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二重人格の葛藤―怒りの闘争人格


内なる世界(私そのもの)が、病的な心の産物に取って代わられる描写です。(ソロモン2001)私は落ち込んでうつの状態であったが、私の中でどんどん大きくなっていった。それは、私自身の周りにあって、包み込んでいき、私の血を吸い続けるように、私自身よりも生き生きしていた。それ自身が生きようとして、自分自身に取って代わろうとしていた。最悪の段階では、自分の感情が自分でないものとなって、その湧き出る感情に操られているようなものであった。「trauma and the soul」Donald Kalsched」

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愛着形成とサバイバル―子どもの神経系に与える影響


親が子どもの波長に寄り添い、心が響き合う関係のもとで育った子どもは、腹側迷走神経が正常に働き、他者と安心して落ち着いた関係を築けます。一方で、ネグレクトや虐待を受けた子どもは、心身をリラックスさせる安全な場所がなく、感情の自己調整が困難になります。幼少期に母親から見捨てられたり、適切な養育を受けなかった子どもは、母親を求めて叫びながらも、希望を失い、心の空間が崩壊していきます。

 

虐待や母親の不在が続くと、子どもの愛着システムが正常に育たず、リラックスや安心を感じることができなくなります。その結果、家庭内や学校社会で不条理な経験に直面した子どもは、原始的な防衛本能が目覚め、自分を守るためのサバイバル技術を身につけるようになります。

居場所を失った心―怒りと自己コントロールの崩壊


自分の居場所を見つけられず、脅かされる経験が繰り返されると、心は不安定になり、落ち着きを失います。この状態では、感情のコントロールが難しくなり、抑えていた怒りや許せない気持ちが一気に溢れ出し、自分を飲み込んでしまいます。怒りに支配された人は、体から離れてふわふわと浮いている感覚に陥ったり、意識が途切れて眠り込んだり、ただ自分の状態を客観的に見つめるだけになることがあります。

 

このとき、交感神経システムが活性化し、攻撃的な衝動が支配的になります。その結果、愛着対象との接触は危険なものとみなされ、距離を取ることで安全を確保しようとします。愛着の代わりに、孤独な世界で自分の力やスキルを磨くことに集中し、外部からの脅威を避けようとするのです。この自己防衛的な生き方は、心の深い孤立感を伴いながらも、表面的には自立した姿を見せています。

二つの意識を持つ人の闘い―親の豹変と心身の防衛反応


幼少期の不安定な環境や親の不規則な態度によって、二つの意識状態を持つ人は、常に親の豹変に怯えて育ちました。彼らは内心で恐怖に駆られ、手に汗をかきながら親の顔色を伺い、ご機嫌をとる「良い子」として過ごします。家の中では、常に警戒を怠らず、親の声や足音、気配に全神経を集中させ、次に何が起こるかと緊張を抱えたまま生活します。

 

こうした人々は、生き延びるために自分の身体の感覚、特に痛みや不快な感情を切り離し、感覚を鈍らせてきました。一方、心の中では天使や悪魔、霊的存在に取り憑かれることを恐れ、心が混乱していきます。危険が差し迫るとパニック状態に陥ることがあり、常に臨戦態勢を取るように体は準備されているのです。

過覚醒から闘争反応へ―体が臨戦態勢に入るときの変化


体が臨戦態勢を取ると、別の感覚が湧き出し、興奮状態に切り替わります。交感神経が昂ると、不安や動揺が増し、見捨てられる恐怖や脅威を入念に調べ、細かい部分にまで注意を払います。過覚醒から闘争反応に切り替わると、目つきが変わり、瞳孔が拡張し、聴覚が過敏になります。この状態では、鬼の形相で興奮が収まらず、相手に対して攻撃的な行動を取ることが多く、殴ったり蹴ったり、罵ったりすることもあります。

 

この闘争反応時には、通常の自分とは異なる口調や行動を見せることがあり、なぜ怒りが込み上げたのか、身体で何が起こっているのかを冷静に理解することができません。結果的に、強い混乱や絶望に飲み込まれてしまい、自分の行動をコントロールできないままに終わることが多いのです。

トラウマがもたらす生と死の狭間で自分を見失う瞬間


トラウマを負ったことで、本来の自分は神経が昂り、トラブルを引き起こしたり、人間関係がうまくいかず、気分が大きく振れるようになります。その結果、過剰な敏感さと鈍感さの間を行き来することになり、外の世界に対して過敏に反応しながらも、緊張や不安、恐怖を感じなくなります。こうして、今の自分が分からなくなり、自分が自分でなくなる感覚に陥ります。

 

この状態では、まるで悪魔に憑りつかれたかのような狂気を感じ、生と死の狭間で揺れ動いているように思えるのです。心がどんどん外界から離れ、現実感を失いながら、自分自身が消え去ってしまう感覚にとらわれることがあり、恐怖と混乱が入り交じる中で生き続けるのが特徴です。この精神的な揺れ動きは、トラウマが心と体に与える深い影響を物語っています。

二重人格の葛藤―本来の自分と怒りの人格がせめぎ合う


二重人格の人は、本来の自分と怒りを抱えた人格が同じ身体を共有しながら、それぞれ別の存在として存在しています。一つの肉体に二つの魂と記憶があり、トラウマによって作られた人格と本来の自分が絶えずせめぎ合い、切り替わるたびに表情や行動が一変します。その瞬間、どちらの自分なのか分からなくなることもあります。

 

本来の自分は現実の世界を見つめていますが、もう一人の自分は深い闇と痛みを抱えています。孤独やストレスが高まったり、脅威を感じたりした瞬間、本来の自分はもう一人の人格に乗っ取られ、怒りが爆発します。そうすると、自分や他者を傷つけたい衝動が表れます。

 

本来の自分は、この怒りの人格が表に出ることを恐れ、自分を抑制していますが、抑えきれなかった怒りが蓄積されると、最終的にはその怒りに支配されてしまいます。自分を傷つけてくる人物に向けるべき怒りを内に閉じ込めることで、結果的に自分自身を傷つけることになり、その連鎖が続くと怒りの人格に完全に乗っ取られてしまうのです。この葛藤は、二重人格の人が抱える大きな苦しみを象徴しています。

交感神経に支配された心の葛藤と守護


交感神経システムに支配された怒りの人格は、本来の自分が幸せになることを許さず、人との関係を断ち切ろうとする批判的な存在です。彼らは、人を良く思おうとする本来の自分を厳しく批判し、時には他者との継続的な関係を破壊しようとします。しかし、矛盾することに、怒りの人格は「死にたくない」という本能的な願望を持っており、死のうとする本来の自分を守ろうとする側面もあります。

 

危機が迫ると、怒りの人格は本来の自分を守るために表に出てきます。このスイッチが入ると、目つきが鋭くなり、口元にずる賢い笑みを浮かべ、周囲を観察してから行動に移ります。彼らは、人を殴ったり罵ったりすることでしか対処できず、突然怒り出したり、弱い相手を攻撃することがあります。相手の反応次第では、暴言が止まらなくなります。

 

怒りの人格は、周囲を敵だらけの環境とみなし、攻撃者に対して一人で戦い続けてきました。彼らの感情は極めて激しく、不条理に対する悔しさから涙を流し、唸り声をあげるなど、強烈な怒りと破壊の衝動を抱えています。それでも彼らは、誰かから強い愛情でぶつかってきてくれることを心の奥底で願っているのです。この激しい内なる葛藤は、怒りの人格と本来の自分との間で繰り広げられる複雑な戦いを表しています。

怒りの人格とフラッシュバック―主導権の奪い合い


怒りの人格を持つ人は、過去の痛みに引きずられそうになると、フラッシュバックが蘇り、その痛みと戦うことになります。怒りの人格が体内で暴れ始めても、静かに情動の嵐が過ぎ去るのを待つしかありません。本来の自分と怒りの人格は、しばしば主導権を奪い合います。特に、本来の自分が怒りを抑えようとすると、怒りの人格は強く抵抗し、唸り声をあげることもあります。

 

この奪い合いの最中、手足や顔が乗っ取られることがあり、手足が勝手に動き、口が汚い言葉を吐きます。怒りの人格が背後に潜んでいるときには、背中にゾワゾワとした感覚が生じます。さらに、怒りの人格を持つ人は、外傷体験に焦点を当てた別の人格部分も持っていることがあり、怯えた人格が表に出ると、全身が震え、周囲のすべてが恐怖の対象となります。

二重人格の影響―暴力衝動と抑制の喪失がもたらす行動


二重人格の傾向がある男性は、特に思春期や青年期において、弱者をいじめたり暴力事件を引き起こしやすく、その結果として警察沙汰になることがあります。集団の中では、自分のメンツや地位を守るため、負けることが許されず、闘争が避けられない場面に直面すると、人格の切り替わりが起こります。

 

闘争時には、本来の自分は眠気を感じ、意識が朦朧としてしまいますが、もう一人の自分が代わりに出てきて、暴力的な行動を止めることができなくなります。このもう一人の自分は、相手を痛めつけることに歯止めが利かず、状況がエスカレートするのです。結果として、攻撃がエスカレートし、自分でも制御できない状態に陥ります。

 

このように、人格の分裂は男性における暴力や行動制御の問題を引き起こし、特に集団や対立の場面で顕著に現れます。それは、彼らが抱える内面的な葛藤と、外界との対立の複雑さを象徴しています。

愛着の崩壊と交感神経が支配する日常―曲芸的な人生


愛着システムが本来機能する部分が、外傷体験の精神的ショックによって崩壊し、まるで存在しないかのように感じられることがあります。その代わりに、交感神経が優位になった部分があたかも正常であるかのように日常生活を営みます。こうした人々は、対象や感情に依存せず、力やスキルを駆使してまるで曲芸師のように人生の障害を乗り越えていきます。

 

幼少期から足が速く、一匹狼であることが多く、いじめっ子として周囲に存在感を示します。思春期を迎えると、やんちゃな行動から反社会的な行動に発展しがちです。しかし、無茶な生き方を続けるうちに、次第に解離の傾向が強まり、身体は硬直し、感覚が鈍くなっていきます。このように、外から見える強さや活発さの裏には、無感覚と孤立が広がり、彼らの心身に深い影響を及ぼしています。

交感神経に支配された子どもを癒す方法―愛着システムを再起動させる優しさの力


交感神経システムに支配され、怒りや不安に満ちた子どもは、顔を真っ赤にして引っ掻いたり、攻撃的な行動をとることがあります。このような場合、子どもに優しく寄り添い、抱きしめてあげることが大切です。背中をさすりながら、子どもの感じている痛みを言葉にして返し、一緒に涙を流すことが効果的です。

 

子どもが自分の感情を受け入れてもらうと、次第に交感神経の過剰な興奮が鎮まり、涙を流し始めます。この瞬間、交感神経システムから愛着システムが再び作動し、安心感を取り戻すことができます。優しい触れ合いと言葉の共感が、子どもの心を癒し、神経系のバランスを取り戻す鍵となるのです。

交感神経に支配された大人への対応―愛着システムの再起動と環境作りの重要性


交感神経システムに支配された大人が突然怒り出すと、なだめたり話を聞く中で試行錯誤が必要です。無理に抱きしめようとすると、拒絶されることもあります。そのため、相手の質問や不安に対して、的確に答え、真剣に受け答えすることが大切です。こうしたやり取りを続けた後で、優しく抱きしめると、交感神経システムが落ち着き、愛着システムが作動して、相手が子どものように感情を表すことがあります。

 

このような状況では、交感神経システムに支配されない環境作りや、周囲の人々の理解が必要です。自傷他害の恐れがある場合は、精神科の診察を受け、交感神経系の興奮を抑える薬を処方してもらうことが有効かもしれません。薬は頭の働きを鈍らせることもありますが、過敏さや神経の尖りが和らぎ、穏やかに過ごせるようになるでしょう。

 

ただし、薬の影響で体がだるくなることもあるため、身体志向的アプローチを併用するのが理想的です。これにより、心身のバランスを取り戻し、より安定した生活が送れるようになります。

まとめ


問題行動をよく起こす人は、二つの意識状態を持ち、突然切り替わることが多いです。恐怖を感じると、本来の自分は凍りつき、麻痺して無力化してしまいます。その結果、病的な人格が前面に出て、常軌を逸した行動を取ることがあります。下品な態度や卑猥な発言をして周囲に迷惑をかけることもあり、この人格の切り替わりが繰り返されることで、本当の自分は周囲に誤解され、深い絶望に陥ります。

 

彼らは、この複雑な状況の中で、悲しげで不安そうな表情を浮かべ、痛ましい体を引きずるように生きていくことが多くなります。自分では制御できない人格の暴走と、それを受け止められない周囲との関係は、彼らの人生に深刻な影響を与えます。誤解や孤独に苛まれながらも、彼らはその苦しみを抱え、歩み続けているのです。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平

 

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