第1節.
通信病院 HP https://www.hospital.japanpost.jp/health/health201603.html
朝なかなか起きられず寝起きが悪く、一日中ごろごろして、夕方になって元気になり、逆に夜には寝付けないという子どもは単なる怠けではなく、もしかしたら病気かもしれません。子どもに多いと言われる起立性調節障害という病気について紹介します。
起立性調節障害の症状としては、立ちくらみ・めまい・ふらつき・頭痛・気分不良・倦怠感などの他、動機、腹痛、食欲不振、朝起きられない、夜寝つけないことや、時には失神発作などがあります。多彩な症状のため診断がつかず治療が遅れることがあり、また本人の訴えでしか判断できない症状が多く、午後や夜には元気になることから怠けや学校嫌いと捉えられる場合もあります。
起立性調節障害の主な原因は、自律神経の調節の乱れによって起こります。自律神経活動には24時間周期のリズムがあり、早朝になると交感神経活動が増えて身体を活性化し、夜には副交感神経活動が高まり身体を休養させるといった働きが正常です。ところが、起立性調節障害では、午前中に交感神経が活性化せず5~6時間以上も後ろにずれ込んできます。このため、朝に身体が休止しているような状態になり、その一方で、深夜になっても交感神経の活動性が下がってこないので、夜は身体が元気になり寝つきが悪くなります。起立性調節障害は、思春期で最も起こりやすい疾患の一つであり、約5~10%が発症すると言われています。自律神経の乱れは、季節や気候の変化、生活リズムの乱れ、心理的・社会的ストレス等の複合的な原因で発症しますが、思春期の時期の子どもは特に、学校においての人間関係や急激な身体の成長と変化など、特有の心理的ストレスにさらされることが多く、また自立心が育ちきっていない未熟さゆえに、心身に現れるさまざまな症状に負けてしまいがちです。
第2節.
起立性調節障害は、特に子どもに多く見られる疾患で、朝起きるのが非常に困難になることが特徴です。この病気の症状としては、身体のこわばり、頭痛やめまい、ふらつき、気持ち悪さ、疲れやすさ、疼痛、体調不良、失神などが挙げられます。これらの症状は、自律神経系や覚醒度の調整に問題があることから発生します。特に、トラウマを抱えている人や神経発達に問題がある人は、自律神経系の調整がうまくいかず、これらの症状が顕著に現れることがあります。症状が悪化すると、頻繁に体調を崩し、抑うつ状態に陥り、最終的には動けなくなることもあります。
この障害を抱える子どもたちは、昼から夕方にかけて徐々に活動できるようになりますが、前日の夜は覚醒度が高まり、活動的になるか、逆に寝ることへの恐怖に襲われることがあります。眠りにつく際には、解離状態や死んだふりのように無気力で何も感じなくなることもあります。就寝中には、長時間同じ姿勢でいるために、不動状態に入り、呼吸が浅くなり、背側迷走神経が過剰に働くようになります。
朝になり目が覚めても、トラウマや神経発達に問題がある人は、日常生活に対して強い危機感を持っているため、身体が固まったままで手足に力が入りにくくなります。首、肩、背中はガチガチに緊張しており、呼吸も浅く、血液の循環が悪くなるため、活動したくてもできない低覚醒状態に陥り、症状に振り回される日々が続きます。
これらの問題は、決して心が弱いからではなく、脳と身体の神経に根本的な問題があること、そして睡眠の質が低下していることに起因しています。朝が特に辛い時間帯であり、ベッドから起き上がるのが非常に困難です。身体が重く、眠気に襲われ、起き上がることや歩くことさえ大変です。さらに、疲れやすく、腹痛、吐き気、頭痛、めまいを伴い、無気力や無感情になりやすく、これが学校の遅刻や欠席、不登校の要因となることが少なくありません。
このように、起立性調節障害は単なる「朝起きられない病気」ではなく、深刻な身体と心の問題が絡み合った複雑な疾患です。
第3節.
トラウマを抱える人にとって、就寝時は安心して眠る時間ではなく、恐怖と苦痛を伴う時間かもしれません。寝入る際にも、心地よく眠りに落ちるというよりは、まるで気を失うような形で眠りにつくことがあります。無意識のうちに身体が凍りつき、歯を食いしばってしまったり、喉が詰まったり、鼻が詰まったりして、非常に息苦しい状態で寝ていることも少なくありません。さらに、トラウマの悪夢を見ると、体はガチガチに固まり、不動状態に陥り、動きたくても動けなくなることがあります。悪夢の影響で夜中に叫んだり、中途覚醒することもあります。朝目覚めても、睡眠が十分にとれた感覚はなく、無力感や脱力感に襲われ、心身ともに打ちのめされた状態で、起き上がることができません。
交感神経系が正常に働かず、筋肉が機能しなくなると、手足がだらんと垂れ下がり、頭のてっぺんから手足の先まで血液の巡りが悪くなり、身体が重く疲れやすくなります。それでも、外に出て通勤電車やバスに乗り、学校や職場に向かい、最悪の事態を避けるために日常生活を無理にでもこなしていくと、首を中心に脳や背中に炎症が発生し、心臓や皮膚が損傷を受けることもあります。さらに、脳の容積が縮小し、慢性的な疲労や疼痛の症状が現れることもあるのです。
第4節.
トラウマを抱える人は、睡眠中に悪夢を見たり、突然怯えて叫び声を上げたり、パニックに陥ることがあります。また、眠っている間に身体を思うように動かせず、筋肉が固まったり、逆に脱力してしまうこともあるでしょう。起床後も、筋肉が崩壊して心臓の働きが弱まり、不動反応の低覚醒状態が続くと、身体が重く怠く感じられ、動かすことさえ辛くなります。
そのため、寝る前にはリラックスできる習慣を取り入れることが大切です。例えば、暖かいお風呂に入る、おさ湯を飲む、軽いストレッチをすることで、身体を緩めておきましょう。パジャマは肌触りにこだわり、ベッドのマットレスもできるだけ質の良いものを選んで、自分の身体を安心して委ねられる環境を整えます。また、寝る際には照明を工夫したり、シンギングボウルやクリスタルボウルのヒーリングミュージックを流すことで、体に心地よい振動を伝え、トラウマの影響を軽減し、睡眠の質を向上させることが期待できます。
朝起きた後は、手で何かを握ったり、足で床をしっかりと踏みしめることで、大きな筋肉を動かし、血液を末端まで送りましょう。また、温かい飲み物や栄養のある食事をしっかり摂ることで、身体の凍りつき状態(不動状態)を解きほぐすのが効果的です。さらに、ヨガやラジオ体操などで身体全体を動かし、固まっている部分を柔らかくしていくこともおすすめです。これにより、睡眠中に身体が突然怯えて叫び声を上げたり、パニックを起こすことが少なくなるかもしれません。
第5節.
起立性調節障害は、特にトラウマや発達障害の傾向がある子どもたちに多く見られます。この障害は、自律神経系の調整がうまくいかないため、日常的なことがスムーズにこなせず、親子関係や学校の先生との関係が悪化しやすくなります。こうした子どもたちは、小さい頃から傷つく体験を重ねている可能性があります。
現代社会では、都市型の生活や塾、習い事、さらにはスマホなどの電子機器の過剰な使用により、身体性が軽視されがちです。その結果、過度なストレスや緊張に対する抵抗力が低下し、予測不可能な人間関係の中で心身のバランスを崩してしまう人が増えています。
起立性調節障害は、脳と身体の神経、筋肉、心臓、内臓、血流などに問題が生じる複雑な疾患です。この障害を改善するためには、身体的な面と精神的な面の両方からアプローチする必要があります。心身のバランスを取り戻すためには、身体性を重視し、適切なリラクゼーションや運動を取り入れることが大切です。また、精神的なサポートを通じて、心の安定を図りながら、根本的な原因に対処していくことが求められます。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平