命の危険に曝された人の身体の忘却

▶命の危険に曝された人の身体の忘却

 

命の危険に曝された人は、神経が尖って、瞳孔が開き、毛が逆立ち、意識は外に向けられ、肩やお腹に力が入り、戦うか逃げるかの選択に迫られますが、戦っても敵わない相手だとその場にうずくまり、動けなくなります。一方、身体を動かさないと、命を失いかねない場面では、何も感じないようにして、その場を冷静に切り抜けようとすることもあります。ただその後も、虐待などの機能不全家庭で育つ場合は、命の危険を感じるような状況が続くために、身体と心は危険な状況が続いていると判断していきます。脅威を遠ざけられないとか、嫌なものから避けられないと、脳は警戒した状態が続き、身体は身構え、過緊張や凍りついた状態が無意識下で持続していきます。その状態が慢性化していくと、身体のエネルギーが尽きていくため、人間らしい感情や感覚は麻痺していき、恐怖や危険など何も感じなくなり、身体は危険なことにさえ反応しなくなります。身体が麻痺していくと、自己感覚が希薄になるために、生きがいがなくなり、生気のない目になり、息は浅く、血液の循環が悪く、皮膚はおかしな色に変色し、手足に力が入らず、こわばりながら生きるようになります。

 

嫌なものを目前にしているトラウマティックな場面では、対象に全神経を集中させ、過剰警戒を敷き、交感神経と背側迷走神経が過剰に拮抗しあっている状態で、身体は極限まで伸び縮みしをして、凍りついていきます。凍りつくときは、胸の辺りを中心に重くて、硬いかたまりのようなものがあり、背中がバキバキに凍りついていきます。喉から気管支にかけて締めつけられるので、呼吸が虫の息で、か細い声で、ゼーゼーという音がします。背中が凍りつくと、意識が朦朧とするか、意識が飛んでしまいます。身体が加害者と戦っている場合は、手は相手を振り払おうとしたり、足はバタバタさせて死に物狂いで逃げようと試みます。

 

長年に渡るトラウマの当事者は、脅威がいつ迫ってくるか不安になり、警戒心が強く、目が乾き、唾が出なくて、呼吸は浅く、肩の力を抜くことができず、手足は冷たくなり、全身に力が入り、身体がギュッと縮まり続けた状態でロックされてしまいます。身体がガチガチに硬直しているとか、興奮が続く状態では、寝ようとしても眠れずに、考え続けさせられてしまって、疲労が極限まで高まります。そして、生活全般の苦痛やしんどさから、コンクリートみたいに固まり、足元はふらつき、ギクシャクして、身体がぶっ壊されてしまうと、鏡で自分の顔を見ても、自分の顔のように見えないことがあります。

 

身体の中にトラウマがある、逃げ場のないなかで、極限状態で生活していると、目に見えないものまで痛みとして突き刺さります。そのような痛みの身体を麻痺させて、ごまかして生きるようになります。麻痺させている身体に注意を向けると、深く呼吸が出来なかったり、首は絞められているような感覚があったり、奥歯を噛み締めていたり、肩は内に縮まり、胸のかたまりがきつくて外に出したがっているかもしれません。胸のかたまりに注意を向けると、過去のトラウマの情景が思い浮かび、心拍数が上がって、心臓がドキドキバクバクして、呼吸が苦しくなり、気持ちが悪くなるかもしれません。全身が固まって、鳥肌が立った後に、身体に意識を向けると、ビリビリと電気が走るような感覚やピクピクした痙攣、ブルブルという震えが出てくることがあります。固まり凍りついて、機能停止に近い状態の身体が、再び生気を取り戻すときは、身体に凄まじい反応が起きます。

 

トラウマがあって、現実世界がとても辛い毎日だと、ガチガチにこわばり、痛みが出て、自分の心で何かを感じることが苦痛になります。心も身体もサイボーグのように何も感じなくなり、心の中は空虚で、表情はうつろになり、身体に意識を向けても、何も感じなくなります。身体の感覚が無くなり、エネルギーが燃え尽きると、手足が棒のように動かなくなり、頭の中で命令して無理やりに身体を動かす人もいます。身体にトラウマが刻み込まれている人が、その身体を感じようとすると、突然眠たくなり、安全な場所に退避していくような感覚になります。その一方で、何か蓋が空いたように、様々な感情や感覚、光景が蘇って、死にたいとかまで思って、調子を崩すこともあります。トラウマにまみれた身体を見ることで、最初のうちは体調を崩すかもしれませんが、身体を見ることに慣れていけば、本来の自分に近づくことが可能になります。

 

自分の身体が分からなくなっている人が、自分の身体に注意を向けていくと、自分の身体という容器が分かるようになりますが、自分の身体に存在することが、今ここに自分がいるというのが分かり、居心地が悪くなるかもしれません。今まで苦しんできた人が身体の声を聞くと、死にたいや消えたい、殺したい、ムカつくなど喋り始めたり、精神病の患者のように唐突に叫んで、震えと悪寒が止まらなくなるかもしれません。また、手足が自分の言うことを聞かずにバタバタと動き出すかもしれません。トラウマのある人が、自分の身体を取り戻そうとすると、傷ついた部分の本心に気づくことになります。

 

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