トップページ > 心的外傷と回復
第1節.
トラウマを早期に経験した人々は、その深く刻まれた感情や身体的反応に強い恐怖を感じています。これらの反応は時に破壊的であり、彼らはそれを引き起こす可能性のある外部の状況にも過剰に敏感になります。常に周囲を警戒し、見えない敵と暗闇の中で戦い続けているかのような感覚に苛まれるのです。
このようなトラウマを抱える人々にとって、恐怖や痛み、不快感はかつて外部から受けた脅威の残滓であり、やがて自己の内側で増幅されるものとなります。つまり、彼らが直面している最大の敵は他者ではなく、自分自身とも言えます。この内面的な戦いは、非常に孤独で厳しいものであり、誰かの支援やガイドなしには乗り越えることが難しい場合があります。ここで、心理療法(セラピー)が極めて重要な役割を果たします。
セラピーでは、セラピストがガイドとして、クライエントと共に深層心理の旅に出ます。この旅の中で、クライエントは過去の出来事や感情を包み隠さずに語り、セラピストはそれを温かく受け止めながら、共感をもって理解を深めていきます。セラピストの応答を通じて、クライエントは自身の感情や経験を新たな視点から見つめ直し、徐々にその意味を解き明かしていくのです。
セラピーを通じて恐怖を克服し、自己への愛情を育むことができれば、本来の穏やかな自分を取り戻すことが可能になります。このプロセスは、トラウマからの回復と自己成長を促進し、より豊かな人生を歩むための確かな一歩となるでしょう。
セラピーの過程で、セラピストと共に何年もかけて自己の魂を探求していくと、最終的に悟ることがあります。それは、自分が戦っている相手は、他の誰でもなく、自らの内にある私自身であるということです。私たちが向き合うべきものは、外部の敵ではなく、自分の中に深く根付いた恐怖です。しかし、人はその恐怖に直視し続けることが非常に難しいと感じます。
セラピーの中でまず重要なのは、最も信頼できる対象が自分の中に存在するかどうかを見極めることです。自分を支え、安心を与えてくれる対象と共に、心の深い森の中にある泉で安らぎを得ながら、心の奥底に埋もれた真実を探し出していくのです。この旅路では、内なる美しいイメージと、地獄のような暗闇のイメージとの間を行き来しながら、自分の怒りや恐れ、絶望と格闘します。恐怖に近づいては離れる、その繰り返しの中で、人は次第にその恐怖を受け入れる覚悟を持つようになります。
そして、全ての恐怖を乗り越えた先には、深い悲しみと、誰とも共有できない孤独が待っています。それは、死や消滅という究極の境地へと至る道でもあります。最終的には、自己を無とし、自分の内にある大いなる存在の働きを信じ、それに身を委ねることが求められます。この自発的な自己犠牲によって、人は新しい自分へと生まれ変わるとされています。セラピーのこの旅路は、自己の深い再生と真の解放への道を示しているのです。
トラウマ治療では、凍りつきやすかったり、動けなくなったり、虚脱状態に陥りやすい人の心と身体の声に耳を傾けることが重要です。治療の目的は、不快な感覚や感情を避けることではなく、それらをしっかりと感じ取り、痛みに対する見方を前向きに変えていくことです。また、ポジティブなボディイメージを育てることで、トラウマからの回復への道筋を築いていきます。
このプロセスは、本人だけでなくセラピストにも大変な根気が求められます。トラウマ治療は一朝一夕で終わるものではなく、繰り返し行われるセッションを通じて、徐々に自己を取り戻していく過程です。少しずつ前進しながら、痛みを乗り越え、新たな視点を獲得することで、本来の自分を取り戻す力を養っていくのです。
第2節.
参考文献
D・カルシェッド:(豊田園子,千野美和子,高田夏子 訳)『トラウマの内なる世界』新曜社 2005年
第3節.
参考文献
ヴァンデアハート・オノ:(野間敏一 訳、岡野憲一朗 訳)『構造的解離』星和書店 2011年
第4節.
トラウマに苦しむ人は、その癒しの旅路で、自らの固い防衛を解き放つことを学ぶ。このようにすべての身を委ねる中で、凍りついた不動からおだやかな融解へ、そして最後は自由な流れへと変化していく。習慣化した解離状態でバラバラになった自己を癒していく中で、断片化から全体性へと変化していく。からだの中に存在できるようになり、長い流浪の旅から戻ってくるのである。彼らはからだに帰ってきて、それがまるで初めであるかのように、体現化した人生を味わうのである。トラウマはこの世の地獄であるけれども、その回復は神様からの贈り物であるかもしれない。
参考文献
ピーター・ラヴィーン『身体に閉じ込められたトラウマ』(池島良子、西村もゆ子、福井義一、牧野有可里 訳 )星和書店
第5節.
心理療法のゴールは、外傷化された個人が、思考、身体、情動が統合され、それゆえに、自分自身の中に、そして対人関係の中に、主体的に喜びや快感を追求することが出来るような自己の感覚を確立することを援助することである。
1)時間ー私は現在に存在している。
2)身体ー私は自分の身体の中にいて、身体は私のものだ。
3)思考ー自分の思考は自分のもので、コントロールもできる。
4)情動ー自分が感じていることを感じ、知ることができる。
1)落ち着いて意識を集中した状態になる方法を見つける。
2)過去を思い出させる光景や思考、音、声、身体的感覚に反応するときに、その落ち着きを保ち続けることを学ぶ。
3)今を思う存分生き、周囲の人々と十分にかかわる方法を見つける。
4)どうにか生き延びてきた手段についての秘密を含めて、自分に隠し事しないで済むようにする。
1)安全・安心の確保
2)再体験(安心できる関係の中で、語ったり書いたりして過去を再体験する)
3)社会的再結合(社会的なつながりを作る)
1)記憶想起の過程の主体者になる
2)記憶と感情の統合
3)感情耐性
4)症状統御
5)自己尊重感とまとまりのある自己感
6)安全な愛着
7)意味を見出す
1)症状の軽減、安定化とスキルの構築
2)外傷記憶の治療
3)人格の(再)統合と回復
トラウマケア専門こころのえ相談室
更新:2020-06-13
論考 井上陽平