現実世界と心の内なる空想世界

▶現実世界と心の内なる空想世界

 

発達早期にトラウマを負っていて、物心がついた頃から、怖がりで、寂しがりな人は、夢心地の内なる世界に住むようになります。トラウマを負った人は、恐怖や戦慄により、動けなくなった時の状態を恐れています。日常では、ストレスを感じると、落ち着きがなくなり、じっとしていることが苦手で、モヤモヤやイライラしやすいです。その一方で、解離傾向がある人は、ストレスを感じると、意識がぼーっとしたり、朦朧としたり、固まって動けなくなります。このような人は、イライラする気持ちや痛みに凍りつく身体を切り離して、半分眠ったように生きるぼーっとした世界が常態化していくことがあり、その場合に向こう側の世界を作り出すことになります。

 

現実世界は、濃い霧のなかでぼんやりと思い出すだけで、心の中の内なる世界(向こう側の世界)にいました。そのため、子どもの頃から、向こう側の世界と現実世界を行き来している人は、大人になったときに、過去を思い出そうとしても、ほとんど覚えていません。ここでは、幼少期にトラウマを負った人が、いかに内なる世界を作っていくのかを見ていきたいと思います。

 

子どもの頃から、向こう側の世界にいる人は、自分の頭の中の考えやイメージを使って、広大な空想の繭の中で成長していきます。現実世界で生活することはとても辛いことであり、親などに虐待されたり、責められたりして、自分の思うようには振る舞うことができずに、心の防衛が破られて、苦痛が身体をじわじわと侵食します。しかし、これ以上自分の自由が奪われないように、空想の繭(向こう側の世界)の中に自分を包んで、外から攻撃されないように自分を守ります。境界線を張って、自分を空想の繭で守ってもらいながら、日常生活の困難を乗り越えます。身体(身代わりの自分)は、過酷な世界にいるけども、向こう側の世界を、自分の頭の中で思い描き、美しくも儚げで孤立した空想世界が広がります。

 

子どもにとっては、あまりに辛い日々のなか、現実は苦痛すぎたので、自分の心を安定させるために、向こう側の世界が必要です。空想の繭の中では、守護天使の創造した培養液の中に浸ります。現実の両親ではなく、上位の存在に愛されてきた人は、感受性が豊かで、素直で、善悪を見抜けず、無垢な存在です。上位の存在(神)に選ばれた者は、もはや人間の形で無くなり、永遠の命が与えられて、年を取らなくなります。

 

向こう側の世界は、大きな意味で何もない世界ですが、そこに詩的、神話的で、原始的な心理の世界が湧き起こります。多くの場合は、内なる世界に様々な登場人物がいて、それと心通わせて、それが段々と生きたものになってきます。それらの対象は、患者が今まで生きてきたなかで見た神話、詩、映画、芸術、文学、アニメに出てきた人物や動物を、自分の内なる世界の登場人物として重ね合わせて、現実の苦痛から逃れて、自身の心の安定を保ちます。現実世界のピンチに直面した時は、内なる世界の登場人物に助けられる経験をしていくかもしれません。段々と内側の存在が、存在感を増していって、その人自身のアイデンティティになっていきます。

 

彼らが、大人になる過程において、向こう側の世界から現実世界に戻ろうとしても、様々なことが怖くなります。彼らは、向こう側の世界でほとんど生きてきたため、現実世界に戻ってきても、ほとんどのことが分かりません。向こう側の世界にいた時間分だけ、現実世界の人間関係や記憶を覚えておらず、把握できません。現実世界に戻って、外を出歩いても、自分の知らない人(同級生、同僚)が、親しげに話かけてくるので、どう振る舞えばいいか分かりません。また、彼らには、現実感というものが無いので、感覚というものが分かりません。さらに、世間一般の言う普通が分からず、今まで現実世界だと思ってきたことが全く違うので、混乱します。彼らは、普通に振る舞えないために、外に出るのが怖くなり、家に引きこもるようになります。

 

たとえ現実世界に戻れたとしても、彼らにとって茨の道で、自分では対処できないことが起きるのが怖くて、肩を上げ、気を張って生きています。トラウマティックな状態に置かれており、身体はバキバキ固まっていて、痛みがあちこちにあるかもしれません。また、ストレスに対して、すぐに凍りつき、身体が捻じれていって、様々な身体症状が出るかもしれません。彼らは、日常を何事もなく穏やかに暮らすことを望んでおり、お互いを理解し合えて、何でも物事を共有できる人を欲しています。そして、現実ではありえない永遠に安心できる場所を求めて、完全な理想形を思い描き続けます。そのような妄想の世界のなかに生きており、現実世界のなかで物事を理想通りに進まないことに直面したとき、その世界に絶望して、元気を失くし、再び、向こうの世界に戻ろうとする傾向があります。

 

最終的に、トラウマを負った人は、この現実世界に小さな幸せや大きな喜びを見い出していきます。一方で、向こう側の世界とは、現実世界に戻った今でも一人で引きこもりたいという世界で在り続けます。ふとした瞬間に、向こう側の世界のことを思うと、なめらかな風を感じて、夢心地の世界が故郷のように感じられます。

 

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