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臆病な性格と自己愛の関連


自己愛性人格障害(自己愛性パーソナリティ障害)の人は、自己愛憤怒を引き起こすような情動的な人格部分を持っていることがあります。恐怖や脅威を感じて、身体がビクッと反応すると、脳に危険信号を送り、情動的な部分が活性化されて、心臓がドキドキし、興奮していき、怒ったり、衝動的な行動を取ったり、調子に乗るようになります。情動的な部分は、境界性パーソナリティ障害の人ほど大きくなく、ある程度、自己の一貫性は保たれて、安定しています。

 

もともとの自分は、自分に自信がなく、臆病で、緊張が強い子でしたが、子どもの頃から強い人間に憧れてきました。弱い自分をごまかして、わざと攻撃的に喋ったり、虚勢を張ったり、ムードメイカーになろうとしてきました。彼らは、自分の中の情動的な人格部分の影響を受けて、勇気ある行動が取れますが、その一方、無茶苦茶な行動を取ってしまうこともあり、人生が大変になることもあります。もともとの自分は、自分の気持ちをコントロールできずに、傷つけられたり、傷つけたことを気にして、人間関係で嫌われることが怖く、相手に合わせてきつくなり、窮乏しています。その一方で、これ以上傷つかなく済むように、周りを警戒して、上から目線で物を言うような部分が成長します。

 

例えば、自己愛過敏型(解離傾向)の人は、気弱で大人しく、臆病な部分が日常生活の大部分を担っていますが、内側には、相手を見下すような態度を取り、計算高く、高慢に振る舞う誇大な部分が取り憑いているように見えます。厳格な大人の前では、気弱で大人しく、臆病な部分が対応しますが、自分より下の相手に対する時は、上から目線になり、高慢に振る舞う誇大な部分が表層の世界に現れます。また、大人が厳しい対応すると、上から目線で、高慢に振る舞う誇大な部分から、顔が突然恐怖に怯えた表情になり、気弱で大人しい子どもに戻ることもあれば、闘争スイッチが入り、相手を叩きのめそうとして激しく罵倒することがあります。

 

臆病な部分と相手を見下すような態度を取る部分に分裂している自己愛性人格障害の人は、母子関係のトラウマや発達早期のトラウマ、発達障害の傾向を持っています。子どもの頃から、母親の前では気弱で大人しくしているときもあれば、癇癪を起こして、母親を困らせていることがあります。母親は子どもの怒りをうまく受け止められずに、怯えたり、叱りつけたりするので、子どもは怒りや恐怖の情動に乗っ取られて、自分の気持ちをコントロールできなくなります。子どもは、自分の気持ちをコントロールできず、大切な人との人間関係がうまくいかなくなるので、自分のことが信じられなくなります。

 

また、もともとの臆病な自分は、最初は良いように思われますが、次第に心が狭いと思われるようになります。小さなことでも気になってしまい、自分の気持ちのコントロールがうまくいかなくて、すぐに不満を言ってしまったり、苛立って相手を罵ったりするために、人間関係が続きません。問題としては、自分の加害性を認められなくて、自分の気持ちをそうさせた相手が悪いと被害者ぶります。また、人間関係の失敗から、不信感が強まりやすく、すぐに相手の言動を嫌味として過敏に捉えるなど、歪んだ考えを持つようになります。そして、頭の中の思考が勝手に進み、妄想が強くなって、勘違いや思い込みで傷ついていきます。

 

このように人間関係をことごとく失敗していくようになると、見捨てられ不安を感じている臆病な自分に対して、解離を起こし自己愛憤怒する攻撃的な部分が強くなります。この解離した後の攻撃的な部分のせいで、優しくしてくれる人を傷つけてしまい、人間関係を壊してしまいます。そして、自分がしたくないことまでしてしまって辛くなり、どうせ自分は駄目なんだと自分を責めて、もともとの臆病な自分はどんどん窮乏していきます。やがて、もともとの自分に取って代わり、相手を見下し、計算高い部分が日常生活を担うようになります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平

 

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