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子どものトラウマ研究

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発達早期のトラウマによる破局と分裂

発達早期のトラウマによる破局と分裂

 

発達早期(胎児期から乳児期、幼児期、児童期辺りまで)に切迫した状況に置かれた子どもは、切迫した選択支に迫られますが、うまく対処することが出来ない場合には、何もできない、どうしようもない無力な状態に置かれます。危険な環境にいて、何度も脅かされるような持続的・反復的にストレスに曝され続けていると、闘うことも逃げることもしなくなり、この冷たく厳しい現実から生き残れなくなります。そして、身体のほうが凍りつくか、崩れ落ちるかして、されるがままの状態になり、感情が無くなって、その後の人生は、トラウマに強く影響されたものになります。

 

①絶体絶命の境地からの生か死か、あるいは、加害者と戦うか逃げるかという状況のなかで、闘争・逃走反応を中断させて、戦慄と恐怖に凍りついて、身動きがとれない。

 

②愛着対象との関係で、しんどくて離れたい/くっつきたいという力と力がぶつかり合うなかで、なおも愛着対象からの見捨てるという脅しに、闘うことも逃げることもできず、取り返しのつかない恐怖から、無力になり選択肢がなくなる。

 

③赤ん坊が探索行動をしようとしても、養育者からの脅しや怯えがあるため、どうしようと焦ってしまって、身体を動かそうとしても、足がすくんで、身体は凍りつき、恐怖と無力感で麻痺させられ、正常に反応することができない。

 

④いじめにあって、恥をかかされた憤怒/戦っても勝ち目がないからと闘争・逃走反応を中断させる無力な自分との間で力と力がぶつかり合って、なおも周囲の視線に拘束され、自分で自分であることを最大限に抑制しようとする。

 

⑤医療の手術中に、麻酔をしないとか中途覚醒してしまって、お腹を切られ、熱いものを当てられ、ぞっとするような恐ろしい痛みのなかで、身体を動かせず、言葉にも出来ない体験をする。

 

⑥父親から母親へのDVや夫婦の喧嘩が耐えなくて、とても大変なことが起こるかもしれないけど、助けられないとか、助けようとしてもやり返されてしまって、足がすくんで身動きがとることができない。

 

①~⑥のような状況にあり、戦うか逃げるかという強い葛藤状態のなかで、身動きは取れず、正常な反応が妨げられることで、身体のほうが凍りついていき、孤立無援状態に陥ります。そのうえで大人や社会の枠組みの力により押さえつけられるか、無視されると、破綻(崩れ落ちる、虚脱)を迎えます。言い換えれば、戦うか逃げるかの状況の中で、瞳孔が拡張し、アドレナリンに溢れて交感神経系が興奮している状態で、他者に拘束されるか、または取り返しのつかない絶望に落ちるか、あるいは自分の闘争・逃走反応を最大限に抑制しようとして、身体が凍りつきます。そのとき、心臓の鼓動が早く、胸が痛み、息が止まりそうになり、手足は冷えて、その限界を超えてしまうと、目の前は真っ白になります。そして、心臓が止まりそうになり、意識が朦朧としているなかで、その場にうずくまるか、気を失うかして、自分が自分でなくなる破綻を迎えます。

 

その後、意識が回復しても、心身の内界は壊れており、二つの部分に分かれてしまうことがあります。一方は、興奮していて、恐怖や怒りの情動であふれている「過覚醒」で、もう一方は、大人しく従順で、抑制的に振る舞い、危険な人物に対しても愛着を示し、忘れっぽくて、ぼやけたような自己感覚を持ちながら、眠ったように生きる「低覚醒」です。人によって両極(過覚醒-低覚醒)の振れ幅は違いますが、一日のうちにこれらの間を行ったり来たりして、分裂気味で、一貫した自己がない状態(人が変わったように)に陥ることがあります。

 

過覚醒は、脅威を目の前にした怒りや恐怖から、情動を司る交感神経系に過剰なエネルギーが流れていて、刺激に対して身体(四肢)が動きやすく活発で、理性が利きにくく、興奮しやすくなります。周りの視線が気になり、神経が繊細で、体は気が張った状態で、警戒心が過剰で、頭の中は警報が鳴りやすく、興味があるかどうか、危険がないかどうかを入念に調べます。不安や動揺が高まると、不快感や焦燥感に駆られて、落ち着きがなくなり、問題解決を求めて動き回りたくなります。過覚醒の人は、様々な刺激に対して、過敏に反応するため、自分を落ち着かせようとして、過食、アルコール、セックス、人への依存、暴言、暴力などの行動に走りがちです。身体機能は向上していますが、過緊張や硬直していて、胸の圧迫感、呼吸数、心拍数は多くなり、血圧も高く、手足は冷たく、発汗、頭痛、便秘、不眠などが見られます。過覚醒の子は、思考も身体も活発で動きたくなり、調子に乗ると、思いもしないこともしてしまったり、周りの子どもたちを巻き込んでいたずらをすることが好きです。彼らは、いろんなことをしすぎるため、大人によく怒られます。

 

低覚醒は、脅威を目の前にして、交感神経系がシャットダウンし、疲労が蓄積されて、眠気があるような状態です。酷くなると、身体の反応が鈍くなり、周りの視線が気にならなくなって、まどろみや憂鬱な気分があります。また、思考が混乱して、自分では判断できず、意欲が低下して、抑うつ状態とも言えます。最も古い原始的な背側迷走神経系の働きが優位になると、刺激に対してシャットダウンを起こし、心身の機能を一部停止させて、最小限のエネルギーで活動します。低覚醒の人は、不安や動揺が高まると、身体が固まり凍りついて、動けなくなります。それでも、強者の要求に服従するしかない場合は、筋肉が崩壊して、心臓が弱って、身体の感覚が麻痺し、無力感や絶望に満ちた状態になり、麻痺、解離、機能停止、虚脱などが起きます。身体は虚弱体質になっていき、喉や胸が締めつけられるように苦しく、呼吸数、心拍数は少なくなり、体温、血圧も低く、めまい、吐き気、腹痛、怠さ、関節痛、下痢など見られます。低覚醒の子は、大人しく病弱で、人の反応が怖く、人の目につかないように、一人で絵を描いたり、一人の世界にこもることが好きです。彼らは、学校で問題行動を起こさずに、誰にも迷惑かけない存在として放置されます。

 

また、トラウマを負った人の精神性の中核部分は、機能停止状態にあって、幼い頃の子どもの部分が小さくなり身体のどこかに閉じこめられているか、石に変えられているかもしれません。この子どもの部分は、長い間眠りについていたり、暗闇の中を一人で過ごしていることがあります。そして、日常を過ごす私の夢の中にときどき現れて、子どもの頃に過ごした家の近くの公園にいたり、深い森のお花畑で眠っていたり、ガラスの泡の中に閉じ込められていたりします。

 

発達早期のトラウマとは

 

発達早期(胎児期から児童期)のトラウマというのは、養育者に未解決なトラウマがあり、子どもの前で怯え、怒り、子どもを脅かす張本人になるため、親子関係がトラウマになっていく場合と、子ども側が発達早期にトラウマがある影響により、養育者にそれほど問題が無くても、子どもの側がこの現実世界の生々しい刺激に圧倒され、逆境体験の連続で、複雑なトラウマを抱える場合があります。そのため、トラウマというのは、子どもが虐待的な環境に置かれていた場合だけに限りません。

 

トラウマは、家族の歴史や社会、地域の状況に左右されます。発達早期のトラウマは、胎児期の母子関係による子宮内のストレスや、誕生時トラウマによる早産、低体重児、帝王切開などの医療処置の影響、発達早期の外傷体験(例えば、ぞっとするような事件、事故、自然災害、虐待、DV、性被害、手術中の医療ミス、化学物資への暴露、養育者の死別や離婚、施設暮らし)などあります。また、養育者に精神疾患や発達障害がある世代間伝達トラウマ、養育者に未解決のトラウマがあって、この世界に酷く怯えているため、子どもを条件付きでしか愛せないことでも起こります。さらに、児童期からの猛烈ないじめ、熾烈な受験競争なども影響してきます。発達早期にトラウマがある子どもは、過緊張で敏感すぎる体質になり、幼少期の頃から逆境体験の連続で、神経発達が阻害されます。また、生まれ持った資質の弱さや発達のアンバランスさがある子どもは、家庭、学校、子どもを取り巻く生活空間の全体がストレス過多になりやすく、トラウマ(恐怖と麻痺)化する可能性が高いです。

 

発達早期にトラウマを負った子どもは、警戒心過剰で、感覚過負荷の状態にあり、外の世界のあらゆる刺激に注意が向けられてしまうため、目の前のことに取り組めず、注意や集中に問題を引き起こします。そして、恐怖や痛みを感じる刺激に対して、筋肉が硬直し、麻痺するか、体がその状況に対応しようとして、闘争・逃走反応に至るか、反応や行動の仕方が極端になります。幼児期の頃は、反応性愛着障害になり、学童期の頃は、多動性行動障害が見られて、ADHD(注意欠如・多動性障害)の症状に類似しています。また、思春期の頃は、低覚醒と過覚醒の間を行き来しており、過覚醒の場合は、複雑性のPTSD症状で、低覚醒の場合は、解離性症状に発展します。そして、青年期以降は、麻痺や不動化によって、低覚醒に支配されている場合は、うつ病、解離性障害、離人/現実感喪失症、失感情症のようであり、一方で、低覚醒と過覚醒の振れ幅が大きく調整が困難な場合は、気分障害、双極性障害、複雑性PTSD、境界性パーソナリティ障害、解離性同一性障害のようであり、さらに、生物学的な脆弱要因が強く、了解困難な現象であれば、統合失調症の診断が付くかもしれません。
子ども時代の慢性的トラウマの影響

発達早期の慢性的トラウマの影響と問題行動

 

複雑性PTSDを負っている子どもは、小児期の頃から脅かされる環境にいて、自分で心のバリアを張っても、八つ当たりされるか、不機嫌に責められるかして、自分の思ったように生きることが奪われます。そして、脳のフィルターが機能しづらく、常に臨戦態勢で、次の脅威に備えており、感覚過負荷の状態になります。頭の中は、あらゆる情報が入ってきて、それらの情報を自動的に処理できず、様々な情報に注意が集中していきます。情報量が多すぎるため、脳は思考過多で、疲労が蓄積されていき、自分の方に意識が向けられなくなります。たとえ、ほど良く元気に過ごしていても、過剰な警戒心や過敏性の高さから、一切気を抜けないため、すぐにエネルギーが切れやすく、注意や集中に問題が起きます。

 

例えば、トラウマ持ちの人は、過集中、集中困難、多動性、衝動性、注意欠陥、感覚鈍麻、視野狭窄、聴覚過敏などの問題があります。①恐怖やストレスが強まると、それと心理的距離を取るようになり、自分の世界に入り込んだり、フィルターがかかったりして、この現実世界との間に隔たりができます。②警戒心が強くなると、周囲を探るようになり、都市型の情報過剰社会では、注意が拡散して、意識があっちこっちにいったり、目の前のやるべきことに集中できなかったり、もの忘れをしたりします。③過覚醒のときは、自分の耐性領域を超えて。自動的に身体が勝手に動こうとしたり、自分を落ち着かすために、目の前のことに過集中になったりして、他の事が見えていないときがあります。④低覚醒のときは、ぼんやりしたり、ぼーっとすることで、注意・集中困難になり、外からの刺激を受け取りにくくなります。⑤情報処理が過剰になり、身体に強い負荷がかかると、視野狭窄や意識を狭めて対処していきます。⑥あらゆる刺激が頭の中に入ってくると、いろいろなことが浮かんできて、過剰思考になることがあります。⑦親の足音や扉を閉める音、廊下を歩く音、話す内容、声などに意識が集中して、聴覚過敏になることがあります。

 

ここからは、発達早期にトラウマを受けると、どのような影響や問題行動がでるのか、その流れを記述していきます。子どもの頃にトラウマを受けると、自己認識力や自制心がまだ育ち切っていないので、少しの刺激に対しても、身体はあまりに反応しやすく、肩や首、顎に力が入り、身体が勝手に外側に向かって動きます。また、自分の心を落ち着かせてくれる大人がいない場合は、自分の行動や感情のコントロールがさらに難しくなります。そして、些細なことで苛立ち、パニックになり、癇癪を起こすことで大人によって押さえつけられるとか、放置されることで、外傷体験を重ねていきます。外傷体験を負っている子どもは、交感神経が活発に働き、軽いストレス刺激(光景、音、匂い、人の声、視線、態度、情動)にさえ、動物的で反射的に危険を感じて、警戒心が過剰になるため、ストレスホルモンが慢性的に増大し、臨戦態勢(闘争・逃走)のスイッチが入りやすい状態です。そして、物事に集中しているときに、些細な問題に直面すると強烈に苛立ち、興奮することで闘争・逃走などの過覚醒状態に入ることがあり、自分の意思でその活動を止めたくても自分の意思が全く効かなくなる場合があります。

 

両親や教師、同級生とのトラブルの際に、神経システムの負荷がかかりすぎると…

①解離性健忘(身体が勝手に動き始めて、闘争・逃走状態のときのことを覚えていない)

②人格交代(無表情になり、固まるとか眠りのあとに人格が交代する)

③記憶は連続しているが、性格が変化して(逆上していて)コントロールが効かない

④離人(暴れている自分を、背後からうっすら見ている)

⑤パニックや過呼吸

⑥PTSDの再体験、侵入、フラッシュバック

⑦脳のシャットダウンによる不動状態

⑧身体の麻痺や凍りつき、虚脱

⑨頭や心臓、胃腸など身体の節々の痛み

などが生じて、周囲とのトラブルを繰り返し、長期反復的にトラウマを負います。

 

そして、自分の行動が自分の思う通りにいかず、自分が勝手に動き出すという感じで、自己中心的な行動を取ります。学校では、投げやりな態度とか、攻撃的で乱暴な問題行動をとり、教師や仲間とトラブルを起こします。先生に手厳しく怒られたあとも、落ち込んだすぐそばから、また同じ問題行動を繰り返します。日常場面においても、スポーツをする、ゲームをする、競争する、セックスをするなどの気分が高揚するときに、通常の人の覚醒水準とは異なる興奮(過覚醒)になり、弱肉強食の世界で生き残るための力とかスリルを求め支配/破壊的な活動をする場合があります。そのため、トラウマを負っている子どもは、みんなと同じようにできない自分を責めたり、落ち込んだり、イライラしています。また、相手に合わせようとして、良い子で頑張りますが、身体は過緊張や凍りつき状態で生活しているので、感情や自己調整能力に障害が出ます。取り返しのつかない恐怖から、焦りが強くなると凍りついていき、怒りが強くなる場面では、感情に支配されて、自分の意識がどこかにいくこともあります。

 

中学生以降は、自意識の高まりや理性の発達に伴い、トラウマによる過覚醒による問題行動を抑制しようとして、言葉の表現や論理的思考を身につけます。彼らは、言葉で表現することを学ぶ代わりに、自分の感情を表現しなくなり、感覚を無くしていくことを覚えていきます。そして、周囲に良い子でいれば、自分に悪意を向けられることもなく、人から傷つけられることもなくなります。また、自分を守るために、無表情で無感覚とか、不機嫌で投げやりな態度とか、良く見られたいとか、大人のふりとか、ひっそりと目立たないとか、引きこもりになるなど様々なタイプに分かれていきます。

 

▶愛着システムと過覚醒(闘争)システムの分断

 

頼りになるはずの養育者が虐待的で、発達早期にトラウマを負った子どものなかには、あたかも正常に日常生活を過ごす状態(愛着を求めるシステム)と興奮した状態(力やスリルを求める過覚醒システム)に分断され、過覚醒システムに乗っ取られることがあります。そして、愛着を求めて、あたかも正常に日常生活を過ごす状態の背後に、過覚醒システムに駆動された力やスリルを求め支配的な人格部分を抱えることがあります。また、愛着対象との関係を気にして自己抑制しようとする動きと、防衛的で、本能のまま力で対抗しようとする動きが葛藤を生み出し、背側迷走神経が優位になると、原始的な防衛システムが作動し、凍りつきや降伏した状態(活動性が低下している低覚醒システム)になることもあります。その結果、一人の人のなかに、過覚醒(防衛、攻撃性)と低覚醒(無表情、エネルギーの枯渇)、愛着を求めるシステム(従順、世話人にくっつきにいく)が同時にあり、入り混じり、変動していき、一日のうちに人が変わったように見えます。

 

▶愛着システム

 

愛着システムに作動された日常の大部分を過ごす人格部分は、子どもの頃から、争いごとに脅かされて、毎日が恐怖の連続でとても恐ろしい世界に生きているように感じています。常に怖いという感覚があり、人の言葉が胸に突き刺さり、堂々と生きていくことが難しく、人に良く思われようとして、良い自分を作って、周りの目を気にしています。夜中には、寝ることが怖くて、悪夢にうなされ、日中は、大人の身勝手な言動に翻弄されたりしています。家庭や学校の生活空間は安全な場所ではなく、手の平を返されたように大人の態度が変わるように本人は感じており、ガラガラと崩れ落ちる絶望の中にいます。生活全般においてトラウマのトリガーがあり、フラッシュバックや悪夢に襲われると、全身に汗をかいたり、危険に対する警戒心と感覚過敏が強いため、過緊張や凍りつき状態が無意識下で続き、日常生活に疲弊しています。また、何かに夢中になる場面では、過剰に覚醒させられてしまって、非常に活動的になりますが、エネルギーが切れそうになると、集中力の低下とか、人の話を聞けないとか、ぼーっとするとか、面倒くさくなるとか、苛立ちやすくなります。

 

解離性健忘により、前日までの記憶がリセットされると、良くない出来事などを忘れることができますが、いつもコミュニケーションのすれ違いが起きて、トラブルが頻発します。自分はいつも傷つけられた被害者であると認知していくと、この世界がとても恐ろしいように感じていきます。また、相手の表情を見た時に、怒っているように認知しやすく、相手の言った言葉を否定的に捉えてしまうことがよくあります。あとは、瞬間的な忘却のおかげで、自分が不条理な環境に置かれていることを忘れることができますが、何度も同じ失敗を繰り返すことになります。また、注意や集中の問題から、ぼーっとして自己意識が低下すると、時間感覚が止まるため、遅刻をしてしまったり、さっきまでやっていたことを覚えていないため、忘れ物が多くなります。

 

トラウマの中核には、恥や絶望、無力感が膨らみ、自分の感情に圧倒される混乱状態のなかで、自分が小さくなって、黒い渦に吸い込まれる恐怖や身体の中に閉じ込められる恐怖があり、死を恐れています。そして、自分が死ぬんじゃないかという怯えから、必死に生き残ろうとして、しきりに安心感を求めているために、頼りになりそうな大人を愛着対象にしてくっつこうとします。しかし、それが失敗に終わると、今度は、愛着対象から注目を集めようとして、何でもおおげさに取ったり、芝居ががった仕草をしたりして、操作的な動き(他者を巻き込む)を見せます。また、愛着対象や周りの人から褒められたいとか、認められたいという欲求が人一倍強くて負けず嫌いなところがあります。しかし、虐待または見捨てられるような状況に立たされたり、裏切れたかのように感じて相手を許せなくなったり、興奮が高まる場面では、落ち着かなくなり、じっとしていられなくなります。そして、身体が勝手に動き出すなど、自分を調整することが出来ず、過覚醒の反応を示し、顔つきや口調、性格が変わるとともに問題行動を起こしやすくなります。また、愛着対象が怖かったり、見捨てられたりした場面では、恐怖心が強くなり、離人症のようになって、母親を求めて心の中で叫び声をあげながら、宇宙空間に一人放り出されたような孤独感に襲われ、恐ろしいイメージに変わることがあります。

 

愛着システムは、対象を求めることに条件づけられており、対象と一体感を得て、幻想的な関係を結ぶことで、人から傷つけられる恐怖や身体症状を和らげて、生活全般の困難への守りとして機能し、一時的な至福や安心感を得ています。その一方で、虐待的な環境にいる場合は、対象を求める気持ちが溢れても、それは叶わず、また傷ついて落ち込んで、麻痺することを繰り返していきます。そして、日常生活が限界を超えていくと、胸が痛み、息苦しくなり、視界に霧がかかって、ぼーっとして、何も感じないように、何も考えないようになり、解離症状や離人感で身体の内側に引きこもるようになります。また、生活全般をこなすことが困難になっていくと、絶望の気分のなかで、夢と現実の境目が無くなって、自分が誰なのかも分からなくなります。このように慢性的にストレスホルモンが高い状態が続いていくと、通常のリラックスした状態に戻れなくなってしまい、①過緊張→過覚醒→怒りやエネルギー切れ、②エネルギー切れ→低覚醒や不動→覚醒の生物学的メカニズムの中に閉じ込められていきます。さらに、些細な刺激に対しても、脳は過剰に反応し、ストレスを感じるため、ストレスへの耐性も低くなり、体や脳が炎症を引き起こしやすく、慢性疾患や原因不明の身体症状、解離性症状、小児期うつ、慢性疲労、慢性疼痛などに罹りやすくなります。解離性の身体症状としては、原始的な神経系の働きにより、呼吸、心拍数、血圧の上昇と低下の激しさ、パニック、めまい、吐き気、腹痛、麻痺、声が出ない、聞こえない、歩行困難、不動状態などになります。

 

▶過覚醒システム

 

過覚醒システムに駆動された力やスリルを求め支配的な人格部分は、防衛的な脳が働き、体内には戦ったり逃げたりする過剰なエネルギーで溢れていて、ストレスホルモンが絶えず高い状態にあり、エネルギーは外に向けられて、活動性が上昇しています。しかし、警戒心が強く、危険を感じて些細なことで苛立つので、学校の同級生からはよそよそしくされたり、煙たく思われたり、仲間外れにされたりします。学校の教師からは、周りと協力できないとか、自分勝手だとか、相手の気持ちを理解できないとか、すぐにキレるという理由で要注意人物とされやすいです。また、親との相性は最悪なので、さらなる虐待を呼び込みがちです。状態としては、神経が高ぶり、恐怖や痛み、寒さなど何も感じなくて、ある目的(愛着システムの部分や自分を守ること、脅威を遠ざけるなど)を持って行動しています。そして、よくわからない正義感(裏には、理不尽な扱いを受けた被害感情)から、思いがけない危機を乗り越えていく力を持っています。良い方に転ぶと、強気な性格で、周りを言い負かして、リーダーシップを発揮し、社会的に成功する場合もあります。一方、悪い方に暴走してしまうと、人間関係が壊れていきます。親や教師に刃向かうことが繰り返されると、処罰や叱責、非難され、好奇の目に晒される悪循環にはまって、この世の不条理さから悪魔的思考や狂気に駆られることがあります。その結果として、かなり異なった自己状態・感情状態を自分のなかで抱え、まるでジェットコースターのように気分が短時間で変動するような境界性パーソナリティ障害や、異なった自己状態を抱えらない特定不能の解離性障害や解離性同一性障害を発症する場合があります。また、子どもの頃は、疲れて無表情なとき(低覚醒)と、元気で衝動的なとき(過覚醒)の行動が極端であり、ADHD症状の注意欠陥、衝動性、多動性とほぼ類似しており、間違った診断をもらっている子どもが多いと言われています。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

 

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