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トラウマの再演:無意識に繰り返される痛みの連鎖


トラウマによる外傷の再演について考えていきます。この現象は、小児期に経験したトラウマや、それに伴う過剰な覚醒、さらには高度な解離が影響しているとされています。本人が自覚できないまま、あるいは行動を制御できない状態で、体が自動的に特定の行動パターンを引き起こしてしまうのです。この自動化された反応は、無意識のうちに繰り返され、トラウマの再演として現れます。

 

問題行動を繰り返す人は、しばしば二つの意識状態を持っていることが見られます。過剰な覚醒が引き金となり、本来の自分は凍りついた状態で解離し、別の意識状態に突然切り替わってしまいます。このもう一つの意識は、本人が自分を守るために無意識に作り上げたものであり、過去のトラウマに適応するために形成された防衛反応の一部です。結果として、彼らは繰り返し同じ問題行動を起こし、無意識のうちにトラウマを再体験することになります。

凍りついた記憶の再演:トラウマが引き起こすフラッシュバック


心的外傷(トラウマ)とは、あまりにも耐えがたい苦痛を引き起こし、その体験自体を処理することができない状態を指します。体験しきれなかった外傷の中核は、意識に上ることなく、まるで瞬間冷凍されたかのように心の奥深くに生々しく保存されます。この外傷は消えることなく、長い年月をかけて心や体のどこかに蓄積され続けるのです。

 

そして、外部からの刺激によって、この凍りついた感覚や情動、光景、臭い、音、声が突然フラッシュバックとして現れることがあります。その瞬間、まるで過去の恐怖が再び襲ってきたかのように体が麻痺し、思考や感情がコントロール不能になります。この状態に陥ると、無意識のうちにトラウマが再演され、同じパターンを繰り返してしまうことがあります。自分では統制できないこの再演は、トラウマの影響がいかに深く、日常生活にまで影響を与えるかを示しています。

無意識に潜むトラウマ:固着した外傷が引き起こす身体反応


複雑なトラウマを抱えている人は、恐怖を感じると身体が凍りつき、息が詰まりそうになり、叫び声を上げてしまいそうな感覚に襲われます。顔面は蒼白になり、頭の中は真っ白になり、意識を失いそうなほどの危機的な状況に陥ることがあります。こうした時、無意識のうちに身体がさまざまな反応を自動的に起こし、身体表現として現れるのです。

 

トラウマに固着した部分は、無意識の中に深く根を張り、体と精神のどこかに留まり続けます。過去の外傷体験が思い出されると、その固着した部分がまるで目を覚ましたかのように再び身体を支配します。この状態が続くと、トラウマに固着した部分が主人格の代わりとなり、日常生活に影響を与えるようになります。

 

主人格が自分のトラウマに気づかないまま、無意識のうちにトラウマのトリガーを踏んでしまうと、固着した部分は苦しみ、泣き、強い意志を持つようになり、やがて勝手に行動を始めてしまうことがあります。こうして、無意識に外傷の再演が繰り返されるのです。

内なる迫害者:トラウマが引き起こす繰り返される対人関係


ユング派の臨床家カルシェッドによれば、心理的トラウマの犠牲者は、繰り返し再外傷を受ける状況に陥りやすいとされています。変化を強く望み、生活や人間関係を改善しようと一生懸命努力すればするほど、何か自我を超える強力な力が進歩を妨げ、希望を打ち砕いてしまうのです。カルシェッドは、これを「迫害的内界」が外界の鏡に映し出されているかのようだと表現しています。この現象により、トラウマを抱えた個人は、まるで悪運や悪魔的な力に取り憑かれているかのように感じ、自滅的な行動パターンを繰り返してしまうと指摘しています。

 

複雑なトラウマを抱える人は、必ずしも自分にとって不快な出来事が起こっていなくても、あるいは相手に悪意がない場合でも、同じような問題が対人関係で繰り返されることがあります。これにより、対人関係がうまくいかなくなり、結果として自己破壊的なループに陥る可能性が高まります。このような現象は、無意識に内面のトラウマが対人関係に投影される結果といえます。

児童期虐待が引き起こす自己実現的な悲劇の再演


ジュディス・ハーマンの著書『心的外傷と回復』では、児童期に虐待を受けた被害者が、大人になってからも外傷体験を記憶の中だけでなく、現実の生活において繰り返し体験するという悲劇的な運命について述べられています。ある被害者は、自身の半生を振り返り、暴力が繰り返される人生を「自己実現的予言」のようだったと語っています。

 

彼女はこう言います。「人生の始まりから暴力を予期し、幼いころには暴力と愛が同一だと考えていました。私は人生で6回もレイプされました。家出をしたり、ヒッチハイクをしたり、酒に溺れたりして、そういったすべての行動が組み合わさって、私は目につきやすく、標的になりやすい存在になっていたのです。まるで悪夢でした。最初はレイピストたちが私を殺すに違いないと思っていました。なぜなら、私を生かしておけば、彼らはどうやって罪を逃れられるだろうと考えたからです。でも、最終的に気づいたのは、彼らは全く心配する必要がなかったということでした。彼らは私が自ら望んだというストーリーを作り上げ、全く罰を受けなかったのです。」

 

この証言からは、病的な解離の存在が示唆されます。被害者は周囲を巻き込みながら、無意識のうちにトラウマの再演を続けているのです。被害者自身には「私のほうから頼んだ」という記憶がなく、その行為に同意した覚えもない一方で、無意識の中には「黒幕人格」とも呼べる病的な産物が存在し、その人格がレイピストとの間で同意があったかのように振る舞っていたのです。こうして、被害者は無意識にトラウマを再現し、暴力の連鎖から抜け出せなくなってしまいます。

交代人格の復讐:性的虐待を再現する内なる葛藤


フランク・W・パトナムの著書『多重人格障害』によると、性的虐待を受けた多重人格者の中には、性的に乱れた行動を取る「性的放縦人格」が存在することが多いとされています。この人格は、患者が再び性的な外傷体験をするように状況を整える役割を担います。典型的なパターンとしては、性的放縦人格が虐待的なセックスパートナーを引き寄せ、性的な行為がエスカレートした最中に、恐怖に震える、しばしば冷感症の主人格へと体のコントロールを引き渡すのです。

 

ある交代人格に、なぜそのような行為を行うのかと尋ねたところ、「主人格が幼かった頃、私はあの子の代わりをしなければならなかった。だから今度は、あの子にもその体験がどんなものか味わわせてやりたい」と答えました。これは、交代人格が、かつての主人格の苦痛を肩代わりしてきた過去を反映しており、今度は主人格自身にその経験を引き継がせようとする意図を示しています。このような複雑な内面の葛藤が、多重人格者の性行動における自己破壊的なパターンを生み出しているのです。

トラウマの再演:繰り返される傷と無意識の連鎖


日本トラウマティック・ストレス学会(2012)のホームページによると、一度トラウマを経験した人は、その後も被害を受けやすくなることが報告されています。例えば、レイプの被害者は再びレイプされやすく、幼少期に虐待を受けた女性は成人後に暴力被害に遭いやすいという現象です。平穏無事に見える日常の中で、なぜこのようなことが繰り返されるのでしょうか?それは被害者自身に問題があるのではなく、根本的な問題は「再演」という現象と、幼少期のトラウマにあるのです。

 

子どもがトラウマとなるような出来事を経験した際、養育者との愛着の質が良好であり、子どもの傷つきが適切に表現され、守られる体験ができれば、予後は比較的良好であることが多いです。しかし、そのような支えがない場合、トラウマは強迫的な反復行動へとつながり、「再演」を引き起こします。再演では、被害者は無意識に過去の出来事を繰り返し、その過程で自らが被害者や加害者、時にはその両方の役割を担うことになります。この繰り返しが、再度の被害につながっていくのです。

 

 参考文献

D・カルシェッド:(豊田園子,千野美和子,高田夏子 訳)トラウマの内なる世界』新曜社 2005年

 

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論考 井上陽平

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