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トラウマによる綱渡り人生:絶え間ない恐怖と戦うための対処法


波乱のない生活を送り、親との関係が良好で身体が丈夫な人にとって、人生は綱渡りのように感じられることは少ないでしょう。しかし、虐待を受けている人や発達障害を抱える人にとっては、心身の弱い部分に爆弾を抱えているかのような毎日が続き、脅かされる状況が繰り返されることで、彼らの人生は常に崖っぷちに立たされているように感じられます。

 

長期間のトラウマの影響によって、彼らは「生きるか死ぬか」のモードで生きざるを得なくなり、心身が尖り、症状は次第に複雑化していきます。痛みによって心も身体も凍りつき、次々と辛い出来事が襲ってくる中で、身体はこわばり、過去のトラウマにとりつかれたかのように全身がギクシャクし、神経は痛み、呼吸すら苦しくなります。中には、階段を下りるだけでもフラフラしてしまうほど、日常生活が困難になる人もいます。

 

トラウマが複雑化し、心身が凍りついたり、死んだふりの状態に固着してしまった人々は、普通の人と同じように生きることができなくなります。何かをしているときでも、ふと一人になると、何かに追い立てられるような感覚に襲われたり、差し迫るような圧迫感を感じ、人生が綱渡りのように感じられます。日常生活の中でも、自分を脅かす存在がいると、空中に張られた1本の綱を恐る恐る渡るように生きざるを得なくなり、常に慎重に行動しなければ、恐ろしい目に遭うのではないかという恐怖に苛まれます。彼らは非常に壊れやすい心身を持っているため、ストレスに弱く、予期しない出来事に巻き込まれることを極度に恐れ、常に生きるか死ぬかのギリギリの状況にいるのです。

 

たとえば、虐待する親に怒鳴られると、心臓が縮み上がり、動悸が激しくなり、呼吸ができなくなるほどの恐怖を感じます。そのため、彼らは親の気配や足音といった外界の刺激に対して過剰に警戒するようになります。一つの綻びが出るたびに、取り返しのつかない事態に陥るのではないかという不安が募り、震えが止まらなくなります。また、周りの目が気になり、どう行動すべきかを常に考え続けますが、納得できる答えが見つからず、結果として動けなくなり、周囲と同じように行動することが難しくなってしまいます。 

 

トラウマとは、身体の中に閉じ込められた恐怖や怒りのエネルギーのことを指しますが、その力に人は翻弄されがちです。日常生活のささいな出来事に対しても、身体が過剰に反応し、激しい動悸や息苦しさ、パニック、フラッシュバック、心臓が落ちるような感覚など、強烈な恐怖が襲ってくることがあります。これらの症状は、本人にとって致命的なものに感じられることもあります。

 

複雑なトラウマを抱える人は、自分の理性的な部分とトラウマから生じた情動的な人格部分(悪魔的人物)との間で絶えず戦いを繰り広げており、感情や行動をコントロールするために懸命に努力しています。しかし、外部からの精神的ストレスによっては、そのバランスが崩れ、正気を保つことが難しくなることもあります。トラウマを再現するような場面では、圧倒的な感情に押しつぶされ、自分自身が失われ、感情をコントロールできないまま凶暴化してしまうこともあります。その結果、周囲からは「頭がおかしい」と思われることさえあります。

 

彼らは、精神的なストレスにより内部が崩壊し、感情や行動の統制が失われることを恐れています。そのため、取り返しのつかない事態を避けるために、常に先回りして外の世界を用心深く観察し、自分を守ろうとします。彼らの心の状態は、まるで正気と狂気の間を綱渡りしているかのようで、その正気の世界は非常に脆く、一歩でも間違えれば狂気に引きずり込まれてしまう恐れがあります。気が狂ってしまう恐怖から自分を守るために、自分自身にしがみついたり、何かに依存したり、一人だけの世界に引きこもることしかできなくなってしまいます。

 

日常生活の中で、彼らは苦しい時に誰かがそばにいてくれたらと切望します。また、自分を理解し、話を聞いてくれる人を探し求めますが、人に期待しても裏切られることが多く、さらに辛くなり、他者を信頼することができなくなります。結果として、誰も助けてくれる人はおらず、いつも一人で悲しみ、不安やストレス、苦痛の中で必死に生き抜いていくしかないと感じているのです。

綱渡り状態に直面した時の対処法


トラウマを抱える人は、恐怖を感じる状況から逃れたいと強く願いますが、身動きが取れなくなると、その状況に耐えられなくなり、再びトラウマが刺激されてしまいます。日常生活においては、常に周囲を警戒し、自分を守るための防御姿勢を取り続けています。しかし、予期しない出来事が起こると、身体が驚愕反応を示し、心臓が縮み上がったり、内臓が鷲づかみにされたような感覚に襲われます。このような状況では、過覚醒や身体の凍りつき、パニック、虚脱といった生理的な混乱が引き起こされます。

 

トラウマ化した身体は、驚愕反応によって自律神経のバランスが崩れやすくなり、顔面蒼白、動悸、息切れ、冷汗、疼痛、嘔吐、下痢、脱力感などの症状が現れます。これにより、身体に対する不安がさらに強まり、トラウマや解離症状が悪化してしまうことがあります。

 

トラウマ化を防ぐためには、耐えきれなくなる前に身体を素早く動かすことが重要です。このとき、神経や筋肉は動くことを求めているため、戦う、逃げる、あるいはその場を楽しむといったイメージを持ち、実際に身体を動かしたり、大声を出したりすることが効果的です。これにより、身体の凍りつきや脱力、詰まり、痛みを軽減することができます。

 

日常生活では、驚愕反応が起きないよう、周囲の配慮を得ながら、安心・安全感のある環境を整えることが大切です。自分に合った環境作りを進めながら、筋肉の伸び縮みを自分で調整するスキルを身につけることで、血流を改善し、酸素を十分に取り込み、神経の働きを正常に戻していくことができます。これには、ヨガやストレッチ、ダンス、運動などが効果的です。また、皮膚の手入れなど、身体のケアも欠かせません。

 

さらに、心理的なアプローチとして、人間社会の仕組みを学び、自分の考え方や感じ方の幅を広げていくことが重要です。これにより、人間力を高め、トラウマからの回復を助けることができるでしょう。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

 

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