> > 解離とアタッチメントD型

愛着障害Dタイプの子どもたち


解離性障害は、幼少期の生育環境における愛着関係、特に不安定なアタッチメントD型(混乱型)との関連が指摘されています。アタッチメント理論は、ジョン・ボウルビィによって提唱されたもので、主に親子間の緊密な絆を指します。この理論によれば、子どもは危機的状況に直面したとき、特定の他者(通常は親)に近づくことで、安全感を回復しようとします。この親子間の絆は、情動的な安定を保つために重要な役割を果たし、関係性を通じて恐れや不安を調整するシステムとして働きます。特に幼少期の愛着が不安定であると、成長後に精神的な混乱や解離といった症状が現れる可能性が高くなります。

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愛着D型と虐待の関連性


抑うつ傾向や精神的な不安定さ、さらには虐待などの危険な兆候が見られるケースでは、愛着D型の可能性が高いとされています。研究によると、虐待を受けた子どもの82%がこのDタイプに分類されており、特に養育者からのネグレクトが疑われる発育不全児にも多く見られることが明らかになっています。Dタイプの養育者は、過去のトラウマティックな記憶にとらわれ、恐怖と混乱の中で生きているため、子どもにとって本来の「安全基地」として機能せず、逆に危機や恐怖を与える存在となってしまいます。これにより、子どもは混乱した愛着関係の中で、さらなる不安定さや情緒的な問題を抱えることになります。

愛着D型が子どもの発達に及ぼす影響


愛着D型の子どもたちは、養育者に対して近づくことも、距離を取ることもできず、ただその場をやり過ごすしかない状況に置かれがちです。これにより、子どもは不自然でぎこちない行動を取ったり、場違いな動作や表情、時には突然固まって動けなくなることがあります。このような反応は、近接と回避という相反する欲求の間で引き裂かれた結果です。これにより、子どもは本来の自由な遊びができず、幼児期における自然な能力の発達が阻害されます。その結果、児童期以降には認知・情緒・行動面での問題が生じ、精神病理のリスクが高まります。愛着D型の子どもたちは、養育者に対して世話型(養育者を気遣い、世話をする)や懲罰型(養育者に対して懲罰的・高圧的)など、多様な姿を見せるようになり、その行動は家庭環境や養育者との関係性に深く影響されています。

愛情と恐怖の狭間で揺れる子どもたち


トラウマ症状を持つ子どもたちは、幼い頃から無意識のうちに養育者の顔色をうかがい、関心や愛情を得ようと必死に努力します。特に愛着Dタイプの子どもたちは、心の奥で養育者に愛されたい、世話を受けたいという強い欲求を持ちながらも、養育者から怒りや拒絶、恐怖を感じさせられることが多いのです。このため、彼らの心の中には「怖い、近づくな、自分は愛されない、生きる意味がない」というネガティブなメッセージが刻まれ、その場に居ることさえも辛く感じるようになります。

 

一方で、虐待を行う養育者もまた、孤独や未解決のトラウマを抱えていることがあります。これにより、子どもと養育者の関係は、愛情を求める欲求と恐怖の間で揺れ動く、非常に複雑なものになってしまうのです。このような環境では、子どもたちは健全な愛着を形成することが難しく、精神的な葛藤とともに成長していくことになります。

 

子どもは、たとえ養育者の行動が間違っていると感じながらも、愛し、信じ、許そうとします。親子間に時折良い出来事が起こると、子どもの気持ちは一転して前向きになり、無謀な行動を取ることもあります。しかし、希望を抱いて心を開いても、再び恐怖を与えられると、情動の嵐に巻き込まれ、心と身体が凍りついて動けなくなります。興奮や息苦しさ、そして頭の中が真っ白になるような感覚に支配され、自分を制御できずに癇癪を起こすと、更なる虐待を受けるかもしれません。

 

その結果、子どもは「自分を信じたことが馬鹿だった」と自分を責め、抑うつ状態に陥るという悪循環を繰り返します。養育者との幸せを望む一方で、愛したい気持ちと、恐怖や見捨てられる不安、迷惑をかけたくないという気持ちの間で揺れ動き、やがては身動きが取れなくなります。

恐怖に囚われた養育者と子どもの抑圧された攻撃性


養育者がトラウマティックな記憶に取りつかれ、この世界を恐れている場合、子どもは自分のありのままの攻撃性を発揮することができません。もし攻撃性を見せれば、養育者の中で子どもが「悪い対象」として捉えられ、見捨てられる危険があるからです。子どもは見捨てられることを避けるため、養育者に迎合し、何もかも自分のせいにして、無邪気な攻撃性を押し殺します。

 

さらに、養育者が自分の不合理な衝動に怯えていると、子どもはそのトリガーを踏まないように行動を制限します。強い緊張状態の中で、息を詰めながらも養育者に従い、自己抑制を続けます。しかし、こうした抑圧が続くと、子どもは次第に疲弊し、解離性障害やうつ病を発症する可能性が高まります。養育者を守ろうとする子どもの優しさは、自らの心身を蝕むことにも繋がるのです。

養育者との関係に縛られたDタイプの子どもたち


Dタイプの子どもたちは、養育者の気持ちを敏感に察し、自分が迷惑をかけないように自己を抑制しています。そのため、周囲の子どもたちが自由に遊んでいるのに対して、Dタイプの子どもは不安を抱え、落ち着きがなく、心配ばかりしています。状況が八方塞がりになると、心身に緊張が現れ、胸やお腹が痛くなり、焦りや不安が増幅します。どうして良いのか分からなくなると、息苦しさやパニックに襲われ、身体が固まって動けなくなります。

 

さらに、無秩序な行動を取ることで失敗を繰り返し、自分を責めたり、周りからどう見られているかを気にして罪悪感に苛まれます。幼い頃から過緊張の状態が続き、疲弊すると、身動きが取れなくなり、自己を放棄するかのように心を閉ざしてしまうのです。そして、学校や社会でも取り残される感覚が強まり、見捨てられる不安や裏切られる恐怖を抱きながら成長していきます。しかし、本当の自分は誰にも気づかれず、夢の中で孤独に膝を抱えているかのように感じ、寂しさの中で生き続けているのです。

 

親子関係によるストレスに加え、時間・空間・身体感覚が崩れるような暴力的な外傷体験が重なると、子どもは自分の居場所を失ってしまいます。その結果、子どもは自分が耐えきれない苦しみを切り離し、代わりにその場面にふさわしい「別の人物」が現れて役割を果たすようになります。こうした現象は、子どもの人格構造に深刻な影響を与え、人格の柔軟性や凝集性が失われ、分断された感覚が生じます。人格が分裂することで、心と身体の一貫性が崩れ、現実感を失ったまま、子どもは自分の存在意義や居場所を見出すことができなくなるのです。

 

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論考 井上陽平