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学校の授業を聞けない子どもたちの背景


学校の授業に集中できない子どもたちには、いくつかの理由が考えられます。一つは、単純に授業が面白くないと感じている可能性です。しかし、もう一つの可能性として、子ども自身に何らかの問題がある場合もあります。たとえば、過剰な警戒心を抱えている子どもたちは、学校という集団環境に馴染みにくく、集団の中で不安やストレスを感じやすいです。また、発達障害(ADHD)や発達性トラウマ障害を抱えている子どもたちは、授業が面白くないと感じる状況に耐えることが難しく、その結果、授業に集中できなくなることがあります。

 

このような子どもたちは、学校という場で集団行動を強いられることで、身体的・精神的な負担が増し、過敏に反応してしまうことがあります。これは、彼らが直面する状況に対して不快感を覚え、その不快感に対する耐性が低いためです。その結果、授業中に注意が散漫になり、他の活動に気を取られやすくなったり、座っていること自体が苦痛になったりします。

 

1. 授業中のストレスとその影響

 

授業に集中できない子どもたちは、つまらないと感じる授業を椅子に座ってじっと聞き続けることに、大きな苦痛を感じています。彼らにとって、教室という集団の中で、周囲の気配や物音が聞こえる状況は非常にストレスフルです。このような環境では、警戒心が高まり、動きの自由が奪われることで、さらに不安が増します。授業中に「じっとしていなければならない」「何かを強制される」と感じると、彼らの身体は緊張し、落ち着かなくなります。この結果、過覚醒状態に陥ったり、身体が凍りつくような感覚を覚えたり、極端な場合には「死んだふり」のような状態にまでなってしまいます。

 

彼らの脳や体は、潜在的な危険を感じ取っており、しかしながら身体を自由に動かせない状況に置かれることで、非常に強い反応を示します。このようなストレスにさらされると、身体の生理状態が変化し、多動や解離、注意力や集中力の問題が表れることがあります。しかし、こうした症状が現れたとしても、もし彼らが自由に動ける環境が与えられれば、動きたいという衝動に従って身体を動かすことで、比較的速やかに回復することができます。

 

2. 自己調整行動とその限界

 

しかし、学校の授業中に感情のままに席を立ち、教室を自由に動き回ることは許されません。そのため、多くの子どもたちは自分を落ち着かせるために、さまざまな行動を取ります。たとえば、指のささくれを剥いたり、指で遊んだり、髪の毛を触ったり、足を動かしたりします。また、隣の席の友達とおしゃべりをしたり、ノートに落書きをしたり、窓の外をぼんやりと眺めたりすることもあります。

 

一方で、さらに深刻な場合には、子どもたちは自分の心と体を切り離し、頭の中で空想の世界に逃げ込むことで自分を守ろうとすることがあります。また、意識的に眠りに落ちることで、その場をやり過ごそうとする子どももいます。

 

それでも、勉強に対して強い関心を持っている子どもたちは、たとえトラウマや発達障害の傾向があっても、集中力を発揮し、よい成果を出し続けることができる場合もあります。こうした子どもたちは、自分なりの方法で心身のバランスを取りながら、学び続ける力を育んでいきます。

 

3. トラウマ反応と過敏性

 

多動や注意・集中の問題が生じる背景には、過去に経験したトラウマが影響していることがあります。こうしたトラウマは、何らかの恐怖によって動けなくなった体験であり、その結果、同じような状況で再び動けなくなることを極度に恐れ、過剰な警戒心を抱くようになります。

 

学校の集団場面では、周囲の気配や音に過敏に反応する子どもたちがいます。彼らは非常に繊細な神経を持ち、脳が潜在的な危険を察知すると、強い衝動に駆られて動きたくなります。また、不快な状況に置かれたとき、自分自身でその問題を解決できない場合、そこに留まり続けることが危険だと感じ、筋肉が硬直し、「闘争・逃走・凍りつき」反応が現れます。

 

「闘争・逃走」反応は、脅威を避けようとする防衛反応であり、身体がムズムズしたり、ウズウズしてじっとしていられなくなり、集中力が失われます。もしその状況をうまく対処できないと、身体が凍りついてしまい、大量のエネルギーが体内に滞り、解離や注意・集中の困難が生じます。また、凍りついているときは、筋肉が極度に収縮し、神経が張りつめているため、外部からの刺激に非常に敏感になります。

 

このように、脅威に備えるためのトラウマ反応から、子どもたちは落ち着きを失い、授業中にも関わらず貧乏ゆすりをしたり、椅子をガタガタと動かしたり、隣の子にちょっかいを出したりしてしまいます。さらには、席を離れて動き回る、イライラする、授業に集中できない、話を聞けない、居眠りをする、指示通りに行動できないなどの問題行動が現れることがあります。

 

4. トラウマ反応の深刻な影響

 

トラウマのメカニズムに支配されている子どもにとって、学校の授業を椅子に座って聞くことは非常に辛い場合があります。授業中に集中できず、落ち着かない状態が続くと、先生に叱られることが増え、クラスメイトの前で怒られることで、さらに強い不快感を覚えるようになります。このような状況では、先生や学校、授業そのもの、さらには教科書やノート、ペンといった学習の道具までもが不快な存在に感じられるようになってしまいます。

 

その結果、不快感が増すたびにトラウマ反応が強くなり、自分を不快にさせる対象に対して反発し、争うようになります。これが悪循環を生み、トラウマのメカニズムが一層強化され、心の健康に深刻な影響を与えることになります。このような状況が続くと、子どもは学校に対してますます否定的な感情を抱き、心が徐々に病んでいきます。

 

学校時代にこうした大きな躓きを経験すると、その影響は後の社会生活にも大きく及びます。社会に出てからも、精神疾患やパーソナリティ障害、さらには引きこもりに移行するリスクが高まり、長期的に心身の健康を損なう可能性があります。

 

5. 集団行事とトラウマの再活性化

 

トラウマや発達障害を抱える子どもたちは、学校の授業中だけでなく、卒業式の練習や文化祭の音楽会など、集団行事の最中でも過剰に警戒することがあります。彼らは、何かに追われているような感覚に陥り、その場にいることが耐え難くなります。その結果、目の前のことに集中できなくなり、多動や解離、注意力の欠如といった問題が現れます。

 

特にトラウマが複雑に絡んでいる子どもたちは、体内に膨大なエネルギーが滞っているため、何かに閉じ込められたり、拘束されたり、動きの自由が奪われたりすると、過去のトラウマが再び活性化してしまいます。このような不快な状況が続くと、過去のトラウマ時の恐怖がよみがえり、筋肉が硬直し、動悸が激しくなる、息苦しさや胸の痛み、頭痛や腹痛、吐き気、耳鳴りなどの身体症状が現れることがあります。

 

さらに、不快な状況から逃げられない場合、心が体から切り離されたように感じる解離や離人化が起こり、あるいは、投げやりな態度や無気力な状態に陥ることもあります。最悪の場合、心拍数が低下し、筋肉が働かなくなり、まるで沼地を歩いているような重たい感覚の中で動けなくなり、最終的には学校に通うことさえ難しくなってしまうこともあります。

 

6. 長期的な影響と心身の健康 

 

トラウマを抱える子どもたちは、体内に膨大なエネルギーが滞っているため、自然に回復することが難しい状況にあります。彼らは常に体に不安を感じながら、吐き気や腹痛、頭痛などの身体症状に耐えていることが多いです。学校という場では、こうした不快な症状を抑えながら、他の子どもたちと同じように勉強や食事をこなさなければなりません。

 

体調が悪くても、授業中にトイレに行くことができないこともあり、無理をすることでさらにストレスが積み重なります。このような状況が続くと、学校に行くこと自体が嫌になり、登校への意欲が低下してしまうこともあります。こうした子どもたちは、日常生活で他の子どもたちよりも何倍も体力や気力を消耗しているため、疲労感が著しく、ますます心身が疲弊していくのです。

 

7. ストレスの蓄積とその影響

 

子どもたちは、基本的に学校や集団行動から逃れることができないため、自分自身でその苦しさを処理するしかありません。その結果、心の奥底に痛みを閉じ込め、次第に心が麻痺していくことがあります。このような状況では、心身にかかるストレスをうまく発散できず、さまざまな問題が生じる可能性があります。たとえば、自律神経系や覚醒度の調整がうまくいかなくなったり、免疫システムが機能しなくなったり、ホルモンバランスが崩れたり、筋肉機能が低下したりします。また、抑うつや睡眠障害、さらには原因不明の身体症状が現れることもあります。

 

これらの問題は、子どもが大人になった後も続くことがあります。長年にわたって疲労が蓄積されると、些細なことでもイライラしやすくなり、その結果、自分の負担を減らそうとして社会的な接触を避けたり、引きこもりがちになることもあるかもしれません。さらに、根本的な身体の問題が解決されないままでいると、慢性疾患を患うリスクが高まり、最悪の場合、寿命が5~20年ほど縮まる可能性もあります。

トラウマや発達障害の子どもの社会化


人は成長し、社会に適応する過程で、幼少期から持っている身体や心の弱さが明らかになることがあります。たとえば、幼い頃に経験したトラウマや、神経発達に関する問題、アレルギー体質やアトピーといった健康上の課題は、成長とともに社会の中で生活しようとする中で、ますます顕著になることがあります。こうした身体的・精神的な弱さがあると、社会に出てさまざまな経験を積む中で、困難や痛みを伴う出来事に直面することが増えます。そして、これらの体験がきっかけとなり、過去のトラウマが再び刺激されることがあります。

 

社会に適応するためには、誰もが一定の規範に従う必要がありますが、その規範が必ずしも個々人の特性に合っているとは限りません。社会の構造には独特なルールや規律が存在し、これに無理に適応しようとすることで、心身に負担がかかり、もともと脆弱な部分が浮き彫りになることがあります。

 

特に幼少期から成長する過程で、子どもは社会のルールに従うように訓練されます。この過程で、子どもの身体や心に隠れていた弱さが顕在化することがあります。たとえば、社会的なプレッシャーや厳しい規律に直面することで、ストレスが増大し、アレルギー症状が悪化したり、行動に問題が現れたりすることがあります。このような状況に陥ると、周囲の人々から「社会に適応できない人」と見なされることがあり、そのような評価が本人にとってさらなるストレスとなって、状況を一層悪化させる可能性もあります。

 

社会からの期待と個人の特性との間にギャップがあると、自己評価が下がり、自己否定的な感情が芽生えることもあります。その結果、子どもや大人は自信を失い、ますます社会から疎外されてしまうことがあります。このような負の連鎖が続くと、心身の健康に深刻な影響を与えることになりかねません。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

更新:2020-06-14

論考 井上陽平

 

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