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自己愛性パーソナリティ障害の特徴


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自己愛の病理と人格形成


自己愛性人格障害が形成される要因は、大きく二つに分類できます。

 

一つ目のタイプは、幼少期からの逆境体験、つまりトラウマによって形成されるものです。このタイプの人々は、幼少期に受けたトラウマによって身体内部が常にストレスにさらされ、脳と身体を繋ぐ神経系が過剰に敏感になっています。彼らは安心感を得ることが難しく、常に他人の目を気にしながら、自分のポジションを確保しようとしています。その結果、自己防衛として「闘争・逃走」反応や、「凍りつき・死んだふり」といった過剰な防衛反応を取るようになります。

 

二つ目のタイプは、軽度の発達障害の傾向があり、遺伝的要因が強く影響しているものです。このタイプの人々は、生まれつき神経系が繊細であり、凍りつきやすく、パニックに陥りやすい特徴を持っています。彼らは、自身の生まれ持った資質の弱さと、トラウマや発達障害という宿命を背負いながら、常に脅かされ続ける環境の中で生きてきました。等身大の自分では無力だと感じる彼らは、自分を守り、生き延びるために、優位に立つ生き方を選択することが多いのです。

 

これらの要因が相互に作用し、自己愛性人格障害が形成されます。背景には、常に他者からの評価に対する過敏さや、自己防衛への強い意識があります。彼らは、自身の内面的な脆弱さを隠し、社会の中で自分を守るために、過剰な自己愛や優越感を持つようになります。その結果、他者との関係においても、自己愛的な行動や態度が強調され、自己を守るための戦略として機能しているのです。

 

自己愛性人格障害の人は、幼少期からトラウマ的な環境で育ち、適切な親の愛情を受けられなかったことが多く、その結果、強い警戒心や防衛本能、攻撃性を持つようになります。彼らは、自分を落ち着かせる場所が見つけられず、人と安心して繋がることが難しく、自然にリラックスすることができません。気分の波が激しく、心のバランスを保つことが困難で、安定した状態を感じることがほとんどありません。

 

幼少期から、親の顔色を伺い、先回りして行動する習慣が身についており、本来の自分が望んでいた行動ができず、内面には鬱屈した感情が蓄積されています。そんな状況から、自分を元気づけるために、頭の中で「自分は特別な存在だ」と思い込むことで、自己肯定感を保とうとします。

 

また、他者の顔色を伺い、一生懸命に努力し、周囲からの評価や特別扱いを受けることで、自分が認められたと感じ、心が元気になります。その結果、身体が軽く感じられ、活力が湧いてくるのです。こうしたパターンが続くと、他者の評価に過度に依存し、自己愛的な行動を強化する悪循環に陥ることがあります。

 

幼少期からトラウマを抱えていると、不快な状況に直面したときに強い不安を感じ、ソワソワして落ち着かなくなりがちです。どうすればいいのか悩み、自意識過剰になり、解決策が見つからないと、筋肉が硬直し、手足が震えたり、汗をかいたり、顔が真っ赤になったりすることがあります。また、考えがまとまらず、周囲が見えなくなり、ネガティブな感情をコントロールできずに、自分が無力であることを痛感します。このような無力感に耐えきれず、万能感を求めて「すごい自分」を想像することが唯一の逃げ道となります。

 

しかし、理想的な自分でいられなくなると、何をしても満足感が得られず、体調が悪化し、無力感が増し、何もできなくなります。このような人々は、次の脅威に常に備える人生を送り、身体は常に身構え、頭の中では論理的思考を展開し続けます。現実の良いことも悪いことも、心の状態が過剰に身体に反映されやすいため、傷つきやすく、自己像が両極端に揺れ動くことが特徴です。

 

彼らは「すごい自分」を空想し、どうやって優位に立てるかを常に考え、自分に有利な状況を作り出し、新しいルールを設定することで自己防衛を図ります。このような防衛的な生き方は、心の平穏を保つための戦略であり、同時に現実とのギャップを埋めるための苦しい努力でもあるのです。

 

トラウマの影響を受けた人は、環境の変化に敏感であり、常に周囲の状況に目を光らせ、耳を澄ましています。人の気配や表情、態度、視線、言葉、物音、匂いなど、あらゆる刺激を敏感に察知し、身体は常に緊張状態にあります。彼らは強い警戒心を持ち、頭の中で絶えずアセスメントを繰り返しますが、物事がうまくいかないと、不快感が増し、胸の痛みや動悸の激しさ、拳やお腹に力が入るなど、身体的な反応が現れます。体温が下がり、全身が縮こまり、本来のリズムを失ってしまうこともあります。

 

このような状態に対処しようと、無意識のうちに縮こまった身体を広げようと試み、どう行動すべきかを考え、問題解決を図ります。しかし、他者からの批判や拒絶に直面すると、身体が過剰に反応し、不快感や嫌悪感が強まり、激しい怒りや苦痛、落ち込みを感じることがあります。

 

他者との関係がうまくいかない場合、彼らはさまざまな対処方法を取ります。相手を説得しようとしたり、投げやりな態度を取ったり、その場から退避したり、感覚を麻痺させたりします。あるいは、自分を「すごい自分」として想像し、そのイメージにしがみつくことで、自分の中のルールに従って行動することもあります。

 

また、敏感で傷つきやすい身体を切り離し、頭の中で都合の良い論理的思考を展開して、万能的な自己イメージを作り上げることで、自分を安定させる人もいます。彼らは、その万能的なイメージ通りの自分になりきり、周囲から良く思われていると信じ込むことで、本来の自己の欠損感や不全感を埋めようとします。このようにして、自分自身を守りながら、なんとか日常を乗り越えようとするのです。

 

 

自己愛性人格障害の特徴は、さらに細かく分けると7つの要素に分けられます。以下、その一つについて詳しく説明します。

 

①母親の不在や共感不全による自己不全感

自己愛性人格障害の形成に大きく関与するのは、母親との関係のこじれや、母親の不在、あるいは共感不足による深い劣等感、無力感、孤独感、そして恥辱感です。これらの自己愛的な傷つきが、彼らの心理に深く影響を与え、自意識の過剰な発達を引き起こします。自己愛性人格障害を持つ人々は、世の中の不条理さに対して、犠牲者としての自分を認識しながらも、相手の要求に対して不満を抱え続けます。

 

彼らは不満を我慢しつつも、内心では反発心が育ち、自分の意見が絶対に正しいと固執するか、逆に絶望の中で特定の対象を理想化し、嗜癖的に依存するようになります。このような行動は、本来感じている深い痛みから逃れるための手段として行われます。

 

特に、母親の不在や共感の欠如によって育った子どもは、自分が価値ある存在であることを認識させてくれる「鏡」となる存在を持てず、その結果、感情や自己調整機能に障害が現れます。彼らは、人と穏やかに過ごすことが難しくなり、気分の浮き沈みが激しくなります。こうした状況から、時には優越感に浸り、尊大に振る舞うこともあれば、劣等感や無力感に苦しむこともあります。このような極端な行動パターンを繰り返すうちに、自己愛性人格障害が徐々に形成されていくのです。

 

 

②自己愛性人格障害の交感神経優位型(過覚醒)

自己愛性人格障害の一つのタイプである「交感神経優位型(過覚醒)」は、子ども時代に経験したトラウマの影響が深く関与しています。これらの人々は、常に交感神経が活発に働いており、その結果、過覚醒状態が続いています。過覚醒状態にあると、脳の前頭葉(前頭前皮質)による実行機能が低下し、感情の制御を担う扁桃体が過剰に反応します。そのため、興奮が高まり、自分の限界を理解する力が鈍くなり、理性的な判断が難しくなります。結果として、無計画でリスクを考慮しない行動を取りがちになり、自己中心的な思考に陥ることが多くなります。

 

こうした人々は、子ども時代に落ち着いて過ごすことができず、常に緊張を強いられる環境で育ちました。そのため、社会的なつながりを維持するために必要な「腹側迷走神経複合体」の機能が弱く、他者との円滑なコミュニケーションが難しくなっています。日常生活の些細な出来事に対しても、不安や動揺を感じやすく、これがトラウマのトリガーとなり、さらなる過覚醒を引き起こすことがあります。

 

調子が良い時には、他人に対して好意的になり、次々とアイデアが浮かび、活発に行動しますが、その行動はしばしば他者のことを考慮しない一方的なものになりがちです。反対に、不快な状況に直面すると、闘争本能が剥き出しになり、自分の主張を押し通し、相手を打ち負かすことで自分のエネルギーを高めようとします。このように、自律神経系の調整がうまくいかず、覚醒度の変動が激しいため、気分の浮き沈みも大きく、安定を求めるがゆえに周囲に過度に気を遣うこともあります。

 

安定を求めるために、自己愛性人格障害の交感神経優位型の人々は、強圧的な態度を取ることがあり、自分が常に一番である必要があると感じます。また、金銭や欲望に執着し、極端な自己中心的行動を取る傾向があります。彼らは、親からの脅威を経験した結果、他者との身体的接触を危険と感じ、距離を置くことで安全を確保しようとします。対象のいない世界で、自分の力とスキルを磨くことに集中し、それが自己の安全感を強化する手段となります。このタイプの人々は、人を愛することよりも、自己満足や自己陶酔に陥り、自分の技能を高めることに焦点を当てがちです。 

 

③ 自己愛性人格障害の過敏型(自意識過剰)

自己愛性人格障害の過敏型は、発達早期に深刻なトラウマを経験し、その衝撃に対処できず、心が耐えきれない状態に陥った結果形成されます。これらの人々は、過去の外傷体験による強い恐怖や無力感を抱えており、心と身体が凍りついたり、死んだふりをしたり、解離や虚脱状態に陥ることがあります。彼らの心には二つの対照的な側面があります。一方では、過去のトラウマによって深く傷つき、恥や敗北感を強く感じている部分があります。他方では、再び同じ苦痛を経験したくないという強い警戒心が働き、周囲を細かく観察し、恥や傷を避けるために常に戦略を練る部分があります。

 

彼らは、自己の優位を確保するため、または理想的な対象と同一化するためには、ためらいなく行動し、媚びるような態度を取ることもあります。理想的な対象と同一化することに強く固執し、ライバルとなり得る人物を敵視し、陰湿な手段でターゲットを攻撃することもあります。このような行動は非常に自己中心的で、周囲を操作することも厭いません。彼らの自尊心は、理想的な対象からの承認や評価によって支えられており、それによって自分の価値が高まり、活力を得るのです。

 

彼らの心は非常に繊細で傷つきやすいため、常に自意識過剰になりがちです。日常的にリスクや危険に対する恐怖を抱えており、自分の弱点や恥ずかしい部分が他人に露見しないように警戒しています。予測不可能な出来事や外部の刺激に対して非常に敏感で、常に最悪のシナリオを考え、どう対処すべきか分からなくなることがあります。特に酷い場合には、何も選択できなくなり、他者からの助けや好意すら拒否し、自己中心的な世界に閉じこもってしまいます。

 

このような状態が続くと、彼らは自分自身の感覚や感情に鈍感になり、自己を感じられなくなります。その結果、自己充足感を得ることが難しくなり、頭の中で「自分はすごい」という妄想に耽るか、他者に対して過剰な期待や要求を抱くようになります。この自己中心的な思考は、彼らをますます孤立させ、現実との乖離を深める要因となるのです。

 

 

④ 自己愛性人格障害の演技型

自己愛性人格障害の演技型の特徴は、悲惨な家庭環境で育った人々が、生き延びるために親の機嫌を取ったり、親が望む人間像を演じることに慣れてしまうことです。彼らは本当の自分を隠し、観察力を駆使していくつもの仮面を被りながら生きる人生を送ります。内面では無力さを感じている一方で、自分がなりたい理想像を抱いており、その理想と現実との間に大きなギャップが存在します。このギャップが彼らの行動に大きな影響を与えています。

 

日常生活では、自分の弱さを露呈することを極端に恐れ、強い劣等感を抱えているため、恥をかいたり批判されたりすることに対して非常に敏感です。本当の自分という感覚やアイデンティティが希薄で、自分自身を満たすことができないため、自分の外見や振る舞いに過剰にこだわります。規則正しく振る舞い、素晴らしい自分を演じることで、周囲からの肯定的な反応を得ようとし、その反応を自分の自己価値感の源とします。

 

さらに、自分の存在感の希薄さを埋めるために、他者と自分を比較し、自分が他者よりも優れていると信じ込むことで、自己愛的な特徴が誇大化されます。彼らは、表と裏の顔を巧みに使い分け、最初は謙虚で誠実な印象を与えながらも、徐々に本性を現し、口達者で演技が得意な一面を見せることがあります。場合によっては、快楽主義的な欲望に支配され、作り話を交えて自分を飾り立て、相手を巧みに操ることすらあります。

 

このように、自己愛性人格障害の演技型は、外見上は魅力的で社交的に見えることが多いものの、その裏には深い劣等感や自己不全感が隠されており、それを覆い隠すために演技を続けることで、自己の内面的な不安定さを補おうとしています。しかし、その結果として、ますます自己との乖離が進み、自己愛的な問題が深刻化していく可能性があります。

 

 

⑤ 親のモデリングの影響

自己愛の強い親のもとで育つ子どもは、常に親の顔色を伺い、その言動や信念を無意識のうちに模倣する傾向があります。親からの「一番になれ」「強く育て」「良い子でいろ」などといった強迫的な要求を受け入れ、親の価値観をそのまま自分のものとして取り込むことが多いです。自己愛が強い親は、わがままで自己中心的であり、時には暴力的な行動も見られることがあります。彼らは自分の価値観を絶対視し、それを子どもに押し付けることで、自分の意に沿った子育てを行います。

 

このような環境で育った子どもは、常に親の正解を探し出そうとし、自分の価値を認めてもらうために懸命に努力します。その結果、特別扱いをされることを強く望み、他者からの評価に依存する人生を送りがちです。彼らにとって、親の期待に応えることが自己価値を確認する唯一の手段となり、自己愛的な性格が形成されていきます。

 

また、こうした環境で育つことで、子ども自身も自己愛的な傾向を持つようになり、自分を特別な存在だと感じたい欲求が強まります。親の価値観をそのまま模倣することで、親と同様にわがままで自己中心的な性格を持つようになり、周囲の人々に対しても同じような態度を取ることが増えていきます。

 

このような家庭環境では、子どもが自分自身の価値観やアイデンティティを形成する機会が奪われ、常に他者の評価を求める生き方を余儀なくされるため、健全な自己愛を持つことが難しくなります。

 

 

⑥ 社会や文化的要因

現代社会では、女性の社会進出が進んでいますが、依然として男尊女卑の意識が根深く残っているため、男性が女性に対して威圧的な態度を取ったり、冷たい言葉を投げかけることがしばしば見られます。また、体育会系の文化が強い環境で育った人は、上下関係が厳しく、先輩の言うことが絶対の規律となります。このような画一化された秩序の中で育つと、その価値観を無意識のうちに受け入れ、自らもその価値観を押し付けるようになりがちです。その結果、モラルハラスメントやDVに発展するケースが多く見られます。彼らは自分の価値観にそぐわないことを嫌い、身近な人々に対してそれを強制し、「正しい」と思い込んだ方法で躾けようとする傾向があります。

 

一方で、社会や家庭の変化に伴い、人々の心が以前よりも自由になり、多様性が広く認められるようになりました。しかし、その自由の裏には、利益を最優先する風潮が蔓延し、損得勘定が一般的な価値観となっています。このような社会では、法律さえ守れば何をしても良いと考える人が増え、正義や倫理よりも、快楽や欲望を満たすことが優先されるようになっています。

 

さらに、利益追求型の格差社会において、不公平な立場に置かれた子どもたちは、他人と同じように生きられないことへの辛さや不満、悲しさ、悔しさ、そして劣等感を抱くことが多くなります。このような状況下で、自尊心を取り戻すために自己中心的な行動を取りがちで、浅ましい人間性が育まれることがあります。

 

また、トラウマを抱えている人の中には、学校教育や行事といった集団生活において、規則やルールに縛られることに強い不快感を抱く場合があります。彼らの脳や身体は、これらを再外傷化のサインとして受け取り、無規範で自由を求める傾向が強くなることがあります。一方で、不確実な状況を嫌うため、論理的に考え、ルールや規則に従うことを選ぶ場合もあります。彼らにとって、どちらの選択肢を取るかは、その時々の心の状態やトラウマの影響によるものであり、常に一貫しているわけではありません。

 

 

⑦ 神経系の発達の問題

自己愛性人格障害と見える人の中には、生得的な発達障害を持つ人が含まれています。これには、軽度の自閉傾向や他者の表情を読み取ることが苦手、抽象的な言葉や比喩を理解するのが難しい、感覚過敏やこだわりが強い、視覚情報に優位性を持つ、体質が弱い、自他の区別が曖昧である、二つのことを同時に行うことが苦手、そして恥の体験をうまく処理できないといった特徴があります。これらの特徴があると、能力のアンバランスが顕著になり、世間一般の常識と自分の認識との間に大きなズレを感じることがあります。

 

また、生まれつき神経の働きが非常に繊細な人は、都市型生活のストレスにさらされやすく、疲弊してしまうことが多いです。こうした人々は、他者との交流において、一般的な人々とは異なる質の対象を求める傾向があります。彼らは自分にとって快適で理解できる世界を築こうとしますが、その過程で他者とのコミュニケーションに難しさを感じることが多く、結果的に社会から孤立することがあります。

 

自己愛性人格障害のように見える行動も、実際にはこうした神経系の発達に起因するものが多く、単純な人格障害として捉えるのではなく、彼らが直面している発達の課題やストレスに対する理解が必要です。このような視点を持つことで、彼らの行動や態度をより正確に理解し、適切な支援や対応を考えることができるでしょう。

 

これらの要素が複雑に絡み合いながら、トラウマという不条理な環境の中で育つと、過去の被害経験に過敏になり、人と繋がることが極めて困難になります。その結果、彼らは人間関係においてもがき苦しみ、対象を求める質が極端に偏ることが多いです。自律神経系や覚醒度の調整が不安定であるため、本来の自己の不全感と、理想的で完璧な自分との間に大きなギャップが生じます。この不一致が、彼らが他者に対して共感や罪悪感を感じにくくし、自分の欲求が満たされるか、将来に報酬が期待される場面でのみ活発に行動する傾向を強めます。

 

こうして、自己愛性人格障害が形成されていきます。自己愛性人格障害の人は、利己的で他罰的な性格を持ち、自分の欠点を認めようとせず、他者の意見を素直に受け入れることが難しくなります。さらに、他者との競争に過剰に反応し、自分の目的を達成するためには、他者を操作する自己中心的な行動を取ることが多くなります。このような行動パターンが、彼らの人間関係をさらに複雑にし、深い孤独や不満足感を抱える原因となることが少なくありません。

 

 

▶自己愛の病理とは

 

自己愛の病理とは、ありのままの自分を愛せなくなる心理的な状態を指します。例えば、虐待やネグレクトを受けた家庭環境での絶望、性被害を受けて変えようのない体を持つことの苦しみ、ギャンブルやアルコール依存の親を持つ無力感、いじめられても戦えない自分への失望、そして、父親から暴力を振るわれる母親を見て何もできない無力さなど、さまざまな状況で心に深い傷を負うことがあります。

 

こうした経験が積み重なると、人は次第に自分を愛することができなくなります。深く傷ついた体験を持つ人は、自分を「汚らわしい存在」や「無力な存在」と自己評価してしまいがちです。こうした否定的な自己認識が強まると、心の中で「良い自分」と「悪い自分」の間で葛藤が生じます。良い部分(他者との関係で承認された側面)が、悪い部分(他者から必要とされない、あるいは否定された側面)を排除しようとし、その結果、自己像が分裂してしまいます。この分裂が、自己愛の病理をさらに深め、自己の統合が困難になる原因となります。

 

 

この二つに分裂した自己像を統合することは非常に困難であり、その結果、ありのままの自分を愛することができなくなります。別の言葉で言い換えれば、痛ましいトラウマに曝され、尊厳が踏みにじられることで、自己を構成する各部分が極端に分裂してしまうのです。その瞬間、等身大の自己像や他者像が粉々に崩壊してしまうことがあります。

 

例えば、快か不快か、万能感か無力感、善か罪悪か、純潔さか不潔さ、優越感か劣等感、理性か本能、亢進した部分か退行した部分、サディズムかマゾヒズムといった極端な二つの感情や態度の間で引き裂かれることで、極端に異なる自己が同時に存在するようになります。そして、その両極端の間を行ったり来たりすることで、自己イメージはますます混乱し、結果として極端な行動を取ることに繋がります。これは、自己像の不安定さが原因で、過剰に反応したり、無力感に苛まれたりするなど、予測不可能な行動に出ることがあるのです。

 

発達早期にトラウマを経験した場合、子どもは現実の中で自分があまりに小さく無力であると感じ、生き延びるために大きな苦しみを味わいます。例えば、大人から侮辱され、恥をかかされ、理不尽な仕打ちを受けた子どもは、その心に深い傷を負い、弱くて小さな存在としての自分を受け入れざるを得ません。しかし、こうした弱さや無力さのままでは生きていくことが難しいと感じると、生き残るための手段として、強さや冷酷さを身に着け、時には加害者の側に回ることもあります。

 

このような状況に置かれた子どもは、表面上は大きく見せたり、明るく振る舞ったり、まともな人間であるかのように装い、本当の感情を隠し続けます。無意識のうちに強く、元気で明るい自分を演じることが生き延びる手段になっているのです。また、時には過剰に警戒し、周囲を敵視して攻撃的に振る舞う「狼」のような状態で生きる人もいます。さらに、現実の困難な日常から逃れるために、夢や空想の中で生きることを選ぶ人も少なくありません。

 

このように、親子関係や学校でのトラウマが子どもに与える影響は非常に深刻であり、自己像の極端な分裂を引き起こすことがあります。その結果、将来の人格形成に大きな影響を及ぼし、自己を保つための不健康な行動や思考パターンが身についてしまうのです。

 

 

▶自己愛性パーソナリティ障害の形成過程とその本質

 

①自己愛性パーソナリティ障害の形成過程

自己愛性パーソナリティ障害がどのように形成されるのか、その過程を紐解いてみましょう。この障害を持つ人々は、幼少期に養育者からのネグレクト、虐待、過干渉、厳しい躾など、不条理な環境で育ちました。こうした経験により、彼らは深く傷つきやすくなり、自己を守るために表面を取り繕うようになります。幼少期に感じた家庭環境での居心地の悪さは、成長してもなお、家庭や職場などの人間関係の中で再体験されます。

 

②歪んだ自己防衛と人間関係の困難

このような背景から、彼らは人間関係において強いストレスを感じ、時には極端に落ち込むこともあれば、周囲が理解できないほど傲慢で尊大な態度を取ることもあります。これらの振る舞いは、自己防衛の一環であり、彼らが生き延びるために作り上げた歪んだ世界です。しかし、この歪みこそが、彼らをさらに孤立させ、心の深い部分での傷を癒すことを難しくしています。

 

③母親との関係と自己概念の形成

子どもは母親(養育者)との関わりを通じて自己を意識し、自己概念を発達させます。母親の存在があってこそ、自己が成立し、母親からの暖かく優しい眼差しによって、自分に価値があると感じます。しかし、母親が不在であったり、ネグレクトや虐待、過干渉、厳しい躾のもとで育った場合、子どもは他者への信頼感を持てず、自己の素晴らしさを確信できません。その結果、自己像が歪み、心や身体に病的な影響が現れることがあります。

 

④極端な自己イメージの形成

例えば、母親に甘えようとしても、返ってくるのは絶望的な感情ばかりで、心が揺さぶられ疲れ果ててしまうような家庭で育つと、次第に気分がどんどん落ち込み、「光の側面」と「暗黒面」という二つの極端な自己イメージを理想化してしまうことがあります。母親から愛情を全く受け取れなかった子どもは、心を安定させる経験が不足しており、常に不安定な状態にあります。母親に見捨てられないように必死にしがみつき、良い子を演じたり、他人よりも努力して力や支配を理想化することで、自分の存在意義を見出そうとする傾向が強まります。

 

⑤自己愛性パーソナリティ障害の進行

やがて、生活全般の困難に圧倒され、自分が自分でいられる感覚が次第に麻痺していくと、古代的な情動や攻撃性が身体に深く浸透し、焦りや不安、緊張に苛まれるようになります。常に脅かされる環境にいることで、過覚醒が慢性的に続き、感情や身体を司る神経系の調整が難しくなります。このような状況下では、自己調整機能や覚醒度の不全感を克服しようとするために、強迫的に行動するようになります。その結果、自己中心的な性格が強まり、自己不全感と完璧であろうとする自分との不一致がますます大きくなります。

 

⑥自己防衛と脅威への対応

自己愛性パーソナリティ障害の人々は、自己防衛のために作り上げた歪んだ自己像に執着し、その結果として、自己と現実のギャップに苦しむことになります。彼らの行動は、過去のトラウマや不安定な自己感覚によって形成されたものであり、特に脅威を感じる状況下で過敏に反応することが特徴です。

 

常に脅威にさらされていると感じる彼らは、身体的にも精神的にも緊張状態にあり、全身が過緊張し、過覚醒状態が続きます。このため、周囲の状況に対して過度に敏感になり、常に危険を察知しようと細かくチェックする傾向があります。急な出来事や予測できない事態に対する恐怖が強く、常に先を見越してリスクを考えるようになります。

 

このような過敏な反応は、彼らが現実に対応しきれないときに、自己中心的な行動をとる原因となります。不快な状況においては、問題を解決することに固執し、物事を白黒はっきりさせようとする傾向が強まります。

 

⑦逃避と自己中心的な行動

現実が辛い場合には、頭の中で万能的な空想の世界に逃避し、自分を安定させようとする傾向が出てきます。さらに、危険から身を守るためや、恥をかかないようにするために、人に良く思われることが習慣化し、常に周囲の反応や評価を気にするようになります。また、興奮する場面では、周囲が見えなくなるほど熱中し、自己中心的な行動を取ることが増えます。快感を求める場面では、身体感覚が異常に鋭敏になり、自分自身の状態が環境によって大きく変わります。

 

⑧自己感覚の崩壊と他者への影響

さらに、自己愛性パーソナリティ障害の人々は、自己感覚の崩壊により、自分自身を満たす力を失い、他者を利用することで自己を保とうとする傾向があります。彼らは、自己の不安定さを補うために、他者を自分の一部のように扱い、自己満足を得る手段として利用することがあります。この結果、他者との間に大きなズレが生じ、共感や理解が難しくなります。

 

自己感覚が麻痺しているため、自分自身を理解することが難しくなり、さらに他者の気持ちを理解することも困難になります。これが、自己愛性パーソナリティ障害の人々が周囲から孤立し、ますます自己中心的な行動に走る原因となるのです。

 

⑨トラウマの影響と警戒心の強化

発達早期に無力化されるようなトラウマを経験した人々は、再び同じような破局的な体験を避けるために、常に用心深く行動します。彼らは、完璧な対象を理想化し、その対象に自分の存在感を認めてもらおうと努力します。しかし、こうした努力が逆に彼らを追い詰め、他者を不当に利用したり、責任を転嫁したりする行動に繋がります。

 

このような警戒心が解けず、身体の神経系が過剰に働き続けることで、ストレスが蓄積され、体調を崩すことが多くなります。その結果、自己防衛のために自分の好き嫌いを明確にし、自己中心的な行動を取ることで、少しでも楽になろうとするのです。

 

結論

こうした要因が複雑に絡み合い、彼らの心はガラスのように壊れやすくなり、痛みや傷つくことを極度に恐れるため、実際の自分よりも「凄い自分」を誇張し、弱さを隠そうとします。このようにして誇大化した自己像を保つために、他人のせいにすることで自己を正当化し、自己中心的な行動を繰り返す傾向が強まるのです。

 

自己愛性パーソナリティ障害の本質は、自己防衛のために形成された歪んだ自己像と、現実とのギャップにあります。彼らは過去のトラウマや不安定な環境の中で、自分を守るために歪んだ自己像を作り上げ、それを保つために過敏な反応や自己中心的な行動を取ります。しかし、この歪んだ自己像が、彼らをますます孤立させ、心の傷を癒すことを難しくしているのです。

 

このように、自己愛性パーソナリティ障害は、過去のトラウマや不条理な経験が彼らの心と体に深く影響を与え、自己像が歪み、他者との関係が困難になることで形成される障害です。彼らが本来の自己と向き合い、過去の傷を癒すためには、自己防衛のために作り上げた歪んだ世界から抜け出し、健全な自己概念を再構築することが求められます。

 

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論考 井上陽平