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臨床心理学研究の独自性と歴史的発展

▶臨床心理学の独自性

 

氏原寛は、臨床心理学と医学の違いについて次のように述べています。医学が主に患者の苦痛を取り除く、または和らげることを目的とする一方で、臨床心理学には、患者をその苦悩に直面させ、内面的な変化を促す側面があります。医学が患者を客観的にとらえ、外面的な変化を目指すのに対し、臨床心理学は患者を主体的存在としてとらえ、その主体的な変容を期待しています。

 

さらに、氏原は、人間が人間らしく生きるためには、外的条件(身体的状況を含む)が重要であるとしながらも、どのような状況においても人間らしく生きることは可能であると述べています。この視点は、困難な状況下にある患者が、自分自身の主体性を取り戻し、内面的な成長を遂げる可能性を信じる臨床心理学の核心を表しています。

 

▶臨床心理学の歴史

 

 臨床心理学という用語が初めて使用されたのは、1896年にアメリカの心理学者ライトナー・ウィットマーがペンシルヴァニア大学に世界初の心理クリニックを開設した時とされています。

 

心理学の起源は、ギリシャ文明に端を発し、ヨーロッパ文明の発展の中で生まれたものであり、そのルーツは哲学的な文脈にあります。近代心理学の基礎は、1879年に哲学者ヴィルヘルム・ヴントがライプツィヒ大学に設立した実験心理学研究所にあります。ヴントの研究は、意識の内省に関する心理学として始まりました。

 

アメリカ心理学の父と称されるウィリアム・ジェームズは、1890年に『心理学の原理』を発表し、意識や情動の理論を構築しました。ジェームズはまた、アメリカで初めて心理実験を行い、心理学に進化論を取り入れることに寄与しました。

 

英国のフランシス・ゴールトンによる個人差研究に影響を受けたジェームズ・キャッテルは、心理現象の測定に関する様々な尺度の開発に尽力しました。キャッテルは、因子分析法を用いて人の特性を12の因子に分けて抽出しようとする特性論の創始者とされています。

 

さらに、精神分析技法が医師の専有物でなくなると、カール・ロジャーズは来談者中心療法を提唱し、臨床心理学におけるカウンセリングの独自性を確立しました。ロジャーズのアプローチは、純粋な臨床心理学の視点から、人間の主体的な成長を重視するものであり、現代の心理療法に大きな影響を与えています。

 

参考文献『心理臨床大事典』培風館

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