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不登校・引きこもり支援と対応


不登校で引きこもりの方は、発達障害がベースにあるか、過去にトラウマを負っていることが多く、恐怖と麻痺(不動状態)という生物学的メカニズムの中に閉じ込められています。不登校から引きこもりに至る経緯は、学校社会での人間との交わりと家庭環境のなかで、八方塞がりの状況に立たされ、体と心が悲鳴を上げて、社会交流システムを司る神経の働きが麻痺して、生物学的な防衛状態に入ります。彼らは、人と関わると体の緊張が強まり、人と距離を置くと安心するので、家の中に引きこもることは、戦略的な反応とも言えるでしょう。しかし、家の中にいて、孤独に引きこもる期間が長引くほど、自分の人生を取り返せるチャンスを失うため、ことあるごとに不満や怒り、後悔、自責感に駆られて、心も体もネガティブになり、前に進むことが出来なくなります。

 

恐怖と麻痺の不動のメカニズムとしては、不登校の子どもの場合、学校のなかにいじめっ子がいて、動くと目をつけられて攻撃されてしまうので、じっと動かないようにすることで、自分の身を守ります。これは、いじめっ子に叩かれたり、押さえつけられたり、悪口を言われたりした場合は、やり返してしまうと、もっとやられてしまうので、反撃せずにじっとしていたほうが楽なのです。そして、いじめっ子に見つかりたくなくて、筋肉を硬直させ、気を張りつめた状態でいます。いじめっ子から隠れようとしても、教室の中では隠れる場所がないので、保健室や家に引きこもるようになります。

 

このように人目につかないように避けることが当たり前になると、本来したかった行動ができない状態が続き、活動性や覚醒度が下がっていて、体が衰弱していきます。いじめっ子だけでなく、厳しい先生や巨大な学校システムのなかで縛られるため、戦うことも逃げることもできず、足がすくみ続けると、凍りつきや死んだふりをするという防衛パターンに書き換えられます。そして、学校に行かなきゃいけないと思っても、登校前にお腹が痛くなる、気分が悪くなる、めまいがする、手足に力が入らない、身体が怠く重い、頭が痛い、食欲低下、不眠、朝起きれないなどの身体症状が出ます。

 

学校に行こうとして、焦れば焦るほど、体と心が固まり凍りつくか、鉛のように重たくなり動けなくなります。心は、学校に行こうと思っていても、体の神経は生存戦略のための原始的防衛(脅威を遠ざけたい防衛による警戒態勢)が延々と作動しているので、本来の人間らしい機能が停止させられています。この原始的防衛が強く出ている人は、警戒心が過剰で、頭の中はフル回転で、嫌悪する刺激に対しては筋肉が硬直し、交感神経が興奮していきます。しかし、引きこもりになるような人は、強い恐怖や感情が覚醒させられると、すぐに交感神経にブレーキがかかり、背側迷走神経が働く麻痺が規定の反応になり、心拍数や血圧が下がり、手足に力は入らなくなります。

 

このような原始的防衛にはまり込んでしまった人は、外の世界に危険があるかどうかを警戒していて、ちょっとしたことでも不安や動揺を感じると、体の方が過敏に反応します。ストレスがかかることで、胸が痛み、呼吸がしづらくなり、無理に頑張ろうとすればするほど、めまいやふらつき、頭痛、腹痛などで体調が悪くなり、頭も働かなくなり、エネルギーが低下して、動けなくなります。不快すぎる状況が続くと、イライラして、心の余裕が無くなり、精神負担を減らそうと家から出れなくなります。

 

たとえ再び登校できたとしても、周りの子と馴染めずに、ぼーっとしている時間が楽で、友達が出来ないかもしれません。集団生活が辛く、孤立無援状態が続くと、手足の筋肉は崩れて、お腹がバクバクと活動し、頭痛や腹痛、吐き気を感じるかもしれません。うまくやれないことで体が萎縮して、麻痺が強まり、何の希望も無くなり、人生をただ生きているだけの状態になります。そして、学校から帰ったら、虚脱状態に陥り、身体が伸び切って、無気力で何も感じなくなります。次の朝起きても、何も感じない無気力なままで、身体を動かすのも大変なので、再び不登校になります。酷い状態になると、解離などの複雑なトラウマ症状が出て、身体の不調や外の気配や音への過敏性、現実感喪失、自責感、無力感、解離性健忘、別人格化、幻聴など現れることがあります。

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不登校に陥るトラウマの苦しみ


トラウマがあることで不登校になった人は、動悸の激しさや弱さ、胸の痛み、喉の腫れ、パニック、呼吸困難、喘息、発汗、震え、めまい、立ちくらみ、腹痛、頭痛、吐き気、固まる、脱力、怠さ、麻痺することに対して恐怖していき、さらに、それらを引き起こす外界の気配や人の視線、感情、音、光、匂い、振動が気になり、警戒心が強くなります。人から傷つけられることに恐怖して、足がすくみ、恐怖がさらなる体調不良や対人恐怖、気配過敏、凍りつき、虚脱状態を作り出すので、学校に行くことが非常に困難になります。

 

そして、体がしんどくて、脳がトラウマという恐怖に染まって、長期に渡り、生物学的な防衛状態に入ると、交感神経系のエネルギーが切れて、自分の意志に反して、身体が動かなくなります。たとえ自分のやりたいことがあっても、手足に力が入らず、脳の働きも鈍く、息苦しく、ぐったりと疲れてしまって、自分の壁にぶつかります。また、めまいや吐き気、腹痛、体が重く怠くて、まともに動けなくなります。そして、周りの皆と同じことがしたいのに、できない自分を責めて、自分は劣っているという無力感を感じます。

 

このような悲惨な状態にあっても、子どもは親の期待に応えようとして、無理に学校に通っていると、ストレスにより、体と心が麻痺していくので、何も感じられないとか、何も考えられないという解離症状が重たくなります。そうなると、表情は暗くなり、思考もまとまらなくなり、現実感は薄くなって、上手に人前で話せなくなったり、作業に時間がかかったり、楽しいという感情が沸かなくなったり、気分が落ち込んだり、悲しんだりして、椅子から立ち上がることも困難になることがあります。また、元気なときに出来ていたことが出来なくなり、出来ない自分を責めて、意欲が無くなり、前に進めなくなります。そして、こころの余裕が全くなくなると、死にたくなるので、できる限り、ストレスのない空間に引きこもることでしか対処できなくなります。

不登校と自律神経系の障害


不登校の子どものなかには、自律神経失調症の起立性調節障害があるために、学校に行こうとしても、心拍や血圧が下がっていて、めまいやふらつきが起きます。交感神経系の働きにブレーキがかかり、手足の筋肉が極度に脱力しているため、起き上がることが困難になり、立って歩くのも大変で、学校に行けなくなると言われています。このメカニズムは、前日から虚脱や脱力状態にあるか、睡眠中にトラウマの不動状態になり、朝が来ても、神経が起きてなくて、心拍数や血液の循環、筋肉の働きが正常値に戻らないことが原因でなります。また、外出することや電車に乗ること、人の目が怖くなるなど、その恐怖から身体が凍りついて、頭やお腹が痛く、気持ち悪くなり、動くことが困難で、不登校や引きこもりになります。

 

このように不登校から引きこもりになるのは、単にこころが弱いというだけでなく、トラウマや神経発達の異常で、自律神経系の調整不全や原因不明の身体症状、睡眠障害、うつ病、解離症状が大きく影響しています。心に全く余裕がなくて、ネガティブな記憶ばかりが蘇り、恐怖と麻痺のメカニズムにはまり込んでしまうと、心の状態は体調不良に直結してきます。また、学校に行かなくて、時間だけは経過して、過去の行いに対する後悔や自責感、親の対応の悪さの不満、将来に対する不安が強まれば、嫌なことばかりが浮かんで、ストレスになり、体は重く、動くのが億劫になり、うつ状態から抜け出せなくなります。そのため、心と身体の両面に当てたアプローチを行いながら、少しずつ楽しいと思える社会的場面に参加していくことで、不登校や引きこもりの問題が改善される可能性が高まります。

不登校になる様々な原因と対応


不登校で引きこもってしまう問題は、親の責任でそうなることもありますが、そうでない場合もたくさんあります。親の問題だけでなく、学校社会のいじめやストレス、社会に出ることへの実りの感じなさ、発達早期のトラウマ、不運な出来事、子どもの発達や体質に問題があることも多いです。最初のうちは、親が子どもの苦しい世界を理解していって、責めないでいると、子どもの状態も少しずつ変わってくると思います。ただし、不登校から引きこもりの期間が長引いてしまうと、不満や後悔、怒り、焦り、孤独といった感情にのまれて、自分を縛り付ける形になり、前に進むことが出来なくなります。そのため、親は学校の担任と連携を深めて、お互いが子どもの状態を理解し、子どもの言い分をしっかり聞いてあげて、学校や社会の中で安心できる居場所を作ってあげることが必要です。また、親はできるかぎりサポートして、子どもの抱える後悔や不満を減らすようにしましょう。

 

一般に、不登校や引きこもりの人は、大人を含めた人間に対して不信感があり、社会に出ていくことに価値をあまり感じません。また、自分に自信がなく、引っ込み思案になり、気分は落ち込んで、普通の人に比べて何倍も傷つきやすい状態にあります。彼らは、引きこもりになることにより、何も考えずに済み、安心感を得られますが、人に会いに行くと疲れて、原因不明の身体症状が現れます。また、他者と成熟した人間関係を作り維持することができず、不適切で無力な行動をとってしまいます。さらに、早期のトラウマや、心身の発達の偏りにより、資質が限られていることも多く、学校生活や社会生活、人間関係などを適切に処理することができません。

不登校・引きこもりへの対処法


不登校や引きこもりの支援では、トラウマという身体の生物学的メカニズムを解きほぐす必要があります。トラウマがある人は、脅威を遠ざけたいという防衛が働くために、苦手な人が一人でもいると、身体の中のトラウマが疼いて、落ち着かなくなり、その場を回避したくなります。トラウマによる対人恐怖から、身体症状が表れるために、引きこもりたくなるのは正常な反応とも言えますが、そのままでは社会生活を送れなくなってしまうので、人といれるような身体とメンタル作りが重要になります。

 

不登校や引きこもりのカウンセリングでは、セラピストとの信頼関係を構築していきながら、安心なイメージや安全な身体感覚を探していきます。最初のうちは、身体の機能(呼吸、心拍、血圧、筋肉、内臓)が制限されているので、特殊なヨガや呼吸法、動く瞑想、トレーニング器具を用いて、筋肉や血液、心拍の流れ、凍りつき状態から覚醒状態に導いていきます。そして、起床時や日中、寝る前の様子はどうなのかを話していき、生活リズムと身体の調子を整えるために、様々な工夫を凝らし、自己調整するスキルを身につけていきます。

 

例えば、不登校の子どもは、朝に目を覚ましても、身体を起こそうにも起こせず、活動することができません。そのため、身体の神経や筋肉を少しずつ目覚めさせていく必要があります。寝ているときは、身体が固まっていかないように、クリスタルボウルのヒーリングを聞いて寝てもらって、朝に目が覚めたら、ベッドの上で、ヨガのチャイルドポーズを取り、心身の状態を正常に戻していきましょう。チャイルドポーズでは、両足を正座の姿勢にして、背筋を伸ばし、両手を前方の床につけます。ゆっくり息を吐きながら、上半身を前に倒して、おでこを床につけます。背中を丸めて、首や肩の力を抜き、柔らかく過ごして、身体をリラックスさせましょう。最も重要なのは、寝るときの身体の状態と、朝起きてからの身体の状態になります。寝る前は、身体を冷やさないように、全身を温めて、布団の中で気持ちよく眠れるようにしましょう。朝からしっかり食事を取って、温かい飲み物を飲む習慣を生活のなかに取り入れることです。食べ物を摂取することで、身体の中のエネルギーが循環して、身体を動かせるようになります。

 

次に、対人恐怖や視線恐怖、気配過敏などを取り上げて、身体の緊張している部位に注意を集中させることで、どのように人から傷つけられることを恐れていて、どのように自分を守ろうしているか分かり、過去のトラウマの防衛パターンが露わになります。その未解決なトラウマを適切な方法で動かして、表現していくことで、身体内部に揺れや震え、熱を引き起こし、凍りつきを解きほぐします。身体の中の莫大なエネルギーに目を向けることで、痛みや不快感が出てくるので、自分の防衛スタイルの認識が深まり、自分の無意識のうちに取っていた行動をコントロールできるようにしていきます。

 

治療の目標地点は、身体の安全な感覚と不快な感覚の間を振り子のように行き来して、自発的に不動(凍りつき/すくみ・麻痺)の状態に入っていきます。例えば、将来に対する恐怖を思い起こすと、学校に行けない時と同じように、身体が動かなくなり、様々な症状が表れます。この後、身体の動かせない部分に意識を集中させていくことで、身体の麻痺が取れていき、不快な感覚を乗り越えた先に、心地良さや達成感を味わうことができます。恐怖に麻痺した身体の感覚に親しみを持てるようになると、次第に不動状態と恐怖が分離して、人生が再び動き始めます。

 

最初のうちは、理性よりも、身体の生物学的メカニズム(過剰な覚醒からの凍りつき、不動状態、シャットダウンによる虚脱状態)の方が強いので、緊張-麻痺の間を行ったり来たりしています。しかし、身体と心に焦点をあてたトラウマアプローチを続けていくことで、防衛的態度の闘争・逃走モードや解離・不動化モードから社会的交流システムを活性化させていきます。最終的には、胸、みぞおち辺りの固まりが取れて、身体に安全感が戻り、自分に対する自信が湧いてきます。身体に安全感が戻ると、脳や神経系のネットワークが本来の姿を取り戻していくので、安心-緊張の間を行き来できるように少しずつステップアップしていくことが可能になります。

 

生物学的メカニズムに対を成すのが心理学的問題になります。学校に登校できない子どもや気配過敏、対人恐怖、パニック障害、めまい、吐き気、腹痛、動けないなどで引きこもり状態にある人は、高校を中退するとか、授業についていけなくなるとか、学歴へのコンプレックスがあって、社会人になるための自信を失います。そして、劣等感や恥の感情が強くなるほど、他人と比較して落ち込んで、体調は悪くなるので、なるべく人の目につかないように、人生を諦めるように条件付けらていきます。それと同時に、自意識が過剰になり、柔軟性や弾力性に乏しく、非常に硬直していて、複雑に組織化されたパーソナリティになっていきます。

 

今までの自分の人生を失敗と捉えて、後悔や不満が渦巻き、社会に出ることが怖くなります。また、社会に参加することに意味を見出せず、尊敬できるモデルの大人が周りにいなくて、この世界に否定的な認識を持っていることが多いです。そのあたりの心理学的問題を紐解いていくのは、とても難しい作業になり、セラピストとの対話を通してだけで変わる問題ではありません。実際に、彼らが社会に出ることに実りを感じられるかどうかであり、症状が重たい場合には、不安や抑うつを減らす薬物療法も行うほうが良いでしょう。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平