アレキシサイミア(失感情症)、離人症、解離症状、抑うつ症状を抱える人々は、幼少期から多くの困難に直面してきました。彼らは、人生で訪れる試練に必死に立ち向かい、懸命に努力してきましたが、その結果はしばしば失望に終わり、希望を見出すことができないまま日々を過ごしてきました。
やがて、人生に行き詰まりを感じるようになり、息苦しさや胸部の圧迫感、めまい、ふらつき、腹痛、頭痛、吐き気、脱力感、さらには朝起きられないといったさまざまな身体症状に苦しむようになります。これらの症状が重なることで、彼らはまるで出口のない迷路をさまよい続けるかのように感じ、心身ともに動きが取れなくなり、絶望感に苛まれていきます。
このような状態では、感情を適切に認識したり表現したりすることが困難になり、内面的な苦しみを抱えたまま孤立してしまうことが多いです。彼らにとって、感情を理解し、健全に表現することは、人生を取り戻すための重要な一歩です。
1.幼少期のトラウマとインナーチャイルドの影響
彼らは幼い頃から、大人たちの身勝手な言動に苦しめられてきました。両親の暴力や争い、ヒステリックな親の態度にさらされ、誰にも自分の話を聞いてもらえる機会はほとんどありませんでした。子どもながらに寂しさや悲しみを感じていたものの、それを表現することは許されず、感情を正直に感じるとあまりにも苦痛だったため、自分を守るために何も感じないよう努めてきたのです。
日々、脅かされる環境の中で過緊張や凍りついた状態が常態化し、疲労が蓄積していきましたが、それに気づくことすらなく、自分の感情や欲求、思いを押し殺すしかありませんでした。そうするうちに、喜びや楽しさ、悲しみといった感情がわからなくなり、ついには自分自身の感覚さえも見失ってしまいました。
感情を感じること自体があまりにも危険であると感じたため、彼らは感情を麻痺させ、心の痛みを避けるために無感覚でいることを選ばざるを得なかったのです。このような抑圧された感情は、後々になっても心身に深刻な影響を与え続けます。
2.無力感と感情の抑圧
家庭や学校では、常に目立たないように息をひそめ、何かに怯えながら周囲に合わせて生きてきました。周りの期待に応えるために、自分を抑え込んできた結果、次第に自分自身を見失い、現実から逃れるように空想の世界に閉じこもるようになりました。しかし、空想の世界も彼らにとっては完全な逃げ場ではなく、現実に適応するための怒りさえも表現できず、相手の要求に屈し、拒否することすらできなくなっていきます。
このような無力感が蓄積するうちに、不安や絶望が胸の奥深くまで広がり、それが体にも影響を与え始めます。胸の奥が硬くなり、痛みを感じるようになり、息苦しさが襲ってきて、時には意識が遠のくようなパニックに陥ることもあります。こうした状態では過呼吸になったり、呼吸がほとんどできなくなったり、手足が痺れ、頭が真っ白になってしまうこともあるのです。
さらには、言葉が出なくなり、体が動かなくなってしまうこともあり、その後、自分が何をしたのかさえ覚えていないという状況に陥ります。これらの症状は、彼らが長い間抱えてきた不安と無力感の結果であり、途方に暮れた人生の道のりを象徴しています。
3.感情を失った人々の苦悩とその影響
アレキシサイミア(失感情症)状態にある人は、自分の感情を言葉にすることができず、感じていることを表現することが困難です。この状態が悪化すると、抑え込んだ未処理の感情が反動となり、時に爆発的に噴出します。その結果、自己コントロールを失い、境界性パーソナリティ障害や現実感を失う離人感、さらには現実感喪失症に陥ることもあります。この状態が長く続くと、やがて自分が人間であるという感覚すら薄れ、生きている実感さえ持てなくなることもあります。
彼らが家庭や学校で過ごす日々は、慢性的なストレスと緊張に満ちており、心の限界を超えています。イライラや恐怖、無気力に襲われても、泣くことでかろうじて自分を保ってきたことも多いのです。周囲に合わせるために、作り笑いをし、明るく振る舞い、強がりながらも、自分の本当の感情に触れることは避けてきました。表には冷静で大人びた姿を見せ、人々に愛想を振りまくものの、その内側では、本来の自分を押し殺しています。
その一方で、憂うつな気分にとらわれ、物事を悲観的に捉え、無気力や挫折感に悩まされています。呼吸がしづらく、胸が締め付けられるような辛さに苦しむ中、心身共に疲れ切ってしまい、本当の自分を見失っています。気分が落ち込んだ時は、自分を悲劇のヒロインのように想像し、誰かに守られる幻想を抱きながら、一人で涙に暮れることもあります。何に対して泣いているのかすら自分でもわからず、ただ涙が溢れ続けるのです。感情に触れるたびに、戸惑いや苦しさが押し寄せ、さらに涙が止まらなくなります。
疲れ果てた後に頭をよぎるのは、「自分はこの世に存在しなければよかったのではないか」という自己否定や、どうしようもない現実への絶望感、そして「自分は何のために生きているのだろう」という問いです。幼少期から抱えてきた葛藤や痛みは鈍感になり、自分を守るために築き上げた避難場所も、次第に憂鬱な空想が広がる不毛な場所に変わってしまいます。偽りの自分は外の世界では明るく振る舞いますが、内面の本当の自分は笑うことを忘れ、誰とも関わろうとしなくなってしまうのです。
彼らは苦しみから抜け出し、外の世界と繋がりたい、幸福や喜びを感じたいと強く願っています。しかし、「またひどい目に遭う」という恐怖に囚われ、その悪循環から抜け出すことができません。時には、自分を理解し、親密な関係を築こうとする相手が現れ、一時的に未来への期待が高まることもありますが、心と身体が過剰に防衛反応を示し、トラウマの影響が浮き彫りになります。
その結果、彼らは悪夢にうなされ、吐き気やめまい、頭痛や腹痛、麻痺によって体が動かなくなるなどの症状に苦しむのです。こうした経験は、さらに人間不信を深め、二人の距離が近くなるほど、彼らは逃げ場がなくなることへの強い恐怖を感じます。不安に支配され、胸が苦しくなり、涙が止まらなくなり、呼吸も乱れます。
彼らにとって、「良くなること」や「希望を持つこと」、そして「変化しようとすること」は、一見ポジティブなもののはずですが、実際にはそれが同時に深い絶望感を伴うものです。新たな一歩を踏み出そうとすると、無意識のうちに逃げ出したくなったり、他者に対して辛辣な態度を取ったり、自分自身を見失ったりしてしまいます。最悪の場合、すべてを諦めようとする気持ちに支配されてしまうこともあります。これらの反応は彼らが自覚していない無意識の領域から現れ、強い抵抗感として表面化するのです。つまり、彼らの身体のもっとも原始的な防衛機構では、今いる場所が「安全である」とはまだ理解できていないのです。
心と身体の奥深くでは、常に原始的な防衛システムが作動しています。闘争・逃走・凍りつき、あるいは死んだふりといった不動状態の際に生じた「未完了のエネルギー」が蓄積されているためです。この未処理のエネルギーが、解離症状や離人症を引き起こし、感覚情報が断片化し、自己感覚が麻痺してしまいます。結果として、心と身体が不動化し、他者からの良い刺激を受け取る力さえ失われてしまうのです。こうして、人生の方向性が曖昧になり、やがて悲しみや落ち込みが常態化すると、何事にも興味を持てなくなり、現実の人間関係に対する関心さえも失ってしまうことがあります。
7.心と身体の調和を取り戻すために
理不尽な環境で自分の感情を抑え込み続けると、心と身体の健全な成長が阻害されます。この抑圧された感情は、時間とともに未処理のまま蓄積され、心身を徐々に蝕んでいきます。結果として、感情障害が現れることがあります。例えば、失感情症のように自分の感情や身体感覚を感じ取れなくなる症状や、抑圧された感情が突然爆発し、その制御が困難になるケースです。
本来、人は物事に対してさまざまな感覚や感情を持ち、それらを適度に表現することで、他者と交流しながら健全な成長を遂げていきます。怒りや喜び、悲しみといった感情は、適切に感じ取り、適切に表現されることが重要です。それができなければ、感情が内に溜まり、身体や精神に悪影響を及ぼします。
そのため、感情を無視するのではなく、まず自分の感情を理解し、適切に表現することが心と身体の健康を保つために不可欠です。自分の内面と向き合い、感情を適切に解放することで、他者との健全な交流が可能になります。そして、自己を再構築し、バランスの取れた心身の状態を取り戻すことができるのです。
アレキシサイミアのチェックリスト
これらのチェック項目に当てはまる人は、アレキシサイミアの可能性を考えるべきです。自分の感情や身体の状態を理解し、適切なサポートを受けることが重要です。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平