは、柔らかい表情や穏やかな言葉遣いが特徴です。目の鋭さ、口元の動き、全体の表情、使う言葉や話す内容、態度や動きなどが、どのシステムが働いているかを見分ける重要な手がかりとなります。

内なる矛盾と共存する愛着システムの影響


愛着システムが作動しているときに表れる人格部分は、力は弱いものの、この現実世界とつながりを持っています。このつながりは、眼を与えられたことで可能となり、周囲の状況を見て理解する力を持っています。しかし、その根底には、深い寂しさや孤独感、劣等感、そして人間不信が存在しています。心の中では、時間が止まったかのように子どものままであり、過去のトラウマや経験から十分に成長できずにいるのです。

 

この人格部分は、人と仲良く過ごしたいという強いスキーマが形成されています。人を笑わせたり、仲間を探したりすることが得意であり、特別な人には優しさを示します。また、正義感が強く、自然界や動物に対しても優しさを持っています。このように、愛着システムの影響下では、他者とのつながりを求め、関係を築こうとする姿勢が強く現れます。

 

しかし、問題はその繊細な感受性にあります。愛着システムが過敏に反応し、周囲の気配に敏感になると、時に自分の身体の中に何者かの存在を感じることがあります。これは、子どもの頃に同調した過覚醒システムに駆動された力やスリルを求める人格部分を、内側に閉じ込めているためです。この内なる存在は、自分が自分であるという一貫性を内側から崩壊させる危険な存在であり、常にその脅威と共存しなければなりません。

 

その結果、自分が自分でなくなるという不安に襲われることがあり、感情のコントロールが非常に難しくなります。この内なる葛藤が、日々の生活において強いストレスとなり、心の安定を脅かす要因となります。愛着システムの部分は、他者とのつながりを求めながらも、内なる矛盾と戦い続けているのです。

内なる矛盾と戦う二つの人格


過覚醒に駆動された人格部分は、愛着システムの部分とはまったく正反対の性質を持っています。この部分は、怒りを原動力とし、戦う気持ちで満たされています。敵とみなした相手に対しては、ためらうことなく立ち向かい、汚い言葉で罵り、時には危険な問題行動を引き起こします。この結果、親や先生、友人からは敬遠され、嫌われることが少なくありません。また、周囲の人々からは「二重人格」とか「頭がおかしい」「扱いにくい愚かな人」といった烙印を押され、機嫌が悪いときには「近づかない方がいい」と恐れられることもあります。

 

このような状況に対して、愛着システムに作動された人格部分は、周りに迷惑をかけている自分を強く責め、良い子であろうと努力します。おかしい人間と思われたくないため、周囲に合わせようと過剰に同調し、相手の行動を真似ることさえあります。この人格部分は、他人との調和を保とうとし、社会に適応しようと懸命に努力します。

 

日常生活において、この二つの人格部分は複雑なバランスを保ちながら共存しています。愛着システムに駆動された人格部分は、世の中の不条理と戦う救世主のような役割を果たすこともあり、困難に直面する中でも、周囲を助け、世話好きな一面を見せます。その結果、時には周りから慕われる存在となることもあります。

内なる葛藤と外から見える姿のギャップ


その結果、外から見える姿は、頼りになる存在や元気で活発な人として映ることがあります。また、気分屋で自分勝手な子どものようにも見えるかもしれません。しかし、こうした外見とは裏腹に、本人の内側には深い苦悩や辛さが隠されており、その間には大きな隔たりがあります。心の中では、誰も自分のことを本当に理解してくれず、助けてもらえないと感じており、そのために本当の感情や本音を見せることができなくなっているのです。

 

例えば、虐待やいじめの被害者であれば、自分が真実を語れば誰かを傷つけてしまうのではないかという恐れから、何も語らず、何も答えず、心を頑なに閉ざしてしまうことがあります。自分の中にある何かを必死に守ろうとするのです。しかし、このように本当の感情や本音を見せないという習慣は、心に大きな負担をかけ、次第に人生を厳しいものにしていきます。

 

外からは一見、問題なく過ごしているように見えても、その内側では孤独や不安、痛みが渦巻いています。この心のギャップが埋まらないままでは、誰にも理解されず、ますます心を閉ざす悪循環に陥ってしまうのです。自分を守るために感情を抑えることが、逆に自分自身を追い詰めてしまうというジレンマに苦しみ続けることになります。

フラッシュバックや感覚過敏に苦しむ日常


一般的に、フラッシュバックや悪夢、感覚過敏に苦しんでいる人は、生活全般にわたる強い疲労感を抱えています。これに加えて、抑うつ症状、感情の喪失(失感情症)、自分が現実から切り離されたように感じる離人症、そしてさまざまな身体症状に悩まされています。日常生活を送る中で、一人になると不安や恐怖、寂しさ、苛立ち、興奮、そして麻痺の状態に陥りやすくなります。

 

こうした状態を避けるため、彼らはしばしば過覚醒システムに乗っ取られることや、急速な麻痺や凍りつきを防ぐ手段として、過食やアルコール、セックス、ペットとのふれあい、会話、人への依存などに頼ることがあります。これらの行動は、一時的に自分のバランスを保つための方法です。しかし、その一方で、こうした対処法もまた、自分を追い詰めてしまうことがあります。

 

日常生活が困難になってくると、彼らは意識を変容させ、現実を曖昧にしたり、忘れやすくしたりすることで心の負担を軽減しようとします。しかし、生活の困難さが増大すると、イライラや麻痺、睡眠障害、さらには身体症状が現れることが多くなり、その結果として解離症状が頻発するようになります。

 

このように、フラッシュバックや感覚過敏に悩む人々の生活は、表面上は何とか保たれているように見えても、内面では深刻な葛藤や苦痛が絶えず続いています。その苦しみは、多くの場合、周囲には理解されにくいものであり、彼らの心にさらに孤独感を与え、状況を悪化させる要因となります。

過覚醒システムに支配される人格部分:内なる攻撃性と孤立の世界


過覚醒システムに駆動された力やスリルを求める支配的な人格部分は、繰り返し脅かされるような体験を通じて形成されます。こうした体験を経て、本来は外に向けるはずだった攻撃性が自分の内側に閉じ込められ、その結果、攻撃性が次第に自分の中で増大し、最終的には過覚醒システムに支配されるようになります。この人格部分は、強い力やスリルを求め、次第に自分自身を乗っ取っていくのです。

 

過覚醒システムに支配される人格部分は、愛着対象を危険な存在と見なし、強くあることが唯一の生存戦略と考えるスキーマが形成されています。「他者に近づいてはいけない」「自分は常に警戒していなければならない」といった信念が根付いており、その結果、殺伐とした孤立した世界に住むようになります。この世界では、神経が常に高ぶり、興奮状態が続き、視野が狭くなります。その結果、最優先されるのは、自分を脅威から守ることです。

 

この人格部分の特徴として、他者とのつながりが断たれていることが挙げられます。過覚醒状態では、周囲の人々と関わることが難しくなり、結果として孤立が深まります。脅威に対して過敏になり、周囲の状況を常に警戒し続けることで、安心感や安らぎを感じることができなくなります。このような状態が続くと、心は次第に閉ざされ、周囲とのつながりを失い、ますます孤独な世界へと引きこもってしまうのです。

過覚醒システムに支配された内なる闘争


過覚醒システムに駆動された力やスリルを求める支配的な人格部分は、愛着システムが作動している人格部分の身体の中に閉じ込められており、そこから解放されようと常に暴れています。この人格部分は、自分に危害を加えようとする者に対して、全力で立ち向かおうとし、日々、悪い奴を倒すために自分を鍛え続けています。また、死への恐怖から自殺を避け、自分の身体を守ろうとする一方で、その身体を乗っ取ろうと目論むこともあります。彼らは、幻聴や夢の中に現れ、無慈悲な自己批判や内的虐待を繰り返し、時には過激な自己破壊行動を引き起こします。

 

この過覚醒システムに支配された人格部分は、愛着システムが作動している人格部分が感情を抑え込み、何も感じようとしない態度に対して強い怒りを抱きます。その怒りは、心と身体に痛みを与える形で現れます。最悪の事態では、最も大切にしている存在を傷つけることで興奮を覚え、自殺さえも生ぬるいと感じるようになります。彼らは、少しの失敗も許さず、自分自身を大量なる罪人として見なし、無慈悲な罰を与えることがあります。

 

最終的に、愛着システムが作動している人格部分は、この内的懲罰者からの解放を切望するようになり、自殺こそが唯一の救いであると信じるようになります。この内的な葛藤と自罰の連鎖は、彼らにとって非常に深刻な心理的負担となり、日常生活を困難にする要因となっています。過覚醒システムに支配された内なる闘争は、心と身体を蝕み続け、その結果、彼らは絶え間ない苦しみに囚われてしまうのです。

生きるか死ぬかの葛藤


 ベッセル・ヴァン・デア・コルクの著書『身体はトラウマを記憶する』には、トラウマが脳と身体にどのような影響を与えるかが詳しく述べられています。彼は、「脳幹と大脳辺縁系の基本的な自己システムは、人が生命を脅かされると著しく活性化し、強烈な生理的覚醒を伴う、圧倒的な恐れや身がすくむような思いを引き起こす」と述べています。トラウマを追体験している人々は、日常生活の中で再び生きるか死ぬかの状況に閉じ込められ、理解しがたいほどの恐怖や抑えきれない憤激に包まれます。心も体も、常に危機が差し迫っているかのように過剰に覚醒し、わずかな音にも驚き、些細なことで苛立ちます。眠りは浅く、食事を楽しむことも難しくなり、やがて凍りつきや解離といった防衛反応で不快な感情を抑えようとするようになります。

 

虐待が行われていた家庭で育った子どもたちは、戦場で戦う兵士と非常に似た脳の構造を持つようになると言われます。彼らの人格部分は、生きるか死ぬかという状況に取り込まれ、常に交感神経が活発に働いています。そのため、恐怖や激しい怒りなどの情動が支配的となり、心身が絶えず緊張状態に置かれます。

 

この人格部分は、あらゆる困難や障害を乗り越えようとする曲芸師のような存在です。彼らは大胆な身振り手振りや芝居がかった仕草を見せ、型破りな行動を取ります。力やスリルを求め、危険を顧みない姿勢で突き進むことも少なくありません。彼らの行動は、内なる葛藤やトラウマの影響を映し出しており、その背後には深い傷や苦しみが隠されています。

逃走の人格部分:過去への再演と危険な逃避行動


逃走の人格部分は、闘争ではなく、過去から逃げることに焦点を当てています。フラッシュバックが起こると、逃走の人格部分は過去の恐怖に引き戻され、目の前に恐ろしい対象(加害者)が現れたかのように感じます。このとき、彼らはただ一目散に逃げることだけに全力を注ぎます。逃走の人格部分は、現在の時間を生きておらず、心のない人形のように自動的に逃走モードに入り、過去のトラウマを再演します。

 

生活全般が困難になると、学校や家から飛び出し、交通のある道路や線路の周辺を無意識のうちに走り続けることがあります。さらに、病院などで逃走モードのスイッチが入ると、病棟から飛び降りるなど、非常に危険な行動を取ることもあります。この逃走モードに入っているときは、彼らの身体が勝手に動き、その間の記憶は抜け落ちてしまいます。

 

このように、逃走の人格部分は過去の恐怖と現在を切り離すことができず、自動的に逃げ出すことで自分を守ろうとします。しかし、その行動はしばしば危険であり、周囲の支援がなければ重大な結果を招くことがあります。彼らの行動を理解し、適切に対処することが、彼らの安全と回復にとって不可欠です。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

 

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