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トラウマの定義
トラウマの定義

 

トラウマといえば心的外傷後ストレス障害(PTSD)を思い浮かべる人が多いと思います。ここでのトラウマの範疇は、PTSDの原因となる戦争、自然災害、事故、事件、暴力犯罪、性犯罪、虐待、いじめ、手術中の医療ミス、出生時の医療措置の影響、子宮内のストレスなどのさまざまな慢性・急性の外傷体験になります。また、医学的なPTSDには診断されないかもしれませんが、家庭や学校、取り巻く生活空間の全体がストレス過多になる慢性的なトラウマ、親子間のこじれが振りほどけないほどの縛りとなる世代間伝達トラウマ、子どもの発達を脅かす依存欲求に応じてもらえない体験、養育者に強い恐怖があるために、子どもと養育者の役割逆転、自分は親から望まれてこの世に生まれたのではないというメッセージの受け取りなど累積したトラウマまで入ります。

 

トラウマとは、個人が心身に耐えられない傷を負うことで、それは、客観的に確認できることから、主観的に経験されるものまであります。トラウマは、心に傷を与えるだけではなくて、外傷時のショックから、脳と身体の神経が極限まで研ぎ澄まされて、筋肉の伸び縮みが極端になり、大きな衝撃を与えます。その衝撃の後は、ギュッと身体が縮まってロックがかかり、その態勢から抜け出せなくなる人がいます。トラウマがある人は、嫌悪や不快なことに弱く、すぐ古傷が疼いて、身体が硬直し固まります。この時は、身体の筋肉だけでなくて、交感神経や背側迷走神経の働きの影響で、脳や循環器、消化器、四肢、神経、免疫系、内分泌系など、全身に影響を及ぼします。日常生活は、頭の中が警戒心でいっぱいになり、嫌悪するものに対して、身体の中は怒りや恐怖の感情、焦りや苛立ちの不快な感覚に悩まされ、神経や関節に痛みが出ます。また、そのような状態が慢性化すると、ストレスへの許容範囲が狭くなり、感情をコントロールできなくなって、ちょっとしたことでも対処できなくなります。さらに、生活全般の困難が続くと、身体の感覚や感情が麻痺して、脳や内臓は炎症を引き起こし、広範囲に悪影響が及びます。トラウマは、単に心の傷というものではなく、現在では全身に及ぶ疾患と言われています。

 

PTSD症状では、トラウマ場面のなかで激越な感情が沸き起こり、身体にショックを与えて、神経系の働きや身体の中の生理現象を改変してしまう現象であり、過剰警戒、闘争・逃走反応に至ります。解離症状は、恐怖や戦慄の恐ろしいショックを経験して、闘争・逃走反応が失敗に終わり、身体がギュッと縮まり、凍りつきます。そのあと、一瞬にしてブレーカーが落ちたような状態になり、機能停止を起こすか、崩れ落ちるかして、背側迷走神経の支配下のもとで、身体は麻痺した状態になり、心身は分離して、心臓や筋肉は衰弱し、ぼんやりしたり、真っ暗になったり、現実から離れて夢の中の出来事のように感じる現象です。あとは、抑圧を基盤とする自己を脅かす心理学的意味の分裂まで広い範囲でトラウマを捉えています。

 

トラウマ(PTSD)の歴史
トラウマの歴史

 

19世紀後半の「ヒステリー研究」で始まり、外傷的な出来事に関する耐え難い情動反応が一種の変性意識を引き起こし、この変性意識がヒステリー症状を生んでいるというもので、外傷記憶とそれに伴う強烈な感情を取り戻させ、言語化することによってヒステリー症状が軽快するという発見がなされました。次に、第一次世界大戦おける塹壕戦の経験を踏まえ、戦後、米国と英国から始まり、ベトナム戦争後に頂点を極めた「戦闘ストレス反応の研究」であって、最初、臆病者であるからだと結論し、処罰と脅迫が行われていました。第三の流れは、ごく最近認知されてきた性的暴力と家庭内暴力の外傷に関するものであり、幼児期の身体的虐待や性虐待は慢性かつ重度のPTSD発症の原因となることが知られています。日本でも阪神大震災や地下鉄サリン事件の被害者に関連して知られるようになり、市民生活の中での性的暴力や家庭内暴力においても注目されるようになりました。

 

トラウマ概念の危機と再吟味

 

トラウマは、歴史上のある時期から、特にフロイトのエディプスコンプレックスの概念あたりの頃に、大人が子どもにトラウマを与えるという事実が精神医療領域で消え去ることがありました。それは、トラウマ(家庭内虐待や戦争による戦闘ストレス反応)という事実が、既存の社会の秩序や権威への敬意を失墜させると恐れられていたようです。さらには、愛国心や家族愛の価値観とも相性が悪く、純潔さを求める保守的な人々には、トラウマという概念は受け入れ難いものでした。また、臨床家たちが社会の権力者へのご機嫌を伺い、患者の真実よりも自分たちの利益やポジション争いに終始したためです。

 

ただし、トラウマという真実を語ることは、誰かを傷つけてしまうことを恐れたり、自分が目立ってしまうことが怖くなったりして、見て見ぬふりをすることは正常な心理とも言えます。その他、人が他者のトラウマという苦悩を見て、自分のことのように共感的に考えられる人もいますが、その一方で、他者のトラウマという苦悩を見て、強い情動を感じ、扁桃体が刺激されることで、そのトラウマが自分にまで降りかかるのではないかとリスクを恐れる人がいます。

 

現在でも、トラウマを扱う臨床家は、生物学的要因と神経科学的要因から脳と身体の問題を考えながら、複雑な環境要因を重視しています。そして、トラウマは個人のこころや発達の問題だけでなく、国家や社会、学校教育、家庭などの環境側に問題があるということを伝えていますが、人々はトラウマを見ないようにして生活全般や社会を回しています。トラウマという領域は、権力者との折り合いが悪いため、踏み入ることは禁じられている領域もあります。また、今の症状に着目して、脳のメカニズムに原因を探り、過去をほとんど考慮しない精神科医とか、個人のこころや発達の問題としてしか見立てることのできない心理士とも相性は良くありません。さらに、トラウマを負った半数の人は、トラウマ体験を思い出したくないので、できれば無かったことにしておきたいとか、そっとしておいてほしいと思っている人たちもたくさんいます。

 

そういう訳で、残念ながらトラウマを扱う臨床家は、私も含めて不遇な運命を辿ってきている人たちが多くいます。一般的に組織集団というのは、真実を探すよりも合理性やポジション取り、体制維持のための利益を追求していくところなので、トラウマを扱う臨床家は、当事者の生活や主観的世界、生物学的メカニズムの細部まで気に留めながら、ひっそりと一人で研究していくことになります。また、大半の健康な人は、被害者の本当の痛みまでは興味がないようで、大切なのは、自分の家族や仲間、職場や同業の人間関係だったりします。

 

トラウマへの理解は、人それぞれの正義感や脳の仕組みの違いにより、いつの時代も分裂しています。最先端と言われているアメリカの精神医学の領域でも、トラウマへの理解は不十分なままです。日本では、戦後のトラウマの世代間伝達など、誰も語ってこなかったし、高度経済成長に浮かれまくって、痛みの部分は見ないようにしてきました。トラウマの概念は、社会内の権力の変化と共に流行り、衰退しを繰り返しています。現在の医療現場では、科学的根拠(エビデンス)が求められており、子供の頃の虐待やいじめ、親子間のストレス、医療ミス、戦争、自然災害、社会環境などの複雑に絡み合ったトラウマが原因で現在の精神疾患や身体疾患になっていると証明することが難しいために、トラウマは過小評価されています。しかし、最近では、科学の発展が凄まじく、小児期のトラウマ(逆境体験)を繰り返し直面するとその人の寿命をおよそ20年ほど縮めてしまうという衝撃的な相関関係が明らかにされてきてます。

 

ちなみに、トラウマを見立てるというのは、トラウマを受けた人の主観的世界がどのようなプロセス(原因)で起きているのか、体と心の状態を見ていったり、この世界の豊かさや過酷さ、いい加減さを使って説明していくことです。これからの社会は、リベラル派(弱者への再配分、危害を加えられた人へのケアを重視)が衰退し、世界的に保守化や市場主義化が進んでいて、格差社会になっていきそうです。貧困は、治安の悪化、虐待やDVの蔓延、親子間の世代間伝達トラウマにはまり込んでいきます。

 

もし、今からでもトラウマを勉強される方には、ベッセル・ヴァン・デア・コークの著書「身体はトラウマを記憶する」、ピーター・リヴァインの著書「身体に閉じ込められたトラウマ」をおすすめします。また、トラウマを知るためには、トラウマの専門書のみならず、虐待などの被害を受けた当事者の言葉とインターネットを丹念に調べていくことで真実に近づくことができます。

 

重い外傷体験(PTSD体験)
▶外傷体験のショックを受けると

 

人は外傷体験を負うと、生命が脅かされたり、尊厳を踏みにじられたりするような経験をして、強い衝撃を受けて、心的機能(脳の精神システム、身体の筋肉、内臓、神経、免疫系、内分泌系)に莫大なエネルギーが流れ込みます。身体は硬直して、ショック状態になり、痛み、恐怖、麻痺、過覚醒、凍りつき、パニック、機能停止、虚脱、非現実感、離人感、無力感に陥ります。また、恐怖や戦慄の衝撃により、身動きが取れなくなり、凍りついて機能停止に陥るか、崩れ落ちる外傷体験だけではなくて、対象に見捨てられるとか、周りの人間に振り回されるとか、仲間を助けられないことが、取り返しのつかない恐怖に繋がり、疲労しすぎて、錯乱状態に陥り、トラウマ化する人もいます。

 

PTSD症状のなかで日常生活を困難にさせるのが、トラウマになった出来事が繰り返し蘇ってくる再体験症状(フラッシュバック、悪夢、パニック発作)と言われます。フラッシュバックが生じているときは、苦痛に悶えながら、左脳はほとんど機能しておらず、言葉にすることができないので、その出来事を客観的に分析したり、自分の物語の一部として見ることが出来ません。また、トラウマを受けた人は、脳の扁桃体が危険を察知して、警戒態勢に入り、身体はストレス反応を起こして、ほんの一瞬の刺激に対しても、過敏に反応します。身体は過緊張状態が続き、小さなことでもすぐに凍りつくか、過剰に覚醒させられます。急性ストレス障害やPTSDの過覚醒症状があると、神経は高ぶって、呼吸は浅く早く、動悸が激しく、聴覚過敏や驚愕反応、不眠、ネガティブ思考、恐怖症、身体症状が特徴で、普段から落ち着きがなくなり、すぐに疲れてしまいます。さらに、外傷体験が繰り返されると、身体は常に凍りついた状態になり、交感神経と背側迷走神経が過剰な生活にあり、複雑性PTSDや境界性人格障害になります。

 

▶外傷体験時の反応の種類

 

外傷体験の記憶の中で最も精神的ショックが大きい所をホットスポットと言います。人は命の危険に直面すると、交感神経が活発に働いて、心拍や呼吸が増えて、血液を筋肉に送り、身体は興奮して、手足を使って、戦うか逃げることが可能になります。しかし、戦いたくても敵に押さえつけられているとか、敵のほうが圧倒的に強いことが分かっているとか、仲間を助けられなくなるとか、戦うのも逃げるのも相応しくない場面などで、取り返しのつかない恐怖に襲われて、身動きが取れなくなると、背側迷走神経が過剰に働いて、凍りつきや解離、不動化、死んだふり、機能停止、虚脱が起きます。

 

凍りつきは、頭の中では、大変だ!どうしようと焦っていたり、じっと耐えながら、時間が経つのを待ったりして、周りの様子を伺うことができます。身体の方は、恐怖に凍りついて、麻痺させられて、動くことも、声を出すことも、叫ぶことも出来なくなります。解離は、意識がこの現実世界や身体から離れていく現象で、痛みや不快な感覚・感情を切り離し、ぼんやりして、まるで夢の中の出来事のように感じたり、天井をぼーっと眺めたりしています。死んだふりは、首や肩、背中に力が入っていますが、手足の力は抜けてしまっていて、立てなくなり、その場に横たわります。機能停止は、それまで張りつめていた緊張感が途切れてしまって、動けなくなり、五感、呼吸、筋肉、血液循環、エネルギーの活動機能を一部停止させて、最小限のエネルギーで留まろうとします。全身は固まり、凍りついて動けず、身体から魂がどこか遠くに消えてしまったような抜け殻状態で静止しています。虚脱は、息の根を止められる酸欠状態か、血の気が引くめまいにより、張りつめていた緊張が切れて、交感神経の活動が低下することにより、足がワナワナガクガ震えて、身体が鉛のように重く冷たくなり、力が抜けてしまって、跡形もなく消えてなくなるような体験です。

 

人が機能停止や虚脱するすときは、頭の中は混乱し、身体は震え、全ての望みは放棄されて、絶体絶命のなかで一瞬にしてブレーカーが落ちたような状態になり、意識が朦朧とするか、場合によっては意識を失って、記憶は断片化されます。身体の方は、身体内部がバラバラになるか、腹が捻じれるような痛みを発して、崩れ落ちていき、頭痛や嘔吐、下痢に至るかもしれません。人は絶望した状態でも、身体は反撃しようとして、死んだふりをしながら過剰警戒しており、激しい攻撃性や自暴自棄な行動を見せることがあります。

 

その他、子どもが慢性的なトラウマをやり過ごすときは、過覚醒になり、戦うか逃げるかの選択になりますが、それも効果がない場合は、低覚醒になり、あたかも眠ったかのように過ごしたり、感覚を麻痺させてやり過ごします。一般的に、慢性的に外傷体験に曝されている人は、日常生活を困難にすることに対して、意識を変容させ、あいまいにしたり、忘れたりした方が楽なのでそうしますが、それが影響して現在の人間関係を生きにくくします。

 

▶外傷体験時の心と身体と精神

 

人によってトラウマのホットスポットの恐怖の度合いは様々ですが、トラウマの中核部分は、殺すか殺されるかの究極の経験の場合もあります。トラウマというのは、エネルギーが激しく揺れ動き、身体が一気に伸びて、極限のところまで縮まることを繰り返します。場合によっては、人の手により、竜巻のようなものに巻き込まれ、身体がもがき苦しみ、心は粉々にバラバラに砕かれるような体験です。

 

人は危険が差し迫ると、目をこらし、耳を澄まして、胸がざわつき、足は落ち着かずに、ブワッと毛が逆立ち、針に刺されたような痛みのなかで、か細い声で、恐怖にガタガタと震えます。頭の中は、砂嵐が巻き起こるような緊急事態モードで、命令してくる声が聞こえたり、叫び声が聞こえたり、全身を苦悶させて、泣いています。

 

人によってトラウマ体験時は、圧倒的な恐怖や戦慄から神経系が極限まで高ぶり、身体は硬直し、興奮し、目が大きく開かれ、瞳孔が拡張し、心拍数が上昇し、呼吸は浅く早くなります。大変な状態になると、胸が圧迫されるように痛みで、喉はつっかえて、呼吸は出来なくなり、心臓の鼓動は激しく、顔は熱く、声が出せなくて、心と身体(自分が自分であることから、自分が自分でなくなる境目)が凍りつきます。

 

全身が固まり凍りつき、胸や背中が痛み、手や足が突っ張って動かせない状態では、ほとんど息が吸えず、そんな状況でも容赦のない攻撃を受けると、心臓が止まりそうになり、頭がフラフラして、人によって意識が朦朧として、場合によって意識が飛んで、目の前が真っ暗になります。その後に絶望が襲ってくると、ブラックホール(黒い渦)に吸い込まれて、固まり閉じこめられる極限の状態のなかで、意識は遠のき、身体に力が入らず、崩れ落ちます。

 

崩れ落ちるときは、全身の筋肉が緩み切って、身体が開ききり、虚脱状態に落ちます。身体が伸び切ると、心臓がぽわーんと膨らんで脈が弱くなり、手足の感覚が無くなります。顔は真っ青で、爪先は青く、身体は痺れ、冷たく重くなります。そして、息をする部分だけを残して、その他の機能は一部停止しています。ただし、胃腸の消化活動だけは活発に働くために、吐き気や下痢、腹痛のような状態になるかもしれません。一方、敵が隙を見せた際は、死んだふりからの覚醒反応として、爬虫類のような目つきになり、ギョロギョロと周囲を警戒し、飛び掛かるような激しい攻撃性や無秩序な行動、自傷行為などの行動などが見られるかもしれません。また、性格が一変して、子どもの頃の傷ついた自分に戻り、そこから少しずつ心身の機能が回復していくことがあります。

 

トラウマ後は、一見、心身の機能が回復したように見えても、本来の部分が外傷体験のショックで虚脱している場合は、心も言葉もなく、生きているのか、死んでいるのか分からない状態になります。虚脱状態では、心拍数や血圧が低く、手足に力が入らず、起き上がるのもしんどく、口数は少なく、訳の分からないことを喋り、猫背でだらんとした状態でいます。その一方で、身体が凍りつく直前に、安全な場所に退避するとか、他者から温かく心強いサポートがあると、生命エネルギーが収縮から拡張に向いて、神経系から溢れで出ます。凍りついた精神と身体を融解させるため、目と鼻から大粒の涙を流し、全身をブルブル、ガクガクと震わして、光が溢れ返り混じり合う現実の世界に戻ってくることができます。このように他者の援助を借りてトラウマから上手に回復することができると、絶望は希望に変わり、修正情動体験になります。

 

▶四重の恐怖サイクル

 

心と身体が凍りつき、固まり閉じ込められるようなトラウマを負っているにもかかわらず、自分に悪意を向け、恐怖で支配するその張本人とともに日常生活を送り続けることで四重の恐怖サイクルにはまり込むことがあります。そして、身体の中に住むことが安全だと感じられなくなるとか、世界中の人が敵にしか見えなくなるような知覚や気分の変動が起きることもあります。また、統制の効かない問題行動を繰り返し、失敗を繰り返すことで、強烈な自己批判をするようになり、激しい攻撃性を極限まで抑え込むか、自分へ向けられることがあります。

 

①外傷体験に刻まれた恐怖と戦慄と無力感

②身体が硬直して固まり閉じ込められる恐怖

③激しい攻撃性を統制しきれない恐怖

本来は危険でないはずのものまで脳や身体が不快に感じる恐怖

 

トラウマの治癒には、複数の恐怖症を少しずつ人間が本来備えている生命エネルギーの源として感じられるように支援していく必要があります。

 

発達障害とトラウマの見立ての難しさ
▶発達障害とトラウマの見立て

 

発達障害の子どもたちは、トラウマにつながりやすいと言われています。と言うのも、学校などの集団場面で不適応になりやすく、また、育てにくさから養育者との間でストレスが生じやすいです。さらには、神経発達の問題から、感覚過敏や感覚処理が通常の人とは違っていて、外の世界のストレスに弱く、身体が繊細に反応して、複合的なトラウマを抱えやすいからです。また、発達障害の子どもを取り巻く生活空間(家庭、学校等)の全体がストレス過多になると原因不明の身体症状、パニック、過覚醒、低覚醒、解離、虚脱、フラッシュバック、悪夢、自己中心性、こだわり、感覚過敏がより強くなります。そして、傷つきトラウマを負った発達障害の子どもは、集団場面で空気が読めなかったり、こだわりが強すぎたり、身辺自立能力が乏しいために、周りの児童に馬鹿にされ続けることで、恥がトラウマになります。トラウマのせいで、キレて暴れるなどの問題行動として現れるか、ショックで凍りついて解離する反応を示します。ちなみに、発達障害とは、脳の特性のアンバランスさが大きく、現在、学校や職場などで不適応行動があると診断されます。

 

長年にわたるトラウマ犠牲者に対して、適切な心理支援を行うには、複雑性PTSDや解離性障害、自己愛性、境界性パーソナリティ障害、摂食障害などのベースに発達障害があるかどうかを見極めることが重要になります。しかし、実際には、発達障害がベースにあることが見逃されたり、見極めるのが非常に困難な場合があります。それは、機能不全家庭(虐待またはネグレクト)で育った人や発達早期にトラウマを負った人でも、健全な発達が必然的に妨げられてしまい、健全に成長していく機会がほとんど与えられないため、発達障害の子どもと同じく発達のばらつきが出てしまうからです。そのため、発達障害とトラウマの概念は、双方ともにあいまいさを残しており、現在の生きにくさは環境と遺伝が相互に複雑に絡み合っていると考えたほうが無難でしょう。

 

▶トラウマの身体症状

 

トラウマがある人は、脅威を遠ざけようとする防衛が働くため、神経が繊細で、外界の刺激に過敏に反応し、闘争・逃走・凍りつき・虚脱の原始的モードにはまり込みやすくなります。身体の中には、外傷体験時の嫌な記憶や不快な感覚がたくさん詰まっており、それらが頭の中で蘇ると、ザワザワ、モヤモヤ、ソワソワして、落ち着きがなくなります。人は危険を感じると、体に緊張や痛みが走り、肩に力が入って、上がっていこうとして、全身で踏ん張ろうとします。そして、反射的に顎を下げ、奥歯を噛みしめ、眉間にしわがより、口元を固く閉じていこうとします。胸から、首、頭部にかけて圧迫感を感じて息が止まりそうになります。心臓や背中は痛み、縮まっていって、猫背になります。恐怖に圧倒されると、首の神経や血液、リンパの流れが遮断されたようになり、そこを境に身体の上部と下部がばらばらになるような恐怖が襲います。次第に、こめかみあたりは脈を打つ感じが強くなり、頭痛が始まるかもしれません。顔全体が赤みをおびて汗が出始め、目は見開き、充血し、涙が眼球いっぱいに広がり、喉がつっかえて唾を呑み込みにくくかもしれません。このように身体の方が生命の危機に瀕した出来事を記憶していて、その時のことを覚えています。

 

トラウマがある人は、不快な刺激に対して、身体が硬直するようになり、神経が圧迫されて、呼吸ができない、心臓がドキドキする、頭や胸が痛みになります。身体への不安が強くなると、心と身体が離れていって、身体が無くなってしまうと、時間感覚の停止、感情の鈍麻、集中力の低下、思考の混乱、自己感覚が喪失します。トラウマをケアせずに、過緊張や凍りつき、虚脱状態で生活していると、神経や関節が痛んだり、筋肉が衰弱したり、脳や内臓、皮膚に炎症が起きたりして、発達障害の人と比べて、心身に多くの問題が見られるのが特徴です。また、胎児期や周産期、出生時の医療措置のトラウマの場合は、本人の意識や記憶はありませんが、身体の痛み、硬直、凍りつき、痺れ、虚脱、視線の動かし方、凝視、聴覚の過敏さ、危険を察知する能力、頭の中の情報処理の仕方を見ていけば、トラウマがあるかどうかはだいたい分かります。ただし、精神医学では、成育歴や身体の中に閉じ込められているトラウマを見ようとしないので、遺伝、環境が相互に影響を及ぼし、行動および情緒に問題があるとして、発達障害として診断されることになります。一般に、出生前後にトラウマがある人は、他者と交流しようとする神経よりも、脳と身体は、脅威を防衛するために発達していくので、脳機能や自律神経系、ホルモンバランス、免疫系に調整不全が起きて、さまざまな症状(過敏性、こだわり、自己中心性、コミュニケーション、警戒心、ストレス耐性、強迫症状、解離症状、身体症状、自己免疫疾患、体調不良)が出てきます。

 

発達早期のトラウマが根深くある人は、些細なことで興奮し、交感神経系に乗っ取られ、攻撃的なところがあります。一方、恐怖による麻痺や不動化があり、背側迷走神経が働くことで、身体は凍りつきや死んだふりを行います。極限の状態では、現実感喪失や離人、虚脱など様々な経過を辿り、脳がシャットダウンすると、活動性が低下する解離症状がみられます。解離症状(低覚醒)の優位な人は、現実世界に怯え、警戒しており、身体は固まり凍りつくか、極度に脱力していて、自分の身体の感覚が分からなくなっていきます。不快な状態でも、我慢強く耐えていると、エネルギーが尽きて、心臓や気管支の活動は減少していき、喉や胸は締めつけられて苦しく、呼吸はしづらく、心拍数や血圧は低下して、めまいやふらつきが起きます。一方で、胃腸や消化器の活動が増加していて、お腹の調子が悪くなりやすく、腹痛や下痢、吐き気が起こることがあります。また、慢性的なストレスと緊張から、原因不明の身体症状に悩むことが多く、脳や内臓、皮膚の炎症や慢性疲労に悩むことがあります。さらに、筋肉が張ることで、背中の痛み、偏頭痛、関節の痛み、慢性疼痛になることがあります。PTSD症状(過覚醒)の優位な人は、一瞬の刺激に敏感に反応するため、苛立ちや焦燥感に駆られて、交感神経系が活性化し、身体を動かしたくなる過覚醒になります。気管支の活動が増加していて、心拍数や呼吸数が多く、手足が冷たく、力が入っています。全身は硬直していて、発汗が見られて、フラッシュバックや聴覚過敏、動悸に苦しめられることがあります。あとは、子どもの頃からトラウマがある人は、このような解離症状(低覚醒)とPTSD症状(過覚醒)の間を行ったり来たりしているので、原因不明の身体症状に悩まされることが多く、感情や自己調整機能に障害が出ます。