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解離・離人からの回復法


 第1節.

凍りつきから解離・離人感に


複雑なトラウマ持ちや発達障害の人は、ちょっとした刺激に神経が繊細に反応して、自分を防御する姿勢を取り、胸がざわついて、体が固まり凍りついていき、息がしづらくなります。彼らが日常生活のなかでトラウマのトリガーを引くと、体が凍りついていくので、調子が悪くなり、身体感覚が麻痺します。凍りつき状態が続くと、悪いイメージが思い浮かんできて、考えにはまり込みます。頭の中で考えるようになり、体の中から離れていくと、解離や離人感が出て、現実感が薄くなります。そうなると時間・空間感覚がおかしくなり、人によっては、外の刺激に対して、体の反応が鈍くなり、歩く屍になるとか、自分が自分で無くなってしまうとか、自分のことがよく分からなくなります。

 第2節.

凍りつきと離人化した体


解離・離人感がある人は、トラウマの渦にはまり込み、心と体が離れて、手足が勝手に動き出すような状態にあります。凍りついた体は、筋肉がギュッと縮まった状態で、血流が滞り、手足は冷え、全身に固さや詰まりが出てきます。離人化した体は、体が浮いていて、自分が自分でない感じや自分のことがよく分からなくなることもあります。虚脱した体は、手足の筋肉が伸び切っていて、体が鉛のように重く、怠くて、無気力になります。解離や離人感が出ているときは、自分の体の中に自分がいなくて、相手の感情がどんどん入ってきます。嫌なものを目の前にすると、緊張が強まりすぎて、恐ろしいイメージが憑りつき、被害妄想や強迫観念が酷くなります。

 第3節.

解離・離人感からの回復方法


解離・離人感のある人は、体を動かすだけで、すぐに凍りついたり麻痺したりしているので、そこから回復するには、自分の警戒態勢に気づいて、全身の力を緩めながら、体の感覚を取り戻す必要があります。解離や離人感の人は、筋肉の鎧を被って、自分を強く見せたり、自分の身にヴェールを纏って、体の感覚を麻痺させたりして、自分の状態がよく分からなくなり、自分の足元がグラグラしている不安定な人生になります。その場合は、呼吸を整えてから、スムービーリングを使うか、バランスボールで体を揺らすか、手足を動かす運動をするか、トランポリンを飛んで、振動を与えたり、乗り物に乗っている遊びの感覚を作ったりすることで、自分の動作や感覚に注意を向けやすくなります。このような運動を繰り返すことにより、凍りつきとそこから回復する過程を行き来して、少しずつ凍りつきにくい体を作ります。そして、頭と体が一致する時間が増えて、自分の体の中に魂が入り、自分の土台をしっかり作り直す準備が整います。体の反応が良くなって、心と体が一致すると、現実感が回復して、本当の自分に近づいて、良いことも悪いことも感じて、いろんなことを察することができるようになり、認識力を高められます。

 第4節.

スムービーリングを使う治療


この中でも最も効果があるのは、スムービーリングです。スムービーリングは、もともとテニスプレイヤーの練習に使われていましたが、トラウマ治療のピーター・ラヴィーン先生は、トラウマを抱えて複雑な症状を持つ人の治療にも使えることを発見しました。解離・離人感の治療では、呼吸法した後に、スムービーリング(緑のブンブン)を振って、手足の指先までに音、リズム、振動の刺激を与えて、体の動作や感覚に意識を向けます。このように、音、リズム、振動の力を借りて、体に様々な変化を起こし、その変化に注意を向けます。この刺激が強くて不快に感じる人は、体は凍りついていき、一方、心地良く感じる人は、体が楽になっていきます。心を使って体を動かし、筋肉や関節、皮膚、血流などをしっかり感じていくと、首や肩が固まっているとか、全身が詰まっているような感覚とか、モヤモヤとしたものとか、ゾワゾワした不快感があることが分かります。スムービーリングをブンブンと振ることで、悪い気が振り払われて、身体内部からピリピリした感覚や、ジワジワと拡がっていくような感覚が出ます。その身体感覚に注意を向けていくと、凍りつき収縮した筋肉や、虚脱で伸び切った筋肉が変化し、リラクセーション効果も相まって、ぼやけていたものがはっきりとして、明快な感じになります。そのあとは、楽な姿勢を取り、イメージの中に自分を置き、心を癒すエネルギーを感じるとか、体が広がっていくことを感じるとか、自分のエネルギーを解放するとか、落ち着くようなイメージをするなどして、全身の筋肉を緩めてリラックスさせます。凍りつきや離人、虚脱の体が適度な状態に戻ったら、体の中に空間ができて、頭もすっきりして、全身に重たさや温かさが出てきます。そして、血の巡りが良くなり、深く呼吸を吸えるようになり、体の中から安心感が出てきて、ワクワクする気持ちを感じられるようになります。スムービーリングを振るときの音や振動を不快に感じて、足がすくみ、体が凍りつく人もいますが、何度も振り続けていくことで、このような刺激に慣れていって、自分を守るバリアが作られ、現実の生々しい刺激に動じない体になります。

 第5節.

解離・離人感からの回復


解離や離人感が消えて、本当の自分に戻っていく過程において、様々な変化が起きて、自分の状態が変わります。体の中に安全を感じられると、頭に危険信号を送らなくなり、頭の中のザワザワが消えて、落ち着いた状態が手に入ります。全身の緊急事態モードが解かれると、頭の回転の速さが無くなり、思考が勝手に浮かんでこなくなるかもしれません。次に、心と体が一致すると、五感が鋭くなり、現実感が戻るために、急に時間の流れが分かるようになり、ちょっとした刺激にビクっと反応したり、心臓がバクバクしたりして、環境の絶え間ない変化についていくのが大変になります。また、過去の記憶の断片が蘇ってきて、取り返しのつかないことを思い出して、後悔するかもしれません。トラウマ治療では、解離や離人感が解けても、日常生活に戻れば、再び解離や離人感が出てきますので、何度も繰り返して治療を行う必要があります。

 

解離や離人を使わずに、自分の体の中で安心して暮らすには、環境調整と自分の体のメンテナンスが必要です。不快な状況からは逃げて、思い切った行動を取り、心地良い状況を作っていきます。解離してきた人は、強い刺激に耐えられないので、弱い刺激の所に身を置いて、少しずつ慣れていくのが良いです。特に、自転車を漕ぎ、自然環境の中で過ごして、自分の体の感覚を感じながら、現実の絶え間ない変化に慣れていくのが良いと思います。日常生活では、肩や喉、鎖骨、呼吸、心臓、お腹、手足に注意を向け、嬉しいことや悲しいことがあったら、自分の体を意識しましょう。そして、自分の体の中に自分がいるという感じを保てるようにします。体が凍りついたり離人したりしていく場合には、スムービーリングを振ると、体の方に勝手に意識が向いてリラックスした状態に戻ります。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

公開:2020-03-13 

論考 井上陽平

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Smovey Rings(スムービーリング)のYoutubeになります。この道具は、複雑なトラウマを持つ人の治療に役立ちます。複雑なトラウマがある人は、どこから治療していいか分かりません。まずは、緑のブンブン振り回して、身体の動きや感覚に注意を向けて、感覚の麻痺を解いていきます。Smovey Rings in Somatic Experiencing with Dr. Peter A. Levine & Dr. Abi Blakesle



日常のセルフケア

心の病を回復させるためには、カウンセリングを受けて悩みに向き合う、精神科に通って薬を摂取するのみではなく、自分の普段の生活の中で、食事やエクササイズ、睡眠等の全体に意識的に注意して自身を高めることで心の病が回復します。

カウンセリング効用

トラウマ治療では、頭で自分の状態を理解していくトップダウンの部分と、体験を通して自分を変容させていくボトムアップの両面が必要になります。また、日常生活の中で、自己調整スキルを磨き、自分で努力していく必要があります。

身体志向アプローチ

トラウマのボディセラピーは、体を騙して、外傷時の再演を引き起こし、その一連の動作をトラッキングしていきます。体の反応を怖がらなければ、体は勝手に回復していくため、未完了なトラウマのエネルギーが放出していきます。