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過覚醒と低覚醒の対策―心身のチェックとバランスを取り戻す方法


幼少期からのPTSDにより、脅威的な状況が続くと、体はしばしば「凍りつき」や「虚脱」状態に陥り、その結果、体内に膨大な闘争・逃走のエネルギーが滞ることがあります。トラウマを抱えた人は、心では「大丈夫」と思い、周囲の期待に応えようと努力しても、脳と体が不快感や危険を感じ続け、自律神経が乱れることがあります。体は、トラウマとは直接関係のない場面でも、脅威を感じ取ってしまうことがあり、その結果、日常生活で落ち着かなくなったり、逃げたい衝動や闘う反応が無意識に引き起こされ、過覚醒状態に陥りがちです。

 

過覚醒状態では、本人の意思とは関係なく、周囲の状況に対して過剰に反応し、不快な感覚に支配されてしまいます。そのため、特に理由がなくても、心と体が強い緊張状態に入り、じっとしていることが難しくなり、常に何かから逃げようとする衝動に駆られたり、体の疲労感や痛みを強く感じたりします。トラウマを抱える人にとって、こうした過覚醒は日常的に繰り返されるため、社会生活や人間関係にも大きな影響を与えます。

 

子どもが劣悪な環境に長期間置かれると、過覚醒状態が日常化し、常に警戒態勢が続くため、リラックスすることが非常に難しくなります。この状態では、些細なことにも身体が過敏に反応し、不快な状況を避けることができずに嫌なものを我慢し続けることが多くなります。その結果、体は次第に凍りつき、緊張や痛み、疲労感が増していき、やがてエネルギーが尽きてしまい、低覚醒状態、すなわち解離症状に移行することがあります。

 

劣悪な環境で複雑なトラウマを負うと、個々の反応には違いがあるものの、過覚醒と低覚醒の間を振り子のように行き来するようになります。過覚醒では体が緊張や興奮し、低覚醒ではエネルギーが枯渇し、意識がぼんやりしたり、感覚が麻痺するような状態になります。このような極端な反応を一日の中で何度も繰り返すことで、心身共に疲弊し、日常生活を送ることが難しくなります。

過覚醒と体の反応―心と体が感じる過剰な緊張状態


過覚醒のとき、心身は強い不快感に支配されます。人の気配や視線、物音、匂いなどの刺激に過剰に反応し、落ち着きを失うだけでなく、怒りや恐怖などの感情が激しく上下することがよくあります。これは、交感神経が主導権を握っている状態であり、心と体が連動してPTSD症状が現れる瞬間です。

 

過覚醒時の体は、常に危険を察知しようとしており、頭のセンサーがフル稼働しています。この過剰な警戒心から、筋肉は緊張し、喉が渇き、感覚は鋭敏になります。呼吸は浅く速くなり、心拍数や血圧が上昇し、いつでも行動に移れるよう体は準備を整えます。心は不安や焦りに包まれ、苛立ちが増し、頭の中では「どう行動すべきか」と選択が迫られます。

 

もし、その状況が自分の好奇心を引き起こすものであれば、突き抜けた行動に出ることがあります。この場合、達成感が非常に強く感じられ、防衛反応ではなく、ポジティブな方向へ進むことが可能です。こうしたときには、思考も活発になり、行動も勢いを増します。

 

一方で、危機的な状況に直面すると、体が興奮状態に入り、じっとしていられなくなります。戦うか逃げるかの判断を迫られ、内臓は緊張し、胃腸の働きが抑制され、四肢に力が入り動き出したくなります。しかし、この状況に対処できないと判断すると、行動を諦め、体が凍りつきます。

 

さらに、命の危険を感じるほど追い詰められると、交感神経がシャットダウンし、活動のエネルギーが尽きてしまいます。この時、気持ちは急激に落ち込み、ぼんやりとしたり、眠気に襲われたり、自分を責めるようになり、離人感やうつのような症状が現れることがあります。

 

この過覚醒とその後に続く身体の反応は、トラウマを抱える人々にとって日常的に起こりうるものであり、その負荷は非常に大きいです。自分の体と心の反応を理解し、適切な対処法を見つけることが重要です。

低覚醒のサイクル―虚脱とやる気の狭間で揺れ動く心と体


低覚醒状態とは、脅威から逃げられず、どうしようもないときに体が凍りつき、まるで「死んだふり」や虚脱状態に陥るような反応です。特定の対象から繰り返し脅かされ続けると、適切な行動を取る力が失われ、意識がぼんやりとした状態に入ります。このとき、背側迷走神経が優位となり、解離症状が現れます。

 

低覚醒のとき、呼吸は浅くなり、心拍数や血圧が低下します。外部からの刺激に対して体が鈍感になり、頭がフリーズして思考がまとまらなくなることが多くなります。このため、人が話している内容が全く耳に入ってこなかったり、言葉が出てこなくなって何も言えなくなることがあります。

 

さらに、自分の身体感覚が麻痺し、周囲の世界を遮断することで、外の視線や音に対して敏感でなくなります。その代わりに、頭の中の空想世界に浸り、穏やかで心地よい、過去に感じた安心感が漂う場所に退避していることがあります。この空想世界は、現実の苦痛やストレスから一時的に逃れるための避難所のような役割を果たします。

 

しかし、この状態から日常生活に戻ろうとすると、体が重く、だるさが抜けず、体力も低下していることに気づきます。体の機能は低下し、動くことさえ困難に感じられます。低覚醒の人は、内的な世界で一時的に安心を感じながらも、現実世界で活動するためのエネルギーや力が失われているため、日常生活に支障をきたすことが多くあります。

 

低覚醒状態が長引くと、次第に体に力が入らなくなり、反応も鈍くなります。この状態では、脳がまるで半分眠っているかのように働かなくなり、虚脱感が強まり、まるで死んだような感覚にまで落ち込むことがあります。こうした状態では、体に意識を向けても集中できず、注意が散漫になってしまい、自分の体の感覚や動きを把握することが困難になります。その結果、強烈な眠気に襲われ、何もする気が起きなくなります。

 

さらに、状態が悪化すると、ベッドから起き上がることさえも億劫に感じ、まるで抜け殻のように無気力になってしまいます。日常のあらゆることに興味や関心を失い、生きること自体が重荷に感じられ、絶望感が押し寄せてきます。何もかもが面倒に思え、未来に対して希望を持つことができず、ただ無力感の中に沈んでいくような感覚に支配されるのです。

 

低覚醒状態の人は、普段は静かに過ごし、あまり目立たずにじっとしていることが多いですが、元気になると一変します。やる気に満ち溢れ、取り組みたいことがたくさん出てきて、時間が足りないと感じるほどです。興味を持ったことに集中すると、体も軽くなり、物事が順調に進んでいく感覚が得られます。このように、目標や役割がはっきりしている間は、活発な思考と行動が続き、エネルギーも湧き上がります。

 

しかし、過去の嫌な出来事を思い出してしまうと、途端に心が重くなり、再び低覚醒状態に戻ってしまうことがあります。さらに、自分の目的や方向性を見失うと、解離傾向が強まり、まるで地に足がついていないような感覚に陥ります。このとき、心の軸が揺らぎ、エネルギーが尽きたかのように感じられ、半分眠ったような状態で日々を過ごすことになります。

 

このサイクルは、外部の状況や内面的な葛藤によって大きく揺れ動きますが、自己理解を深め、適切なサポートを得ることで、低覚醒からの回復が可能です。やる気と虚脱の波を乗り越えながら、自分の心身のバランスを取り戻していく過程が、長期的な成長と安定につながります。

過覚醒を和らげる具体的な対処法―心と体のバランスを取り戻すために


過覚醒状態に対処するためには、次のような方法が効果的です。

 

1. 深呼吸や呼吸法を活用する

 

過覚醒時には呼吸が浅く速くなるため、意識的に深い腹式呼吸を行うことで、心拍数を落ち着け、交感神経の過剰な活動を抑えることができます。4秒吸って、4秒止めて、4秒吐くという呼吸法を試すと、体全体の緊張が和らぎます。

 

2. 身体的なグラウンディング(地に足をつける)

 

自分の体が地にしっかりとついている感覚を意識することで、過覚醒からくる不安感や過剰な感覚の反応を和らげます。床にしっかりと足をつける、手で物を触るなど、感覚を現実に引き戻す行動が有効です。

 

3. 五感を利用したマインドフルネス

 

過覚醒状態では、五感が過剰に反応しやすいので、逆にその五感を使ってマインドフルネスを実践するのが有効です。例えば、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚のそれぞれに意識を集中させることで、現在の瞬間に注意を向け、不安や過剰反応を鎮めます。

 

4. 軽い身体運動

 

筋肉の緊張を和らげるために、軽いストレッチやウォーキングなどの運動を取り入れると、余分なエネルギーを放出し、交感神経の過活動を抑えることができます。これにより、体の興奮を解消し、リラックス状態に戻ることができます。

 

5. 安全な場所を想像する

 

安全でリラックスできる場所をイメージし、その空間に意識を集中させることも有効です。安心できる風景や空間を視覚化することで、過覚醒状態にある心を落ち着かせることができます。

 

6. 冷水を使った感覚刺激

 

冷たい水で顔を洗ったり、手を冷やしたりすることで、交感神経の過活動を抑えることができます。冷水を使った感覚刺激は、神経系に対してリセット効果があり、落ち着きを取り戻すのに役立ちます。

 

7. 筋弛緩法(筋肉をリラックスさせる)

 

過覚醒時には筋肉が緊張しやすくなります。段階的に体の各部位を緊張させてからゆっくりと緩める「漸進的筋弛緩法」が効果的です。手や足、肩などを順番に意識し、緊張と緩和を繰り返すことで、筋肉がリラックスし、体全体の緊張を解消します。

 

8. 自己対話と肯定的な自己暗示

 

過覚醒状態では、不安や恐怖が強くなるため、心の中で自分に対して優しく話しかけることが大切です。「今は安全だ」「大丈夫だ」といった肯定的な言葉を繰り返し、自己暗示を行うことで、恐怖感を和らげる効果が期待できます。

 

9. バタフライハグなどの自己慰撫法

 

バタフライハグのような自己慰撫の技法は、過覚醒を和らげる効果があります。手を交差させて肩を抱き、軽くタッピングを繰り返すことで、自己安心を促し、心を落ち着けることができます。これは、PTSDケアでも有効とされています。

 

10. 専門的なサポートを求める

 

過覚醒状態が頻繁に起こる場合は、トラウマやストレスを扱う専門家のサポートを受けることが重要です。認知行動療法(CBT)やトラウマに特化した治療法(EMDRなど)は、過覚醒の原因となるトラウマを解消するための効果的なアプローチです。

 

11. ライフスタイルの見直し

 

日常生活における過度のストレスや刺激を減らすことも大切です。例えば、睡眠の質を高めたり、バランスの取れた食事を心がけることで、心身の健康を保ち、過覚醒への抵抗力を高めることができます。

 

これらの対策を取り入れることで、過覚醒時に感じる不快感や恐怖の波を和らげ、落ち着きを取り戻すサポートになります。心と体を理解し、自分に合った対処法を見つけることで、過覚醒状態への対策が効果的に行えるようになります。

低覚醒から抜け出すための具体的アプローチ―心身の活性化と回復への道


低覚醒状態を和らげるための対処法には、以下のようなアプローチがあります。

 

1. グラウンディング(地に足をつける)

 

低覚醒時には、現実感が薄れてぼんやりとした状態に陥りやすいため、グラウンディングが効果的です。足をしっかりと床につけたり、手で冷たい物やテクスチャーのある物を触ったりすることで、体に意識を向け、現実の感覚を取り戻すことができます。簡単な方法として、足裏で地面を感じるウォーキングや、身の回りのものを一つ一つ意識して触るなどの動作があります。

 

2. 適度な身体運動

 

体が凍りついた状態や虚脱状態に陥ると、動くことが億劫に感じますが、軽い運動が脳と体の活動を再活性化させる助けになります。簡単なストレッチや深呼吸を伴う軽いエクササイズは、エネルギーを引き出し、低覚醒から脱出するきっかけとなります。

 

 

3. 五感を刺激する

 

低覚醒の状態では外部の刺激に対して鈍感になるため、五感を積極的に刺激することが有効です。好きな音楽を聴いたり、温かい飲み物や香りを楽しんだり、鮮やかな色彩に触れることで、感覚を再び活性化させ、頭をクリアにします

4. 目標を設定し、役割を明確にする

 

低覚醒状態の人は、目標や役割が明確な時には活発な思考や行動が取れる傾向があります。そのため、少しでも達成可能な小さな目標を設定することが効果的です。小さな成功体験を重ねることで、やる気を引き出し、低覚醒から抜け出すエネルギーを取り戻すことができます。

 

5. 社会的つながりの活用

低覚醒状態にあるときは、孤立感や無力感が強くなりがちです。友人や家族、信頼できる人との交流や、専門家の支援を受けることで、心の軸を取り戻し、エネルギーを回復させることができます。対話を通じて自分の感情を表現することで、解離感や孤独感を軽減する効果もあります。

 

6. 自己肯定と自己対話

 

低覚醒時は自己否定や絶望感に陥りやすいため、自分に優しい言葉をかけることが大切です。「今は休んでいい」「自分を責める必要はない」といった肯定的な自己対話を行い、自己批判のループから抜け出す助けになります。

 

7. 専門的なサポートを受ける

 

低覚醒状態が長引く場合や、解離傾向が強い場合は、専門的な支援が必要です。トラウマ治療や心理療法(EMDR、認知行動療法など)は、深い解離や無気力からの回復を助けます。心のサポートを受けることで、エネルギーを徐々に取り戻していくことが可能です。

 

8. 規則正しい生活リズムを整える

 

低覚醒状態が続くと、日常生活のリズムが崩れやすくなります。睡眠、食事、運動のバランスを整え、規則正しい生活リズムを維持することが重要です。特に、朝起きる時間を固定することや、十分な睡眠を確保することで、体内のエネルギー回復が促進され、低覚醒のサイクルを打破しやすくなります。

 

9. 温感・冷感を使った刺激

 

 

冷たい水で顔を洗ったり、温かいお茶を飲んだりすることで、身体に温感や冷感の刺激を与えると、意識がクリアになり、体の感覚が戻りやすくなります。特に冷水を使った刺激は、解離状態から意識を戻す手助けにもなります。

 

10. 小さな成功体験を積み重ねる

 

低覚醒状態にあると、全てが面倒に感じたり、無気力に陥ることが多いです。そんなときは、小さなタスクを一つずつこなしていくことが大切です。例えば、部屋の片付けや散歩など、シンプルで達成しやすい行動をすることで、少しずつやる気を取り戻すことができます。

 

11. 自分の感情や身体感覚に意識を向ける

 

解離や低覚醒状態では、身体感覚や感情が麻痺することがあります。ゆっくりと、自分の感情や身体に注意を向ける練習をすることで、自分の状態に気づきやすくなり、解離から抜け出す助けになります。例えば、感情日記をつけたり、体の感覚に意識を集中させるボディスキャンを行うことが有効です。

 

12. 感覚刺激を増やす工夫

 

解離や低覚醒時には、環境からの刺激が必要になります。視覚的なもの、触覚、嗅覚を刺激するようなものを意識的に取り入れると、感覚を活性化させる助けになります。例えば、好きな香りのアロマや心地よい音楽を使って、感覚を呼び覚まし、心を活性化させましょう。

 

13. 自然とのふれあい

 

自然に触れることは、心身のエネルギーを回復させるために効果的です。森の中や公園で散歩をしたり、草花や木に触れることで、体の緊張を和らげ、心のバランスを取り戻しやすくなります。自然とのふれあいは、リラックス効果と共に、内的な解離感を軽減する助けになります。

 

14. ゆっくりとしたリズムの動作を取り入れる

 

ヨガや太極拳など、ゆっくりとしたリズムの動作は、低覚醒状態に陥った体と心を徐々に活性化させる効果があります。これらの動作は、深い呼吸と連動して行われるため、心と体の調和を促し、リラックスと集中を同時に高めることができます。

 

15. 創造的な活動に取り組む

 

絵を描いたり、文章を書いたりする創造的な活動は、低覚醒状態に活力を与える手段となります。表現することで、感情や思考を整理し、内面的なエネルギーの流れを活性化させることができます。特に、感情を表すアートセラピー的な活動は、低覚醒から抜け出すための有効な手段です。

 

これらの方法を組み合わせながら、低覚醒状態に対処し、徐々にエネルギーを回復させることで、日常生活をより充実させることが可能です。自分に合った対処法を見つけることが、長期的な回復と安定への第一歩となります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平

 

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