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精霊が生きている世界


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人の心を脳科学、神経科学、精神医学の枠組みで解釈すると、人間の豊かな感情や精神性が単純化され、つまらない存在に変えてしまう危険性があります。こころとからだの治癒に努めるセラピストは、人間のスピリチュアリティ(精神性や霊性)や社会の豊かさ、さらにはその中に潜む過酷さをも理解し、尊重する必要があります。

 

ここでは、シャーマンの世界観を通じて、自然の中に生きる精霊や神霊の存在に触れていきます。これらの霊的存在は、人間と神々の中間に位置し、善性や悪性を持つ超自然的な存在です。神格や死者の霊、さらには下位の神霊としての役割を果たし、私たちの世界に深い影響を与えるものです。

 

また、科学的アプローチが普及する以前から存在する神話や民話に描かれた物語を通じて、人の心の深層を探りたいと考えています。これらの物語は、人間の精神性や感情の豊かさを映し出す鏡であり、私たちが忘れてはならない、人間の本質に迫る重要な手がかりとなります。科学だけでは解き明かせない心の奥深くにあるものを理解し、人間の多層的な存在を尊重することが、真の治癒への道を開くのです。

 第1章.

シャーマンへの道

シャーマンは、霊に選ばれ、その導きによって特別な術を習得します。霊から教えられるのは、トランス状態に入る方法や、魂を空高く飛ばす技術、そして恐ろしい霊界への裂け目を降りていく秘術です。シャーマンのイニシエーションでは、肉体が一度解体され、骨だけの状態となった後、再び組み立てられて再生されます。この過程を経て、霊との戦いに勝ち、霊に苦しめられた人々を癒す力が授けられるのです。

 第2章.

精霊の恋人ダイモン

精霊「ダイモン」とは、古代ギリシャ思想において、神と人間の間を繋ぐ存在であり、個人の運命を導く神霊的な存在です。ダイモンは、導き手や守護神としての役割を持ち、地上の「善きダイモン」として人々を守護します。彼らは繭に身を包み、地上を隅々まで徘徊しながら、正義と悪行の両方を見守り、必要に応じて人間に富や恩恵を授ける存在として描かれています。

 第3章.

境界の神トリックスター

神話や物語に登場する「トリックスター」は、神々や自然界の秩序を破り、物語の展開に影響を与える存在です。しばしばいたずら好きとして描かれ、その行動は予測不能で、混乱をもたらすこともあります。トリックスターは、善と悪、破壊と創造、賢者と愚者といった対極的な二面性を持つのが特徴です。カール・グスタフ・ユングの『元型論』でも取り上げられ、集団的無意識の象徴として重要視されています。

 第4章.

悪魔に成り果てた存在

自分の中に潜む「悪魔」は、常に自分に苦痛を与え続ける存在です。しかし、その苦しみは死に至るものではなく、あくまで生き延びるためのもの。悪魔は、いつ命を奪われるか分からない極限の状況を生き抜いてきたため、異常なほどの生命力を持っています。彼は自分自身が最後まで苦しみ続けることを望んでおり、その強靭な力で、絶え間なく心身に重圧をかけ続けるのです。

 第5章.

メドゥーサによる石化

ギリシャ神話のメドゥーサは、宝石のように輝く目を持ち、その視線を浴びた者を石に変える恐ろしい力を持っています。彼女の目を直視した者は、瞬時に恐怖で身体が硬直し、その場で凍りついてしまうのです。この神話は、まさにトラウマの本質を象徴しています。トラウマが人の心を凍りつかせ、動けなくさせる様子と、それを乗り越えて変容するための道筋を暗示しているのです。

 第6章.

オシリスとイシス

偉大なる王オシリスは、敵によって殺され、体を切り刻まれてしまいました。その切り刻まれた体の各部分は、王国の果てに散り散りに埋められてしまいます。しかし、オシリスの妻イシスは、彼への深い愛に導かれ、失われた体のすべての部分を探し出しました。そして、一つ一つ丁寧に集められたその体を、元通りに復元したのです。イシスの献身的な愛と執念が、オシリスを再び蘇らせたのです。

 第7章.

守護天使オルファ

生命維持を「何よりも優先」する存在、オルファ。この存在は、守護天使のような役割を果たし、願望を満たす幻覚や、心を慰めるファンタジーを作り出します。外部からの刺激が耐えがたくなると、オルファは意識と感受性を無感覚にして、痛みや苦しみに対抗します。まるで、心の盾となり、過酷な現実から自分自身を守る存在なのです。

 第8章.

超自然的存在の宿命と錯覚

超自然的存在とは、物質的な身体を持たず、人格的な特性を備えた精霊のような存在を指します。この世界は、私たちが目に見えるものだけで成り立っているわけではありません。多くの人には見えないかもしれませんが、時にそれを感じ、見える人がいます。そのような人々は、目に見えない存在に魅了され、心の中で深く慕う気持ちを抱くことがあります。本来、目に見えない他者との関わりについて、私たちの心性がどのように働いているのかを描いています。

 第9章.

トラウマ地獄の最下層

最下層に住む者たちは、この世に対する強い恨みと怒りに支配された鬼と、世の悪を背負わされ、避けられない痛みに涙する子どもです。この二人は、地獄の最も深い場所で共に暮らし、迫害者と犠牲者というペアを象徴しています。鬼は怒りを募らせ、子どもは絶え間ない苦しみの中で泣き続け、彼らの存在はまさに地獄の底で繰り広げられる悲劇の一端を表しています。

 第1節.

シャーマンとは


シャーマニズムの起源は、極寒の地シベリアにあると言われています。極寒の環境では、ほんの少しの時間でも外にいると凍え死ぬ危険があるため、眠りをもたらす妖精、サンドマンに出会いやすかったのかもしれません。

 

シャーマンとは、自己のコントロールのもとで魂を異界に飛ばし、普通の人々には見えない霊と交渉することで、この世のさまざまな問題を解決する存在です。彼らは霊に選ばれ、霊からトランス状態に入る術、魂を空高く飛ばす術、そして恐ろしい霊界への裂け目を降りていく術を教えられます。シャーマンのイニシエーションでは、肉体が解体され骨だけになり、再び組み立てられて再生するという過程を経て、霊と戦い、霊に痛めつけられた者を癒す力を得るとされています。

 

シャーマンは、医師であり、祭司であり、ソーシャルワーカーであり、霊能者でもあります。しかし、かつては狂人とされ、絶え間ない迫害の歴史を持っています。シャーマンは霊と協力し、共に仕事を行います。その際、シャーマンが感じる興奮と喜びは、常に恐怖感と隣り合わせで経験されます。一般の人々は霊力に頼りながらも、それに恐怖を感じるものですが、シャーマンはその力を自由に扱える者として、特殊な役割を果たしてきました。

 

シャーマンにとって、霊との対話や異界への旅は単なる儀式ではなく、彼らの生き方そのものであり、社会の中で多くの役割を担っています。霊的な存在と共に歩む彼らの道は、常に危険と隣り合わせですが、それゆえにシャーマンは、精神的な探求者としての姿を現代に伝え続けています。

シャーマンへの道


シャーマンは、霊に選ばれることでその役割を担う存在となります。シャーマンになるための過程、すなわちイニシエーションの中心には、象徴的に霊に「殺され」、再生するという深遠な経験が含まれています。この儀式的な死と再生を通じて、シャーマンの人格は強化され、新たな力を得るとともに、世界を巡る旅へと導く守護霊を自分のものとします。しかし、シャーマンが出会う霊は守護霊だけではなく、敵対的な霊も存在します。これらの霊は、依頼者やシャーマン自身の内面に潜む暗い側面を象徴していることが多いのです。

 

シャーマン候補者が霊に選ばれると、過酷な修行が始まります。特にシベリアやモンゴルにおいては、霊との最初の接触は非常に激しく、暴力的な形を取ります。この過程で、シャーマン候補者の以前の人格は完全に破壊され、霊的な再生を経てシャーマンとして新たに生まれ変わります。この再生によって得られる力は、単に以前の力に追加されるものではなく、候補者が深く経験した人間の苦痛を反映し、さらには世界の本質に対する深い洞察を含んでいます。

 

 

こうした極限の経験を通じて、シャーマンは内面的に新たな自分を見いだし、以前の性質が破壊されることで、真に新しい人格が発現します。これにより、シャーマンは人間の苦しみや世界の複雑さに対する理解を深め、その力をもって依頼者やコミュニティのために働くことができるようになるのです。シャーマンの役割は単なる霊能者にとどまらず、再生の過程を通じて得た洞察と力によって、人々を癒し、導く存在となります。

シャーマン的カウンセリング


シャーマン的カウンセリングでは、クライエントは自身の内なる宇宙への旅に出発します。この旅では、内なる感覚や呼吸、音に意識を集中させることで、外界への意識が徐々に弱まり、変性意識状態、すなわちトランス状態へと入っていきます。クライエントはこの状態で、天界へと昇る高揚感のある旅と、薄暗い冥界への下降を繰り返しながら、霊的存在と出会い、その存在から助言を受け取ります。

 

この旅の中で、クライエントはセラピストと共に、自身の内面に潜む「地獄」のような苦しみや恐怖の世界を見つめ、それを理解しながら地上へと帰還します。シャーマン的カウンセリングを行うセラピストは、クライエントが深いトランス状態に入るよう、呼吸法を導いたり、特別な音楽を流して環境を整えます。太鼓のリズムを刻むことも、その一環であり、クライエントが意識の深層へと旅立つためのガイド役を果たします。

 

 

このカウンセリング手法は、クライエントが自分自身の深い部分と向き合い、霊的な洞察を得ることで、心の癒しや成長を促すことを目的としています。セラピストはこの旅路を共に歩み、クライエントが安全かつ効果的に内面の探索を行えるよう支援します。結果として、クライエントは新たな自己理解と精神的な再生を経験し、現実世界での生き方に変化をもたらす力を得ることができるのです。

 

参考文献

ピアーズ・ヴィブスキー(中沢新一 監、岩坂彰 訳)『シャーマンの世界』創元社

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

更新:2020-06-07

論考 井上陽平