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第1章.
人の心や精神機能は、周囲の環境や身体との関わりを通じて発達していきます。つまり、私たちの精神状態は、社会的なつながりや他者との交流、さらには生活環境など、外部の影響を受けて形成されているのです。そのため、精神疾患も決して脳だけの問題ではなく、環境や社会的な圧力が身体の生理的な状態に悪影響を与え、その結果として脳の機能にまで影響を及ぼすということが多いのです。
これを踏まえると、「身体を無視した精神疾患は存在しない」と言われる理由も明確になります。精神疾患を理解し、治療していく上では、脳や心だけでなく、身体全体の健康状態や、外部環境との関係を見直すことが必要不可欠です。
第2章.
うつ病は、真面目で繊細な性格を持ち、身体が弱く、バイオリズムが乱れやすい人に多く見られます。特に、不快な状況に直面しながらも、それに対して有効な対策が見つからない場合、体が次第にガチガチに固まり、身動きが取れなくなってしまいます。この結果、ストレスを跳ね返す力が失われ、うつ状態に陥ってしまうのです。
一方、躁状態は、好奇心に突き動かされ、エネルギーがあふれる一方で、周囲の状況が見えにくくなります。自分の限界に対する認識が薄れ、過度に活動的になりがちです。
第3章.
統合失調症を発症する人は、幼少期から心身の健康な発達が阻害されている場合が多く、その背景には発達障害に似た症状を抱えているケースがあります。また、何らかの痛ましい外傷体験に晒された結果、神経発達に問題を抱えることもあります。このような外的要因や生来の特性が重なることで、統合失調症の発症リスクが高まっていくのです。
統合失調症の発症前には、自分をうまく守れず、環境からのストレスや圧力に適応できない状況が続くことがあります。その過程で、神経が過剰に敏感になり、緊張が増していくことが多いのです。
第4章.
パニック障害は、体内に蓄積されたトラウマが影響し、自律神経系の調整がうまくいかなくなることが原因です。この障害では、体内に不安感が常に存在しており、それが様々な症状を引き起こすため、本人は混乱しやすくなります。その結果、外部の刺激や周囲の気配に過敏に反応するようになり、パニック発作が起こりやすくなるのです。
パニック発作は、突発的に体が過剰反応を起こし、強い恐怖感や動悸、息切れ、めまいなどの症状が一気に現れ、さらに不安を増幅させます。これにより、外の世界がますます恐ろしいものに感じられ、日常生活に支障をきたすようになります。
第5章.
アレキシサイミアは、心身症と深く関連しており、体に蓄積された疲労が原因で、心が体の感覚に耐えられなくなっている状態です。このため、心と体がうまく連動せず、自分の感情を感じたり、認識したりすることが難しくなります。結果として、自分の気持ちを適切に表現できなくなり、内面の混乱を抱えたまま過ごすことが多くなります。
第6章.
とらわれとは、過去の出来事、家族、お金、社会的地位、愛する人、健康、理想など、さまざまな対象に対して生じます。不安や心配が募り、強迫観念にとらわれると、頭の中にその観念がしつこく浮かび上がり、考えを打ち消そうとすればするほど、ますます意識に蘇ってきます。その結果、日常生活が妨げられ、身動きが取れなくなり、生活全般が困難になってしまいます。
第7章.
身体への不安からパニック発作や抑うつ、解離症状が現れると、生き生きとした感覚が失われ、まるで世界が没落していくような感覚に陥ります。これらの症状は統合失調症に似た状態を引き起こし、特にトラウマが慢性化すると、現実感が薄れ、まるで夢の中で生きているような感覚が続くことがあります。現実と非現実の境界が曖昧になり、日常生活が次第に困難になっていくのです。
第1節.
精神疾患というと、「精神病」や「心の病」として理解されがちで、多くの人々はこれを心の問題や感情の異常と捉えています。しかし、現代の精神医学では、精神疾患は脳の機能異常や損傷によって引き起こされる脳の働きの変化が原因とされています。この変化により、思考や感情、知覚に障害が生じ、結果として感情や行動に著しい偏りが現れる状態が精神疾患とされます。
脳には1000億を超える神経細胞のネットワークが存在し、このネットワークが人間の心や精神、そして身体の機能を統括する役割を担っています。精神疾患は、このネットワークの不調や異常によって引き起こされると考えられています。
今日の日本社会において、精神疾患を抱える患者数は増加しており、これは脳の働きが不調になることでさまざまな症状が引き起こされていることを示唆しています。精神疾患を理解するには、心の問題にとどまらず、脳の機能とその異常についての知識が重要です。
具体的に言うと、私たちが日常を過ごす中で脳はどのように働いているのでしょうか。まず、人が外界に触れたとき、脳は様々な情報を受け取り、それを認識します。その後、これらの情報をもとに考え、判断し、感情や意欲が生じます。そして脳は、それに基づいて身体や行動をコントロールし、私たちは日常生活をスムーズに営むことができるのです。
しかし、精神疾患を患うと、脳神経のネットワークの働きが不調になり、この一連のプロセスが正常に機能しなくなります。例えば、鬱状態になると、気分の落ち込みや強い不安が続き、食事や睡眠をとることが難しくなることがあります。また、思考や感情のコントロールが困難になり、強迫観念に囚われたり、幻聴や妄想を経験することもあります。さらに、精神疾患は身体的な痛みとも結びつくことがあり、その痛みが日常生活に支障をきたすほど強くなる場合もあります。
厚生労働省によると、日本における精神疾患の患者数は年々増加しており、2015年には350万人を超えたと報告されています。具体的には、うつ病、統合失調症、不安障害、パニック障害、PTSD(外傷後ストレス障害)、依存症(アルコール・薬物・ギャンブルなど)、摂食障害といった多岐にわたる疾患が含まれます。
現代の精神科医療では、これらの精神疾患に対して薬物療法が主に採用されています。薬物療法は、脳の神経系に作用し、症状を緩和することを目的としています。しかし、この治療法には課題も多く存在します。たとえば、副作用のリスクが伴い、必ずしもすべての症状に対して効果が期待できるわけではありません。さらに、心と身体の複雑な関係性を考えると、薬物療法だけでは十分に改善しないケースも少なくありません。
そのため、精神疾患の治療には、薬物療法と並行して心理療法や生活習慣の見直し、家族や社会的なサポートを含む総合的なアプローチが重要となります。これにより、患者が抱える複雑な問題に対してより効果的に対応し、心身の健康を回復させることが求められています。
当相談室の治療アプローチは、薬物療法による即効的な症状緩和を目指すものではありません。薬物療法は一時的に症状を和らげることができますが、トラウマを抱えた人々の心身の問題を根本から治療するには不十分であると考えています。また、精神疾患を単に脳の問題として捉えるのは誤りです。人間の心や精神機能は、身体的な健康と周囲との関わりによって成長し、発達していくものだからです。
精神疾患は、親や他者、社会、環境からのストレスによって心身が脅かされ、そのストレスに過敏になったり、耐えきれなくなった結果として現れるものです。特に幼少期から積み重なったトラウマや逆境体験が、神経発達を阻害し、自律神経の調整不全を引き起こします。これにより、体の痛み、不眠、倦怠感、焦燥感、集中力の低下、注意散漫、多動、発作、うつ症状など、様々な身体的・精神的な症状が現れます。実際、精神疾患は身体の状態と切り離して考えることはできません。
しかし、自律神経の乱れによる症状は、病院ではしばしば診断が難しく、その苦しみが周囲に理解されないことも多くあります。こうした見えにくい苦しみを抱える人々に対して、私たちは心身の健康を包括的にケアし、根本的な回復を目指して取り組んでいます。
当相談室では、心と身体に刻まれた深い痛みやトラウマを、包括的にケアしていくことを重視しています。私たちは、筋肉や内臓、脳機能に現れる身体的な反応を丁寧に観察し、生活上の潜在的な脅威に対する身体の反応や、凍りつきや虚脱状態といった症状に注目します。これらの症状に対して、対話を通じて心を開放し、運動や瞑想、ヨガなどの身体的なアプローチを組み合わせることで、根本的な治療を目指します。
私たちの治療アプローチは、身体が変化することで思考や感情、意識にも変化が生じることを体験していただくことにあります。これにより、クライアントが抱える症状を軽減し、より健やかな心身の状態を取り戻すサポートを行っています。
第1-1節.
現在の症状や、性格の悩みで日常生活に支障が出ているのであれば、カウンセリングを受けることをおすすめします。人はストレスが積み重なることで、気分が浮き沈みして「こころ」の症状が出てきたり、不眠・食欲がなくて「身体」の症状が出てきたりします。気になる精神症状がある人はチェックをしてみましょう。
◆病気の症状で困っている
①抑うつ気分で意欲や思考が低下している。
②不安やパニック、緊張状態にある。気持ちが落ち着かない。
③気分の浮き沈みが激しく、自分の感情をコントロール出来ない。
④自分が自分でないように感じる。過去のことを思い出しにくい。別の自分がいるように感じる。
⑤身体に疲れがたまり、だるさや倦怠感がある。
⑥寝つきが悪い、夜中に目が覚めてしまう。朝早くに目が覚める。眠った気がしない。
⑦気になったことが頭から離れない。分かっていても同じことを繰り返してしまう。
⑧自分が病気に罹っているのではないかと過剰に心配する。自分の身体や美醜に極度にこだわる。
⑨何か特別に怖いものがある。(例、暗やみ、高いところ、閉ざされた場所など)
⑩いけないことだと分かっていても、ある特定の行為や物質使用を続ける。(例、お酒、ギャンブルなど)
⑪無気力になり怠惰に過ごしている。生活習慣が不規則である。
⑫過去のトラウマが忘れられない。
⑬過食嘔吐や拒食がある。
⑭幻覚、幻聴、被害妄想が起こる。
⑮自分が生きていると迷惑だと思う。
⑯死にたいと思うことがある。(自殺を計画している、自傷行為や過剰服薬など)
⑰職場や学校に行けない。
◆自分の性格に悩んでいる
①自分がどういう人間なのか分からない。
②何をするにしても人任せ、人の気持ちを考えない、自己中心的で思いやりがない。
③相手の態度で気分がコロコロ変わる。人から見捨てられたのかと心配になる。
④些細なことでもすぐに傷ついてしまう。
⑤自分に自信が持てなくて自分のことが嫌い。
⑥人と関わりたくない。
⑦周りの人の助言がないと物事を判断したり決断できない。
⑧やらなくてはならないことを何でも後回しにしてしまう癖がある。
⑨破壊行為、盗み、うそ、暴力などの問題がある。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平