PTSDの過覚醒症状をチェック


STORES 予約 から予約する

 第1節.

過覚醒が引き起こす身体と精神の危険信号


覚醒とは、目が覚め、意識や感覚がはっきりと働き始め、意識の覚醒度が高まる状態を指します。これは通常、日常生活で必要な反応として起こるもので、心と体が正常に機能している証拠でもあります。

 

しかし、過覚醒とは異なります。過覚醒は、強いストレスや恐怖を感じたときに、自律神経の一部である交感神経が過剰に活性化し、体が極度に緊張状態に陥ることを指します。このとき、交感神経が過度に高まる一方で、内臓機能や免疫を調整する副交感神経の働きが低下し、体の覚醒水準が異常に亢進してしまいます。

 

過覚醒状態では、心臓が激しく鼓動し、呼吸が浅く速くなり、全身が警戒態勢に入ります。この状態が続くと、身体にとって非常に負担が大きく、長期間にわたって維持されると健康を損なう原因となります。覚醒は通常の状態を示しますが、過覚醒は体と心に過剰なストレスがかかっていることを意味し、注意が必要です。

 

1. 過覚醒が引き起こす心と体の変化

 

人はストレスを受けると、生体防御のために交感神経が活発化し、副腎皮質ホルモンの分泌が促され、体は活動に適した状態に移行します。通常、過覚醒が起こると、覚醒度が亢進し、思考と行動が活発になります。この状態では、警戒心が高まり、不安や動揺を感じながらも、環境を鋭く認識し、あらゆる状況を把握しようとします。

 

危険な状況に直面すると、交感神経のスイッチが入り、瞳孔が開いて視覚が鋭くなり、肩が上がり、呼吸は浅く速くなります。心臓の鼓動は激しくなり、身体中に電気が走るような感覚が広がり、全身がピリピリと緊張感に包まれます。このとき、目の前の人が恐怖や怒りの対象に見えてくることもあります。

 

通常、ストレスから解放されると、交感神経の働きが落ち着き、副交感神経が優位になって体はリラックス状態に戻ります。しかし、強いストレスに長期間さらされた場合、リラックスできる状況にあっても、交感神経が過剰に刺激され続け、過覚醒状態が持続することがあります。この状態が続くと、様々な身体的・精神的症状を引き起こし、健康に悪影響を及ぼすことになります。

 第2節.

過覚醒の影響とその症状


過覚醒は、強いストレスやトラウマによって引き起こされる状態で、心と体にさまざまな症状が現れます。以下にその主な症状をまとめました。

  • フラッシュバック、悪夢、パニック発作:過去のトラウマが繰り返し蘇り、悪夢や突発的なパニック発作が頻繁に起こります。

  • 動悸、高血圧、口の渇き、肩こり、頭痛:身体的には心臓が激しく鼓動し、血圧が上昇します。口が渇き、肩こりや頭痛が日常的に現れることもあります。

  • 不眠症:寝つきが悪く、睡眠が浅くなり、些細な物音で目が覚めてしまうため、深い休息が得られません。

  • 内臓機能の低下:胃腸の機能が弱まり、胃痛や吐き気、腹痛などの消化器系の不調が続きます。

  • イライラ、極端な反応、警戒心の強化:ちょっとしたことに対して過剰に反応し、警戒心が高まり、周囲の状況に過敏になります。

  • 感覚の鋭敏化:痛みを感じやすくなり、疲労感が強くなるため、上司の評価や表情、自分の体調の悪さなどにも非常に敏感になります。

  • 不安と過度の緊張:落ち着くことができず、常に過度の緊張状態が続きます。

  • 社会的な回避行動:人と接触するのが嫌になり、仕事などに集中できなくなります。

  • 驚愕反応:些細なことでも気持ちが高ぶり、突然驚いてしまうことがあります。

  • 身体の不調:胸が苦しく、手が震え、体が動かなくなり、痺れや意識が遠のく感覚が現れます。

  • 無気力と身体の重さ:体が重く感じられ、無気力で動くことができなくなることがあります。

  • 人間関係への過敏さ:人間関係に対して過敏になり、自分の心と体が過剰に反応するようになります。

  • 注意過剰と怯え:常に注意を払い、過度に用心し、必要以上に怯えている状態が続きます。

過覚醒は、心と体に深刻な影響を与える症状です。これらの症状に気づいたときは、適切なサポートとケアを受けることが重要です。

 第3節.

PTSDと過覚醒の反応:フラッシュバックと解離の狭間


過覚醒は心的外傷後ストレス症候群(PTSD)の代表的な症状のひとつです。PTSDには、過覚醒のほかにも、トラウマ体験のフラッシュバックや、再び同じことが起こるのを避けるための逃避や閉じこもりなどが見られます。特に過覚醒状態にあるときには、フラッシュバックが頻繁に現れることが多く、脳は常に警戒モードに入り、体は闘争か逃走かを選択するために極度の緊張状態になります。

 

この状態では、感情を抑えようと試みても、心臓が激しく鼓動し、落ち着くことができず、感情が高ぶり、心と体のバランスが崩れていきます。自分が脅かされているような不快な状況が続くと、緊張と怯えが絶えず続き、何かが起こるのではないかと周囲を伺いながら目と耳を澄ませることになります。

 

その結果、頭の中では考えがぐるぐると回り続け、どうすべきかを思い悩み、問題を解決したいという強い欲求が生じます。しかし、じっとしていられない焦燥感が増し、自分の感情に振り回されることで、気が狂いそうに感じることもあります。さらに、自分の体の反応に追いつけず、ぼんやりとした状態に陥る人もおり、そのまま隅っこに隠れてじっとしていると、体が冷たく固まり、凍りついたような感覚に襲われます。このとき、自分が消えていくような感覚や、解離していくような体験をすることがあります。

 

1. 過覚醒がもたらす危険な連鎖:依存症と自傷行為のリスク

 

過覚醒状態を鎮めようとするあまり、アルコールや薬物に頼ることが多くなり、これらに依存しやすくなることがあります。実際、PTSDそのものよりも、後から生じたアルコールや薬物依存、または買い物や食べ物への依存が、回復をさらに困難にする場合も少なくありません。過覚醒に伴う交感神経の高まりによって、体は激しく反応し、その結果、自分の体の反応についていけなくなることがあります。

 

交感神経が過剰に刺激されると、筋肉が硬直し、体が「戦うか逃げるか」の反応を引き起こします。このような状態では、本人は自分の体の過剰な反応と闘わざるを得なくなります。こうした体の反応を抑えるために、時には自傷行為に走ることもあり、多量の服薬やリストカットといった行為が問題となることもあります。

 

過覚醒は、体と心に大きなダメージを与える可能性がありますが、同時に、危機的状況に直面しても即座に対応できる準備を整える状態でもあります。この状態では、活発な思考と行動力が生まれ、危機に対処するためのエネルギーを供給してくれます。しかし、その強力なエネルギーが、適切にコントロールされない場合、依存症や自傷行為といった負の連鎖に陥るリスクが高まります。

 

過覚醒の状態をうまくコントロールし、そのエネルギーを健全に活用することが、PTSDからの回復にとって極めて重要です。心と体のバランスを保ちながら、過覚醒と向き合い、その力を適切に管理する方法を見つけることが必要です。

 第4節.

過覚醒と長期的な影響


トラウマを経験している人は、生存を脅かされた過去の経験が体に深く染みついています。このため、日常生活で起こる些細な出来事に直面すると、内臓や筋肉が危機を感じ、それが脳に信号として伝わります。脳がその信号を受け取ると、頭のセンサーが過敏に反応し、警戒心が一気に高まります。不安や恐怖心が増幅され、人の気持ちや周囲の変化に対して極めて敏感になるのです。

 

他人が発する音や気配に過剰に反応し、その存在を自分を脅かすものとして捉えてしまいます。その結果、落ち着きを失い、心がざわつき、居ても立っても居られないほどのイライラ感に襲われます。頭の中では「どうすべきか?」という考えがぐるぐると回り続け、解決の糸口が見つからないまま胸が苦しくなります。

 

この苦しい状況が続くと、叫びたくなったり、無性に走り回りたくなったり、さらには文句を言いたくなる衝動に駆られることがあります。トラウマの影響は、ただの心の問題ではなく、体全体に深刻な影響を与えます。

 

1. 逃避と創造性の狭間で

 

過剰警戒モードに入ると、潜在的な脅威に備えるため、脳は過剰な情報処理を行い、筋肉も硬直していきます。このような状態が続くと、心身に疲労が蓄積され、エネルギーが枯渇してしまいます。その結果、できる限り周囲のことを気にせず、自分の好きなことに没頭し、自分だけの世界に入り込もうとする傾向が強くなります。

 

たとえば、一日中パソコンやスマホの画面を見つめたり、音楽を聴き続けることで、自分を楽にしようとします。このような活動に没頭している間は、好奇心が刺激され、興味や関心のあるものに集中できるため、周囲の気配や脅威を一時的に忘れることができます。この時間は、創造性が発揮され、活発な思考と行動が見られる瞬間でもあります。

 

しかし、この状態には問題も潜んでいます。好奇心に突き動かされているときは、気分が高揚し、いわゆる「躁状態」に陥ることがあります。その結果、自分の限界を認識せず、無理をしてしまうことがあり、疲労やストレスがさらに増幅される危険性があります。

 

2. 過剰警戒が生み出す恐怖と反応

 

過覚醒状態にある人は、近くにいる人の気配に過剰に警戒し、常にビクビクと怯えています。彼らが特に苦手とするのは、不快な音や気配、匂い、突然の出来事、そして想定外のストレスです。これらの刺激に驚かされると、心臓が縮みあがり、息が止まり、胸に痛みを感じ、全身が凍りつき、時にはふっと自分の体から意識が離れてしまうような反応が現れます。こうした体験は、人によってはまるで何度も命を脅かされたかのように感じられることもあります。

 

実際に自分が脅かされる可能性のある状況に直面すると、彼らの体は生きるか死ぬかのサバイバルモードに突入し、交感神経のスイッチが一気にONになります。これが過覚醒状態を引き起こし、心と体を常に戦闘準備に整えます。過覚醒の状態では、彼らは難しい場面であっても、平然と振る舞い、状況をやり過ごし、うまく立ち回ることが可能になります。

 

しかし、敵と認識した相手が現れると、闘争か逃走のモードにスイッチが入り、その相手に立ち向かうか、全力で逃げ出すかのいずれかの行動に移ることがあります。過覚醒状態では、常に危機感を抱え、どんな小さな変化にも敏感に反応するため、心身にかかる負担は非常に大きくなります。

 

3. 長年の恐怖がもたらす影響

 

長年にわたって脅かされ続ける状況に置かれると、過度な緊張とストレスが積み重なり、体は凍りついて震え、興奮と過敏さが募り、十分な睡眠が取れなくなります。頭には霧がかかったような状態が続き、理性的な判断が難しくなり、思い悩むことを避けたいと思っても、そのことに囚われて抜け出せなくなります。その結果、気力や食欲も徐々に失われ、八方塞がりの状態に陥ります。

 

有効な手段を見つけられず、再び危害を加えられる恐怖が強まると、不安がさらに高まり、誰も自分を狙っていないのに、どこかから狙われているように感じてしまいます。冷静さを保つことが難しくなり、頭の中では、危険に対処しようと必死に思考が回転しますが、不快な状況から逃れられず、傷つく体験を繰り返すことで、恐怖や怒りがどんどん膨れ上がります。

 

このような状態が続くと、過覚醒のメカニズムに支配され、正常な判断が難しくなり、奇行に走ったり、自暴自棄な行動を取ってしまうことがあります。脅威に晒され続けることがもたらす心身の影響は深刻であり、早期の対処と支援が必要です。過覚醒の状態に陥る前に、心と体を守るための適切なケアを受けることが不可欠です。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

 

▶ネット予約 

▶電話カウンセリング 

▶お問い合わせ

▶警戒・闘争・逃走・凍りつき

▶過剰警戒のメカニズム