家族がトラウマを生むとき: 機能不全家庭の特徴とその病理


 

1. 子どもが抱える親への信頼とその崩壊

 

どんなにひどい親でも、子どもはその親を信じたいと思うものです。信じやすい子どもは、親の愛情を求めて耐え続け、きっといつか優しくしてくれると家族に対して幻想を抱きます。しかし、その幻想が打ち砕かれ、親の本当の姿に気づいたとき、子どもの心は深く傷つき、崩れていきます。家族を大切にし、憧れてきた人ほど、その期待が裏切られた瞬間に強い絶望感を抱くのです。

 

幼少期には、家庭の偏りや問題に気づかず、それが当たり前だと思って過ごすことが多いです。子どもは親からの優しさを求め、必死に良い子でいようと努め、親を美化しようとします。しかし、成長とともに家庭を客観的に見る力がついてくると、親や家庭におかしな点があることに気づき始めます。このような気づきは、家庭に対する幻想が徐々に崩れていく過程でもあります。

 

家族トラウマには、親に問題がある場合と、子どもが過度に敏感であるがゆえに家庭内の問題を過剰に感じ取ってしまう場合があります。トラウマや発達障害を抱える子どもは、家族の目を気にしすぎるあまり、自分を捻じ曲げ、犠牲にして周囲に合わせようとします。家族の幸せや愛情を求めて努力しますが、本当の気持ちを押し殺していくうちに、次第に心身が傷ついていきます。

 

特に、親との関係に問題があると、子どもはその影響を強く受けます。親の愛情を求め続ける一方で、期待が裏切られる経験が繰り返されると、子どもは自分を守るために感情を押し殺し、心が麻痺していきます。この結果、心だけでなく身体も不調をきたし、家族との関係がますます歪んでいくのです。

 

このような家庭環境に育った子どもが成長すると、親に対する強い怒りや失望感を抱えつつも、親からの愛情を諦めきれないまま大人になっていきます。この感情の矛盾は、自己否定や孤独感を生み、心身に大きな影響を与え続けるのです。

 

2. 家庭内の緊張と心身の負荷

 

虐待を受けてきた人々にとって、幼少期から家族との時間は常に緊張と恐怖に満ちたものでした。彼らは自分の意思で物事を決めることができず、受動的な存在として親の行動や反応に絶えず警戒しながら過ごす日々が続きます。恐れや痛み、怒りといった感情が常に心に渦巻き、その結果、心身は極度の緊張状態にさらされ続けます。

 

家庭内で、親からの脅しや暴力に晒されるたびに、身体は委縮し、神経が痛み、心が深く傷つきます。家の中では、親の気配や物音に過敏に反応し、次に何が起きるかと神経を研ぎ澄まし、ビクビクしながら日々を過ごさざるを得ません。家がまるで牢獄のように感じられ、安心できない環境で縛りつけられているため、精神的な辛さが常に伴います。親が家に帰ってくると、子どもはすぐに自室に閉じこもり、音楽を聴いたり勉強したりして、自分を守ろうとします。しかし、親がヒステリックに怒鳴り散らすたびに、胸が痛くなり、息が詰まり、命の危険すら感じることがあります。

 

どうしようもない親を持ち、その親から逃れることができないという現実は、子どもにとって計り知れないストレスとなります。家庭という私的な空間で毒親とともに暮らすことは、次々と起こる不幸な出来事が続くため、心身の疲労が蓄積し、精神的にも肉体的にも不調をきたします。子どもは親の言動に耐え続けるしかない中で、親は自己中心的な行動を繰り返し、優しさを欠いています。このような状況では、子どもは家庭の中で常に神経を研ぎ澄ませ、緊張状態で過ごすことを余儀なくされます。

 

このような環境では、脳が危機状態に陥り、過緊張や過度の警戒が続くため、身体は凍りつき、夜は眠れなくなります。十分な睡眠を確保できないことで心身にストレスが蓄積され、息切れや身体の節々の痛み、手足の冷えが生じ、体力が徐々に奪われていきます。その結果、疲労が慢性化し、強迫観念や過敏症が現れ、自分の殻に閉じこもりたくなることがあります。

 

家族トラウマが生じる一つの要因は、父親が怖く、母親が父親を止めることができないために、子ども自身が父親を止めようとする場合です。暴力的な家庭環境の中で、子どもは強くなるように教育され、一番でいることを求められます。しかし、家族の要求に応え続けても、家族が自分に共感してくれないと感じ、深く傷つきます。さらに、母親を喜ばせようと努力しても、その母親から踏みにじられ、人生が悲惨なものになってしまうことがあります。また、親が優しい一面を見せても、すぐに態度が豹変し、手のひらを返される経験から、子どもは自分が受け入れられているという感覚を持てず、拒絶されてきたと感じ続けます。

 

夫婦仲が悪く、面前でDVを目撃して育った子どもは、親の怒りを和らげようと必死に努力し、居心地の良い家を作ろうと奮闘します。しかし、どれだけ頑張っても、家族関係を良い方向に変えることはできず、家族と過ごす時間が苦痛でしかなくなります。こうして積み重なった不満や痛みは、次第に子どもの心に深く根を張り、家族に合わせ続けても自分への配慮が全くなかったことに気づくと、さらに傷つきます。

 

このような過酷な環境で育った子どもは、大人になっても家庭内で感じていた不安や恐怖を再体験し、社会で他者との関わりを持つときにも、その居心地悪さが再現されることがあります。家庭の問題に捉われ続けることで、心の内は空虚になり、感情も凍りついて、生気を失ってしまうのです。

 

3. 家族トラウマと社会への影響

 

過酷な家庭環境で育った子どもたちは、大人になってからも、幼少期に感じていた不安や恐怖を繰り返し体験することがあります。家庭内で感じた居心地の悪さや恐怖が、社会に出て他者と関わる際にも再現され、心の内に深い影響を与え続けます。家庭内での問題にとらわれ続けた結果、心は空虚になり、感情が凍りつき、生気を失ってしまうのです。

 

家庭内で親との関係がうまく築けなかった人々は、その居心地の悪さを大人になっても再体験します。家庭内で感じていた緊張感や不安が、社会に出たときにも持ち越され、他者との関わりにおいて居心地の悪さを感じることが多くなります。他者との共同作業や共通の感覚を共有する場面で、スムーズに関わることが難しくなり、心が常に不安定な状態に陥ることがあります。家族に対する理想と現実のギャップに苦しみ続けることで、心は家庭の問題にとらわれ続け、頭の中で同じ考えがぐるぐると回り続けます。

 

家族の問題にとらわれることで、心の内は空虚になり、表情は無表情で感情も凍りついてしまいます。幼少期から苦しみと辛さに満ちた日々を送り、子ども時代の記憶もぼんやりとしていて、その記憶が本当に正しいものかどうかもわからなくなります。子どもの頃の出来事を思い出そうとしても、感情が伴わず、単なる出来事としてしか思い出せないのです。自己の連続性や一貫性が欠け、代わりに「こうありたい」という理想像や妄想でその空白を埋め合わせるようになります。

 

親との関係に長年悩んできた人々は、親の言動を理解できず、常に親の顔色をうかがい、怒らせないようにと良い子でいることが習慣となります。幼少期には親に好かれたい一心で親に期待して近づきますが、親に本音や感情を伝えると、拒絶される経験を繰り返します。親への依存感情がことごとく拒否されることで、自分を責める思考が定着し、裏切られたことへの怒りを抱いても、それを伝えるとさらに強い拒絶を受け、心が深く傷つきます。このような経験が積み重なることで、家族と一緒にいても一度も満たされることがなく、心は次第に孤立していきます。

 

毒親や毒兄弟を持つ子どもたちは、親や兄弟の異常な言動に日々悩まされるだけでなく、それが自分の考え方や感じ方に影響を与え、価値観や自己に浸透してくることに恐怖を感じます。親のDNAや価値観、行動が自分の一部となり、彼らの血が自分に流れていることを嫌悪し、時には自分の存在そのものを拒絶したくなるほどの自己嫌悪に陥ります。

 

目に見える暴力がなくても、夫婦の仲が悪い家庭で育っ人は、その奇妙さを肌で感じ取り、夫婦関係の緊張や冷え切った状態が心に影響を与えます。喧嘩や冷戦状態が続く家庭環境では、無意識のうちにその暗さや虚しさを内面化し、世の中を見る目が悲しみに満ちたものとなります。家庭内での不和が子どもの心に深い傷を残し、その影響は大人になっても消えることなく、社会生活や対人関係においても影を落とし続けます。

 

毒親の状態と理不尽な目に遭う


トラウマを抱える親は、常に配偶者や子どもに対して警戒心を抱き、緊張した状態で過ごしています。このため、脳は過剰に情報を処理し、神経が張りつめた状態になります。ほんの些細な変化にも敏感に反応してしまい、嫌なことがあると心の負担が大きくなり、八つ当たりをしてしまうことがあります。こうした親は、日々の疲労が蓄積されて心に余裕がなくなり、イライラして怒鳴ったりする一方で、自分を責めて罪悪感に苛まれることも多く、その感情の振れ幅が非常に大きいため、子どもはその影響を強く受けてしまいます。

 

1. 親の価値基準が子どもに与える影響

 

親子関係の難しい点の一つは、親が持つ価値観や感じ方が、そのまま子どもの行動や性格を評価する基準になってしまうことです。親が感じる「態度が悪い子」という評価は、実際には親自身の基準に基づいていることが多く、必ずしも子どもの本質を反映しているわけではありません。子どもが親を嫌がったり、避けたりする理由には、親が普通から外れた行動をとっている場合も考えられますが、親は自分の価値観を基準に子どもを評価しがちです。こうした状況が続くと、子どもの個性や本来の性質が誤って決めつけられ、親子関係にさらに溝ができてしまう可能性があります。

 

親がトラウマを抱えている場合、その影響は子どもに大きく反映されます。親の不安定な感情や過剰な警戒心が子どもに伝わり、子どもはそれに対処するために自己を抑えたり、親の期待に合わせようとするあまり、自分を見失ってしまうことがあります。このような親子関係の中で育つ子どもは、親の価値基準に縛られ、自分自身の感情や考え方を正しく認識できなくなり、成長過程で深い影響を受けることになります。親のトラウマが与える影響を理解し、親自身が自分の感情や価値観に対して向き合うことが、子どもとの健全な関係を築くために重要です。

家族をトラウマを抱える人はその後、家庭をどうとらえるか


親が子どもを育てたのだから、子どもは親に感謝するべきだという考え方は、確かに良好な家庭においては当てはまるかもしれません。しかし、機能不全家庭で育ち、親子関係がこじれてしまった人にとっては、そのような単純な感謝の気持ちを抱くことが難しい場合があります。

 

1. 家族制度への疑問と葛藤

 

機能不全家庭で育った人は、家族に対して憧れを抱きつつも、その幻想が現実とはかけ離れていることに気づき、家族制度に疑問を持つことがあります。親子関係において無償の愛が当たり前だとされる考え方に対しても、違和感や疑念を感じることが多く、愛情や家族に対する概念が錯覚や妄想、被害感情、劣等感といった複雑な感情に絡まれてしまうこともあります。一方、ほど良い家庭環境で育った人々は、家族制度や子どもを持つことに対して抵抗感が少なく、疑問を持たない傾向があります。

 

2. 自信と不安の狭間で

 

自分自身のことで精一杯な状態にあるため、子どもを責任もって育てる自信が持てないことも、家族にトラウマを抱える人にはよく見られる感情です。自分が幸せではなかったからこそ、子どもを持つことが幸せに結びつくとは思えず、家族を築くことに対して強い抵抗を感じることもあります。無意識に子どもを持つことを前提とする人々に対して理解ができず、そのような感覚を不思議に感じることもあります。

 

3. 家族への冷めた視点

 

家族にトラウマを抱える人は、家族に対して寒々しく寂しいイメージを持ち、世間で言われる「仲の良い家族」といった理想に対して批判的な見方をすることが多いです。彼らは、「家族とはこうあるべきだ」という通説に敏感に反応し、根本的に家族とは何なのかを深く考えるようになります。そして、そのような理想像に対して、どこか冷ややかな視線を向けることがあるかもしれません。

 

家族に対する期待と現実のギャップに苦しむことで、家族制度そのものに対して疑念を抱き、その概念に対して批判的な立場を取ることがあるのです。彼らにとって、家族とは単なる社会制度ではなく、自分自身の存在や価値観を揺さぶる、複雑で時には痛みを伴うテーマであることが多いのです。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

公開:2020-05-18

論考 井上陽平

 

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