メドゥーサ

▶トラウマの石化

 

痛ましいトラウマのショックというのは、激烈な感情を人に与えて、一瞬にしてブレーカーが落ちたような状態になり、身体は固まり凍りついて、動けなくなります。まるで、人は、石のように冷たく固まり、うつろな表情で、言葉も心も無く、何も手につかず、その場に立ちつくします。そして、嫌だとか辞めてとか叫ぶこともできず、胸の固まりが上がってきて、息が止まりそうになり、血の気が引いて、解離や機能停止、身体が崩れ落ちて、虚脱状態になることもあります。

 

子ども時代に怖れや痛みのなかで生きてきた子どもは、自分の感情や欲求から解離されて、抑うつ的で、身体は麻痺させられています。目の前に嫌なものがあると、ついつい凝視してしまい、身体が縮まり、固まります。彼らは、嫌なものを目にすると、硬直して、固まってしまうために、そのようなものを遠ざけたいとか、避けたいと思いながら、我慢して自分を身体の反応を抑え込んでいるかもしれません。

 

小さいとき、トラウマという衝撃を受けて身体のなかに閉じ込められることもあり、その閉じ込められた子どもの部分は、暗い井戸の中にいて、メドゥーサのような人物像によって石に変えられています。その井戸から抜け出そうにも、体が鬼に掴まれており、頭の中はヘドロのようなものがこびりつき、自分の思うように体を動かせません。

 

▶ピーター・ラヴィーン「身体に閉じ込めらたトラウマ」から、メドゥーサについて。

 

ゴルゴン・メドゥーサについてのギリシャ神話はトラウマの本質そのものを描き、変容への道筋を描写している。

 

ギリシャ神話では、メドゥーサの目を直視したものは即座に石に変えられてしまう・・・その場で凍りつくのだ。このヘビの髪の毛を持つ悪魔を征伐に行く前、ベルセウスは知識と戦略の女神アテネに助言を求めた。アテナの助言は、何があってもゴルゴン(メドゥーサ)を直視してはならない、という単純なものだった。アテナの助言通り、ペルセウスはメドゥーサの姿を反射されるため、腕に防御楯を縛り付けた。こうして彼はメドゥーサを直接見ることなくその頭を切り落とすことができ、石に変えられることもなかったのだ。

 

もしトラウマを変容したければ、それと直接的に対面しないことを学ばなければならない。トラウマと面と向かって対決するという間違いを犯せば、メドゥーサがその本質に忠実に、私たちを石にしてしまうだろう。子どもの頃によく遊んだ指ハブ(かみつきヘビ)のように、トラウマと戦えば戦うほど、トラウマが私たちを捕らえようとする力も強くなる。トラウマについてベルセウスの反射楯と「同等な」ものは、私たちのからだがいかにトラウマに反応するかということ、そして「生身のからだ」がレジリエンスと生来の善良さの感覚をいかに具体化するかということであると信じている。

 

メドゥーサの傷から出現した二つの神秘的存在があった。翼を持つ馬ペガサスと、黄金の剣を持つ戦士、片目の巨人クリューサーオールである。黄金の剣は真実と透明性を象徴している。馬はからだと本能的知識の象徴であり、翼は超越性を象徴する。全体として、彼らは「生身のからだ」を通じた変容を示唆している。同時に、このような側面は、人間がトラウマというメドゥーサ(恐怖による麻痺)から治癒するために気道しなければならない、元型的な性質や資源を形成するものである。メドゥーサの姿を知覚し反応する能力は、私たちの本能的性質に反映されているのである。

 

参考文献

ピーター・A・ラヴィーン『身体に閉じ込められたトラウマ』(池島良子、西村もゆ子、福井義一、牧野有可里 訳 )星和書店

 

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