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レジリエンスの鍛え方

▶レジリエンスを高める

 

トラウマから回復するには、喪失に耐えるだけの個人と家族、地域のレジリエンスを育てることが大事です。レジリエンスとは、精神的回復力、復元力、逆境力、弾力などと訳されますが、こころの傷つきから回復する力という意味で、メンタルヘルス領域で注目されている言葉です。ソマティックエクスペリエンスの理論で言うと、収縮(縮まる)と拡張(広がる)という人間本来のペンデュレーションが出来ている人は、レジリエンスが育っています。レジリエンスが高い人は、何か危険に直面しても、踏ん張る力があり、自分を元気づけることができて、難しい感情もコントロールできます。また、自分の体に安心感があり、家族や地域社会に支えられており、周りの人の反応にも適度に応じて、問題があっても過去に引きずり込まれることなく、何らかの方法で適切に処理し、自分の人生を主体的に営むことができます。

 

一方で、トラウマのショックが体を直撃し、硬直して、それが体の中に残っていると、体の中に流れているいたスムーズな流れが止まり、滞ることになります。脳や身体の神経に未解決な問題を抱えると、勝手に脅威を察知して、今この状況を適切に認識する能力が欠け、不適切な行動や極端な感情に支配され、その場を上手に処理できなくて、トラウマが複雑化します。そして、長年に渡り、ストレスや緊張を曝され続けると、全身が縮まり、硬くなっていきます。肩や首がこり、片頭痛、顎関節症、心臓に痛みが出て、喉や肺が固まって、息がしづらくなります。体が冷たく硬くなると、眠りの質も落ちて、朝から全身が重くなり、意欲も出なくなって、人をうつ状態にします。

 

トラウマがある人は、脅威を察知して、慢性的に収縮傾向にありますが、冷たく硬くなった体は、人間の生得的な収縮と拡張のリズムを取れなくなって、逆境を跳ね返すレジリエンスが育ちません。トラウマを負って、レジリエンスが弱い人は、自分の体に安心感がなく、周りの視線や反応を気にして、心配事が増えて、様々なことに敏感に反応します。急なストレスで、嫌な記憶を思い起こすと、頭が混乱して、両極端な考えに陥り、考えるだけでもしんどくなって、パニックになることもなります。日常では、様々な状況を解決できずに、踏ん張る力がなくて、自分を元気づけられずに、ストレスばかりが溜まって、自分の思い通りにいかないとイライラやモヤモヤが大きく、物事を白黒ハッキリ分けたくなります。

 

◆生まれ持った資質は

 

①自分に大丈夫だと思えること。なんとかなるさとまだ起こっていないことで不安にならない。

②社交的に振る舞うことができる。人間関係が上手。

③自分勝手に根拠のない自信をもてる。

④社交的で誰とでも仲良くなれる。

⑤たとえ努力が報われてなくても踏ん張ることができる。粘り強く最後までやり遂げることができる。

⑥辛いことでもやり過ごして幸せなときがくるのを待てる。

⑦挫折や困難な状況に対してもすぐに諦めるのではなく、上手く適応できる。

⑧不快な感覚や感情を上手くコントロールできる。

 

◆育っていく過程で獲得されるもの

 

①人に思いやりの気持ちを持って行動することができる。

②過去の経験や行動から得られたものをたくさん持っている。

③相手の言い方や微妙な表情の変化から、相手の気持ちを汲み取ることができる。

④自分のキャラクターについてよく理解している。

⑤自分の気持ちや考え方がよく分かっている。

⑥相手とすれ違いやわだかまりがあっても、積極的に解決できる。

⑦嫌なことがあっても、自分の気持ちの変化に気づけている

⑧相手の気持ちや考え方に共感することができる。

 

人が複雑な社会を営むなかで、思考の構えや価値観を柔軟にして、ポジティブにもネガティブにも自分の価値を変えることができると、逆境体験もストレスになりにくいです。一方で、ストレスへの耐性が低くて、自分の感情をコントロールできずに、自分の価値判断を過小評価しすぎると、逆境体験を乗り越えづらくなります。また、逆境体験を乗り越えられない人は、身体に安心感がもともとなく、予測できないことや不確かな人間関係を恐れます。さらに、安全かどうかが細かいところまで気になり、失敗することを過度に恐れていて、警戒心が高いです。

 

▶トラウマの克服には

 

トラウマの克服には、カウンセリングだけでなく、瞑想、ヨーガ、ダンス、スポーツ、武術、芸術、学術など、社会や人類、環境、自分の生活に役立つことに情熱的に取り組むことが良いとされます。そして、耐え難い現実の苦痛に対しても、後向きにならずに、前向きに努力したほうが自分のためになるという覚悟を決めます。しかも、自分の決めた大きな目標を対して、何年もかけて行うようなとてつもない時間と情熱を持てるかどうかがポイントになります。長年かけて取り組めるようなものは、自分の幸せといった利己的な動機ではなく、別の何かに心が向けられ、自分より他者の幸せや社会貢献、地球環境のために学問や芸術を追求していくことになるでしょう。自分のやりたいことをとことんやっている時間は、好奇心に満ち溢れて、体と心は広がっていき、健康になります。

 

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トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平