トップページ > 心的外傷と回復
第1節.
セラピーのなかでセラピストと何年もかけて、自分の魂を探求した先に、私の戦う相手は、他の誰でもない自らの内にある私自身であることを悟ります。私の中にある恐怖を解体することであると…悟りますが、人は恐怖に目を向け続けることが出来ません。まずは、セラピーのなかで、一番信頼おける対象が自分の中にあるかどうかが分かれ道になります。自分を支えてくれて、安心していられる対象と共に、深い森の中の泉で安らぎ、地中深くに埋もれている真実を探していきます。この内なる魅惑的なイメージと地獄のイメージとの間を行き来しながら、自分の怒りや恐れ、望みのない絶望と格闘し、恐怖に近づいては離れてを繰り返します。そして、あがくのではなく、その恐怖を引き受ける覚悟を持ち、すべての恐怖すらも乗り越えた先には、深い悲しみ、誰とも分かち合えない孤独があり、死、消滅へと至ります。最終的に、自分を無とし、自分の内にある大いなる存在の働きを信じて、それに身を任せる…この自発的な自己犠牲により、新しい自分に生まれ変わるとされます。
トラウマ治療では、凍りつきや不動状態、虚脱状態しやすい人の心と身体の声を聴けるようにします。トラウマを負った人が不快な感覚や感情を感じないようにするのではなく、感じ取り、痛みに対する見方を良い方に変えたり、ポジティブなボディイメージを作ったりして、トラウマからの回復を道筋を作ります。トラウマ治療は、このように本人もセラピストもすごく根気がいります。
第2節.
参考文献
D・カルシェッド:(豊田園子,千野美和子,高田夏子 訳)『トラウマの内なる世界』新曜社 2005年
第3節.
参考文献
ヴァンデアハート・オノ:(野間敏一 訳、岡野憲一朗 訳)『構造的解離』星和書店 2011年
第4節.
トラウマに苦しむ人は、その癒しの旅路で、自らの固い防衛を解き放つことを学ぶ。このようにすべての身を委ねる中で、凍りついた不動からおだやかな融解へ、そして最後は自由な流れへと変化していく。習慣化した解離状態でバラバラになった自己を癒していく中で、断片化から全体性へと変化していく。からだの中に存在できるようになり、長い流浪の旅から戻ってくるのである。彼らはからだに帰ってきて、それがまるで初めであるかのように、体現化した人生を味わうのである。トラウマはこの世の地獄であるけれども、その回復は神様からの贈り物であるかもしれない。
参考文献
ピーター・ラヴィーン『身体に閉じ込められたトラウマ』(池島良子、西村もゆ子、福井義一、牧野有可里 訳 )星和書店
第5節.
心理療法のゴールは、外傷化された個人が、思考、身体、情動が統合され、それゆえに、自分自身の中に、そして対人関係の中に、主体的に喜びや快感を追求することが出来るような自己の感覚を確立することを援助することである。
1)時間ー私は現在に存在している。
2)身体ー私は自分の身体の中にいて、身体は私のものだ。
3)思考ー自分の思考は自分のもので、コントロールもできる。
4)情動ー自分が感じていることを感じ、知ることができる。
1)落ち着いて意識を集中した状態になる方法を見つける。
2)過去を思い出させる光景や思考、音、声、身体的感覚に反応するときに、その落ち着きを保ち続けることを学ぶ。
3)今を思う存分生き、周囲の人々と十分にかかわる方法を見つける。
4)どうにか生き延びてきた手段についての秘密を含めて、自分に隠し事しないで済むようにする。
1)安全・安心の確保
2)再体験(安心できる関係の中で、語ったり書いたりして過去を再体験する)
3)社会的再結合(社会的なつながりを作る)
1)記憶想起の過程の主体者になる
2)記憶と感情の統合
3)感情耐性
4)症状統御
5)自己尊重感とまとまりのある自己感
6)安全な愛着
7)意味を見出す
1)症状の軽減、安定化とスキルの構築
2)外傷記憶の治療
3)人格の(再)統合と回復
トラウマケア専門こころのえ相談室
更新:2020-06-13
論考 井上陽平