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人生論


 第1節.

強さと柔らかさを兼ね備えてしなやかに


人が困難に直面したときに、ネガティブなものにしか注意が向かなくなり、否定的な考えにとらわれてしまって、不安から動けなくなってしまう人がいますが、そこから立ち直って人生を前向きに進めていくためには、そのような辛い経験に向き合って乗り越えていくことが大切です。

 

そのような強さは、レジリエンスと呼ばれています。精神科医で精神分析家の西園昌久(2017)は、それを風雪に耐える竹の強さに例えています。頑強ではないのに、外力にさらされても、容易に壊れたり、倒れたりすることなく、むしろ、外力にかかわりながら復元していく竹に着目しています。辛いことに直面しても、折れてしまうのではなく、しなやかに、柔軟にやりくりする力とでもいえると思います。

 

竹は、外側と節が硬く、内側はやわらかい組織の二つの構造でできています。西園は、母親との関係でできる安心・信頼・自他の区別などの働きをするのを「皮膚性自我」と呼んでいます。乳児の頃は、主に母親を相手にしてこれらを育んでいきますが、次第に筋肉が発達していくと、母親に変わって父親が遊び相手に求められるようになると言います。より筋肉を使う遊びであるボール遊びやかけっこなどを通じて、勇気や因果関係の判断力、自己規制する力などが育っていくと言われています。西園は、それを「筋肉性自我」と呼びます。 トラウマ的な経験から回復して前向きに生きていく力を、竹の「やわらかさ」と「強さ」の二重構造に例えられていましたが、「皮膚性自我」は「親子のしなやかさ」の「やわらかさ」と、「筋肉性自我」はその「強さ」と関連しているために、それらの両方を鍛えていく必要があります。

 

このためには、皮膚感覚と筋肉のあり方を鍛えて、やわらかさと強さを身に着ける必要があります。皮膚感覚は、母親との関りから生まれるような安心・安全感、筋肉の感覚は、父親との関係性から作られる強さと関連します。

 

人は身体的存在であるため、身体が脆弱すぎたり、自分を圧倒するような不快感、感情があると、頭と身体が離れてしまって、神経の働きが異常になり、筋肉がその強さを失っていきます。そして、筋肉が崩壊すると、心臓の働きが弱まり、心拍数や血圧が低下し、脳への血流が低下します。脳に血がいかなくて、現実検討能力が下がり、この世界がぼやけて見えます。しなやかでなくなっていくと、みぞおちの中心部分は固まってますが、身体の末端部分は筋肉が伸び切ったような状態になり、自分の体重を支えるのも大変になります。身体を動かしていく体力がなくなり、機能低下が進み、皮膚も損傷します。身体が怠くて重くて、身体の反応も鈍ったまま、脳、内臓、筋肉、皮膚、神経にも悪影響が出て、心が働かなくなっていきます。

 第2節.

身体を整えていくことの重要性


人が生きていくうえで、物事をよく考えて行動することが大事と言われています。しかし、身体が弱くて、自分を過剰に守ろうとする人は、頭の中であらゆるパターンを想定するようになり、損得勘定のマシーンになっていることがよくあります。損得勘定のみで物事を考えてしまうと、頭の中が思考ばかりになり、身体の感覚(皮膚や筋肉、内臓)を使って感じることが難しくなり、世の中のありとあらゆる事象を繊細に捉えて、感じることができなくなります。周りの環境や他者との関りにおいて、自分の腹と胸でしっかり受け止めて、直観のようなものを大切にして感じることが大事です。

 

つまり、頭で思考して、文字で物事を考えるだけではなく、身体で感じることがとても重要です。身体を使って活動することにより、新しい可能性が開かれていき、自分を落ち着かせることもできるようになります。しかし、身体が弱い人やトラウマを負った人は、身体が敵であるかのように捉えて、その身体に注意を向けると不快な感覚が出てくるため、今では自分の身体が自分のものでないように感じられたり、身体感覚がよく分からなくなっています。

 

自分が自分であるという自己認識や時間感覚、感情、思考を成立させるには、身体内部(皮膚、筋肉、内臓、関節など)の感覚が必要になります。身体の感覚が麻痺している人は、感情が鈍磨し、思考が混乱し、時間の流れが止まったように感じており、心の成長が止まります。酷い場合には、自分が自分であるという感覚が分からなくなります。

 

日常生活の事象を身体内部の感覚で感じることにより、自己の経験が深まり、感受性を高めて、視野を広げることになります。自分を取り巻く環境の中で、自分の身体感覚を通じて経験していくと、自分の感覚というものが育まれていきます。しかし、トラウマや身体の病気、神経発達の問題が原因となり、身体感覚を柔軟性もって広げることができなくなると、喜びや悲しみや怒りなども感じることができないカチコチの心になっていくことがあります。

 第3節.

より良い毎日を歩むには


トラウマがある人は、外の世界を脅威に感じて、筋肉や内臓が収縮し、身体を凍りつかせているので、あらゆる働きかけにも心を開くことができずに、相手に心を閉ざしがちになります。重要なのは、環境の変化に好奇心を持って、外の世界に対して心を開きましょう。身体はしなやかで、やわらかく、リラックスしながら、大胆になっていけるどうかです。

 

人間の心や主体性というのは、身体の生理状態のあとにくるものと言えます。自分の心や主体性の回復には、生理状態を整えていく必要があります。生理状態は脳と身体を繋ぐ神経に左右されているので、神経の働きを変えていく必要があります。その方法としては、ヨガやストレッチ、動く瞑想などをして、筋肉の伸び縮みを調節して、自律神経やホルモンの働きを整えながら、深く呼吸することが良いです。良い現実を作るには、健康が重要になり、筋肉の状態をみて、安心できる神経を働かせて、血液の循環を良くします。また、このような身体に働きかけるアプローチだけではなく、漢方やマッサージで体を整えたり、生活習慣を変えて、ストレスを取り除いたりする視点も必要です。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

更新:2020-06-08

論考 井上陽平

 

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