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学校の授業を聞けない子ども


学校の授業を聞けない子どもは、授業が面白くない可能性や、もしくは子どもに問題がある場合があります。彼らは、過剰警戒してしまうために学校の集団場面が苦手になるか、授業が面白くないという不快な状況に耐えられない発達障害(ADHD)や発達性トラウマ障害の可能性があります。

 

授業を聞けない子どもは、先生のつまらない授業を椅子に座って、じっと聞いて、板書していくことに耐えられません。彼らの体は、集団の気配や物音が聞こえる状況において、警戒心が高まり、動きの自由が奪われるとか、じっとしないといけないとか、何かを強制させられる場面において、身体がイジイジして、過覚醒、凍りつき、死んだふりの状態になっていきます。彼らの脳や体は潜在的な危険を感じているのに、身体を自由に動かせない状況にいると、体がもの凄く反応して、生理状態に変化が出て、多動や解離、注意、集中の問題が現れます。一方で、症状が出ても、動きたいという衝動に身を任せて、自分のしたいように体を動かすと回復します。

 

しかし、学校の授業中というのは、感情の赴くまま席から立ち上り、教室を動き回るのは非常にまずいので、一般的には、自分を落ち着かせるため、指のささくれを剥いたり、指遊びしたり、髪の毛を触ったり、足を動かしたり、隣の席の子と喋ったり、ノートに落書きしたり、窓の外を眺めたりします。人によっては、自分の体を切り離して、頭の中の空想世界に耽ることで自分を守ったり、寝て意識を無くしてやり過ごす人もいます。一方、勉強に関心がある人は、トラウマや発達障害の傾向があっても、集中して、よい成果を出し続けてよい心身を作っていくことができることもあります。

 

多動や注意・集中に問題が生じるのは、過去のどこかで怖くて動けなくなるようなトラウマを経験しており、同じように逃げ場が無くて、動けなくなることを恐怖し、過剰に警戒しています。学校の集団場面では、周りの気配や音などに反応して、それを受け流せないほどの繊細な神経を持つ人は、脳が危険を察知してしまうと、バタバタと動きたくなります。また、不快な状況に置かれているのに、自分で問題が解決できない場合は、そこに留まっていたら危険と感じて、筋肉が硬直し、闘争・逃走・凍りつき反応が現れます。闘争・逃走反応は、脅威を遠ざけようとする防衛になり、体がムズムズ、ウズウズして、じっとしていられなくなり、先ほどまでやっていた作業に集中できなくなります。その状況を上手く対処できないと、体が凍りついていき、体の中に莫大なエネルギーが滞って、解離や注意・集中の困難が出ます。また、凍りついているときは、筋肉が極度に収縮して、神経が張りつめているので、刺激に敏感になります。このような脅威に備えるトラウマ反応から、子どもは落ち着かなくなり、授業中なのに貧乏ゆすりをする、椅子をがたがた動かす、隣の子にちょっかいを出しまくる、席を離れてしまって動き回る、イライラする、授業に集中できない、話を聞けない、居眠りをする、指示通り動けないという問題行動になります。

 

トラウマのメカニズムに支配されているから、学校の授業を椅子に座って聞くのがきつくなります。先生に叱られることが増えて、クラスメイトの前で怒られると、先生も学校も授業も、教科書、ノート、ペンなど何もかもが不快になります。不快だからこそトラウマ反応が強く出て、自分を不快にさせる対象と言い争うことになり、その悪化がまたトラウマのメカニズムをより強化して、心が病んでいきます。学校時代の大きな躓きは、のちの社会生活に大きな影を落とし、精神疾患やパーソナリティ障害、引きこもりに移行していきます。

 

トラウマや発達障害のある子どもは、学校の授業中のみではなく、卒業式の練習や文化祭の音楽会などの集団行事でじっとしていると、過剰警戒モードになり、何かに追われている感覚に陥ります。そして、その場にいられなくなり、目の前のことに集中できなくなり、多動や解離、注意など問題が現われます。トラウマが複雑にある人は、体の中には莫大なエネルギーが滞っているため、何かに閉じ込められたり、拘束されたり、動きの自由が奪われたりすると、トラウマが再活性化します。不快な状況が続くと、過去のトラウマの時と似たような恐怖が出てきて、筋肉が硬直し、動悸がする、息が苦しい、胸が痛む、頭が痛い、お腹が痛い、吐き気、耳鳴りが出たりします。さらに、不快な状況から、逃げることができない場合には、心は体から離れて、解離や離人化するか、投げやりな態度を取るか、無気力な状態になります。最悪の場合は、虚脱化して、心拍数が下がり、筋肉が働かなくなって、沼地を歩くような重たさのなかで動けなくなり、学校に通えなくなります。

 

トラウマを負っている子どもは、体の中に莫大なエネルギーを滞らせているので、自然回復がしづらく、体に不安を抱えながら、吐き気や腹痛、頭痛などの症状に我慢していることがあります。そのために、集団行動をしなくてはならない学校では、それらを抑えながら、皆にあわせて勉強や食事をしなくてはなりません。調子が悪くてトイレに行きたくても、授業中には行けないこともあります。我慢をすることがストレスになり、学校も行きたくなくなります。体力や気力を何倍も使うために、疲労していきます。

 

基本的に、子どもは学校や集団行動から逃れられないので、自分で処理するしかなく、苦しさを心の奥底に閉じ込めて、心が麻痺します。このような心身のストレスを上手く発散できない場合は、自律神経系や覚醒度の調整不全、免疫システムの故障、ホルモンバランスの崩れ、筋肉機能、抑うつ、睡眠障害、原因不明の身体症状が現れます。そして、大人になってから、疲労が蓄積された結果、イライラしやすくなり、自分の負担を減らそうとして、社会的接触を避けたり、引きこもりがちになるかもしれません。根本的な身体の問題を解決できない場合は、慢性疾患を患って。5~20年ほど寿命を縮める結果になるかもしれません。

トラウマや発達障害の子どもの社会化


トラウマや神経発達、アレルギー体質、アトピーなど、本来持っている身体の弱さが、人が成長して、社会に適応するなかで、規律化される過程において、身体の弱い箇所が顕在化します。そのため、持っている身体の弱さが、社会に出て成長していく過程において、痛みを経験するきっかけになり、再トラウマ化していきます。

 

人が社会に適応するためには、規範に乗っ取る必要があり、野放しだと変な人になっていきます。しかし、社会の構造には癖があり、独特な規律やルールがあります。幼児期から成長する段階に、子どもを社会に適応させるために、ある程度規律化させられます。規範化のために、身体をどう振る舞うかになりますが、脆弱な子供は、規範化・社会化されるなかで、自分の身体の弱さが表面化して、ストレスに応じて、症状や問題行動が現れ、その結果「社会に適応できない人」と言われてしまうこともあります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

更新:2020-06-14

論考 井上陽平

 

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