トラウマを抱える人は、過去の人間関係で深く傷ついていることが多く、他人と接することそのものが心身の負担となることがあります。人との関わりがストレスとなり、疲労を感じるため、自然と他者との距離を取ろうとします。人間関係における争いや感情的な混乱に巻き込まれた経験から、次第に「汚れたもの」を避けたいという強い願望が生まれ、人間関係そのものを拒む傾向が強くなるのです。
仕事や遊びなど、他者との交流が必要な場面では、人と接するたびに心身が疲弊し、次第に人との会話や気配りを嫌うようになることがあります。このような状態では、社交的な場面に参加する体力が奪われ、特に飲み会や集まりなど、人が集まる場所を避けがちになります。その結果、職場の同僚や友人、恋人との関係を深めることが難しくなり、孤独感が増していきます。最終的には、一人で過ごす時間が増え、社会とのつながりが希薄になっていくのです。
トラウマの影響で人との関わりに疲弊してしまうことがあっても、必ずしも社交的な交流だけが回復の手段ではありません。自然とのつながりを深めることも、トラウマを克服する有力な方法です。自然の中にある木や花、動物、鉱物、風や雨、さらには神や精霊といった目に見えない存在に対して心を開くことで、人間関係に疲れた心を癒し、再び生きる力を取り戻すことができます。
トラウマを抱える人々は、動物や昆虫、小さな石ころにまで生命の神秘を感じ、自然の中で美しさや力強さを見出します。時には、植物や石と「対話」し、その中からメッセージを受け取ることで、自分自身を癒す手がかりを得ることもあるのです。人に傷つけられた心や体が自然の優しさに触れることで、凍りついた感覚が徐々に溶け、再び生命力が蘇ってくるのを感じる瞬間が訪れます。
特に、心と体が切り離される解離傾向のある人々にとって、自然の中での経験は、生命のつながりを再発見し、生きる力を取り戻す大切なプロセスです。自然の中に身を置くことで、日常の人間関係から解放され、新しい視点から自分を癒すきっかけが生まれるのです。
自然との関わりを体系的に活用し、心身の病を癒す試みは、シャーマニズムの実践に見られます。シャーマニズムは世界各地で広く実践されており、特に南米アマゾン地域では、人々が心身の不調を抱えたとき、シャーマンと呼ばれる治療者に頼ることが一般的です。シャーマンは、自然界の精霊とコンタクトを取り、患者の症状やその原因を探り、癒しの方法を見つけ出します。
その過程で、シャーマンはアヤワスカという幻覚作用を持つ植物の飲み物を摂取し、意識を変容させて精霊たちと対話します。アヤワスカは、精霊からのメッセージを受け取り、患者の心身の問題の根源を探るための重要なツールとなります。患者自身もまたアヤワスカを飲み、幻覚作用を体験しながら、心身に蓄積された過去の苦しみを吐き出し、自然界からのメッセージに耳を傾けます。
この儀式を繰り返すことで、患者は心身の浄化を体験し、新たな人生を開くきっかけを得ます。シャーマニズムは、自然や精霊との交流を通じて、トラウマや病の原因を解明し、それを癒すための伝統的な方法です。特にトラウマを負った人々にとって、自然との関わりは、人間関係では得られなかった安心感やリラックスをもたらし、トラウマからの解放の道を探る手助けとなります。
トラウマケア専門こころのえ相談室
更新:2022-02-09
論考 井上陽平