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トラウマの追体験による治療法


 第1節.

トラウマティックな状態とは


トラウマ治療では、心で体の感覚や動きを見て、注意力や集中力を持続させることで、凍りつきや麻痺を解きます。重いトラウマの人ほど、体の筋肉や内臓は警戒態勢を取っており、脳に対して危険な信号を送り続けて、身体感覚が分からなくなっています。トラウマ治療では、スムービーリングを振る方法と、体に外傷を再演させて、未完了で終わっている動作を最後までやり遂げて、自分の状態を正常に戻すまでのことを繰り返します。重要なのは、無意識の体の動きを感覚・感情レベルで感じて、不快なことへの耐性力を高め、頭で理解していく必要があります。

 

凍りついてトラウマのエネルギーを滞らせてしまうような外傷体験というのは、不意を突かれて、恐ろしい衝撃に曝されると、筋肉はギュッと縮こまり、固まった状態でロックされてしまいます。 そして、極限まで体が縮こまって、息の根が止められるときに、頭の中が真っ白になり、機能停止が起きて、倒れ込んで動けなくなります。防衛の第一戦線が失敗に終わると、体の細胞は最小限までエネルギーを落として、生き残りをかけた最後のチャンスに賭けます。防衛の第二戦線は、死が差し迫っている状況下で、火事場の馬鹿力を使い、体の部分部分がバラバラに動きながらも、全身で必死にもがきます。

 

凍りつくとか崩れ落ちるようなトラウマを負い、 長期に渡り、固まったままでいると、フラフラで動けなくなり、まともに日常生活を送れなくなります。体は凍りつきや死んだふりのトラウマティックな状態にあるため、交感神経や背側迷走神経が過剰で、脳は危険や脅威を感じて過敏になります。頭の中は、自動に思い浮かぶ思考や悪いイメージのせいで、過去の嫌なことがフラッシュバックし、恐怖や無力感に苛まれ、トラウマの世界に閉じ込められます。

 第2節.

トラウマを再演させて追体験する


立った姿勢で、顎を引き、顔を下に向け、金魚のようにゆっくり口をパクパクさせます。座ってではなく、立ってその動作を続けると、体の筋肉や内臓への負担が増して、体への緊張や圧力が強まるために、身体感覚への気づきが増します。また、立って顎を引くことで、鼻で吸っても空気が吸えずに、首を吊っているか絞めている状態に近いです。この苦しい状態で、必死に息を吸い込む動作が過去の外傷体験のときに似ているため、体のほうがトラウマティックな動きを始めて、そのときの感覚をトラッキングすることが可能になります。

 

トラウマティックな動作や感覚が出ると同時に、体の中の凝りや固まりの部分、吐き気、寒気、体内を素早く動くエネルギーに気づき、体がその場面でどうしたかったのかが分かってきます。そのようななかで体の発作が起きて、最悪の状況まで落ちると、今度は体が自然に回復していく力を利用し、自分の体の内側から変化させます。この一連の流れで、過去のトラウマの反応が出やすくなり、その分だけ効果も出やすくなります。

 

ソマティックエクスペリエンスでは、トラウマによって遮断され、凍りついてきた部分からエネルギーを引き出します。トラウマを扱うセラピストは、凍りついてきたエネルギーを、患者が抑え込むのではなく、味方できるようにサポートします。また、これまで恐怖に閉じ込められたり、身動きが取れなかったりしたときに妨げられた、自分を守るための身体的行動をやり遂げるのを手伝います。

 第3節.

トラウマ治療を受ける側の体験


トラウマの治療の受ける側の体験としては、空気が吸えない感じがして、苦しくなります。軌道をふさぐ感じがして、空気を必死に吸おうとします。首は神経がたくさん通っていて、絞めつけられるのを嫌がります。無理やり、顔を下に向けて口の開け閉めという動作を強制されます。圧迫感を感じて、酸素を吸いたくなり、神経の反応や体の痺れや凝り固まりが出てきます。

 

自分をネガティブに追い込むことにより、落ち着かなくなり、胸がざわつき、黒いモヤモヤが出てきます。何かに追い立てられるような感覚のなかで耐えると、筋肉がギュッと縮まり、凍りつきや不動という極限の状態を作れます。自分の体が不動状態になると、胸から何かが出てきそうな感じや体の痛みや痒み、ピリピリ、チクチクした感覚が出ますが、あとは上昇していくしかありません。体のなかで眠っている潜在的な力を引き出すために、その体を意識的に探索して、最高の状態まで持っていきます。ただし、人によっては、寒気が出て、ゾワゾワが全身に憑りつき、身体の中を電気が凄いスピードで走り、手足が勝手に動いたりするので、我慢して耐えることが難しいとか、恐ろしくて向き合えない場合もあります。また、恐怖に震える過程において、手足の筋肉が崩壊し、死んだふりの脱力状態になる場合もありますが、そこからでも心拍を高める手足の運動をすれば、最高の状態まで回復します。

 

常に凍りつきながら生きている人は、バネがギュッと縮まったような体の状態にあり、その体の中で起きる反応を怖がらずに見ていくと、自然に回復していく力が出てきます。怖くて体が縮まろうとする強力な力と、体を回復させようと拡がろうとする力が拮抗して、その力と力がぶつかり合いから、手足がガクガクブルブルと震え、ピリピリした感覚、痙攣、鳥肌が立つ、熱くなる、体が揺れるなどの反応が出ます。この一連の動作をやり遂げることができると、体の中の未完了なトラウマのエネルギーを放出することに成功し、全身の凝り固まりが抜けて、温かく軽い状態になります。

 第4節.

トラウマ治療の効果


このような治療を継続して、集中力を高め、凍りついてギュッと縮まった体を何度も拡げて行くことが重要になります。体に安心感が出てくると、脳に危険な信号を送らなくなるので、過敏さやネガティブな認知、様々な症状が消えていきます。体の緊張を解していくことを繰り返していくと、自分の体のことが良く分かるようになり、本来の感覚や感情が戻ってきます。前ほどガチガチに固まる感じがなくなり、自分でよく分からないうちに恐怖感が減ります。日常生活のなかで、体が動けるようになり、生きる意欲が湧いてきて、人とも段々喋れるようになります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

公開:2020-03-21

論考 井上陽平

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解離・離人の回復法

ピーター・ラヴィーン先生は、トラウマを抱えて複雑な症状を持つ人に対して、スムービーリングを使って治療しています。解離・離人を治していくには、その器具を振り回して、体の動作や感覚に意識を向けます。

身体的変容を作る

トラウマとは捉えどころがなく、体のどこに潜んでいるかわからない不可視なものでした。最近ではトラウマは体の中に潜んでおり、トラウマの経験をその人が抱えている体の中を見ていくことで発見できます。

トラウマ回復の流れ

トラウマケアの方法としては、心と身体を一致させて、身体と仲良くなることを目指します。身体と仲良くなれば、トラウマの過覚醒や凍りつき、死んだふりの症状が良くなり、対人恐怖なども小さくなっていきます。